南宋末期の英雄:孟珙③
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1217年(嘉定10年)、春の嵐が過ぎ去った後の棗陽は、戦の気配に包まれていた。金軍が南下し、各地で火の手が上がる中、孟宗政率いる南宋軍は、敵の猛攻にさらされていた。
その日、孟宗政の本陣は包囲され、援軍も届かず、兵たちは疲弊していた。
「このままでは、父上が……!」
遠くの丘から戦況を見つめていた孟珙は、拳を握りしめた。彼はまだ二十二歳。だが、剣を握るその手には、祖父・孟林から受け継いだ岳飛の魂が宿っていた。
「珙様、あの矢の雨の中を行くのは無謀です!」
副将が叫ぶ。しかし、孟珙は静かに馬にまたがった。
「父を守るは、武門の誇り。命を賭すに、理由は要らぬ!」
その言葉に、兵たちは息を呑んだ。
「突撃するぞ!我が父を、我が誇りを、この剣で守る!」
孟珙は叫び、馬を駆った。敵陣の矢が空を覆う。だが、彼は恐れず、風のように駆け抜けた。
「孟珙様だ!若将軍が突撃している!」
味方の陣から歓声が上がる。敵の矢が彼の肩をかすめ、血がにじむ。だが、孟珙は止まらなかった。
「父上!今、参ります!」
本陣にたどり着いた孟珙は、剣を抜き、敵兵をなぎ倒した。その姿は、まるで岳飛の再来のようだった。
「珙……!」
孟宗政は、息子の姿に目を見張った。敵を退けた孟珙は、父の前に膝をついた。
「父上、ご無事で……!」
「珙……お前には、祖父の血が流れている。岳飛様の志が、確かに宿っておる!」
その言葉に、兵たちは涙した。
「孟珙様、万歳!将門の虎子よ!」
その夜、陣営では酒が振る舞われた。兵たちは火を囲み、語り合った。
「珙様、あの突撃はまるで雷のようでした」
「いや、あれは希望の光だ。我らの誇りだ」
孟珙は静かに杯を持ち、父に向かって言った。
「父上、わたしはまだ未熟です。ですが、宋を守る剣となる覚悟はできています」
「ならば、進め。お前の剣は、民を守る剣だ」
その言葉に、孟珙は深く頭を下げた。
──この一騎駆けは、南宋の兵たちの心に刻まれた。孟珙の名は「将門の虎子」として広まり、彼の志は、やがて南宋を支える柱となっていくのであった。
〇1217年(嘉定10年)、南宋の地は金軍の侵攻に揺れていた。樊城と棗陽は、まさに戦火の渦中にあった。
「敵軍、棗陽に迫る!」
伝令の声が響くと、軍営に緊張が走った。その場に立つ若き将軍、孟珙は、静かに剣を握りしめた。
「棗陽は祖父と共に歩いた地……守らねばならぬ」
彼の目は、かつて祖父・孟林と市場を歩き、牛肉麺を食べながら「この地を守る者となれ」と言われた日を思い出していた。
「珙様、敵は三倍の兵力です。無理な出陣は……」
副将が言いかけたその時、孟珙は振り返り、力強く言った。
「数ではなく、志で勝つ。我らが守るのは、ただの城ではない。民の命だ!」
その言葉に、兵たちは目を見開いた。
「我らが命を懸けるに、値するものがある!」
「将門の虎子だ……孟珙様こそ、岳飛の魂を継ぐ者!」
兵たちは剣を掲げ、士気は最高潮に達した。
その夜、孟珙は父・孟宗政のもとを訪れた。焚き火の前で、二人は静かに語り合った。
「父上、棗陽を守り抜きます。祖父の言葉が、今も胸にあります」
「……珙よ。お前には、祖父の血が流れている。岳飛様の忠義を継ぐ者だ。だが、忘れるな。民のために戦うのだ」
「はい。剣は、民を守るために振るいます」
そして翌朝、孟珙は先陣に立ち、棗陽へと進軍した。敵軍は押し寄せていたが、孟珙は巧みに地形を利用し、伏兵を配置。敵の側面を突く奇襲が成功し、棗陽は守られた。
その後、樊城でも防衛戦を指揮。矢の雨が降り注ぐ中、孟珙は馬を駆り、前線へと突入した。
「退くな!我らがここで踏ん張らねば、宋は沈む!」
その叫びに、兵たちは奮い立った。
戦の終わり、孟珙は本陣に戻ると、父が待っていた。
「珙……よくやった。お前は、ただの将軍の子ではない。南宋を背負う者だ」
「父上……ありがとうございます」
その言葉の直後、朝廷からの使者が現れた。
「孟珙殿、進勇副尉に任じられました。これより正式な官階を授かります」
兵たちは歓声を上げた。
「将門の虎子、万歳!」
「孟珙様こそ、我らの希望だ!」
その夜、陣営では火が焚かれ、兵たちは語り合った。
「珙様の剣は、ただの武ではない。心がある」
「俺たち、命を預けてもいいと思ったよ」
孟珙は火のそばで、静かに空を見上げた。
「祖父様……わたしは、誓いを果たしました。これからも、民のために剣を振るいます」
星が輝く夜空に、岳飛の魂が宿るように感じられた。
──この戦いを経て、孟珙の名は南宋中に広まり、「将門の虎子」として人々の心に刻まれていくのであった。
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1218年(嘉定11年)、南宋の忠順軍に、一人の若者が加わった。名は王堅。まだ二十歳そこそこの青年だったが、その瞳には炎のような決意が宿っていた。
「王堅、忠順軍に加わることを命ずる」
孟珙は静かに言った。彼は南宋の名将であり、「将門の虎子」と呼ばれるほどの武人だった。
「はっ!命、しかと受けました!」
王堅は深く頭を下げた。その姿に、孟珙の父・孟宗政は目を細めた。
「若いが、骨がある。岳飛の志を継ぐ者の血を感じるな」
初陣の日、忠順軍は金軍に包囲されていた。矢が雨のように降り注ぎ、負傷兵が次々と倒れていく。
「王堅!退け!まだお前は若い!」
副将が叫ぶ。しかし、王堅は剣を握りしめ、叫んだ。
「命を懸けるに、若さは関係ない!この兵を見捨てることなど、できるものか!」
彼は負傷兵を背負い、敵陣を突破した。矢が肩をかすめ、血がにじむ。それでも、彼は一歩も止まらなかった。
「もう少しだ……耐えてくれ!」
背負われた兵が涙を流した。
「王堅……お前は、俺たちの誇りだ……」
陣に戻った王堅の姿を見て、孟宗政は目頭を押さえた。
「この若者……命を捨てて仲間を救った。まさに忠義の士だ」
孟珙も静かに頷いた。
「王堅、よくやった。お前の剣は、民と仲間のために振るわれた。それこそ、武人の本懐だ」
「……ありがとうございます。私は、孟将軍のもとで、命を燃やす覚悟です」
その後、王堅は「勁軍統制」に任じられ、忠順軍の中核を担う存在となった。
ある日、金軍が山道に陣を張ったという報が届いた。
「敵は地形を利用している。正面からの突撃は危険です」
副将が言うと、王堅は地図を見つめながら口を開いた。
「この谷間に伏兵を置けば、敵の側面を突けます。夜明け前に動けば、奇襲が可能です」
「……見事な策だ」
孟珙は目を見開いた。
「若き者にしてこの胆力、将来が楽しみだ」
作戦は成功し、敵は混乱の中で敗走した。兵たちは歓声を上げた。
「王堅の策で命拾いしたぞ!」
「さすが、忠順軍の誇りだ!」
その夜、焚き火の前で孟珙と王堅は語り合った。
「王堅、お前はただの兵ではない。志を持ち、策を練り、仲間を守る。それが将の器だ」
「孟将軍……私は、まだ未熟です。ですが、岳飛の志を継ぐ者として、命を懸ける覚悟はあります」
「ならば、進め。お前の剣は、宋を守る剣だ」
星が輝く夜空の下、二人の武人は静かに杯を交わした。
──こうして王堅の名は忠順軍に広まり、孟珙の右腕として、南宋の未来を支える存在となっていくのであった。




