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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編・エッセイらしきもの

いつかあなたと!-桐野と乗田-

作者: 本谷文途

冷たい(?)桐野(攻め)と桐野大好き!な乗田(受け)の、とある秋の話。

 放課後。

 誰もいなくなった教室で、乗田(のりた)桐野(きりの)は机を挟んで向かい合うように座っていた。


「――そうだ、桐たん。トリックオアトリート!」


 今まで普通に雑談をしていた乗田が、急に思い出したように言った。

 乗田から言われた桐野は、面倒くさそうに口を開く。


「……なんだよ、菓子が欲しいなら自分で買えばいいだろ」

「何言ってるの、今日はハロウィンだよ! お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ!」


 両手を上げて、乗田は襲い掛かるフリをして桐野を脅す。

 そんな乗田を呆れたように見ていた桐野だが「めんどくせーな……」と呟きながら、リュックから一口サイズのお菓子を取り出し、乗田に渡した。


「……ほらよ」

「えっ……、桐たん持ってたの?!」


 手のひらに乗せられたお菓子を見て、乗田は「信じられない……」というような顔になる。


「他の奴らにも言われるかもしれないと思って買っといたんだよ――。案の定朝から言われたし、今もこうやってお前に言われたけどな」

「そうなのか……」


 どことなく乗田が残念そうにするので、桐野は不思議に思って訊いた。


「菓子が欲しかったんだろ? 喜べよ」

「それはそうなんだけど……、桐たんがお菓子持ってない想定で訊いたからさ。イタズラしたかったな……って」


 そう落胆して言う乗田に、桐野は「お前な……」と苦い顔をして言う。


「どんなイタズラだよ……」

「顔に落書き、とか?」

「絶対やんなよ?」


 と桐野は眉間に皺を寄せる。

 そんな桐野に構わず、乗田は楽しそうに続けた。


「あとはオレのだって、名前書こうかな〜とか。もちろん油性で!」

「タチ悪いな」

「だってー、桐たんはオレと付き合ってるわけだし、他の人に取られたくない……」


 そうボヤく乗田に、桐野は「はぁ」と小さく溜め息を吐いてから言う。


「……誰にも取られねーから、安心しろ。それに、俺はお前が思ってるより、お前のこと想ってるから」

「えっ!?!??!!」


 突然の桐野からの告白に、乗田は思わず赤くなって固まった。

 普段桐野からそういうことを口にされることがないので、乗田の心臓は速くなる。


「なに固まってんだよ」

「ええっ?!!? いやっ、だって……ッ!! 桐たんがそんな……っ、嬉し――!!」

「はいはい、大袈裟だな……。あ、そうだ、乗田」

「すー……はぁ……、なに?」


 息を整えてから乗田が訊くと、桐野は「忘れてたわ」と前置きしてから言った。


「トリックオアトリート。菓子やったし、お前からも何かあるんだろ?」

「…………」

「ないのか……?」


 無言で目を泳がせる乗田に、桐野は「ないんだな……」と呟く。


「いや! ちゃんと準備はしてたんだよ! 友だちとかにあげてて。でも、まさか桐たんから言われることはないかな〜って思って――全部……友だちにあげちゃった……」


 しゅん……と肩を落とす乗田に、桐野は「じゃあ」と続けた。


「イタズラだな」

「えっ……?」

「菓子がないなら、イタズラされるしかないだろ」


 そう桐野は筆箱からペンを取り出す。

 乗田はそれを見て、まさか……と息を呑んだ。


「ほ、ほんとに書くの?」

「まあな。どこがいい? やっぱ顔か」


 キャップを外し、桐野は何を書こうかと思案する。

 そんな桐野に、乗田は「そんなぁ」と食い下がる。


「もっと桐たんが吸血鬼とか、なんかコスプレしてきてくれたら、血吸ってもらったりとか考えてたんだけど……、普通だからなぁ……」

「何を考えてんだお前は……。学校にそんな格好して来るわけないだろ――よし、決めた。でこ出せ」

「ええ〜……」

「ほら、言い出しっぺはお前だろ」


 そう桐野はペンを軽く動かし、額を出せとジェスチャーする。

 乗田は「え〜……」と言いながらも、渋々額を差し出した。

 桐野はキュッキュッと、乗田の額に何かを書いていく。


「……よし、出来た」


 と桐野はペンのキャップを閉じ、満足気な顔をする。


「何て書いたの?」

「鏡見てくればわかるぞ」

「くっ、気になる……ッ! 見てくる――!」


 そう言うと勢いよく教室から出ていった乗田を見送って、桐野はふっと微笑む。


「……どんな反応すんだろ」


 そう呟いて、桐野は自分で書いた文字を思い出し「くくっ」と笑って乗田が戻って来るのを待つのだった――。




「……、何あれ……」


 戻ってきた乗田は、少し顔を赤くする。

 額の文字はなくなっているので、落としてきたのだろう。


「……桐たん、たまにああいうことするからなーっ!!」


 と乗田は顔を両手で覆いながら叫ぶ。


「はは、びっくりしたろ?」

「っ……、めっちゃ嬉しかった……」


 乗田は指の隙間から桐野を覗く。

 乗田の額には「お前は俺の」と書かれていた。

 それを見た乗田は、一方的な好意ではないことが分かって、とても嬉しかった。


「もう……、めっちゃ好き……、桐たん大好き……」

「安売りすんなよ、重みがなくなるだろ」

「言い足りないくらいだよ……! むしろ桐たんは言った方がいい、伝わらないよ?」


 と乗田は少しムッとして桐野を見る。

 桐野は少し考えてから、口を開いた。


「……好きだ。満足か?」

「うわっ! 軽っ! けど嬉しい!! もっと言って!!」

「今は言わない。帰るぞ」


 と桐野は立ち上がってリュックを背負う。

 乗田も机の横からリュックを取りながら「え〜?」と不満げに口を尖らせた。

 先を歩く桐野を追いながら、乗田は桐野に問う。


「――じゃあ桐たんは、いつどこで言うのさ」

「んー……俺の部屋とか?」

「えっ、いいの? 遊びに行って」

「あぁ――それに、イタズラし足りないからな」


 そう桐野が振り向いてニヤつくので、乗田は思わず言葉に詰まった。


「っ……!?」


 思わずぼっと顔を赤くする乗田に、桐野はわざとらしく言う。


「何赤くなってんだよ――どんな想像したんだ?」

「えっ、いやっ! それは……っ、その……」


 口ごもる乗田に、桐野は口角を上げると、からかうように続けた。


「冗談に決まってんだろ、真に受けんな」

「だ、だよねーっ! はは……!」


 乗田はてっきり桐野にそういうことをされるものだと思ってしまったので、ドキドキしているのがバレないように、笑って誤魔化すのだった――。


 *


 桐野の家に着き、乗田を部屋に案内してから、桐野は言った。


「――適当に座ってろ、菓子とか持ってくる」

「うん――わかった」


 「……荒らすなよ?」と一言忠告して、桐野は部屋から出ていく。

 部屋に残された乗田は「久しぶりだー!」と感激しながら部屋を見渡した。


「適当に座ってろってことは、どこでもいいんだよね――なら……」


 と乗田はおもむろにベッドに寝転がり、匂いを嗅ぐ。

 普段桐野が寝ているベッドからは、当たり前だが桐野の匂いがした。


「……っ、はぁ、桐たんの匂い……!」


 落ち着く……、と枕を抱き寄せ、スンスンと匂いを嗅いでいると、桐野が部屋に戻ってきた。


「……何してんだお前は」

「桐たん補給」

「適当に座れって言ったけど、ベッドに寝ていいとは言ってねーぞ――」


 とまだベッドに寝転がる乗田に言いながら、お菓子と飲み物が乗ったお盆を、ベッドの前の小さなテーブルに置く。


「めっちゃ桐たんの匂いして幸せ……」

「そりゃ俺が寝てる所だからな」

「すー……はぁ〜」

「やめろよ……」


 枕を抱きしめ深呼吸する乗田に少し引きながらツッコみつつ、桐野はベッドに腰掛けた。


「……なぁ、俺を補給してんだろ?」

「ん? うん、そうだね」

「なら、枕じゃなくて“俺”を補給すればいいだろ」


 そうさらりと言ってのけた桐野に、乗田はドキッとしつつも起き上がる。

 それからそっと隣に座ると「いいの……?」と口を開いた。


「抱き着いたり、とか……したいです……」

「どうぞ?」


 余裕だと言わんばかりに、桐野は微笑んで乗田の出方を窺う。

 乗田はおずおずと両手を伸ばし、桐野を抱きしめた。


「……満足か?」

「満足、大満足すぎる……!」


 ぎゅっと抱きついてくる乗田を、桐野も優しく抱きしめ返して、そのままゆっくり押し倒す。


「桐たん……?」

「イタズラし足りないって、言ったよな」

「えっ、あれって冗談って言ってなかったっけ?!?!?!」


 少しずつ顔を赤くしていく乗田に、桐野は覆い被さったまま訊く。


「……俺は冗談で済ませてもいいけど――乗田は冗談で済ませていいのか?」


 じっと真っ直ぐ見つめてくる桐野に、乗田は心臓が騒がしくなっていくのを感じながら答えた。


「じょ、冗談で、済ませたいといえば、嘘になる……けど、桐たんが、無理にオレに合わせようとしてるんなら、冗談でいい、よ……」


 そう乗田が少し寂しそうに答えるので、桐野は少し胸が痛む。


「……何でそうなるんだよ」

「だっ、だって、いつもオレばっか桐たんに好き好き言ってるし……、オレの気持ちだけで進むのは、なんか違うから……」


 目を逸らして言う乗田に、桐野は「はぁ……」と溜め息を吐いてから言った。


「……思ってなきゃ言わねーよ。俺だって、好き好き言われてるけど、こういうことはちゃんと確認しなきゃダメだろ」

「えっ――てことは……、桐たんもオレとそういうことシたいとか思ってくれてるってこと?!」


 驚く乗田に、桐野は少し照れながら口を開く。


「……まあ」

「ほんとに――?! 嬉しい!! オレ、桐たんになら何されてもいいから!!」

「お前な……そういうことを普通に言うんじゃねーって」


 ごつんと頭突きを食らわせて、桐野は乗田を軽く睨む。

 乗田は額を両手で押さえながら「ぐぅっ……」と唸った。


「なんでっ、今頭突き……ッ!?」

「お前がそういうこと言うからだろ」

「ほんとのことなんだからいいじゃんか!」

「いいわけあるか――」


 そう桐野は乗田の手をどけて、少し赤くなった額に優しくキスを落とす。


「っ……桐たん……?」

「俺は、お前を大事にしたいと思ってる。だから、お前も自分を大事にしろ。思ってても、俺に何されてもいいとか言うなよ。今度言ったら、今みたいにまた頭突きするぞ」

「えぇ……でもほんとに桐たんになら――」


 続きを言おうとしたが、桐野が少し上に頭を動かしたので、乗田は言葉を呑み込んで額を両手で覆った。


「わ、わかった! わかったから! 言わないって!」

「……ならよし――で、何してほしい?」

「何してほしい、って……」


 乗田は頭の中で考える。

 今ここで桐野の好きにしてほしいと言ったら、きっと頭突きをされるに決まっている。なら……――。


「……キスしてほしい」

「あとは?」

「ハグしてほしい」

「他には?」

「つ、繋がりたい、です……」


 徐々に顔を赤くする乗田に、桐野は微笑んで「わかった」と答えた。

 それから顔を近付けて、優しく口付けてからそっと乗田を抱きしめる。


「……ん、桐たん、大好き」

「俺も、好きだ――」


 互いに微笑みあって、そのままどちらからともなく唇を重ねた。

 想いを確かめ合うように、優しく舌を絡ませる……。


 時折洩れる互いの息は、脳を甘く痺れるような感覚に陥らせた――。


「んっ、は、ぁ……」

「っ……大丈夫か?」

「ぅん、大丈夫、幸せ……」


 ふにゃりと笑う乗田に、桐野もフッと笑って「俺も」と続けた。


「幸せだよ――」

「っ……!」

「……続き、するか?」

「うん……!」


 乗田の返事を受けて、桐野は首筋に唇を当てる。

 そのままキスを落としながら、桐野は乗田の制服に手をかけ、ボタンを外していった……。


 そして段々と肌が(あら)わになっていくのを、乗田はやっと繋がれるんだと嬉しく思いながら、桐野に身を委ねるのだった――







乗田「こ、この続きは…ッ?!(興奮)」

桐野「…お前な(呆れ)」



※二人のイチャラブシーンは、ムーンライトノベルズの方に投稿しております。

少しでも興味のある方は「【R18版】いつかあなたと!-桐野と乗田-」をよろしくお願いします←

※あちらではだいぶイチャラブしておりますので、読む際にはご注意を。



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