プロローグ~力なき者金田仁~
家族思いな高校生、金田仁は交通事故にあい意識を失ってしまい、目が覚めるとそこは異世界であった。
欲望渦巻く異世界で青年はどう生きるのか。
力を持たなかった青年の逆襲が今始まる!!
俺の名前は金田仁、都内の高校に通う高校2年生だ。
身長は平均より高くて容姿も平均よりいいと思う(一度も話したことのない女子から告白されたことがあるので)。学力は校内では上から数えた方が早い。というかこの前のテストでは学年5位だった。
うちの学校は一応は進学校で世間でいう難関大学の合格者も毎年多数出ているので頭はいい方だろう。
運動の方は小さい頃からどんなスポーツもある程度はできた。
でも部活に入ったことはないので大会で結果を残したことなどは一度もない。
友人関係は少し疎かかもしれない。皆仲良く話しかけてくれて遊びにも誘われるが一度も遊びに行った
ことはない。
今はちょうど授業が終わり放課後、同級生達の部活の勧誘や勉強を教えてくれとの声を風のように交わ しながら
駐輪場へとたどり着いた。そして、手袋とマフラーを装着し自転車にまたがった。
今から俺が向かうのは居酒屋のアルバイトである。
なぜ進学校の高校生が学校には内緒でアルバイトをしているのかというと
それは俺の家庭事情が関係している。
5年前、父さんが死んだ。交通事故だった。父さんは道路に飛び出した子供を助けるために自分が飛び
出して死んだ。子供は助かった。
父さんは死の直前「良かった」と言ったらしい。
父さんはとても優しい人だった。そんな父さんを俺は尊敬してた。
けれど父さんは俺たちを遺して死んだ。
そして父さんが死んですぐに双子の兄弟が生まれた。
父さんが死に、双子が生まれ、うちの家の生活は一気に苦しくなった。
父母の親戚は誰も助けてくれなかった。だから母さんは出産後しばらくしてすぐに働き始めた。
いつも俺に「大丈夫だから」と平気なように笑いかけてくれたけれど、母さんが俺たちにばれないよう
一人で毎晩涙を流していたのを俺は知っている。
その時の母さんを思い出すのは今でもつらい。
中学3年生の進路を決める際に「中卒で働く!」と母さんに話したら母さんは自分の一番大事なものが壊された時のように激怒した。けれど、そのあとすぐに壊したのは自分であったかのように泣きながら謝罪をした。
「ごめんね仁、、、ごめんね親失格だよね、、、」
俺も何も言えずただ大きく泣いた。
そんな母の姿を見て自分はとてもひどいことをしてしまった気持ちになったのを今でも覚えている。
その後、家の事は気にせず高校に行ってほしいこと。自分の人生を優先して欲しいことを伝えられた。
俺はそれを了承し高校進学を決めた。
高校は一番家から近い場所にしたが、そこは有数の進学校だった。
高校生になってまず始めたのがアルバイトだった。進学校でアルバイトは禁止だけれど、一部の友達は事情を知りつつも内緒にしてくれているし、店長も事情を知りつつ雇ってくれている。
そういった経緯がありつつ、今はアルバイトをして少しでも家にお金を入れているのだ。
アルバイトは週に5回で月曜から金曜の17時から22時で働いている。
学校からバイト先までは自転車で30分といったところだ。家は学校とバイト先の間にある。
現在時刻は16時でバイトは17時からこの1時間の間に俺はいつも家に帰って家族の分の晩御飯の支度をしている。
一番下の兄弟は双子でまだ5歳だ。
母さんも俺も二人を保育園へ迎えに行くことが出来ないのでいつも近所の大山さんが二人を迎えに行って、母さんが帰るまで面倒を見てくれている。大山さんは俺が小さいころからの知り合いでとても優しい聖母のような女性だ。本人は子供が社会人になって育児が終わったから喜んで双子の面倒を見ていると言ってくれるが大山さんの存在は本当にありがたい。ご飯の支度もしてくれるというがそこまでしてもらうのは申し訳ないのでご飯の支度は俺がしている。
家に帰ると双子の兄弟、蒼良と七海が走ってきた。
「お兄ちゃんおかえり!」
「ただいま、いい子にしてた?」
元気よく返事する妖精のような二人をなでながら奥に目をやると
優菜と大山さんがいる。
優菜は現在小学6年生で妹ながらアイドルでセンターを張れるほどの容姿をしていると感じるほどだ。
きっと母さんの血を色濃く受け継いだんだろうな。等と考えていると
優菜がこっちに来て
「おかえり、今日はもうご飯の支度できたから!大山さんに教えてもらったの!」
その言葉に今までの優菜の成長が脳裏によぎり涙が出そうになったが、ぐっっとこらえ
「優菜、ありがとうすごい助かるよ。これからはたまに優菜に任せるかも、頼んだよ」
すごく嬉しそうな優菜を横目に大山さんにも感謝を伝えた。
そこからほんの少しの時間家族との時間を過ごした。
時間がぎりぎりになって急いで家を出ようとすると
「仁君、無理しちゃだめよ。あなたはまだ高校生なんだから。」
心配そうな顔で話す大山さんに対して
「ありがとうございます。無理はしないようにします」と笑顔で答える。
大山さんの言葉の意味は自分でも理解できた。最近体が重く感じる時が増えたと感じるし、休日は一歩も動けない日もある。しかし、そんな言葉を置き去りにするように足早に家をでる。
雪が降る外を自転車で急いで駆け抜けた。
バイト先へ着くと、店長に挨拶してすぐに働き始める。
この居酒屋は、店長夫婦が経営する小さめの個人居酒屋で、俺の事情を知る店長はいつも余った食材をくれたり早めに帰らせてくれたりとかなりの融通を利かしてくれる。感謝してもしきれない。
今日は常連のお客さんが数人来るだけの日であまり忙しくなかったが、店長が俺の顔を見て
「仁君、顔がすごい疲れてるぞ、今日は早く帰って休みな明日も学校だろう。」
といった。大山さんといい、そんなに疲れた顔をしてしまっているのか。
人に心配させてしまうのは申し訳ないので今日は早めに寝よう。
「いいんですか!ありがとうございます!」
店長が作ってくれた美味しい賄いをいただき、帰宅する。
体が疲れているのか行きの時のようにペダルが漕げない。
寒い外をゆっくり帰る中でふと考えてしまった。
自分の未来について。
ーこの先高卒で働いてどうなる。高卒の稼ぎで家族を養えるのか、下の兄弟たちに不自由ない生活を送らせてあげられるのか。母さんを楽にしてあげられるのかー
未来に対する不安が押し寄せてきた。
最近、こういったことが多い。自分が無力な存在なんだと考えることが
この先もし家族が不幸な目に合ったら、父さんとの約束はどうなる。
いやいや、そんなことは考えないようにしよう!
今は日々を精一杯生きるべきだ!
信号待ちをしている間に気持ちを切り替え、青になった瞬間力強くペダルを漕いだ。
勢いよく道路に飛び出した瞬間、自分を大きな光が照らした。
ふと光の方を見たと同時に
ドンガラガッシャーーーーン!! ゴン!!
大きな音が響いた。
大きな激痛と温かい感覚、目には星が映っていた。
けれど、星が1つ1つが光るわけじゃなくぼんやりとして見えなくなっていく。
運転手の人だろうか、気が動転して支離滅裂なことを言っている。
通行人の人だろうか、事故が起きたことをどこかに電話してる。
そっか俺、事故にあったんだ。そんでもうすぐ死ぬんだ。何もできないまま。
自分と関わってきたいろんな人たちの顔が思い浮かんだ。
未来の事も考えた。俺が死んだら家族はどうなる。
また母さんが涙を流すかもしれない。
優菜はまた家族がいなくなる経験をしないといけない。
蒼良、七海も悲しい思いをしてしまう。
俺が幸せにするって誓ったのに、、、俺が絶対!!
ぼんやりする意識の中で強い感情が渦巻いた。大きな負の感情
それは強い自責の念、そして強い欲望も
こんなんで終わるのは嫌だ、、ぁ、ぁ もっと、、、もっと!!
完全に意識が消える瞬間、遠くから黒い声が聞こえた
力が欲しいか?
その言葉の意味を理解する前に意識は底へ落ちていった。