夏とスイカと彼女。
こんなの書きました!
僕らは、永遠の世界に住んでいる。その中で、君や僕は、誰かと出会い、物語は紡がれる。
物語は予期せず始められることも多い·····君が誰かを好きなのなら、その誰かは君か、または他の誰かを好きなのだろう····
ある日僕は、人を待っていた。場所は僕のよく行く新宿の、とある居酒屋·····
僕とその相手は、特別懇意ではないけれど、まったくの知らない間柄というわけではない。
僕は、一人、夜の新宿の居酒屋で、その相手を待っていた。
その居酒屋は新宿の多恋人の近くの魚系の居酒屋だった。
僕がその店を見つけたのは、たまたま入りたくなった店にその店があったからだ。
マスターも気さくに、魚の知識を教えてくれた。
「どうしたの?突然」
そう来た彼女は、言う。
「いや、久ぶりだなあって」
「そうだね。大学時代以来だね。」
やってきた彼女は、僕のT大学時代の知り合いだった。
「久しぶりに今日は飲もうよ」
「うん。」
時間はゆっくりと流れる。僕は、ずいぶん彼女と長い事付き合っていた。と言っても男女の間柄ではない。僕も彼女もまだ若かった。僕らは、T大学時代の、文芸サークルで知り合い、ずいぶん親しく話したし、一緒に文芸誌を作り、発表した小説を批判しあったものだ。
「駆けつけ一杯!」
そう僕が言う。
彼女は、少し眼を伏せて笑い、相変わらずだね、と言う。
「Sの創作は、ジブリアニメの様に平和だね」
そう僕は、Sに言う。
Sは相変わらずの平和そうな顔で、そうだねと言う。
「僕は、ここ最近、恋愛をしたよ」
「そう·····」
「相手は二十歳の子だけどね·····」
「一番好きだったのは誰なの?」
珍しくSは、口調を強くして言う。
「一番好きだったのは········うーん」
僕は、悩む。確かに、永遠の似合うあの人も好きだった。夜のように暗い眼をしたあの子も好きだった。歌の大好きな、少し西の方から来た、あの子も好きだった·······それから。
「CLASSの夏の日の1993って知ってる?」
「ううん」
「僕の好きな人のことに似てる歌なんだけれどね
『普通の女と思っていたけど』ってとこ」
「うん」
「その女はスパイだったらしいんだ」
「うん?」
「だから普通の女と思っていたけど違ったね、君はスパイだったって意味なんだ」
「そっかあ。そのころからスパイは居たんだね
」
「うん」
「ビール頼む?」
「うん」
僕は、ビールを2杯頼んだ。
「僕の一番好きだった人は、スパイだったその人だよ」
「そう。その人は、今ごろ何してるのかな?」
「博多で結婚してたけど」
「そう。じゃあRは諦めたんだ?」
「うん。美しい青春の思い出だから·····」
ふと店内のbgmがカーペンターズの青春の輝きに変わる。
「あー私もその人に会ってみたかったなあ。美しい人だったの?」
僕は、その問いに応えない。確かに美しい人だった。サングラスの似合う、勝ち気な、誇り高い、セイバーのような人だった。
そうしてその人は今も僕のことを時々考えているのだろう。
「何考えているの?」
「いや、Nというのだけれど、ナポレオンではなく、Nは僕の好きだった人のイニシャルなんだ」
そう僕は、覚えている。
その後、僕とその友達は、別れた。新宿の夜の街に夜風が吹く。
ふと道に歩いていている人に目を留めた。金髪の白い服を来た、サングラスをした美女がいる。
「貴方の願いは叶いますよ」そう彼女は言う。
なんのことか分からない。そう思っていると、彼女はいない。
これからも僕は、生きるだろう。これからも僕は生きて、たくさんの詩を書いたり、恋愛をしたり、美しい女にも出会うだろう。ふと、夏に食べていたスイカを思い出す。
夏とスイカと彼女。来年はどんな夏になるのだろう······