恋とご飯とレストラン
人物紹介
<マーガレット・プティ>
22歳。金髪。瞳はブルー。メガネ。小柄で少食。
大人しく素直な性格、イラストレーター。
<マルサ・ハード>
22歳。マーガレットの同期。
<カルミ・エルビア>
22歳。マーガレットの同期。
<ヘレン・クリファード>
24歳。黒髪。センターパート。瞳はグレー。大柄で大食漢。無口で無愛想。レストランの経営者。
<キース・フェルナード>
24歳。ヘレンの友人。金髪。センターパート。瞳はブルー。洞察力があり判断力もある。
<マーシー・ガルシア>
24歳。ヘレンの友人。癖毛の赤髪。ベリーショート。瞳はブルー。センターパート。おちゃらけているが友達思いないい奴。
<ガーネット・キャメル>
24歳。癖毛の赤髪、セミロングヘア。前髪はぱっつん。瞳はブルー。明るい。元気。
一話 出会いはレストランで
6月。ガラス張りの外観と青い窓枠。壁の部分は黒でその中心部分に"レストラン・プルメリア"と書いてある。
窓枠部分にはプルメリアの花がいくつも飾られている。
テーブル席が3席とカウンター席が5席。テラス席が3席。
シンプルながらも華やかで洗練されたレストランだ。
ヘレン「いらっしゃいませ」
従業員はヘレン・クリファードただ一人。彼はこのレストラン・プルメリアの経営者である。
そんなレストラン・プルメリアには今日も色々なお客が入ってきた。
今いるのは店内のテーブル席に女性が三人。
マルサ「マーガレットって本当少食だねぇ、可愛い子ぶりたいのは分かるけどさー」
マーガレット「別にそういう訳じゃないわ」
マーガレット・プティは少食で体も細かった。
反対にカルミとマルサは少しふくよかな体型だ。
カルミ「でもさぁさすがに無理あり過ぎ笑笑」
マルサ「いいよねー、マーガレットは食べても太らなくて笑」
カルミ「本当、細くて羨ましー!」
初めて行くレストラン・プルメリアでマルサ・ハードとカルミ・エルビアが私を笑った。
この二人はイラストレーターになってからできた同期の友人だ。
私があまりに少食過ぎる為、ぶりっ子しているのでは?と疑っているのだ。
私だって本当は沢山食べたい。でも、胃腸が弱く普通の人と同じ量を食べられないのだ。
細ければ細いほど良いという風潮はどうにかならないものか。
加えて友人達の茶化した言葉と笑いが私の心を酷く傷付けた。
その様子を見ていたシェフのヘレン・クリファード。
彼はマーガレットと友人達の会話が聞こえて気になったようでマーガレットの様子を気にかけていた。
しかし、下手に声をかければ彼女が周りの友人達から茶化されて余計に傷付けてしまうだろうとヘレンは考えた。
偶然にも二人がトイレに立ち、その隙にマーガレットに声をかけた。
ヘレン「お客様、持ち帰り用の容器をどうぞ」
マーガレット「え?私、容器を頼んでないけれど」
ヘレン「満腹な様子なのに友人達からの言葉に無理をして食べようとしていたので」
ヘレンは気を使い、小声で話をする。
それに合わせてマーガレットも声を潜めた。
容器にささっと残った料理を詰めるとバッグに仕舞った。
マーガレット「ありがとう・・・助かったわ、
こんな事をレストランのシェフに言うべきではないのでしょうけれど
いつもは周りの人に合わせて無理をして食べて吐いてしまうことがあるの」
ヘレン「・・・あの、今度一人でこの店に来てくれませんか?」
マーガレット「え?」
ヘレン「その際は量を少なめにして作りますしお代も値引きさせて頂きます」
マーガレット「え、そんな・・メニューにはないのに・・どうしてそこまで・・」
少食なんて私自身の問題なのに。
ヘレン「食事が苦しいものになってしまうのはあまりに悲しいことです
作る側としてあなたが少しでも食べることが楽しくなれたらと思ったんです」
優しい人だわ。こんな私のことまで気にかけてくれて。
マーガレット「ありがとう・・・今度一人でまた来るわね」
ヘレン「お待ちしてます」
会計を済ませた三人は店の外に出た。
マルサ「ねぇ、あのレストランのシェフ、無口で無愛想だったわよね」
カルミ「本当ね、まさに一匹狼って感じ、背が高くて筋肉質で帽子で顔はよく分からなかったけどまぁまぁ整ってた、でも肝心の愛想がないんじゃねぇ・・・友達いないんじゃない?」
マルサ「あはは、そうかも!!きっと夜もつまらないに決まっているわ」
カルミ「やだマルサったら笑笑」
そんな風には見えなかったけどなぁ・・・確かに笑顔はなかったけど本当に料理を大切にしてる優しい人だと思う。とはこの二人には言えないけど。
きっとあなたに彼の何が分かるのよと言われてしまう。
夜は・・・そんなこと恋人でもないのに勝手に想像するなんて失礼だわ。だめよだめ。
二話 美味しいオムライス
後日。彼に言われた通りマーガレットはレストランに一人で来た。
今日は店内にまだ誰もいない。客はマーガレットだけのようだ。
ヘレン「いらっしゃいませ、こちらのカウンター席へどうぞ」
マーガレット「ありがとう」
ヘレン「何にしますか?」
マーガレット「そうね、オムライスにするわ、それとアイスティーも頂けるかしら?」
ヘレン「分かりました、オムライスとアイスティーですね」
彼は目の前で料理を作ってくれた。
料理を作る時、腕まくりをした彼に思わずドキッとする。
血管が浮いていて男らしい腕。
背は190cm近くあって肩幅が広いのに意外と細身だ。
無駄な脂肪のない引き締まった体。
話をする時の無表情から一変。
料理を作る時の彼の真剣な表情に目が離せなくなっていた。
ヘレン「どうぞ」
あっという間にオムライスを作り終えたヘレンはアイスティと共にマーガレットの目の前にそれをそっと置いた。
マーガレット「ありがとう」
前回、彼が言っていた通りオムライスは子ども用と同じくらいのサイズで出してくれた。
覚えてくれていたのね。
そんな彼の細やかな気遣いが嬉しかった。
マーガレットはオムライスを口に運ぶ。
前回食べていたものと同じ。
この間は食べなくてはという概念に縛られていて味がよく分からなかった。
こんなにも美味しかったのかと目を丸くしてオムライスを見つめた。
その様子を見たヘレンは表には出さないが内心ホッとしていた。
マーガレット「とても美味しいわ」
ヘレン「良かったです」
彼がこちらをじっと見つめている事に動揺しつつも、それを悟られまいと平静を装い質問をする。
マーガレット「あの・・・私に何か?」
ヘレン「人様の事情に他人がこんな事を言うのは失礼だと思ったのですが友人達とは距離を置かれてはいかがでしょうか」
マーガレット「え?」
彼の意外な言葉にマーガレットは目を丸くしてヘレンを見る。
彼は至って真剣な口調だ。
ヘレン「友人達を悪く言うつもりはないんです
ただ、あなたが食事を嫌いになってしまわないか心配で・・・吐いているとの事だったので胃に負担もかかりますし」
マーガレット「そんなこと、考えたこともなかったわ・・そうね、どうしても彼女達とは仕事上関わらなければならなくて」
ヘレン「仕事仲間でしたか、すみません、勝手に友人だとばかり・・・」
マーガレット「いいえ、同期で友人である事には変わりはないわ、ただ・・・」
マーガレットは数秒考える。
マーガレット「そうね、少し距離を置いてみてもいいのかもしれないわね」
ヘレン「仕事に支障は出ませんか?」
マーガレット「ええ、私が周りの目さえ気にしなければ問題ないわ」
ヘレン「それはなかなか・・・」
マーガレット「だから、もしその事で悩むような事があったら、またここへ来ていいかしら?」
ヘレン「もちろんです」
マーガレットがレジでお会計をする。
マーガレット「あなたの名前を聞いてもいいかしら?」
ヘレン「ヘレン・クリファードです、あなたのお名前は?」
マーガレット「私はマーガレット・プティよ、ヘレン、ごちそうさま、あなたのオムライスとっても美味しかったわ」
ヘレン「ありがとうございます、またお待ちしています」
ヘレンは表情を崩す事なくお礼を言うと深くお辞儀をした。
扉を開けて彼女を見送っていると・・・。
近くにいた三人組に声をかけられた。
キース「ヘレン!」
マーシー「よっ!」
ガーネット「来てあげたわよ」
ヘレン「来てくれたのか」
キース・フェルナード、マーシー・ガルシア、ガーネット・キャメル。
彼らは大学時代の友人達だ。
大学で友人のいなかった俺にマーシーが声をかけてくれたのが始まりだった。
彼の周りには自然と人が集まる。
少々空気が読めない時があるが本当に周りを困らせるような事はしない男だ。
だからそれも彼の一部であり良さなのだと思う。
マーシーの人懐っこさ、キースの洞察力、ガーネットの
愛嬌の良さ。
この三人がそばにいると何でもできるような気がして心強かった。
キース「さっきの彼女か?」
マーシー「めっずらし!あの仕事一筋の男が?」
ガーネット「ふーん、結構可愛い子だったね」
ヘレン「いや、彼女はただのレストランのお客さんだ」
キース「なーんだ!でもいい雰囲気だったよな」
マーシー「ああ、てっきり付き合ってるのかと思ったよ!」
ガーネット「でも、好意はあるんでしょう?」
ヘレン「まさか、2回しか会ったことがないんだ」
マーシー「恋に会った回数は比例しないってね」
キース「それ、こないだ見た映画の受け売りだろ?」
マーシー「いーだろ別に!」
ヘレン「どんな映画なんだ・・・」
ガーネット「最近流行ってる恋愛映画らしいわよ」
ヘレン「何ていうタイトルなんだ?」
ガーネット「えーと、何だっけ??」
マーシー「"ラブレターが青い鳥だったら"だよ、めちゃ良かったぞ、な!キース!
キース「うん、いい映画だったな」
ガーネット「どういう話なの?」
マーシー「中学生の初恋の話だよ、片想い中の女の子がラブレターを書くんだけどさ、その気持ちが重過ぎたなって自己嫌悪に陥るわけ、で、結局渡せないまま中学を卒業するんだ、
卒業式にその子が男の子の背中を見つめながらこう言うんだ、
もしラブレターが青い鳥だったら私の重い恋心も彼を幸せにする魔法になれるのにって」
ガーネット「随分抽象的ね」
マーシー「それがいいんだよ!長い詩を読んでるような映画だった」
キース「マーシーは意外とポエマーだからな」
マーシー「え、そう??」
ガーネット「あー確かに!!」
ヘレン「"ラブレターが青い鳥だったら"か・・・」
キース「ん?ヘレンも気になってんの?」
ヘレン「ああ、普段は本ばかりで映画は見に行かないからな」
ガーネット「私も気になるから次の休みに見に行く?」
ヘレン「ああ」
マーシー「じゃあ俺も行く!!」
キース「二回目も行くのか?」
マーシー「いい映画は何回見てもいいっしょ!」
ガーネット「キースはどうする?」
キース「せっかくだし俺も行くよ」
ガーネット「じゃあ決まりね!今度の休みに皆んなで映画に行きましょ!」
キース「うん」
休日。
映画を見終わった後、4人はカフェに入った。
ガーネット「めちゃくちゃ良かった・・・ラスト感動しちゃったよ!!」
ガーネットは両手を胸の前で組みながら映画の感想を話し始めた。
キース「はい、ティッシュ」
すかさずキースがティッシュをガーネットに渡す。
ガーネット「ありがと、ずびっ」
マーシー「な!良かっただろ!見た後はハッピーエンドになって良かった〜って主人公の女の子に毎回感情移入しちゃうんだよな、ああいうタイプは応援したくなっちゃうよ」
ガーネット「分かる!!健気で尽くすタイプだから周りに利用されてしまいがちな主人公なんだけど
最後には初恋の人と付き合えて熱いハグ!!
ドラマチックよねぇ」
初恋か・・・今までそんな風に思った相手はいなかったな。
その時、ヘレンの頭の中にある女性の顔が浮かんだ。
?なぜ彼女の顔が浮かぶんだ?
ヘレンが首を傾げ、それに気付いたキースが声をかける。
キース「ん?どした?」
ヘレン「いや、何でもない」
ガーネット「ね!ヘレンはどう?楽しめた?」
テーブルに両肘を付いて前のめりになりながらガーネットが聞く。
ガーネットも"ラブレターが青い鳥だったら"という映画を相当気に入ったらしい。
ヘレン「ああ、とてもいい話だったよ」
ガーネット「そっか、なら良かった」
マーシー「うんうん、皆んなが楽しめたみたいで良かった!!」
マーシーは三人が楽しんでいる様子を見て嬉しそうに笑った。
三話 ヘレンの友人達
ヘレンが友人達に囲まれて話している姿を見かけた。
和気藹々としていて和やかな雰囲気だ。
友達がいないなんて嘘。あんなに楽しそう。
彼、あんな風に柔らかい表情もするのね。
心を許した相手には見せてくれるのかしら。
私には・・・嫌ね、私ったらなんて図々しい事を考えているの?
レストランで会えるだけで充分じゃないの。
マーガレットはそう自分に言い聞かせて頭を左右にブンブンと振った。
気付かないフリをしてこのまま去ろうと背を向けた瞬間、ヘレンに名前を呼ばれた。
ヘレン「マーガレット!」
マーガレットはいきなり後ろから名前を呼ばれて一瞬びくりと反応した後、振り返った。
ヘレンがこちらへ駆けて来る。
心なしかいつもより表情が柔らかい。先程まで友人達と話をしていたからだろうか?
その姿はまるでデートをした日の待ち合わせ場所に来る恋人のようだった。
ヘレンは恋人がいるのかしら・・・。
ヘレン「マーガレット、久しぶりですね」
マーガレット「ええ、久しぶりね、お店の外では敬語じゃなくていいわよ」
ヘレン「ありがとう、そうさせてもらう」
マーガレット「この方たちはヘレンのお友達?」
ヘレン「ああ、紹介するよ、友人のガーネット、キース、マーシーだ」
ガーネット「初めまして〜!ガーネットよ!」
キース「キースだ、よろしくな」
マーシー「俺マーシー!よろしくー!」
マーガレット「マーガレットよ、よろしくね」
マーガレットは一人一人と握手をする。
ガーネット「あ!ねぇ、せっかくだからマーガレットも一緒にこれからカフェに行かない?ヘレンが今日オフの日だから誘っていたとこなの!」
ヘレンはいきなりガーネットがマーガレットを誘ったことに大丈夫か?と少し心配になった。
マーガレットが大人しいタイプだったからだ。
しかし、次のマーガレットのガーネットに対する反応にヘレンのそんな心配事は杞憂であったと知り、キースとマーシーとの会話を始めた。
マーガレット「あら!ちなみにお店は決まっているの?」
ガーネット「うん、CAFE HAPPYだよ!」
マーガレット「まぁ!あのチョコレートスイーツが美味しくて有名な?」
ガーネット「そうそう!マーガレットよく知ってるじゃない!」
マーガレット「私、チョコレートが好きなのよ」
ガーネット「分かる!!私もチョコレート大好きなの!あの甘くて濃厚で舌の上でとろける感じ・・・」
マーガレット「ええ、たまらないわね」
マーシー「何だか女の子たちはチョコレートの話で盛り上がってるなぁ」
キース「うん」
その時、キースは何かをひらめいたらしい。
キース「でも残念だなぁ・・・マーガレット」
マーガレット「何かしら?」
キース「実はヘレンの奴、甘いもの苦手だから行かないって俺たちフラれたばかりなんだ」
マーガレット「あら、そうなの?それなら私も今回はパスして・・・」
ヘレン「行く」
マーガレット「え?でも、甘いもの食べれないのなら無理しない方がいいんじゃない?」
ヘレン「俺は飲み物だけにするから大丈夫だ」
ガーネット「ヘレンはいつもそうだもんね、スイーツもだけど調べてみたら紅茶やコーヒーも美味しいんだよ、だからヘレンもいいかなって!バイキングとか食べ放題じゃないから自分の食べたい分だけ取って来れるスタイルだから」
ヘレン「調べてくれたのか、悪いな」
ガーネット「やーね、こういう時は素直にありがとうでいいんだって!」
ガーネットはバシバシっと軽くヘレンの腕を叩いた。
ヘレン「あ、ああ、そうだなありがとう」
ガーネット「どういたしまして〜!」
ガーネットの明るさにはいつも救われる。
キース「じゃあそろそろ行きますか」
マーシー「だな!!」
ヘレン、キース、マーシーが先を歩き、その後ろをガーネットとマーガレットが歩く。
三人は何やら映画の話で盛り上がっている。
その時、こそっとガーネットが話しかけてきた。
ガーネット「ヘレン、彼女いないよ」
マーガレット「え!?急にどうしてそんな事を聞くの?」
ガーネット「ふふ、マーガレットったら顔に書いてあるんだもん、ヘレンに彼女いるのかしらって」
マーガレット「私はそういうつもりじゃ・・・」
ガーネット「大丈夫、誰かに言ったりしないから、ねぇ、マーガレット今度二人で遊びに行こうよ、色々話したいしさ・・・あ、いきなり二人では嫌だった?」
マーガレット「そんなことないわ、でも私、人が多い場所が苦手で」
ガーネット「大丈夫!だったら映画とか美術館とかどう?」
マーガレット「ガーネット美術館に行くの?」
ガーネット「意外でしょ?」
マーガレット「てっきり遊園地とか海とかそういった場所かと思ったの」
ガーネット「遊園地とか海も楽しいし好きだけど、普段はメイク道具を見に行ったり絵を見に美術館行ったりするよ、私、メイクやファッションコーデの仕事してるから」
マーガレット「へぇ!それでガーネットはメイク上手だしオシャレなのね」
ガーネット「ありがと!マーガレットはビジネス寄りなメイクやファッションが多そうだね」
マーガレット「ええ、あまり得意ではないの、興味はあるのだけれど」
ガーネット「だったら今度会った時にメイク道具を見に行かない?午前中なら人があまりいないから午前中に待ち合わせはどう?」
ガーネットがぱちんと片目をつむる。
一つ一つの動作が可愛らしい。
マーガレット「ありがとう、そうしましょう、私、一人だと勇気が出なかったけれどガーネットが一緒なら心強いわ」
ガーネット「可愛い!!」
マーガレット「え?え?」
キース「なんだー?ガーネット、急にでっかい声出して」
ガーネットの突然の大きな声にキースが振り返る。
マーシー「なーんか二人でコソコソ話してたなぁ」
ヘレン「何を話してたんだ?」
キース「可愛いって思いっきり聞こえたけど」
ガーネット「だってマーガレットが素直で可愛いからつい大きな声出ちゃったんだもん」
マーガレット「可愛い要素なんてなかった気がするけれど・・・」
ガーネット「そんなことないよ!マーガレットはもっと自分に自信持たなくっちゃ!」
マーガレット「あ、ありがとう??」
マーシー「え、話しってそれだけ?」
ガーネット「それ以上はひーみーつ!」
マーシー「何だよ秘密ってー!」
ガーネット「べーだ!女同士の話だもん、ねーマーガレット!」
ガーネットはマーガレットの腕をぎゅっと掴んだ。
そんなガーネットを守るべくマーガレットも答える。
マーガレット「ええ、そうね、私たちの秘密よ」
すっかり意気投合した二人を見てヘレンは安堵する。
マーシー「何だよそれー!!余計気になるじゃん!」
キース「まぁまぁ、女の話に男が入り込むのは野暮だろ」
マーシー「まーそうだけどさ〜」
ヘレン「そうこう言ってるうちに着いたぞ」
ガーネット「ついに来た!CAFE HAPPY!!食べまくるんだから!」
ガーネットは腰に手を当てて意気込んでいる。
まるでこれからスポーツの試合にでも行くかのようだ。
"CAFE HAPPY"
ショーケースから好きなケーキをお皿に自分で自由に取るスタイルだ。
一つ一つが小さめなので色々な味が楽しめるようになっている。
一皿にマックスで5、6個ほど乗せられる。
その場で店員にいくつケーキを乗せたか見せて会計を済ませてテーブルへと持って来るのだ。
飲み物もその場で店員に注文し、その場で受け取る。
ガーネットはお皿にケーキを5個とアイスミルクティー。
マーシーはケーキを6個とカフェオレ。
マーガレットとキースはケーキを2個とアイスティ。
ヘレンはコーヒーのみを注文した。
ガーネット「え、マーガレットとキースはそれだけでいいの?」
マーガレット「えぇ、これで充分よ」
ガーネット「マーガレットも少食なんだねぇ」
キース「まぁ、俺も二つで充分だな」
キースの言葉にマーガレットはホッとする。自分と同じ人がいる事で安心したようだ。
マーシー「まじ?俺全然足りないよ!」
ほんの10分後。
ガーネットが椅子から立ち上がる。
お手洗いかしら?とマーガレットは一瞬思った。
しかし、次のガーネットの一声でマーガレットの目がまん丸くなる。
ガーネット「マーシー、ケーキのショーケース見に行こ!第二段よ!」
マーシー「よし来た!」
ガーネットとマーシーは一回分では足りなかったようで、二回目の注文をしに行った。
マーガレットは二人のやり取りをポカンと見ていた。
ヘレン「あの二人はいつもああなんだ、俺はご飯系は沢山食べられるが甘いものは食べられない」
キース「俺はスイーツもご飯も一人前あれば充分だな、ヘレンやマーシーみたいに大盛りは食べれない、ちなみにガーネットは甘いものだけは大食いで、マーシーはどっちも大食いだ」
マーガレット「なるほど・・・」
キース「みんなそれぞれ個性あって面白いよな」
マーガレット「個性・・・そうね」
ヘレン「マーガレット、ここには君を馬鹿にする人はいないよ、だから安心して食事を楽しんでくれ、
食べれない時は俺やマーシーが食べるしスイーツならガーネットに任せればいい」
マーガレット「い、いいのかしら、そんなに頼ってしまって・・・なんだか申し訳ないわ」
ヘレン「マーガレットはもっと周りの人を頼っていいんだ、申し訳なく思わなくて大丈夫だ」
マーガレット「ありがとうヘレン」
キース「ふーん、なるほどな」
二人のやり取りを見ていたキースが急に呟いた。
ヘレン「何がなるほどな、なんだ?」
キース「ひーみーつ」
ヘレン「キースまで秘密か、今日はやけに秘密が多いな」
ガーネット「秘密が何って?」
キース「戻ってきたか・・ってお前ら何だその皿の上のケーキの量は?一回目より増えてないか?」
ガーネット「一回一回取りに行くの面倒だから大皿で取ってきちゃった!」
マーシー「俺もー!」
マーガレット「二人とも凄い量ね」
ヘレン「マーガレット、沢山のケーキを見て気持ち悪くなったりしないか?」
マーガレット「えぇ、大丈夫よ、それにさっきガーネットがあらかじめ確認してくれたのよ」
ヘレン「相変わらずガーネットは周りをよく見てるな」
ガーネット「ヘレンには敵わないけどね!」
ヘレン「買い被りすぎだ」
ガーネット「そんなことないよ」
マーシー「そんじゃいただきまーす!!」
ガーネット「あ!マーシーったら抜け駆け禁止!私もいただきます!」
キース「はは、ったく、この二人は花より団子だな、ガーネットはともかくマーシーはよく太らないな」
マーシー「運動いっぱいしてるからな!」
キース「あーそう言えばマーシーはスポーツ好きだったな」
マーシー「そうそう」
マーガレット「ふふ、でも、自分が食べられない分、人がいっぱい食べているところを見るのは気持ちがいいわ」
キース「確かにな、俺も自分が食べるより見てる方がいいかもしれないな」
マーガレット「あら、キースって意外と欲がないのね」
キース「意外ってあのねぇ」
ヘレン「ほっ・・・」
マーガレットが皆んなと溶け込めて良かった。
まぁこの三人なら大丈夫だとは思ってはいたが。
三人は少食なマーガレットを見ても誰も笑ったり茶化したりしなかった。
ありのままのマーガレットを受け入れてくれたのだ。
四話 それぞれのただいま
ーヘレンー
ガチャ。
ヘレン「ただいま」
ヘレンは一人暮らしをしている。
高校の時に両親が事故死。以来、ヘレンはバイトをしながら生活をしていた。
八畳、1K。仕事でレストラン・プルメリアにいる事が多いヘレンにとってこの部屋はほとんど寝る為にある。
本棚があり、休みの日になると読書を楽しんだ。
ーマーガレットー
ガチャ。
マーガレット「ただいま」
母親「お帰りなさい」
父親「お帰り」
私と両親との会話はほとんどおはようとおやすみと、お帰りとただいまだけだ。
両親は私がどこで何をしていても何も言わない。
いつだったか警察沙汰にさえならなければいいと言われた時の事を思い出す。
両親は私に関心がないのだ。
食事の時も無言で、片付け終わると私はすぐに自分の部屋に引きこもっていた。
家は居心地が悪くもないが良くもない。
休みの日も大抵寝るだけで終わっていた。
ーキースー
ガチャ。
キース「ただいま」
父親「お帰り、キース」
キース「今日は早かったんだな」
父親「ああ、珍しく仕事が早く片付いてな」
俺の母親は幼い頃に病で亡くなった。以来、親父と二人暮らしをしている。
キース「親父、夕飯は?」
父親「まだだ」
キース「また夕飯抜く気か?ちゃんと食べないと倒れるよ」
父親「ああ、そうだな・・・」
ここのところ親父は仕事を遅くまでして帰って来ると
疲れから夕飯を食べる事さえ忘れて眠ってしまうのだ。
朝早くにシャワーをささっと済ませて家を出ていく姿を俺は何度も見ていた。
キース「カレーでいい?」
父親「ああ、助かるよ、いつもすまないな」
キース「いいよこれくらい」
キースは料理本を見ながら作り始める。
父親「キース、料理本まで買っているのか?」
キース「うん、料理、結構楽しくてさ、休みの日の趣味みたいなものだよ」
父親「そうか、お前は母さんに似たんだな」
ーマーシーー
ガチャ。
1人暮らし。1k。8畳。
マーシー「ただいまー」
兄「おー、帰ってきたか」
マーシー「兄ちゃん!また勝手に部屋に入ってたのかよ、靴見てすぐ分かったけどさ」
兄「まぁ細かいことはいいじゃん」
俺のアパートの合鍵を持つ唯一の人物。それが兄だ。
アパートを借りた時、兄が合鍵を渡せとせがんできた為、仕方なく貸したのだ。
俺は一人暮らし、兄ちゃんは母さんと父さんと暮らしている。
まぁ、父さんは仕事で世界中を回ってるから帰って来るのは年に一度だけ。
ほとんど二人暮らしだ。
マーシー「あ!!兄ちゃん新しいゲーム買ったの?」
兄「おー、一緒にやるか?」
マーシー「やるやるー!!俺金無くて最近ゲーム買ってなかったんだよ」
兄「何だ?仕事辞めたんか?」
マーシー「まさか、まだやってるよ」
兄「ゲーム会社だっけ?」
マーシー「うん」
兄「お前そんな浪費癖あったっけ?」
マーシー「交際費が結構かかんのよ」
兄「飲み会ばっかしてんのか?」
マーシー「まーそれもあるけどー」
兄「あ!!分かった!彼女だろ!」
マーシー「え、何で分かんの?」
兄「そりゃお前、俺はマーシーの兄ちゃんだからな」
マーシー「理由そんだけ!?」
兄「で?どんな子なんだ?母さんは知ってんの?」
マーシー「母さんにはまだ言ってない、髪は俺と同じくらいの長さでよく笑う子だよ、俺と違って癖毛のない金髪だけど」
兄「マーシーと同じくらいってほとんど坊主じゃん」
マーシー「まぁ、ベリーショート?」
兄「意外だな、マーシーはボーイッシュな子が好みなのか、ロングヘアの色気むんむんなタイプかと思った」
マーシー「それは兄ちゃんの好みだろ」
兄「はは、そうだな、っと!っしゃー!俺の勝ちー!」
マーシー「あーくそ!また負けた!!」
マーシーはゲームに負けた悔しさで床に寝転がった。
兄「んじゃ、俺は帰るわ」
マーシー「え、もう??」
兄のその一言にマーシーが勢いよく起き上がる。
兄「マーシー、彼女大事にしろよ、俺みたいに放置してフラれないようにな」
マーシー「うん、って、えぇ!?兄ちゃん彼女いたの!?てか別れた!?」
いい終わるや否や兄ちゃんは出て行ってしまった。
兄ちゃんはまるで台風みたいな男だ。
ガチャ。パタン。
マーシー「ほんっとに・・・相変わらずの自由人だな・・・父親にそっくりだ」
ーガーネットー
ガチャ。
ガーネット「ただいま・・・って誰もいないか」
両親は共働きでほとんど家にいない。
同じ家に住んでいるのにも関わらず顔を合わせるのは週に1、2回程度だ。
家はそれなりにお金があって裕福だけど仕事ばっかりな両親もなんだかなー・・・。
でも、ないものねだりは良くないよね。
不自由なく暮らせてるんだからそれだけで充分じゃない。
そう自分に言い聞かせて自分の部屋のドアを開けて中に入る。
パタン。
ガーネット「はー・・私も一人暮らししたいなぁ、でも、仕事忙しくて引っ越す時間なんてないしなー・・・」
ぼすんと布団にダイブするとそのまま一時間ほど眠ってしまった。
ガーネット「はっ、やばいやばい、シャワー浴びないと!」
ガーネットは勢いよく起き上がる。
ガーネット「はは、私も両親の事言えないな」
そんな自分に呆れながらガーネットはお風呂場へと向かった。
五話 パーティー会場
会社主催のパーティーに行く事になったマーガレット。
パーティー好きな友人達とは違い、派手な場所が苦手なマーガレットは気乗りしなかったが会社主催のパーティーという事もあり出席せざるを得なかった。
料理の支度が終わり、スーツ姿で登場したのはヘレンだ。
髪も髭も綺麗に整え、綺麗なスーツに身を包んでいる。
マルサ「カルミ、あの人カッコ良くない?」
カルミ「ええ、声をかけてみましょうよ!」
マルサとカルミがその姿に見惚れ、声をかける。
マルサ「ねぇ、あなたカッコいいわね」
カルミ「ぜひ私たちと踊って下さらない?」
ヘレン「悪いが他の人を当たってくれ」
マルサ「え、その声・・・あ!」
カルミ「うっそ、あのレストランのシェフじゃない!」
マルサ「え、じゃあ今日の料理はあなたが?」
ヘレン「ああ・・・!マーガレット!」
しかし、ヘレンは二人を相手にはせず、さらりと交わすと後から入って来たマーガレットの名前を呼んだ。
ノースリーブの白いレースのワンピースにはマーガレットの花が散りばめられている。
肩には控えめなフリル。メガネはコンタクトにし、目元はナチュラルメイク、唇には真っ赤な口紅。
華奢な銀のネックレスは鎖骨に。赤いドロップ型のピアスはマーガレットが歩く度に耳元で揺れる。
赤い小さなバッグを両手で持ち、足元は赤いハイヒール。
ざわざわ。
会場にいた男性たちがマーガレットの美しさに魅入る。
マルサ「え!?」
カルミ「ま、マーガレット!?う、うそ・・・」
マーガレット「ヘレン、料理担当はあなただったのね」
ヘレン「ああ、君の会社の社長さんに頼まれてね」
マーガレット「そう」
このドレスを見た時に華奢で清潔感がある彼女にピッタリだと思った。
決して派手ではないのに着る人の良さを最大限に活かしてくれるドレスだ。
ドレスが彼女の良さを引き出し、彼女がドレスの良さを引き出す。
いつもは私服もビジネススタイルで服装はブラウスとネイビーのテーラードジャケットにジーンズに低いパンプスが多い彼女だ。
ピッタリと前髪をピンで右側にまとめ、後ろは三つ編みに縛っていた。
しかし、今日は肩まで伸びた髪は綺麗に巻かれていて彼女が動く度に首筋、肩、背中に触れては揺れている。
香水は付けていないはずなのに石鹸の香りが僅かにする。
おそらくシャワーを浴びてから支度をしたのだろう。
ヘレン「マーガレット、そのドレスよく似合っている」
マーガレット「ありがとうヘレン、あなたが選んでくれたドレスとても気に入ったわ」
キース「いい感じだな!」
ヘレン「ほとんどガーネットに頼りっぱなしだったがな」
マーシー「うんうん、メイクも髪型もバッチリだな」
ヘレン「さすがガーネットだな、メイクと化粧のバランスが最高だ」
ガーネット「ありがと、マーガレット普段は化粧っ気が全然なかったからやりがいがあったわ
それに元がいいから映えるわね」
マーガレット「そんな、ガーネットの腕のおかげよ」
ガーネット「もうマーガレットったら謙遜しちゃって!でもそんなところがマーガレットの可愛いところよね」
ガーネットは何かと私を褒めてくれる。
私にとって明るくて気立ての良い優しいお姉さん的存在だ。
マーガレット「ありがとう、ガーネットのドレスも素敵よ」
ガーネット「あら、ありがとマーガレット、知り合いを自由に呼んでいいパーティーだって聞いて気合い入れて来ちゃった!」
ガーネットは茶目っけもありその笑顔はチャーミングで可愛らしい。
マーガレット「ふふ、ガーネットらしいわね」
ガーネット「ヘレン!せっかくだからマーガレットと踊ってきたら?」
ヘレン「え?ああ・・・マーガレットさえ良ければ」
マーガレット「私からもお願いするわ」
ヘレン「そうか」
そう言うとヘレンはマーガレットの手を取り、二人は音楽に合わせて踊り始めた。
周りの人達が二人を羨ましそうに見ている。
もちろん、その中にはマルサとカルミもいた。
マルサはハンカチを噛み、カルミは親指を噛んでいる。
ガーネット「何だかんだ言って仲良いわねあの二人」
マーシー「ヘレンの奴、なんか動き硬くないか?」
キース「照れてんだろ笑」
マーシー「あー、それで二人になった瞬間ぎこちなくなったのか」
キース「マーシーも気付いてたか」
マーシー「そりゃ気付くっしょあんな顔してたら」
キース「隠しきれてないものな」
ガーネット「仕方ないわよ、ヘレンったら24歳にして初恋なんだもの」
マーシー「うっわマジかよ‼︎」
キース「だろうとは思ったよ、今まで女の話してんの聞いたことなかったし」
マーシー「確かにな」
ガーネット「ヘレン今まで仕事一筋だったからねー、でも、マーガレットが相手ならいい感じになる気がするわ」
マーシー「お!女の感ってやつか?」
ガーネット「ま、そんなとこかな」
キース「ガーネットの感はよく当たるからな」
ガーネット「凄いでしょ!」
キース「ああ」
六話 今夜レストランでお茶会を
ガーネット「ねぇ、この後って皆んなどうする?」
ヘレン「帰るんじゃないのか?」
マーガレット「私もよ」
マーシー「えー!もう帰っちゃうの!?まだ8時だぜ」
キース「ガーネットは何か希望あるのか?」
ガーネット「今夜、皆んなでお茶会しない?」
パーティーも終わりに差し掛かった頃。
マーガレットが疲れていないか確認した後、ガーネットがそう言った。
マーガレット「お茶会?でも、カフェはもうどこも閉まっているんじゃないかしら?」
キース「あるじゃん、一箇所」
キースがヘレンを見る。
ヘレン「え、まさかレストラン・プルメリアでか?」
ガーネット「そうだよ」
ヘレン「店を開けるのは構わないが今日は休みで材料は何もないぞ?」
ガーネット「分かってるって!私ね、実は今日、紅茶とコーヒーを持って来たの」
マーシー「え、まじ!?用意いいな!」
キース「それでガーネットのバッグがもう一つあったのか」
ガーネット「お湯を沸かすのだけ手伝って欲しいんだけど」
ヘレン「ああ、分かった」
ガーネット「ありがと」
ヘレン「しかし、皆んなの予定がどうかまだ聞いてないだろう」
マーシー「俺は賛成!」
キース「俺も大丈夫だ」
ヘレン「マーガレットは大丈夫か?」
マーガレット「ええ、私も大丈夫よ」
ヘレン「そうか、なら今夜は店を開けよう」
マーシー「やりー!!」
ガーネット「やったね!」
その日の夜。
5人はレストラン・プルメリアでお茶会をすることになった。
キース「ん、たまには夜に温かい飲み物で乾杯ってのもありだな」
マーガレット「そうね、私も温かい飲み物が好きだから嬉しいわ」
ガーネット「良かった、お茶もコーヒーもカフェインがないもの選んできたから睡眠の妨げにはならないはずだよ」
ヘレン「さすがガーネットだな、そこまで考えてくれてたのか」
ガーネット「だってここにいる半数が睡眠不足なんだもの!」
マーガレット「え、そんなに?私だけかと思っていたわ」
ガーネット「いるのよ、他にもキースとヘレンがね」
マーガレット「まぁ・・・」
ヘレン「困ったものだ」
キース「俺なんか最近睡眠薬飲んでる」
ヘレン「それは重症だな」
キース「俺が安眠できる時は永眠する時だな、はは」
キースのブラックジョークにツッコミを入れるどころか賛同するものが約二名いた。
マーガレット「それは私も思うわ・・・」
ヘレン「俺もそんな気がする」
マーシー「おいおい、三人とも大丈夫かよ・・・」
ガーネット「重症だよもう!私としては薬を飲まずに安眠して欲しいよ」
マーガレット「ガーネットは優しいね」
ガーネット「だってこの人たち、ほっとくとぶっ倒れるまで無茶するんだもん」
マーガレット「それは心配ね」
ガーネットはずいっとマーガレットの方に身を乗り出した。
ガーネット「マーガレット、あ、な、た、もよ」
マーガレット「あら、私も??」
キース「まぁ、一番無茶するタイプだよな」
ガーネット「ほんとよ!」
ガーネットはぷりぷりとしている。
マーガレット「そうかしら?」
マーシー「確かに、体調悪くても気遣って周りに言わなそうだもんな」
ガーネット「これからはちょっとでも異変を感じたらちゃーんと言うこと、いい?」
マーガレット「わ、分かったわ」
キース「なんかガーネット、マーガレットの姉さんみたいだな」
ガーネット「ふふん」
マーシー「得意げだな笑」
マーガレット「ガーネットみたいなお姉さんがいたら毎日楽しそうね」
ガーネット「マーガレット・・・きゅーん、私で良ければいつでもなるよ!」
七話 初めてのデート
マーガレットとヘレンが出会ってから半年後。
二人はだんだんと距離が近付いていき、レストランの閉店の時間が迫っていた時だった。
その日、マーガレットが最後の客となり、二人きりになったタイミングでヘレンから告白をして付き合い始めた。
その流れのままマーガレットをデートに誘ったまでは良かったのだが、ヘレンにはひとつ問題があった。
公園のベンチに三人並んで座る。
ヘレンは二人を呼び出し、話を聞いてもらおうと思ったのだ。
ヘレン「キース、マーシー、頼みがあるんだ」
マーシー「なになにー?そんな改まっちゃって!」
キース「珍しいな、ヘレンが頼み事なんて」
ヘレン「まぁな・・・」
マーシー「んで?頼みって?」
いつになくソワソワとしているヘレンの様子に二人はマーガレット関連の話だと予想していた。
ヘレン「二人とも、初めてのデートはどこへ行くのがいいと思う?」
マーシー「マーガレットと付き合うことになったの?」
ヘレン「え?な、なんでマーガレットだと分かったんだ?これから付き合ったことを話そうとしていたところだったのに」
マーシー「あれだけラブラブオーラ放ってたら俺でさえ気付くよ」
キース「うんうん」
ヘレン「そう言われると恥ずかしいな」
マーシー「え、まさか頼み事ってデートコース教えろって話?」
ヘレン「ああ」
ヘレンの頼み事の可愛さに二人は思わず顔を見合わせた。
キース「なんだ、そんなことか、俺はてっきりマーガレットにボーイフレンドでもできたのかと思った」
マーシー「俺はマーガレットに対する欲求が爆発寸前なのかと思ったぜ」
ヘレン「二人とも、あまり俺をからかわないでくれよ」
キース「悪い悪い、あまりにも可愛い頼み事だから意地悪したくなったんだ」
マーシー「なー!!」
キースはアイスティのストローをくるくると回しながら、マーシーは両手を顎に乗せながら言った。
ヘレン「か、可愛い??・・・ガーン」
マーシー「んなショック受けんでも・・ヘレンは純情だなぁ」
ヘレン「俺って純情なのか?・・・」
キース&マーシー「かなり」
ヘレン「はもらなくてもいいだろう・・・」
キース「けど、それがヘレンの良いところだろう?」
マーシー「そーそー!そんなヘレンだからマーガレットも心を開いだんだんと思うよ」
ヘレン「ありがとう・・・」
マーシー「それで、デートコースの話だったよな」
ヘレン「ああ」
キース「マーガレットの性格や体力を考えると映画館とか水族館とかいいんじゃないか?」
マーシー「さっすがキース!よく見てるな」
キース「まぁな、マーシーはどう思う?」
マーシー「んー、俺のはあんまり参考にならないと思うんだよなぁ・・・」
ヘレン「いや、参考になるかもしれない、聞かせてくれ」
マーシー「おー、俺もマリンもアニメがめちゃくちゃ好きでさ、だから漫画とかアニメのグッズが売ってる店に行く事が多いんだ、初デートもそうだったしな」
ヘレン「そう言えばマーシーはゲームだけでなくアニメや漫画をよく見ていたな」
マーシー「そうそう、んで、初デートはコラボカフェに行ってランチを食べたんだ」
ヘレン「コラボカフェ?」
マーシー「ほら、時々イベントでやってるやつだよ、
期間の間だけアニメのキャラクターをモチーフにした食べ物や飲み物を出すお店があるんだ」
ヘレン「なるほど」
キース「俺は行ったことはないけどマニアの中で騒がれてるのを聞いたことがあるよ、好きなキャラクター目当てで行く人が多いらしい」
ヘレン「面白そうだがマーガレットがアニメを好きとは聞いたことがないな」
マーシー「あー、通常は初デートでは行かないからなぁ」
キース「マーガレットが好きなものは何か知らないのか?」
ヘレン「そうだな、チョコレートと花が好きだという事くらいしか・・・」
キース「それなら寒い今の季節に花を見るのは難しいからチョコレートカフェに行ってみたらどうだ?」
ヘレン「そんなカフェがあるのか?」
キース「ああ、ちょうどこの通り沿いにあるよ、後で行ってみるか?」
ヘレン「ありがとう、助かる」
マーシー「にしてもさすがキースだな、お前色んなお店知ってるもんな」
ヘレン「キースはバーテンダーだからな、色々な人の話を聞いてるし知識も豊富だからな」
キース「そんなことないよ、俺のバーはあんまり会話しない静かな店だからさ」
マーシー「キースらしい店だよな」
キース「たまにはハメ外すこともあるけどな」
マーシー「初耳なんですけど!?キースにそんな経験があるのか??」
キース「俺だって男だ、そういう気分になる時もあるよ、ま、ほとんど一夜限りだけど」
マーシー「うわー悪い男だなぁ」
キース「襲ってるわけじゃない、お互い了承の上でだ、問題ないだろう」
マーシー「いやまぁいいんだけどさ、あ、待ってキース」
キース「ん?」
マーシー「ヘレンがフリーズしてる」
キース「しまったヘレンには刺激が強すぎたか・・・」
マーシーとキースはまた顔を見合わせることとなった。
八話 マーシーの彼女
マーガレット「えっ、マーシーって彼女いたの!?」
"CAFE HAPPY"の隅っこの席にマーガレットの声が響く。
キースとヘレンが用事あって来れない為、三人でチョコレート食べに行こうとガーネットが誘ったのだ。
マーシー「そんな驚く!?」
ガーネット「意外だよねー、こんななのに」
マーシー「こんなって何だよ!」
ガーネット「これでも彼女には凄〜く一途で優しいんだよ」
マーガレット「へぇ!」
マーシー「・・・」
キース「何、照れてんの?」
キースがニヤニヤとしながらマーシーの顔を覗き込む。
マーシー「照れるだろそりゃ!」
キース「へぇ、可愛いとこあんのな」
マーシー「か!?」
マーシーはキースに可愛いと言われて赤面している。
ガーネット「マーシー、写真見せてよ」
マーシー「まぁいいけどさ」
そう言ってマーシーはカバンから携帯を取り出し、彼女の写真を皆んなに見せた。
満更でもないらしい。
マーガレット「あら、彼女ベリーショートなのね」
ガーネット「珍しいよね、ここまで短い子も」
マーガレット「そうね、でも、可愛らしいくて似合ってると思うわ」
マーシー「へへ!だろー?」
マーガレット「名前は何て言うの?」
マーシー「マリンだよ」
マーガレット「可愛い名前ね、ふふ、それに同じパーカー着てる、本当仲が良いのね」
マーシー「俺は恥ずかしいって言ったんだけどな!彼女がどうしても俺と一緒がいいって言うから」
マーシーははにかむようにへへっと笑いながら人差し指で鼻の下を掻いた。
その様子から彼が彼女にベタ惚れなのが伝わってきてこちらまでホッコリとしてしまう。
ガーネット「はいはい、惚気ごちそうさま」
九話 ガーネットの恋愛事情
ガーネット「へぇ、じゃあヘレンとは上手くいってるんだね、良かった良かった!」
マーガレット「ありがとう」
ガーネット「最初からそうじゃないかとは思ってたんだよねーうんうん」
マーガレット「ところでガーネット」
ガーネット「んー?」
マーガレット「ガーネットはどうなの?彼氏と」
ガーネット「うーん、私の方はダメだね、なんてゆーか
彼、強引過ぎるというか、エスカレートしたら暴力に繋がりそうでちょっと怖いんだ、彼、避妊もしたがらないし」
マーガレット「え、それって大丈夫なのガーネット」
ガーネット「だからこの間、別れ話を持ち掛けたんだ、
自分の身は自分で守るしかないと思って
、けど俺は別れないってきっぱりと言われちゃって」
マーガレット「変な事件にならないといいけれど」
ガーネット「まぁ、大丈夫だよ、私どうもあの顔に弱くてさ」
普段のガーネットはしっかり者だが男性に対してはそうではないらしい。
マーガレット「そう言えば写真見せてもらったけどハンサムだったわね」
ガーネット「でしょー?」
マーガレット「ガーネットはハンサムな人が好きなの?」
ガーネット「うん、めっちゃ好き!!細身でハンサムで最高なの」
マーガレット「ねぇ、そういえばキースも彼に少し似てない?髪型は違うけれど」
ガーネット「え?やーねー、全然似てないって!」
ガーネットはパタパタと手を上下に振る。
マーガレット「でも、キースって結構ハンサムじゃない?ってガーネットはキースを友達としてか見てないか・・・」
ガーネット「・・・知ってる、キースはかっこいいよ、
最初に会った時からずっと他の誰よりもね」
伏目がちに言うガーネットの表情、声色からは彼に感じる愛おしさが隠し切れていない。
マーガレット「ガーネット・・あなたやっぱり・・」
そう言いかけたところで背後から男の声がした。
カイヤ「よお、ガーネット」
たった一言しか発していないのに乱雑な印象をマーガレットは受けた。
あ、この人、ガーネットの元カレだ。
写真でしか知らなかった存在がこんな形で知ることになるなんて・・・。
ガーネット「!?、カイヤ、何であんたがここに・・」
カイヤ「デートに誘ったのにメール無視するからだろ」
ガーネット「あなたとは別れるって言ったはずよ!」
カイヤ「俺は別れないって言ったはずだろ?」
ガーネット「嫌よ、あなた暴力的だし避妊だってしようとしないじゃない」
カイヤ「いいからこいよ!」
カイヤはガーネットの腕を強く掴んだ。
ガーネット「いたい、離して!!」
マーガレット「ちょっと!やめて下さい」
マーガレットがカイヤの腕を掴んで止めに入ろうとした。
カイヤ「あー?邪魔だよ地味女」
カイヤはマーガレットに掴まれた腕をぶんと振り上げて拘束を解いた。
その衝撃でマーガレットは後ろによろめき、転びそうになる。
よろけたマーガレットを支えたのはすぐ後ろにいたヘレンだ。
ヘレン「大丈夫か?」
マーガレット「え、ええ、ありがとうヘレン」
マーシー「あの野朗、女の子に暴力振りやがって!!」
ガーネット「マーガレット!ほっ・・キッ!!ちょっと!マーガレットに暴力振るうことないでしょう!」
カイヤ「ちょっと腕振り払っただけだろ、だいたい、お前が俺に大人しくついてこねーからだろ」
カイヤは再度ガーネットの腕を掴んだ。
ガーネット「!!やめっ・・・」
キース「ガーネット!!」
ボコっ。
カイヤ「ぐあ!?」
ガーネットが声を上げようとしたその時、キースが物凄い勢いで飛んできてカイヤを殴った。
その衝撃でカイヤは地面に尻餅をつく。
カイヤ「いってぇ・・・」
カイヤは頬を手で抑えている。
キース「俺のガーネットに触るな!!」
ガーネット「ドキッ・・キース・・・」
キース「女性を軽視する、段階も踏めないような男にガーネットは渡さない」
カイヤ「く、くそ、何だよこいつ・・・」
カイヤは急いで立ち上がり、頬を抑えながら逃げていった。
キースの殴る力が予想より強く、相当痛かったようだ。
キース「はぁ・・・ったく、危なっかしくて見てらんねーな」
キースは前髪をかき上げた。額に汗が滲んでいる。
その汗を手の甲で拭く。
ガーネット「キ、キース、あ、ありがとう」
キース「ああ・・・」
ガーネット「ねぇ、さっき俺のガーネットって・・・」
キース「悪かったよ、頭に血が昇ってつい口が滑ったんだ」
ガーネット「どうして・・・」
キース「好きだからだよ」
ガーネット「え」
キース「今まではガーネットにボーイフレンドができてもガーネットが幸せならそれでいいって、俺は見守る役でいいって思ってたさ、
でも、ガーネットが傷付けられるなら話は別だよ」
ガーネット「キース・・・」
キース「俺じゃだめか?」
ガーネット「え?」
キース「あんな奴、別れて俺にしろよ」
いつもの冷静なキースとは違う男の視線と話し方に鼓動が早くなる。
私、キースに同様してる・・・。
ガーネット「わ、別れたよあんな奴とは・・・カイヤが勝手に私をつけ回してるだけで・・」
キース「はー・・・なんだ、別れてたのか」
ガーネット「俺は別れないって言われたけど、私ははっきり別れてって言ったの」
キース「また来そうだなあいつ」
ガーネット「分からないけど、そうかも」
マーガレット「ねぇ、ガーネット」
ガーネット「マーガレット、あなた怪我は大丈夫?」
マーガレット「大丈夫よ、ヘレンが守ってくれたから」
ガーネット「そう、良かった」
マーガレット「ねぇ、どうしてキースじゃダメなの?」
ガーネット「え?」
マーガレット「だってあなた言ってたじゃない、キースは誰よりもカッコいいって」
キース「え?それ本当なの?」
ガーネット「言った・・・言ったけど・・・」
ガーネットの目が泳いでいる。
マーガレット「だったら・・・」
ガーネット「違う、違うよ、私でダメなのはキースの方だよ」
マーガレット「え?それってどういう・・・」
ガーネット「私は仕事に重きを置きたい人なの、
恋愛も仕事も両立なんてできない、本当、両親にそっくりで嫌になっちゃう」
マーガレット「キースはそんなガーネットのことが好きなんじゃないの?」
ガーネット「キースが温かい家庭を持ちたいって言ったの、だから私じゃダメだよ、私は仕事中心でしか生きられない人間だから子育てなんてできないもの」
マーガレット「ガーネット・・・」
キース「ばぁーか」
ガーネット「!?」
キース「俺が言ったのは温かいか、て、い、!
絶対に子どもがいなきゃいけないなんて言ってない」
ガーネット「で、でも・・・」
キース「俺が言う温かい家庭ってのはガーネットが隣で笑ってることなんだよ」
ガーネット「キース・・・もう、かっこつけ過ぎ」
ガーネットが困ったように笑う。
キース「必死なんだよ、好きな女の心掴む為に」
ガーネットとキースは見つめ合い、微笑み、そして抱き合った。
マーガレット「良かった良かった」
マーシー「俺、二人がそういう関係だったなんて知らなかった・・・」
ヘレン「俺も薄々は気付いてたが確証はなかったよ、
マーガレットはいつから気付いていたんだ?」
マーガレット「一緒にケーキを食べに行った日よ」
マーシー「え!?そんな始めっから!?」
マーガレット「えぇ、だってキース、ガーネットを見る時の目が優しかったから」
マーシー「女の感ってやつか」
ヘレン「君には敵わないな」
マーガレット「うふふ」
その後。
レストラン・プルメリア。
客は今のところガーネットとマーガレットだけだった。
食事が終わり、二人で談笑をしていた時だった。
マーガレットがヘレンの料理姿に見惚れていた為、それに気付いたガーネットがニヤニヤしだした。
そんなガーネットを見てマーガレットは慌てて顔を赤くする。
ガーネット「料理してる姿に釘付けだったね」
マーガレット「だ、だってカッコいいんだもの料理している姿」
ガーネット「ヘレン〜!」
ガーネットはヘレンがひと段落つきそうな頃かを確認をすると一瞬ニヤリとした後、名前を呼んだ。
ヘレン「ん?どうしたガーネット」
食器を拭き終わったヘレンがテーブル席へと来た。
ガーネット「聞いてよー!マーガレットったらね!
料理するヘレンの姿がカッコいいカッコいいってずーっと言ってるの〜!」
マーガレット「ちょっ、ちょっとガーネット!!」
赤面したマーガレットは慌てて講義に出る。
ガーネット「ふふーん、この前の仕返し♪」
ガーネットはペロッといたずらに舌を出した。
マーガレット「もぉ・・・」
ヘレン「その、今言ってたのは・・・本当か?」
マーガレット「ほ、本当よ・・・」
マーガレットは恥ずかしさから顔を手で覆った。
二人のウブなやり取りをガーネットはしばらくの間ニヤニヤしながら見守っていた。
一〇話 一緒にレストランを
交際を始めてから二カ月後。
マーガレットはヘレンのレストランを支える事を決意をし、その意思を伝えた。
マーガレット「私、あなたと一緒にレストランをやりたいわ」
ヘレン「俺は嬉しいが本当にいいのか?仕事を変えなくちゃならないだろう?」
マーガレット「いいのよ、これからはフリーでのんびりやる事にするわ、
でもその代わり一つお願いがあるの」
ヘレン「お願い?」
マーガレット「ええ、このレストランのメニュー表を私に作らせてくれない?ダメかしら?」
ヘレン「ダメじゃないさ、むしろありがたい、
メニュー表、古いままだったから所々破れてしまっているし汚れも目立ってきた、新しく変えようかと思っていたんだ、
これを機にマーガレットの好きなように作り直して欲しい」
マーガレット「ありがとうヘレン」
ヘレン「お礼を言うのは俺の方だ、俺を支える為にレストランをやると言ってくれて嬉しかった、ありがとうマーガレット」
二人は見つめ合った後、強く抱き締め合った。
一年後。
マーガレット「いらっしゃいませ・・・あら」
ヘレン「いらっしゃいませ・・・皆んな」
ガーネット「やっほー!来ちゃった!」
キース「元気そうだな」
マーシー「マーガレットもすっかりこの店に馴染んでるな」
ヘレン「ああ、頑張ってくれてるよ」
マーガレットが三人をテーブル席へと案内する。
ガーネット「私、ミートソースとアイスティ」
キース「俺も同じもので」
マーシー「俺はハンバーグ定食ご飯大盛りで!飲みものはコーヒー!」
マーガレット「かしこまりました、ヘレン、ミートソース二つとハンバーグ定食ご飯大盛りよ」
ヘレン「ああ、分かった」
ヘレンが料理を作る間、マーガレットは飲み物を準備して先に出す。
戻ってきてお皿やご飯の支度をして・・・。
ヘレン「マーガレット、頼む」
マーガレット「ええ」
ガーネット「うんうん、二人とも息ぴったりね!」
ヘレン「夫婦みたいだな」
マーシー「長年連れ添ったな」
ガーネット「あは、確かに笑」
料理を並べ終えたマーシーは口を開いた。
マーシー「あ、俺、来月結婚する」
ガーネット「え!来月!?急ね!おめでとう!」
キース「おめでとう」
マーシー「まぁ、こういうのは早く決断した方がいいかなと思って?」
ヘレン「おめでとう」
マーガレット「おめでとう、マーシーって決断力があるのね」
キース「騙されちゃだめだマーガレット、マーシーは彼女に泣いてせがまれて決断せざるを得なくなっただけだ」
マーシー「ちょいちょーい!せっかく俺がカッコ良く決めたっていうのに〜!」
マーガレット「あらあら」
キース「真実を曲げるのは解せんな」
マーシー「ぶー!」
ガーネット「でも、幸せそうじゃない」
マーシー「へへ!まあね!俺はぶっちゃけマリンがいればあとは何でもいいというかさ」
キース「それは俺も同意だな」
ガーネット「私たちは結婚はしてないけど週の半分は一緒にいるものね」
キース「ああ」
マーガレット「あら?ヘレンどうかした?」
ヘレン「いや、マーシーに先を越されるとはな・・・」
マーガレット「え?」
ヘレン「マーガレット、今夜、レストラン・プルメリアで渡したいものがあるんだ、仕事が終わったら時間いいか?」
マーガレット「ええ!もちろんよ!」
ガーネット「えー!!ヘレンったら今日言うつもりだったのー!?」
マーシー「なんだよー!そうならそうと言ってくれよ〜!俺水刺しちゃったじゃん!」
ヘレン「いや、そんなことはないさ、俺が言うのが遅れてしまっただけだ」
キース「良かったなマーガレット」
マーガレット「ええ・・・」
ガーネット「マーガレットったら照れちゃって可愛いんだから!」
キース「結婚か・・・」
ガーネット「なに、キースも結婚したいの?」
キース「まぁ」
ガーネット「じゃあ結婚する?」
キース「うん」
うんって!可愛いか!
ガーネット「私、今までと生活変える気はないけどいいの?」
キース「いい」
ガーネット「そう・・・あはっ!なんか私たちも結婚することになったみたい!」
マーガレット「おめでとうガーネット!キース!」
ヘレン「おめでとう」
マーシー「おめでとう!いやーまさか今日三組の結婚が決まるとはな〜」
ガーネット「私も驚いてる」
キース「店、そろそろ閉店時間だな・・・ヘレン、あとは頑張れよ!」
ガーネット「大事な言葉噛んじゃダメだからね!」
マーシー「ほんじゃ頑張ってな〜!」
三人は交代でヘレンの肩を叩いて店を出た。
う・・・急に緊張してきた。
三人が帰った後。店内のカウンターのそばにヘレンとマーガレットが向かい合って立っている。
ヘレン「マーガレット」
マーガレット「なーに?」
マーガレットはヘレンが緊張しないようにとなるべくいつもと変わらない口調を心がけた。
ヘレン「俺と結婚して下さい」
ヘレンは膝をつくと指輪の箱を開けてマーガレットに差し出した。
マーガレット「はい!」
ヘレンはニコッと笑うとマーガレットの左手の薬指に指輪をはめた。
マーガレット「ふふ・・・あらやだ、嬉しいのに涙が止まらないわ、私幸せなのね」
ヘレンは立ち上がるとマーガレットを抱き締めた。
ヘレン「ああ、俺も幸せだ」
マーガレットがつま先立ちをしてキスをしようとすると窓の方の視線に気付く。
ヘレンがマーガレットの腰を引こうとした時。
マーガレット「ヘレン!!」
ヘレン「ん?うわ!?」
二人は忘れていたのだ、二人の雰囲気に飲まれ、この店がガラス張りであることを。
窓の外から二人の姿を覗く老夫婦、カップル、女性三人組。
マーガレット「ご、ごめんなさい、私ったら・・・」
ヘレン「いや、俺も気にかけるべきだったすまない・・・」
二人は数秒の沈黙の後、フッと笑い合う。
今宵、レストラン・プルメリアで二人は愛の言葉を囁き合うのだった。
番外編 チョコレート事件
ガーネット「チョコレート事件よチョコレート事件!」
開口一番、カフェでチョコレート事件と言い出したガーネット。
マーガレット「チョコレート事件?」
ガーネット「最新作の映画の話だよ、"ラブレターが青い鳥だったら"を書いた作者の」
マーガレット「あら最新作出たのね、でも、チョコレート事件って随分と可愛らしいタイトルね」
ガーネット「詳しくは知らないけどサスペンスだって書いてあった!」
マーガレット「てことは殺人事件なの?」
ガーネット「みたい、もう同じ作者が書いたとは思えないほどシリアスな話らしいよ!
今度見に行かない?あ、サスペンスは苦手だった?」
マーガレット「いいえ、サスペンスは時々見るわ、そうね私も気になるし見に行きましょうか」
ガーネット「がってんだ!!」
ガーネットは相変わらず明るい。
映画。チョコレート事件。
ある日、チョコレートケーキを食べてしまった旦那は妻である美奈子に激情され殺される。
妻である美奈子は冷静になった後に警察に行き、自首をするが・・・。
刑事「そもそも、美奈子さんが異常なまでにチョコレート依存性であることは旦那さんも承知だったはず、
勝手に食べてしまうとは考えにくい」
助手「あ!じゃあもしかしてこの事件は誰かが旦那さんがチョコレートを食べたように見せかけた?」
刑事「ああ、そんなことができるのは妹である華さんだけだ、
事件の日、家を訪問していたようだしな、
夜は部屋のどこかに隠れ、機会を伺う、
そして、寝ている旦那さんの口にチョコレートを付け、残りは自分が食べたんだ」
しかし、チョコレートケーキを旦那が食べたように見せかけたのは妹の華だった。
美奈子「でも、どうして華がそんなことを・・・」
刑事「華さんはお姉さんの旦那さんが浮気を繰り返していることに気付いたんじゃないですか?」
華「はい・・・」
刑事「それで今回の計画をを思いついた、だが、殺してしまうとまでは予想していなかったんじゃないですか?」
華「はい、まさかお姉ちゃんが殺すなんて思ってなかったの、依存性を甘く見てた、ただ別れてくれればいいと思って・・・」
美奈子「知ってたわ、彼が浮気を繰り返してること」
華「え?」
美奈子「彼、セックス依存性だったのよ、そのことは私以外に言っていなかったみたいだから華が知らないのも無理はないわ、
そして私はチョコレート依存性、だからお互い目を瞑りましょうということで関係を維持していたわ」
華「そんな・・・じゃあ私は上手くいってる二人にあんな・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
美奈子「顔を上げなさい華」
華「だ、だって私のせいでこんな・・・お姉ちゃんは私を恨んで罵倒するなり殴るなりしてよ!」
美奈子は首を静かに横に振った。
美奈子「私はきっとこうなることをどこかで望んでいたのかもしれないわ、浮気とチョコレートじゃ割が合わないと思っていたのは確かだし、
正直、彼との関係には疲れていたの」
刑事「では美奈子さん、そろそろ行きましょう」
美奈子「ええ」
華「待って下さい刑事さん!殺したのは私!私なんです!お姉ちゃんは何も悪くありません!」
美奈子「華いいのよ、いつかこうなる気がしてたわ、
それよりも人を殺した私が言える立場じゃないけど体には気をつけなさいね」
華「待ってお姉ちゃん!お姉ちゃん!連れて行かないでぇ!!」
遠ざかっていく姉の背中。
事件現場で妹の悲痛な叫びが響いていた。
助手「悲しい事件でしたね」
刑事「ちゃんと話し合っていたらこんな結末にはならなかったかもな」
助手「そうですね」
刑事「お前も伝えたいことは伝えられるうちにちゃんと伝えた方がいいぞ、家族であれ恋人であれ、友人であれな、人は死んでしまったら伝えることはできないからな」
助手「身に染みます」
ガーネット「ぐすっ、ぐすっ、もう涙止まらないよ」
マーガレット「大丈夫?」
マーガレットがティッシュを取り出してガーネットに渡す。
ガーネット「ありがと、チーン!!はぁ、スッキリした」
二人は公園に移動し、ベンチに座った。
マーガレット「それにしても依存性って怖いわね」
ガーネット「たかがチョコレートでしょ?って周りは嘲笑って馬鹿にしてたね」
マーガレット「ええ、でも私はそうは思わないわ、依存性ってそんな簡単な話じゃないのよ」
ガーネット「私もそう思う!誰だって何かに依存して生きてるんだもん」
マーガレット「そうなの、それは家族だったり恋人だったり、友人だったりペットだったり・・・それを奪われたと思ったら考える間もなく沸点が頂点に達することだってあるはずよ」
ガーネット「ん〜!やっぱりマーガレットは話が分かるね!」
マーガレット「ただ、最初から話し合っていたらもっと別の結末もあったんじゃないかって、あの刑事さんみたいに思ったのも確かね」
ガーネット「うんうん、やっぱり話し合いって大事だよね!キースにも言ってやらなきゃ!」
マーガレット「あら?キースと喧嘩しちゃったの?」
ガーネット「そうなの!キースってクールな感じでしょう?言葉が足りないところがあるからすれ違いが時々あってさ、この間だって私のプリン勝手に食べちゃうし!」
マーガレット「それはすれ違いではない気がするけれど・・・」
ガーネット「私が怒ったら申し訳ないと思ったのかプリン10個も買ってきたの」
マーガレット「まぁ、10個も??それはさすがに食べ切れないわね」
ガーネット「一つ残らず全部食べてやったわ!」
マーガレット「あら・・・そう言えばガーネットは甘いものは大食いだったわね」
ガーネット「そうそう!食べ物の恨みは怖いんだからってふんぞり返って言ってやった!」
マーガレット「そしたらキースは何て?」
ガーネット「そしたらキース、凄く安心した顔してて、その顔見たらなんだか申し訳なくなってきちゃったんだよね、私って子どもじみたことしてたなぁって」
マーガレット「じゃあ、和解はしたのね?」
ガーネット「うん、私からも謝ってね」
マーガレット「素直に謝れるのも子どもっぽいところも含めてキースはガーネットのことが好きなんじゃないかしら?」
ガーネット「そうかな?マーガレットのとこは喧嘩無さそうだよね、したことある?喧嘩」
マーガレット「う〜ん、ないわね」
ガーネット「凄いねそれも、何か秘訣でもあるの?」
マーガレット「秘訣なんてないわ、ヘレンが大人なだけよ」
ガーネット「あー、ヘレンは優しいからねぇ」
マーガレット「私が何かやらかしても怒らないし優しく慰めてくれるの、なんだか私の方が子どもみたいね」
ガーネット「あは、私たちまだベビちゃんだもんね!」
マーガレット「"もう"30になるのよ私たち」
ガーネット「"まだ"30だよ!私たちの人生はまだまだこれからなんだから」
マーガレット「相変わらずガーネットはポジティブね」
ガーネット「・・・」
マーガレット「ガーネット?どうかした?私何かまずいこと・・・」
ガーネット「この間、ポジティブなのは良いが俺の気持ちが分かってないって言われた」
マーガレット「あら・・・それじゃあさっき言ってたすれ違いってそのことだったのね」
ガーネット「うん、キースはナイーブなところがあるから、私のゴーイングマイウェイな精神が鼻に付いたみたい、私って時々暴走しちゃうから」
マーガレット「和解はしたの?」
ガーネット「ううん、まだ」
マーガレット「・・・ガーネット、今すぐ伝えるべきよ」
ガーネット「え、今?」
マーガレット「ガーネットは自分にも非があったなってちゃんつ思ってるんだもの大丈夫よ」
ガーネット「マーガレット・・・なんだか今日はマーガレットの方がお姉さんみたい」
マーガレット「うふふ・・・ほらガーネット、今がチャンスよ」
ガーネット「で、でも・・・」
マーガレット「伝えたいことは伝えられるうちに」
ガーネット「!」
マーガレット「そう刑事さんも言っていたでしょう?
らしくないわよ、ガーネットがくよくよ悩むなんて」
ガーネット「うん、ありがとマーガレット、私行ってくる!」
そう言って立ち上がったガーネットにマーガレットは細い両手の拳を丸めてガッツポーズをした。
マーガレット「行ってらっしゃい」
大丈夫、きっと上手くいくわ。だって二人は互いに想い合っているんだもの。