初代領主ヘルムート・グランツの治世④
ルグ暦60年11月
ヘルムート・グランツ子爵は憂鬱だった。
鉱床の開発が進むにつれて縁談の話が増えてきたからだ。
子爵は、21才。
王国北部ホルクカイの子爵の次女15才や西部ラオンスの男爵の長女17才など15件以上の縁談がグランツ子爵宛に申し込まれていた。
その中で一番子爵を困らせたのは、ルグ王国の大貴族テオドール・ミルツ公爵の三女20才からの縁談である。
テオドール・ミルツ公爵は、ルグ王国南部貴族の貴族連合の盟主で社交界や政治、軍事の専門家であった。
公爵閣下からの話を断ることもできない、悩ましい。そもそも辺境の鉱床はそれほど魅力的な物だろうか、いや、魅力がなければ来ない。とヘルムートは日記綴っている。
結局のところ、ヘルムート・グランツ子爵はこの縁談を承諾した。
彼に選択肢がなかったわけではないが、彼の未熟さゆえの決断であろう。
ヘルムートを悩ませるのは、これだけではなかった。
ヘルトムントの人口は、徐々に増加しており主に近隣の都市や北方からの移住者がメインで、昨年800名だった町民は1000を超える。住宅も新たに建設が始まり、街並みは整備されつつある。
鉱床の開発拡大と、鉱床付近の山での調査採掘や新たな錬鉄技術の研究も進められている。
人口の増加は、犯罪率も上がる。急激な発展に子爵の業務量が増えて毎日が悩ましいのだ。
犯罪は、町民だけではなく交易や労働に来る者たちからも起きる。
グランツ子爵は、警備兵から正式に自治警備隊を設置。子爵邸を役所に町役場に改装と新たな子爵邸の建設が並行で始まった。
新しい子爵邸は、見晴らしの良いヘルトムントの丘に建てられる。
ベリック・カルペンの提案で石材により街を囲う構想を提案された。
「うん、いい案だ。鉱山からの石材や瓦礫を有効活用してくれ」
「ありがとうございます。早速、ヘレナ嬢と計画を立てて参ります。」
「よろしく頼むよ」
数日が経過し、テオドール・ミルツ公爵と三女エリスがグランツ子爵領に到着した。
馬車から降りたテオドール・ミルツ公爵は、初老の紳士と言った見た目をしているがその眼はまだ以前と眼光を光らせている。目を合わせたくないものだと日記に綴っている。
「はるばるお越し頂きありがとうございます。お初に目にかかります。公爵閣下」
「うむ、グランツ子爵、出迎えに感謝する。こちらこそ宜しく。そしてこちらが三女のエリスだ。さぁ、来なさい。」
続いて馬車から降りてきたのは、長身で長髪の細い女性だ。髪は顔にかからないようにしているがあまり慣れたようではなく、普段は髪を止めたりはしていないのであろう。
「は、は、はじめ、まして、テ、テオドール・ミルツの娘、エリ、エリスです。」
ぎこちない挨拶
「はじめまして、ヘルムート・グランツです。」
「は、はい。」
ぎこちなさからのこちらの気まずさに耐えきれず、
「さぁ応接間へ、どうぞ。」と案内するヘルムート。
新たな子爵邸は未だ建築中にあり、現在使用中の子爵邸が使われた。
ヘレナ嬢がお茶を出す。
「さっそくだが、此度の縁談承諾感謝する。」
「いえいえ、公爵閣下。こちらこそありがとうございます。」
ヘルムートは思ってもないことを言っている。
この後、エリス嬢を別室に移動させ公爵と子爵の話し合いになった。
結婚後の受け入れや生活、支援等などの会話がなされたという。
仕事が多忙で久しぶりに投稿しました。
しっかり考えているので、お見捨てなきよう。
よろしくお願いします。