あれは人間のできる芸当じゃない
「ほう、一人で来るか。良いだろう」
「これが最善ですから」
鬼島は今動けない、湯浅は【槍】の待機中、伊吹は【現】のクールタイム。
と、動ける人間が少ない。
しかも、伊吹がダウンしてしまうともう【槍】を補充できない。
だから伊吹に護衛を付ける。
次に気を配るべきなのは湯浅の安全。
いくら伊吹が無事でも、【槍】を出す当の本人がダウンしていては本末転倒だからな。
そのことを分かってるのか、御影と雨宮が二人のそばにいてくれている。
だから、戦える俺が前に出て隙を作りだすのが最善。
さあ、倒そうか。
「お前たちの思惑はわかる。
私にお前を対処させ、隙を見て【槍】を当てるつもりなんだろ?
だがこれが成立させるには、お前が時間を稼がないといけないぞ」
「わかってます」
「…そうか」
猶予時間はクールタイムの5分。
俺が5分持たなければ、戦闘系の能力は【蝶】を持つ雨宮しかいない。
雨宮が戦闘にでれば、戦闘能力の少ない御影、伊吹、湯浅の集団が狙われる。
そっち三人がやられるともう純粋な雨宮との1on1。
そうなればもう詰みだ。
ダッ
このことを分かってる先生は急ぎで決着をつけに来た。
一気に距離を詰めてくる。
「……っ」
だけどこの攻撃は避けれる!!
目の前に急接近してきてから、喉元への突き。
俺はそれをナイフでいなした。
しかし先生は勢いを殺さずそのまま力で押し切ろうとしてくる。
ナイフには鍔がないためつばぜり合いになれば分が悪い。
俺は先生を蹴り、後ろに下がった。
「甘い!」
俺が下がったところを隙と見た先生は自慢の足で追いついてきた。
だがそれは想定済み。
俺は地面に向かってナイフを投げた。
バー―――ン
黒い煙が舞い上がるとともに爆弾が起爆する。
「やったか…?」
だが予想とは違い、直撃は避けられたようでまだ立っている姿が煙越しにうっすら見える。
決定打には至らなかったが確実にダメージを与えられている。
このを好機逃す俺ではない。
煙の中の影に向かい、攻める。
先生はこの初撃を剣ではじく。
でもこんなところでは止まるわけにはいかない。
俺は勢いを乗せたまま連撃をする。
だが先生がそれをはじく。
そしてこれを繰り返し、お互い決定打を掴み合う剣闘になった。
「ペーパーボムか。よく人に当てたな」
「刺激を与えれば爆発する簡単な仕組みです。
ナイフを当てれば好きなタイミングで爆破できる」
「そうだな。
あの薄くて小さい、ペーパーボムを起爆させたんだ。
投げナイフの技術は褒めてやろう」
「……」
「だが、予想通りだったな。
投げ以外お前は、振りも突きも平凡だ。
何も私には届かない」
「全部予想通りだと…?」
「ああ、お前はナイフの扱い自体には慣れていない。
だから暗器を使ってくることも読めていた」
「…そうですか」
刃の攻防のなか、先生は突きをしてくる。
俺はその剣に飛びこんだ。
「なら、これはどうですか?」
剣に貫かれたまま舌を見せる。
「ペーパーボム………!?」
先生が見たのは俺の舌にのったペーパーボム。
「ゲームオーバーです」
俺は勢いよく舌を噛んだ。