異能の国『律』
ここは【言霊】と呼ばれる怪物が出る国『律』
そんな『律』に対して哀れんだ神様は人々に【能力】を授け、自衛をできるようにした。
そう言い伝えられている。
神話とはいえ、『律』以外で能力者は発見されていないし、実際ほかにも辻褄が合っていた。
だから『律』はこの神話を信じ、今は能力を用いた軍事主義国家になっている。
「牽引学園前ー、牽引学園前です」
そんな世界の中生まれた俺は今ある学校の入学式に向かっている。
『国立牽引学園』
この学校は国で唯一軍人になれる学校。
当たり前の話だが、軍事国家の中で権力が高いのは、国家元首・官僚の次は軍人。
要するに権力者になれる学校ということだ。
「絶対、偉くなって卒業してやる」
俺はこの願いをかなえるため、ここ『牽引学園』に入学したのだった。
将来への意気込みを胸に、入学式とかかれた校門を通る。
「ちょっとあなた私に見覚えはない?」
式の会場に向かっていたところ後ろから声をかけられた。
見覚えはない?と言われても銀髪を肩まで伸ばしている知り合いなんていない。
「…んん?ごめん。知らない」
「…ごめんなさい。見間違いだったみたい。知り合いだと思ったのよ」
勘違いだったなら仕方ないか。
気にかけてきたかと思えばすぐに去っていく。
何も面白くないはずなのに、なぜかこのやり取りが面白かった。
「同じ部隊だといいな」
俺も式場に向かった。
「新入生の皆さんご入学おめでとうございます。
ここ国立牽引学園は将来国を導いていける優秀な人材を出すことが義務付けられています。
官僚、軍人、はたまた皇帝として国民を導いていくことでしょう。
そうしていけるだけのカリキュラムを私たちは組んでおります。
ぜひ楽しみ、葛藤し、苦難を乗り越え、成長していってください」
観衆、来賓から拍手がおこる。
「校長先生ありがとうございました」
「次に…………」
長かった入学式が終わり俺たちは各々のクラスに移動した。
すると教室の中で先生が教壇の上で待っていた。
広さは一般的な教室と同じなのに、机と椅子は7個しかない。
この閑散とした教室を見ると特殊な環境に来たんだと実感する。
「あ…」
自分の席につくと見覚えのあるやつがいた。
「あら、また会ったわね。私に見覚えある?」
「あるにきまってるだろ」
ケラケラと笑っているのはこいつ。
式の前に声をかけてきた銀髪のあいつだ。
「席となりなのね。名前はなんていうの?」
「近衛絢人だ。そっちは?」
「御影伽音よ。よろしくね」
入学早々話せる人ができて良かった。
ちょっと個性的な奴だけど…
まあボッチで3年間なんて目も当てられないからな。
話し相手ができただけでも今は喜ぼう。
「まずは入学おめでとう。
ここ6組の担任になった「小泉真子」だ。よろしく頼む。
今からオリエンテーションを始めるが、その前にこれを配っておく」
配られた薄い金属のプレート。
それには在籍カードと書かれていた。
在籍カードには生年月日と名前、そして自分の能力が記されている。
まあでも一番目につくのはこれだよな。
「せ…先生、カードに一年第六部隊と書かれてるのですがどういう意味ですか…?」
黒髪の少女が先生に質問した。
「どういう意味とはそのままの意味だ。
お前たちは入学した時点で律軍の兵隊になる仕組みだ。
クラス単位で部隊を組み、戦ってもらう。
成績が優秀であれば官僚みたいに軍を出る資格が得られるが、そうでなければこのまま学園卒の兵隊になる」
小泉先生は事実をつらつらと述べていった。
「ということは、戦場に立たされるということですか…?」
「ゆくゆくはな」
少女の顔は絶望一色になり、泣きそうになっている。
「はあ。
「黒崎、ここはそういう場所だ。覚悟をきめろ」
死にたくないという思いが今になって降りかかってきたのだろう。
実際にその場に立つことでわかる怖さというものはある。
部隊と記された在籍カード、人数の少ない教室に校長の挨拶。現実を突きつけるには十分だ。
「もう質問はないな?話を再開する」
「その在籍カードだが、身分を示す他に寮の鍵としての役割がある。
再発行は可能だが1万円が必要になる。なくさないように。
今お金の話が出たから先に説明しておくが、お前たちの給料日はその月の最終日だ」
「給料もらえんの!?!?」
斜め前に座るサイドテールの女子生徒がはしゃいだ。
それに対して小泉先生は睨みつける。
「湯浅、今がオリエンテーションの最中だということを忘れるな。
減給処分にされたいのか?」
「い…いえ、すみません」
さすがは先生の圧といったところ。
俺たちは軍人になったとはいえ、まだ15歳。まだまだお子様なんだから大人の威厳を見せつけられたら怖い。
「お前たちは国直属の軍人になったんだ給料ぐらい出る。ただまあまだ学生であることに変わりはないから給料は比較的低いがな」
比較的低いとはいえ給料が出るのは素直にうれしいな。
三年間も敷地から出られないんだから当たり前といえばそうなのかもしれないけど。
「最後の内容は全員が気になってることだ。国家元首の選出方法について話す」
やっと俺が気になっていたことを話してくれるみたいだ。
律は毎年学園の最優秀成績者が国家元首になっている。
毎年成績最優秀者が出る学校の性質上、任期は一年しかないが功績を出している人ばかりだ。
去年の総理は能力を使った犯罪を減少させたんだっけ。
元首が元々持っていた能力の【与】」を使って、警察隊全員が【跡】を使えるようにしたんだよね。
これによって何の能力を使ったのかわかるようになった。
能力が特定されてしまったら個人なんてすぐ特定されてしまう。
今まで解決が難しかった能力事件の解決率が100パーセントになったし、特定が簡単になったのを受けてそもそもの件数も減った。
能力と隣り合わせのこの世の中で、治安を良くしたのはあまりにも功績が大きい。
過去トップレベルで優秀な元首とまで言われている。
いや、ほんと素晴しいな。
自分で言うのもなんだが、権力者になりたいなんて動機で入学した奴がこうなるなんて無理だろ。
せめて俺も、民が納得するぐらいは実力をつけないとな。頑張らないと。
「国家元首に選ばれるにはまず、最優秀部隊になる必要がある。
その中から教員が諸々の成績を鑑みて、最優秀成績者を推薦する。
こうして、最優秀成績者が決まり、国家元首が誕生するという仕組みだ。
そしてその最優秀部隊の決め方だが、誰もが納得できるよう「成績点」方式を採用している。
成績点の稼ぎ方は大きく分けて二つだ。
一つは、定期的に行われる言霊の討伐試験。
名前の通り「言霊」を討伐してもらう。
ちゃんとお前らの実力を鑑みて対象を決めるから安心してくれ。
二つ目は、「部隊戦争」で稼ぐことができる。
同じ学年の他5つの部隊から一つ選び、成績点を賭けた戦争ができる。
詳しくはちょうど二年生が3月に行ったばかりだったはずだ。
タブレットでその結果と記録が見れるから、後学のためにも一度見ておくといい。
寮の中に教科書と一緒においてあるはずだ。
これで説明は終わりだが、質問はあるか?」
誰も手をあげたりしなかった。
「ないならオリエンテーションは終わりだ。
話は終わりだがまだ授業時間中なのでチャイムが鳴るまで教室を出ないように。
自己紹介でもして時間をつぶしておいてくれ。空気が硬すぎる。
もう同じ部隊なんだ。お互いを知っておいたほうが良い」
これも先生なりの優しさなんだろう。
言葉使いは固いし威圧感だって出してるが、実は不器用なだけなのかもしれないな。
先生が教室から出て行ったあと、俺の前の席に座っていた男子生徒が動きだした。
「先生も言っていたし自己紹介していこうか」
しゃべりながら教壇の上へと移動する。
「僕の名前は伊吹良太。よろしくね。
能力は【現】。
人が持っている能力を誘発させることができるんだ」
そういうと伊吹は手をパンと叩いた。
「うえっ!?!?」
あいつ、説明するなり実際に使いやがった。
自分の能力をが強制発動させられ、阿鼻叫喚。
「さて、みんなはどんな能力を持ってるのかなぁ。
お、君の能力強そうだね。見たところ能力は【鬼】かな?」
「合ってる。それと君じゃなくて鬼島翔だ。今度からは名前で呼んでくれ」
「わかったよ鬼島君。よろしくね」
伊吹の自己紹介のおかげでクラスメイトの名前があらかた把握できたのはありがたいな。
みんなもそう思っているのか互いの能力について話し合っている。
普段あまり目にすることのない能力たちを目の前にするとテンション上がるな。
「【現】すごいね!」
サイドテールの女子生徒、湯浅が伊吹に感心する。
「でしょ?
じつはこの能力は正確に言うと、他人の能力の誘発じゃなくてさぁ。
姿を変えて現す、なんだよね」
「姿を変えて現す?」
「そう。
例えば今君たちは能力が誘発されたでしょ?
これは僕がみんなを、能力を使ってない姿から、能力を使った姿に変えたってことなんだよね」
「なるほど」
能力を使った人にクラスメイトを変化させたわけか。
強そうだな。
「すごーい!」
湯浅が手をぱちぱちさせて感心している。
他のクラスメイト達たちも伊吹の方に集まり、伊吹を中心と人の輪が形成されていった。
そこからも各々の能力の概要や、まつわるエピソードを話し始め、伊吹を中心に教室が盛り上がる。
明らかにさっきよりも空気が柔らかい。
この朗らかな雰囲気に俺もニコニコになる。
「あなたはあっちに混ざらないの?」
俺と同じく、向こうの輪に入りに行っていない御影がそう声をかけてきた。
「俺の能力は目に見えないものだしな。
能力の見せあいっこをしてる今の雰囲気を崩したくない」
「そう、私と同じなのね」
「お前も目に見えない能力なのか」
「そうよ、【欲】っていう能力を持ってるわ。
欲しいものが手に入るっていう能力よ」
「そりゃあまた凄い能力だな」
「でも、この能力使い勝手が悪いのよね。
そもそも生物や概念には使えないし、視界内のものしか取ってこれない」
「思ったより厳しい制限だな」
「そうなのよね」
制限がちゃんと厳しくて良くて安心した。
もし厳しくなければ正直危なすぎる。
死ねと願うだけでその人が死ぬのならこの世は終わりだからな。
「あれ、そういえばお前も能力が発動しなかったんだな」
御影の取ってきたものが見当たらない。
「それはそうよ。
だって何も願ってないもの。
【現】を使われて能力が発動されても、何も願っていなれば取り寄せる対象がないもの」
要するに、何も願ってなかったから【欲】の空打ちした。ということか。
俺と同じだな。
「あ!」
思い出したかのように話し始める御影。
「でも私が欲しかったものは手に入ったわ」
「欲しかったもの?何も取ってないんじゃなかったのか?」
「私、話し相手が欲しかったの」
「ふふっ、、、あはははは」
良いジョークだ。
「それはよかったな」
事前情報として【欲】は人に対して効果は発揮しない。
だけど自分がもともと欲しいと思っていた話し相手は、【欲を話題として使うことでで手に入れた。
彼女は「【欲】が生物に対して作用した様に見えない?」とでも言ってるんだろ。
「ふふっ、そんなに面白かった?」
「ああ!
まさか言葉遊びができる人と会えるなんてな」
ジョークはあえて直接言わないからこそ面白い。
こういった思考が伝わり合う感覚がミソだからね。
今再確認できたが、確かにここは生徒同士でしのぎを削り合う学校。
これから騙し騙されることなんて普通なはず。
ということは面白い人に会えるわけか。
これからの学園生活が楽しみだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
見ていただいただけでも十分うれしいです!
第2話はすでに公開済みです。ぜひ見に来てください。
第2話から戦闘がついに始まるので、楽しんでもらえると思います。
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