たまごを買いに
※『第5回なろうラジオ大賞』参加作品です。
今日のゆんちゃんは、ママと近所のスーパーでお買い物。珍しく、かずや兄ちゃんもいっしょです。
──最近なぜか、かずや兄ちゃんはママとのお買い物に行きたがらないんだけど、今日のママは気迫がちがいました。
「ダメよ! 特売で『玉子1パック158円、おひとり様1パック限り』なのよ。3人で行ったら3パックも買えるじゃない!」
こういう時のママにはさからえません。なので、かずや兄ちゃんも文句を言いながらついてきたのです。
スーパーについたら、まっ先にたまご売り場へ。
ちょうどお店のひとが、たまごパックがいっぱいのったコンテナを重そうに押してきました。まわりの人たちがわっとあつまって、店員さんが手をはなすのを今か今かと待っています。
その時ゆんちゃんは、その中によく知っている人を見つけました。あれはおとなりの──。
「あ、あんなちゃんママだ! こんにちは!」
ゆんちゃんが元気にごあいさつすると、あんなちゃんママが何だかびっくりしたようにこっちを向きました。
「あ、ああ、ゆんちゃん、こんにちは」
「──奥さん、どうもー」
ママもゆんちゃんの横でごあいさつします。すっごく笑顔なんだけど──何だかちょっとこわいのは気のせいかな?
「あら、今日はいい玉子が出てますわね」
そう言ってママが手に取ったのは、なぜか特売のじゃなくて、となりに並べられた茶色のお高いたまごパック1個だけです。
あれ、ママ、買うのはそっちじゃないよ。
ゆんちゃんが教えてあげようとしたら、うしろからかずや兄ちゃんがゆんちゃんの服をひっぱってきました。小さく首を横にふって『何も言うな』という顔つきです。
「まあ、本当ね」
あんなちゃんママも同じたまごを取ってかごに入れます。
『それじゃ、失礼しますね』
ママたちはていねいにあいさつすると、くるりとせなかを向けて、早足で別々の売り場に行ってしまいました。
──ふたりのすがたが見えなくなったので、ゆんちゃんはかずや兄ちゃんに聞いてみました。
「ね、何でママは特売のたまごを取らなかったの?」
かずや兄ちゃんが、ため息をつきました。
「あのなあ、ああいう時は気づかないふりをしないとダメなんだよ。
誰だって、特売目当てでセコいことしてるなんて、知られたくないんだからさ。
あれはたぶん、二人ともお互いに見られないように、あとでこっそり安いのと取り替えて買って帰るんじゃないかな」
「ふうん。──おとなって、何だかいろいろめんどくさいんだね」