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第92話【覚悟】

「用があるのは私の娘だけですよ」


 フィッチの言葉で皆の視線がリッチへと集まるが、ガービィだけは目を逸らさなかった。


「なら何でそいつと一緒なんだ?」


 ガービィは言葉通りに受け取らず、疑いながらダダ様を指した。


「彼が局にハッキングをしましてね。二分足らずでめちゃくちゃにされました」


「何故逮捕してねぇ!?」


「彼は証拠を残さないので逮捕はできずにここへ。娘の位置情報もここへ向かっていましたし、彼もこのうみねこ屋が好きだと言うので。それにあなたより旧知の仲ですので昔話でも、と。ねぇ、ダリル」


 フィッチがダダ様の事をダリルと呼んだ。

 皆は不思議そうな顔をしていたが、当のダダ様はその名前を呼ばれても否定をせずに視線を下へ落としている。


 マリンはどういう事なのかダダ様へ問い詰めようとしたが、ガービィが首を振って止めるとおとなしくこれに従った。


「リッチ、今すぐ帰りなさい」


「パパ……」


 リッチがマリンたちとフィッチを交互に見た。止めて欲しいのだろうか、それとも迷っているのか。


「リッチ、何でもお父さんの言う事を聞くの?」


 マリンの言葉を聞いても、リッチは動けずにいた。

 マサムネがパンチへ言ったように、リッチは父を愛している。

 何不自由なく育てられ、今まで父の言う事を聞いていれば間違いはなかったからだ。


「さぁ、リッチ──」


「フィッチ、子どもに選択肢くらいやれよ」


「ガービィさん、子どもは間違うものです。我々大人が経験した失敗をわざわざさせる必要はないでしょう」


「へっ、そうやって守りきれない場面が来たらどうする?恋愛なんかの失敗は自分でやらねぇとわからねぇだろ。他の事でもそうだ」


「極論ですね、この場の話をしてるんです。火は熱いと大人が教えなければどうするのです?子どもの判断力に任せるのですか?」


 突然フィッチはガービィに背を向けて歩きだした。


「どこに行く!?」


「喧嘩腰の人と話しても不毛です。大体あなたのチームにはホールに向かうように指示を出したはずですが?」


「どこへ行くかは俺が決める!」


「私もです」


 フィッチはもはやガービィを見る事もなく、警護がいるドローンへと歩いて向かっている。


「こ……の……っ!!」


 またガービィの悪い癖だ。

 頭に血が上ると後先を考えなくなってしまう。


「ガービィ!」


 暴れようとするガービィをエイリアスが抱きついて止めた次の瞬間──。


 《──非常事態宣言です。アイランドシティに大量のモンスターが迫っています。付近の安全を確保し、避難を──》


 皆の携帯しているガンへと一斉に避難命令が流れ出した。


 マリンやパンチたちは焦っていたが、フィッチは至って冷静だった。


「エイリアスさん、そのままガービィさんと周囲のモンスター殲滅に向かって下さい」


「待て!何勝手に──」


 ガービィはエイリアスを振り切り、フィッチの肩をつかみ無理矢理こちらに向かせたが、サリーからその腕をつかまれて仕方なく怒りを収めた。


「フィッチさん、夫の事は恨んでません。あの人が選んだ事ですから」


「サリーさん……」


 最初は穏やかに話していたサリーだったが、次第に怒気を孕んだ口調へと変わった。


「──ですが、今度はヒーローまで……。これ以上政府が私と家族を引き裂くのなら……」


 明らかにサリーが纏う空気が変わる。

 フィッチを睨み、つかんだ腕がメキメキと潰れていくような音を立てていた。


「──っ!いで!いでででで!!サリー!──サリーッ!!俺の腕だ!」


「あ……えへっ」


「……それで許してもらえるのはライゼさんだけだと思え。なんてパワーしてんだ……」


 ミニコントを見終えたフィッチは呆れていた。


「エイリアスさん、二人を現場までお願いします」


「任せて、って言う自信はないけど……」


「それと遅れましたが、ナンバー7おめでとうございます」


 ガービィとチームを組んだのはサリーだけではなかった。

 エイリアスはガービィと共にいる事を決意し、今やアリーナのオーナーとHERO(ヒーロー)という二足の草鞋を履いている。

 エイリアスのHERO(ヒーロー)カードはギースの次に売れ行きが良く、ガービィは少し嫉妬していた。


「それを今言う?あなたも変わり者ね」


「も?」


「私の周りは変人だらけよ」


 フィッチはエイリアスの手振りを見てサリーとガービィに目をやる。


「納得しました」


 その後、リッチはフィッチに説得されるも従わなかった。

 初めての事にフィッチが戸惑っていると、ガービィが「自分で経験したいとよ」と言い放った。

 フィッチはガービィの勝ち誇ったようなドヤ顔にカチンときたが、その言葉が妙に心に残っていた。


 ガービィたちがセドたちにアリーナへ避難するように促していると、フィッチを乗せたドローンが静かに飛び立って行く。


 フィッチが遠くなって行くサリーを見下ろしながら呟いた。


「息子の為なら世界を敵に回す、か。素晴らしい覚悟だ。しかしそれは私も同じですよ……」

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