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第80話【ゾゾ・エストレマ】

  ヒーローの声に反応したギースとダダ様は、急いでモニター見た。


「No.3、サンディス……」


 ギースは不可解な顔をした。

 今やNo.3になったサンディスがなぜファースト部隊を引き連れ、上のボロ倉庫にいるのか。

 能力で扉の鍵を爆破し、外観からは想像もできないくらい豪華なダダ様の部屋を捜索している。


(いったい何故?)


「僕の部屋が……!」


 このギースの言葉にダダ様は耳を疑った。

 あげるとは言ったが、さっきの今でもう自分の部屋として認識している。

 ダダ様とヒーローは冷ややかな視線を送り、無視する事にした。


「何でナンバーと部隊が!?」


 ヒーローのこの疑問は当然だろう。

 なぜここを捜索しているのか見当もつかないはずだ。


「ヒ、ヒーロー。これを──」


 ダダ様はデスク下の金庫を開け、ネックレスを取り出してヒーローへ手渡した。


「カメオのネックレス?ダダ様これ……」


 ヒーローは困惑した表情を浮かべた。

 なぜなら、この見事な馬の彫刻には見覚えがあった。

 ダダ様がマザーから受け取った物だ。


「貰えないよ!これはダダ様にとって大切な──」


 まだ16歳のヒーローにだってわかる。

 記憶で見た、ダダ様にとって大切なネックレス。

 それでもダダ様は半ば強引にヒーローの首へネックレスをかけた。


「い、いいんだ。こ、これがマザーへと導いてくれる」


「ダダ様……」


「ギ、ギース」


「聞いている」


 ギースはダダ様に背を向け、モニターを見ている。


「せ、背を向けてくれて嬉しいよ」


「──ダダ様の弟に対する態度を信用しただけだ。急ぐんだろ?」


 嬉しそうなダダ様の態度は、捜索されている事を完全に忘れているようだった。

 不思議な男だ、だが敵ではない。

 ギースはそう思っていた。


「そ、そうだった。ボディに装着してるHERO(ヒーロー)カメラをイジるよ?」


 ダダ様はHERO(ヒーロー)カメラを触って目を閉じ、能力を使っている。


「これか……」


 ギースは合点がいった。


 ガービィさんが移動許可を取ってくれたにしても、こんな詳細な場所、しかもダダ様の部屋にファースト部隊を派遣するなど政府にとっても容易ではないはず。


(──だとするならば)


「そ、そう。辿られたんだ。ギ、ギースは悪くない」


(GPSのようなものか!?なぜ政府が僕の捜索に……いや──)


「ダダ様への捜索か?」


「そ、そうだ、よし終わった!い、色々気になるだろうけど時間がない」


 捜索の様子を見てもサンディス達がここへ来るのは時間の問題だ。

 念入りに、執拗に捜索している。


「なぜ政府が!?」


「ギース、いいか。政府を信用するな。でもNo.1は続けるんだ。今HERO(ヒーロー)カメラの位置はギースの部屋に書き換えた。あのエレベーターをギースの部屋にあるタンスへ繋がるようにした。サンディスはじきにギースの部屋に。俺たちは施設ごとアイランドシティへと引っ越すよ。あそこが気に入った。そういえばシティの3号線沿いにあったクレープ屋さんはどんな──」


 ダダ様は早口で喋り続けた。

 ギースがモニターを見ると今にも地下の扉へ手をかけそうなサンディスの姿が──。


「わかった!ダダ様!ダダ様!次の指示は!?」


 クレープ屋どころではないとギースは必死にダダ様の肩を揺すった。


「ギースは部屋に戻って。サンディス達が来たら普通に対応するんだ。地下は元々GPSは勿論あらゆる捜査からも隠れられるようにしてある。だから奴らはずっと上を捜索してるんだ。上……バナナのトッピングなんだけど上に──」


「ダダ様!データは問題なくても物理的にバレてしまうぞ!もう時間がない!ヒーロー、頼んだぞ!」


「わかったけどどうしたら!?」


 ギースも突然の状況に混乱して、エレベーターに走って行った。

 ダダ様はクレープのトッピングについてまだ話している。


「──はやっぱり王道でチョコソースを」


「ダダ様!」


 ヒーローはギースがしたのと同じように肩を揺すった。


「あ、もう大丈夫だよ。ほら、本当に奴らはデータしか見ない。政府に介入して痕跡も残さないなんてできるのは俺ぐらいだ」


 その言葉通り、誰かに指示を受けたのかサンディス達がダダ様の部屋から出て行った。

 おそらくギースの部屋へ行くのだろう。


「ほらね、言った通り。おそらくマザーと俺が繋がってるとの会話を聞いてたんだ。だから捜索しに来た。あそこのクレープ屋は何て言うの?通りがかった時にミルクの良い匂いがしてさ、ここはアイスも美味いんだろうなって──」


「うみねこ屋って名前だよ!アイスも美味い!もう大丈夫ならちょっと落ち着いてよダダ様!」


「あ、ああ……ごめんね。ごめんねヒーロー?」


HERO(ヒーロー)カメラはずっと盗聴されてるの?」


「それはない。遠隔でやるとカメラのバッテリーが持たないからすぐにバレるからね。元々HERO(ヒーロー)活動中の記録は政府側にあるから常に追っているわけじゃないよ。【マザー】って単語に反応する単純な仕組みでその時はプライベートだろうが──」


 またダダ様が止まらなくなってしまった。


 ヒーローがどうしたものかと考えていると、部屋の自動ドアが開いてゾゾがリリお婆さんから付き添われながら入室して来た。

 体力がないのだろう。

 少しおぼつかない足取りでヒーローへ近づいて来る。


「ゾゾ!大丈夫なのか?まだ寝て──」


「兄さん、ご飯は食べたかい?」


「あ!今日はサニーサイドアップになってるかな?昨日は何で黄身が──」


 ダダ様がまだ喋っている最中にゾゾが少し微笑みながらヒーローを見た。


 優しい視線だ。ヒーローは思わず頭を下げた。


「兄さん、後は説明するよ。能力での移動は政府に感付かれる。ご飯を食べて、ライゼさんの高速ドローンを整備して来てくれないか?」


「そうだね!さすがゾゾだ!でも俺だけご飯食べ──」


「今日はサニーサイドアップとミルクもあるよ。急がないと冷めてしまう。温めなおしは嫌いだろう?」


 ゾゾがニッコリと微笑んでそう言うと、ダダ様は満面の笑みになり、急いで部屋を出た。


 なるほど、ダダ様が喋り続けた場合は途中で話を振ると考えがそっちに行くから止まるのか。

 至極簡単だ。

 さすがに兄弟だけあって慣れているな、とヒーローは感心していた。


「さて……」


 ゾゾはリリお婆さんに肩を借り、ゆっくりと椅子に座った。

 二人は仲睦まじく、リリお婆さんは右手でゾゾの左手を握り、肩に頭を預けて寄り添っている。


「素敵な夫婦ですね」


 ヒーローは思った事を素直に言った。

 ゾゾとリリお婆さんはお互いに目を合わせて大笑いをしている。


「アッハッハッハ……。すまない、ゾゾだ」


 ゾゾが握手を求めると、ヒーローもそれに応えた。


「ヒーローです。何か可笑しかったですか!?」


「いや、すまない。妙に大人びた事を言うから可笑しくてね。ライゼさんは立派な子育てをしたんだね」


「そう……ですね」


「敬語をやめてくれないか?よければだが」


「お爺ちゃんとお婆ちゃんだと思って、ね!?」


(リリお婆ちゃん、か。くすぐったいな)


「うん……。お爺ちゃんもお婆ちゃんも知らないから接し方がわからないんだ」


 ゾゾはヒーローの右手を取り、両手で優しく包んだ。

 優しい眼差しに、ダダ様と違って大柄でどこか威厳がある。


「それが知りたい事じゃないのかね?ヒーロー、君はお父さんとお母さんの事を知る必要がある」


「そういえば父さんがどう育って、何でHERO(ヒーロー)になったのか、俺は何も知らない」


「それを知る為の手伝いをするよ」


(この瞳だ。自分に向ける慈愛に満ちたこの瞳を、俺は知ってる。

 父さん、母さん、ガービィ、ギースさん……。

 この人は嘘をつかない気がする)


 世界一の企業、プラネットのトップ、ゾゾ・エストレマ。


「ゾゾさんがずっとプラネットの社長なの?」


「そう、ずっと私だ。兄さんが世代交代をしたように見せかけてくれてね」


「そっか……」


「兄さんの記憶を見たのかい?」


「うん」


 ゾゾはそれを聞くと、ポツリ、ポツリと語りだした。


「マザーは──




 ──私の会社が生み出した」




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