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第74話【前進】

(何故ダダ様が父さんの名を?)


 動揺を隠せないヒーローに対して、ヴェローチェはできるだけ思い出して当時の状況を伝えた。


「かなり怯えた様子で『ライゼさんだ……俺は終わりだ……』と言って逃げるように帰って行ったんだ」


「父さんと何か繋がりが……?」


「そこまではわからない。……大丈夫かい?」


「大丈夫…じゃないかも。ダダ様の行き先は?」


 ヴェローチェはガンを取り出し、地図を一緒に見ながら説明を始めた。


「──ここだ。寮にいない時は何故かこの汚い倉庫のような場所にいる。こんな人が住めないような場所で何をしているのかはわからないが、詳しい場所は後でガンに送っておくよ」


「ありがとう」


(ダダ様は何かを知っている。きっと俺の知らない父さんを……!)


 張り詰めた空気、思い詰めた顔。

 切り裂かれそうなほどのピリピリとした緊張感。

 ヴェローチェは礼を言って立ち去るヒーローに声をかけられず、そのまま見送った。




 数時間後、ようやく観客たちも関係者も全員いなくなり、ギースはガービィと会う為にオーナールームへと向かっていた。

 やっと邪魔が入らず二人で話せると意気込み、歩を進めていると、闘技場から聞こえる不可解な音に足を止めた。


(戦闘の音?大会は終わっているのに……?)


 とてつもない風切り音と轟音が闘技場から響いている。


(範囲が防護壁まで!?それにこの音…僕に出せるか……?)


 ギースは自分の中に芽生えたくだらないプライドを、思いきり首を振って断ち切った。


(今はそんな場合じゃない!現状確認が先だ!)


 すぐ感情的になってしまうギースを止めてくれるのは、研修の時に言われたライゼの言葉だ。

 あれ以来激情に駆られる度、冷静に努めてきた。

 元来クールな顔とは真逆の性格故に、自分を抑える事を最優先にしてきたのだ。


 ギースは防護壁を避けて7番ゲートの階段を駆け下りた。


「ああ……」


 アリーナ中央まで近づくと、見覚えのある技が目の前に。


 自分と同じ技──。


 同じ能力でここまでのパワーは一人しかいない。


「先生……」


 闘技場ではガービィとヴィゴが戦っていたが、すぐに二人ともがギースに気付いて観客席に目をやった。

 恐らく全力であろうバトルを一瞬でピタと止め、ギースのいる観客席へ向かう。


「ダンナ、二人で話せよ。もうクタクタだ、シャワーでも浴びて来るぜ」


 ヴィゴはそう言うとスーツをバトルモードから普段着に切り替え、返事を待たずにゲートをくぐって行ってしまった。

 ギースとは三年前からろくに話せていない。

 ガービィとしては気まずいので、ヴィゴにいてほしかったのだが、気を利かせたのだろう。


「先生」


「ギース、連絡もらったのにすまねぇな。つい夢中になっちまって」


「……何故腑抜けたふりをしていたんです?」


「ふりをしてたわけじゃねぇ。ギースにそう見えたんならそうなんだろう……」


「何故…何故……」


 ギースは下を向いてやりきれない顔をしていた。

 聞きたい事は山ほどある。だが一番聞きたい事は──。


「何故教師を辞めたんですか!?」


「……俺はあの人の隣にいたかった。最後に言われたんだ。みんなを頼む、と」


「それなら尚更!ヒーローも高等部に進学し、能力だって発現しました!今のあの子には大きすぎる力です!今こそあなたがいなければ──」


「守る為だ」


「っ!?」


「ギースならヒーローを上手く導いてやれる。そう信じてる」


「それと先生がいなくなった事となんの関係が!?」


「俺はあの時負けちまった。ラビッツフットを使ってればいい勝負にはなったろうがそれまでだ。この先あんなのが二体、三体、いやあの時のような大群で来られたら皆んなを守れない」


 ガービィは観客席に勢いよく腰掛けて話を続けた。


「だから力が必要だった。教師を続けながらトレーニングをしてはいられない。何よりいつ襲ってくるのかわからねぇ。だからギースに託しちまった……」


「ならそれをそのまま僕に言ってくれてもよかったんじゃないですか……?」


「ああ……あれ?」


「……え?」


「本当だな。何でギースに説明しなかったんだか」


「え?」


「ガッハッハ!!言われてみりゃそうだな!許せ!」


「えぇ……?」


「あの時はお互い忙しかったしな、落ち込んでたからじゃねぇか?」


「しれっとお互いのせいにしようとしてません?」


「そんな事はねぇ!6:4で俺が悪いんだ!」


「僕が4割はおかしくないです……?ていうかゼロです、ゼロ!」


「ガッハハハハハハハ!」


 二人は冗談を言い合えるのに三年もかかってしまった。

 それほどまでに三年前の悲劇は二人に暗い影を落とす出来事だった。

 冗談を言い終わると、ガービィは深刻そうに口を開いた。




「ヒーローについてだが、もう学園に通うのは無理なんじゃないか?」


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