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第67話【激励】

 見渡す限りの人、人、人。


 アリーナ外周通路には様々な店が出店し、まるでお祭り騒ぎ。

 ガイザビィズVSヴィゴの時もこんな感じだったな、とヒーローは少し懐かしくなった。


 決勝は昼過ぎに行われる。


 皆は控え室の上階にある5番ゲート付近で時間を潰していた。


「買ってきたぜ!マリンちゃん!」


 パンチがいい所を見せようと率先して長い列に並び、マリンの為にチキンやポテトを買って来た。


「ありがとう!パンチは何か買う?次はワタシが並ぶよ!」


「いやぁ、俺はビュッフェで腹いっぱい食べちゃって。ヒーローは?」


「小腹はすいたけど、この列じゃあな……」


 ヒーローはそう言って長い列と、通路の人混みを見渡している。

 人混みは苦手だったが、ヒーローは良い心持ちだった。

 通る人は皆楽しげで、その高揚感、眼差しは、小さい時にバトルアリーナを見ていた自分を思い出させた。

 5番ゲート前でマサムネがある出店を見ながら、ヒーローの肩に手をかけてそちらに向けた。


「ヒーロー、あれ……」


「んっ!?ウソだろ?」


 セドがカレーの列に並んでいた。


「セド!さっきカレー食べただろう!?」


「フンッ、あれを見ろ」


 並んでいる出店には、【アリーナ限定!カツライゼカレー!】と宣伝文句の書かれたのぼり旗が見える。


「これを食べて勝つんだ」


 セドもずいぶんと浮かれている。

 いよいよ夢の第一歩。

 それもあるだろうが、何よりこの空気感が楽しかった。


「あのなぁ……」


 ヒーローは呆れて、列から少し離れた所でマリンたちとセドを待った。


「あとちょっとで決勝戦前のイベントらしいよ!」


 マサムネが楽しそうにヒーローへ伝えると、パンチもすぐにイベントへ行きたがった。


「まだまだ時間あるし、行くよな?ヒーロー!」


「ああ、皆んなで見よう」


 マリンがカレーの列に並ぶセドを見ながら「セドはワタシたちといて、楽しいのかなぁ……」と呟いた。


 セドに関しては皆が気にしていた事だった。


 四人はいつも一緒だったが、セドはそうではない。

 自分達だけの会話にならないよう、気をつけていた。

 皆は知っている。

 いつも悪態をついているセドだが、人付き合いが下手で、不器用なだけなんだと。


「なるようにしかならん!あいつも悪い奴じゃないし!ギャッハッハ!」


「なるように……ね。パンチってたまに確信つくよねー」


「マリンちゃん…たまにって……」


「パンチは直情型だからね。こんな時は一番向いてるよ。セドにもガンガン行くし」


「マサムネまで……」


「パンチのいい所だよな。立派な長所だ」


「ヒーロー!!」


 ヒーローの言葉に反応してパンチの顔が明るくなり──


「いや、短所でもあるのか……?」


「ヒーロー……」


 すぐに暗い顔へ変わった。




「待たせたな」


「めちゃくちゃ待った」


 セドが戻って来るなり、ヒーローはわざわざ言わなくてもよい台詞を言った。


 セドも「フンッ」と言って顔を背ける。

 いつもの二人の習慣である。


「ちょっとヒーロー!」


 さっきの話は何だったのかと、マリンがヒーローを叱る。

 パンチはイベントが待ちきれず、セドを急かした。


「セド!早く行こうぜ!イベントだって!」


「何のだ?」


「さぁ?ショーか何かじゃねぇか?」


「ただの余興か」


「そんなんいいから早く行くぞ!」


「お、おい、こぼれ──」


 パンチは強引にセドを引っ張り、カレーが人混みに当たらないよう気をつけながら、ゲートから観客席を目指す。

 他の三人も笑いながらそれについて行った。

 ゲートを走ってくぐり抜け、五人がアリーナの観客席に出た途端、急にアリーナが暗くなり──


『ワァアアアアアアアアアアアアッッ!!!』


 と大歓声が巻き起こる。


「な、なんだ!?真っ暗だぞ!?」


 パンチが状況を把握しようと、暗がりを見渡した。

 一気にアリーナ中央に照明が点灯、音楽と共に花火が上がり──



挿絵(By みてみん)



 ヒーローも、


「す…ご……」


 セドも、


「こんなに広かったのか」


 パンチも、


「すげぇぜ、こりゃあよ!!」


 マサムネも、


「上からの方が迫力あるんだね……」


 マリンも、


「こんな風に見えるんだ!?」


 ただただ圧倒された。


 観客たちの熱に、アリーナの広さに、そしてこの熱の中心で自分たちが戦っていた事実に。

 決勝戦前でこの人混みだ。

 始まる頃にはどうなっているのか想像もつかない。

 マリンは現実味がないような口ぶりで皆に向かって言った。


「あそこで戦ってたんだね……」


 パンチも同じように感じた。


「いつもは必死だったからな!すげぇ……」



『ワァアアアアアアアアアアアア!!』と歓声が巻き起こるなか、アリーナの人気選手たちが催しを始めた。

 盛り上がり方が尋常ではない。


「あれ、本物の花火か!?」


 パンチは、花火を指差して興奮している。


「よく見てよパンチ、映像だよ!でも凄いね!」


 本物のように浮かぶ花火を見て、マサムネも説明しながら興奮している。

 今日のオッズが表示される度に観客は熱狂し、賭けに興じている。

 そしてまた急な暗転。


「な、なんだよ!?また真っ暗だぞ!?」


 パンチがまたまた状況を把握しようと暗がりを見渡すが、すぐにアリーナ中央へスポットライトが照らされ、せり上がり装置からヴィゴが飛び出してくる。


 ここ最近のヴィゴはアニメ化もされ、チャンピオン最長防衛記録も達成し、子どもから大人まで、凄まじい人気を誇っていた。


 たったの一言。


 《待たせたな!》


 これだけでアリーナ中が沸いた。

 ヒーローはヴィゴを誇らしく思い、遠い存在に感じて少し寂しくもあった。

 ヴィゴが観客席に近づく度に、雲霞(うんか)の如く人が群がっている。

 一度ひとたび口を開けば歓声で隣の声も聞こえないほどの熱狂ぶり。


 《今日は決勝戦だ。皆んな楽しんでくれよ!それと──》


 ヒーローはヴィゴと目が合った気がした。


 《ヒーロー》


 名前を呼ばれた。明らかに見ている。


 《ヒーローってのは、HERO(ヒーロー)じゃなくてだな、つまりこの場合のヒーローは……ああ!面倒くせぇ!》


 ヴィゴは名前のヒーローと職業HERO(ヒーロー)のややこしさに、頭を掻いている。

 そして目を閉じると少し間を置いて微笑んだ。


『なんなんだよ!?』


 客から野次が飛ぶと、ヴィゴはわざわざ反応してみせた。


 《まぁ、わかんないよな。そりゃそうだ。よし》


 ヴィゴはライゼの名前を出していいものか迷っていた。

 ヒーローのみならず、ライゼの名前を出せば人々は三年前のナイトによる学園襲撃事件を嫌でも思い出す。

 しかし野次のおかげで、自身の柄ではないと思い直し、ヴィゴは吹っ切れたようだった。


 《ライゼさんだ》


 シ……ン……


 とアリーナが一気に静まる。さっきまでの喧騒が嘘のようだ。

 マリンたちはヒーローに視線を寄せ、いつものように気を揉んでいる。


 《俺様も尊敬する、ライゼさんの息子がよ……。ここにいる》


 会場が少しだけざわめく。

 ヒーローの目の前でライゼがいなくなってしまった。

 世界中が固唾を飲んで映像を見ていたので事情は当然ながら観客全員が知っている。


 リザーバーとしてヒーローがいる事を既に知っている者。

 ヴィゴの言葉で初めて知った者。

 ライゼの息子がもうそんなに大きくなったのかと驚いている者。


 皆が見せた反応は様々だった。


 《決勝に出るんだってよ。本当は俺様の立場で言うべき言葉じゃないんだろうが──》


 再びヴィゴはヒーローと目を合わす。


 《頑張れ、ヒーロー》


 観客たちはヴィゴの視線を追い、一部がヒーローに気づく。

 やがてアリーナ中に伝播し、大声援が巻き起こった。


 頬に声援の振動を感じる。

 この激励により、ヒーローの中で燻っていたものに火が点いた。

 ヒーローが足早に控え室に向かうと、マリンたちも後を追う。


 セドはヒーローの表情を見て、「フッ」と笑った。



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