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第51話【13才】

 ━━ 情報局 ━━


『妨害から復旧!!』


『今の短い時間だけでも医療、物流への影響が広がってます!』


『ただちに世界中の医療機関への対応を!』


『救急への通信は全て現場が手作業で返答! 犯罪への対応も忘れるな! ギルドへ通報があったものは確認の必要なし! 全て向かわせろ!!』


 情報局は全ての連絡機器が使えなかった弊害をカバーすべく、全力を尽くしていた。




 ━━ 大手メディア ━━


『緊急特番だ! 現地にありったけドローン飛ばせ! HERO(ヒーロー)カメラの権利もだ!!』


『しかし、政府から各地区の市民への呼び掛けをしろとの通達が──』


『ワイプで同時にやれ!』


『うちが絶対にライゼのボディカメラを確保しろ!』


『はい!!』




 ━━ ネット・SNS ━━


『世界終わるの?』


『何あいつ黒すぎ』


『俺は2015年から来た』


『もうちょっと近いカメラで撮れよな』


『ばあちゃんが救急車呼べなかったから拡散して』


HERO(ヒーロー)弱すぎ』


『だからライゼ捕まえたら色々弊害が出るって前から言ってたんだよ』


『ライゼを捕まえたのは失敗』


『お前ら手の平返しすぎて扇風機代わりになるな』


HERO(ヒーロー)カメラは?これが一番鮮明な映像?』


『マザーが本当は悪くないってのは有名な都市伝説』


『初めて聞いたわ』


『ばあちゃんが救急呼べなかったから拡散して』


『拡散して何になるんだよ。情報もないしいいね欲しさに来るな。もう通信回復したろ、政府舐めんな』


『ちくわ大明神』


『ちょっとホール行ってくる』


『穏やかな死を迎えようとすんな』


『やっぱライゼかー』


『ちくわ?』


『ちくわ?』




 《ゴロッ…ゴロゴロ……》




『きた』


『きた!』


『来た』


『来た』


『きました』


『きた』


『遅い』


『行け!』


『行け!!』




 ━━ 学園 ━━


 ──響く雷鳴。


 大地を震わす落雷、街から聞こえてくる歓声と共に、ライゼが登場した。


 明らかな怒り。


「お、遅いっス」


 ガービィはライゼの怒りの顔に再び背筋が凍る。

 先程とは比べ物にならないくらいの恐怖。

 こんなに激怒したライゼは見た事がなかった。


「サリー、メカリはいるか?」


 静かな、怒りを携えた声でライゼが聞く。


「う、うん、演習場に学生たちと……」

 

「全員をそこへ避難してくれ」


「うん……気をつけて!」


 ライゼは無言で頷く。


「ギース」


「はい!」


「ガービィを頼む」


「はい!!」


 ギースに背負われたガービィが必死に暴れだす。


「駄目だ!ライゼさんの隣で戦うのは俺だ!俺なんだ!!」


「ガービィ、"みんな"を頼む」


「──っ!!」


 この会話を最後に、皆は演習場に避難して行った。


 様子を伺っていたかのように、敵がゆっくりと喋りだす。


「待って…あげたゾ。旧人類の希望も、ここで終わル。長い…永い時を待った……。ここ…まで知能を上げるのに、充分な時間だッタ。──終わりダ」


「ナイト……。いるのか……?考えは変わらないのか?」


「質問の…意味がわからなイ。これ…以上の質疑応答は無意味ダ」




雷帝ライテイ……」


 怒りながらも、どこか悲しげなライゼがそっと呟き、雷へと変化する。


 空気を切り裂くような雷の音。

 それがまるで開戦の合図であるかのように、敵の群れが一斉に攻撃を開始。

 が、ライゼは当たり前のように無傷。


 それどころかパワーを上げた雷帝は凄まじく、敵は自らの攻撃でライゼを通り抜ける度、次々と倒れて行く。


 ライゼは飛び上がり、はるか上空で右手を振り上げた。


雷の雨矢(サンダーアロー)!!」


 ライゼが普段メディアなどには見せたことのない技。

 使わなかったのではない、強すぎて使う機会がなかっただけだ。


 凄まじい光景だった。

 ライゼが手を振り下ろすと同時に、轟く雷鳴、稲光がまるで雨の様に敵へと降り注いでいる。

 映画や神話のような一幕に、見ている人々は現実感がなかった。


 そう、まるでそれは"神"を目にしたような──。




 演習場では皆がガンに映る映像を食い入るように見つめていた。


 《凄まじい攻撃です!ご覧頂けたでしょうか!!やはり最強のHERO(ヒーロー)!これがライゼの技なのか!?まるで──》


 映像が学園一帯に切り替わると、敵は全滅していた。

 ライゼの技は正確に敵を貫いていたのだ。


『すごい!』『勝ったぞぉ!!』『見たか今の!?』


 《こちらSHTVのみがお届けできる、ライゼのHERO(ヒーロー)カメラ映像です。やはりHERO(ヒーロー)スーツからの映像は迫力が──》


「ヒーローのパパは本当にすげぇな!一瞬じゃん!!」


 パンチがヒーローの肩を叩いてそう言うと、ヒーローは不安そうな声で返事をした。


「う、うん……」


 問題は喋る個体だ。


 《今、煙が……あ!!見てください!!喋っていた個体が真っ二つです!!》


『『ワァアアアアアアアアアアアッッ!!』』


 ライゼのボディカメラ映像が映ると、演習場全体から歓声が沸いた。

 ナイトは上半身と下半身が真っ二つになり、今にも機能を停止しそうだった。


 《我々の、勝利ダ……。あれを見ロ……》


 メディアはナイトの指した上空を映す。すると街の上空には禍々しいパワーの塊が球体となって浮かんでいた。


 《約400年…溜めたパワー…ダ。地球を…十回破壊しても有り余るパワー……。あれを…起動する時間さえあればよかったのダ》


 《あれを…吹き飛ばすくらい簡単だろウ、ライゼ》


 《……っ!!》


 《ここで…あれを起動した時点で我々の勝利だっタ。息子が…いては吹き飛ばせないだろウ。相殺…すれば人類の希望、ライゼは…原子レベルでバラバラになル。ライゼ…が動かなければ、地球…は終わる》


 ライゼは黙って空を睨み、聞いている。


 《せっかくできた…この…体は惜しいが、時間さえあれば…マタ…作れる。ゆっくり…選ぶといイ。時間は…まだあル……。地球が滅ぶカ…人類が…ライゼを…失うカ………我…々…ナイトの…時…代……………》


 個体はヘビに変わり、迷う素振りもなくライゼが喋る。


 《安心するんだ。俺が止める》




 それを聞いた途端、ヒーローが外へ出ようと防護扉を殴りつけた。

そのあまりの轟音に避難した皆は驚き、耳を塞ぎ出す。


「や、やめるんだ、ヒーロー……。メカリは、俺を……俺を治せ……。ライゼさんの、隣に……」


 ガービィがそう言うと、ギースはメカリに首を振る。

治療をすればガービィは飛び出し、ライゼと運命を共にしてしまうだろう。止めるしかなかった。


「先生……我々では、もう」


 さらに大きく響き渡る轟音。ヒーローは殴るのを止めない。


「やめろヒーロー!!」


 セドが右腕を掴んで止めるが、ヒーローは構わず残った左手で扉を殴りつける。


「ヒーロー!血が!!」


 マリンが自分の両手を口に当て、ヒーローの血を見て心配そうに叫ぶが、その声は届いていない。


「ぐっ……!」


 セドは凄い力で突き飛ばされ、ヒーローはなおも殴る。


 《ふぅっ……。俺の息子は……ヒーローは能力がない。世界の人々に頼みたい。どうか温かい目で見てやってほしい》


 ライゼの言葉が聞こえ、さらに強く殴るヒーローだったが、マサムネとパンチに腕を掴まれてようやく止まる。


「やめてくれヒーロー!」「ヒーロー!!」


 《ガービィ、動くなよ。俺は大丈夫だ》


「だ…めだ……。ライゼさん……。オペ、オープンに……ライゼさんに……」


 ギースが遮る。


「ライゼさんは最初からインカムを装着してません……」


 《ガービィ、いい相棒だった。ありがとう》


 ガービィとの間に言葉は野暮だ。ライゼはそう考えた。


「──っ!!」


 ガービィは口を開け、音を立てずに泣いている。伝えたい言葉は山ほどあるというのに。


 《ギース》


「っ!!」


 《立派になった。本当に》


「く……う………」


 ギースは無力感と使命感でいっぱいだった。せめてできる事は、唇を噛みしめ、感情を殺し、冷静に皆を諭す事だけ。自分が皆を守らなければ。


 《エイリアス……。ガービィを頼む》


 無言で涙を流し、頷くエイリアス。


 《ヴィゴ……》


「……………」


 《……………》


「……………」


 《……………》


「何も出ないなら無理しなくていいぜ!?」


 こんな時でもいつものライゼだった。


「ったく、こんな時まで冗談なんてよ……」


 《サリー》


 自分の名前を聞いた途端、サリーは顔を覆って号泣した。


 《ずっと一緒にいたい。永遠に一緒に、なんて事は無理なんだろう。それはわかってる。でも一緒に過ごした時間、あの事実は……永遠に、誰にも変えられない》


「ぅう……嫌だ……。兄ちゃん、兄ちゃん……!」


 サリーは昔の呼び方でライゼを呼び、泣き叫んでいる。


 《一緒に過ごした時間の全てが愛しい。俺を形作る全てと言える》


 出口のない……暗闇にいた俺に、希望をくれた。


 サリー……。サリーは俺にとって暗夜の灯だ。


 《ありがとう》


「嫌だ……!兄ちゃんがいない世界なんて私は、私は……!」


「うわっ!」「ヒーロー!!」


 ヒーローは二人を振りほどき、無言で防護扉を殴り続ける。轟音だけが演習場に虚しく響く。


 《電視投影ヴィジョン


 この地域一帯のガンやモニターに、ライゼの記憶が映し出される。


 ヒーローが産まれ、育っていく過程。

家族で笑い、遊び、共に過ごした時間をライゼは愛しそうに見つめる。


 《ヒーロー、強くなれ》


 この言葉に、ヒーローはさらに力を込めて、踏み込んで扉を殴りつけた。とんでもない轟音と共に、扉が割れ、廊下に吹き飛んでいく。


「そんな、壁が……!」


 マサムネが驚いていると、ヒーローが扉の残骸を避けて飛び出した。


「俺が追う!!」


 セドがすぐにヒーローの後を追いかけて出て行く。


 トムは信じられないといった表情で目の前にある壊れた扉を触った。


「ありえない。防護扉を壊すには、いったいどれ程のパワーが。それを身体能力だけで……?」




 二人は学園の外へと走る。ライゼだけを目指して。


 ライゼはヒーローへ最後の言葉を残そうとしている。静かに、ゆっくりと、覚悟を決め、自分の人生を思い返していた。


 奪われたもの──


 得たもの──


 そして愛した者たち。


 《人生は辛い、お前から大切なものを奪う時もある》


 ライゼの脳裏に浮かぶのは、辛く、暗い記憶。


「は、速いっ…!!」


 セドが必死に追いつこうとするもヒーローとの差は縮まらない。


 《それでも──》


 ライゼはヒーローやサリー、ガービィたちと過ごした映像を見ながら続ける。


 《人生は尊い》


 そして俺にとって、愛しいものになった。


 願わくば、あの子が打ちのめされた時、立ち上がれるだけの勇気を……。


 雷鳴が激しく轟く。


 ライゼは雷帝のパワーをさらに上げた。


「パパッ!!」


 ヒーローは前方上空にパパの姿を確認すると叫んだ。

 ライゼがその声に反応し、ヒーローの方を見て動きが止まった。

 何故だか不思議そうな顔をして戸惑っているようにも見える。


 パパ……?……何?


 ヒーローも一瞬動きが止まり──


「待てっ!」


 追い付いたセドが後ろからヒーローを羽交い締めにして抑えつけた。


「セド!こんな時までお前は!!」


「やめろ!!」


「邪魔をしないでくれ!!」


「違う!オレは……お前を!!」


 《ヒーロー》


 ガンを通じてライゼの声が伝わると、ヒーローとセドは上空を見上げた。


 《ヒーローに繋げるぞ!!》

 

「っ!!」


 球体の膨張が加速する。


 ライゼは左手で小さな紙を取り出し、握りしめた。


 ──ああ


 俺はこの時の為に生まれたんだ──


 全ての時間は、この時の為に!ヒーロー、俺の全て……!!


 うなり声のような音を響かせて、さらに膨らむ球体。


 ライゼは親指を立て、ヒーローの方へ向ける。


 ライゼが作った家族のおまじない。


「あ……ああ!パパ!パパッ!!」


 それを確認したヒーローは泣いて取り乱す。パパとの色々な思い出が頭をよぎる。


 パパがいなくなる……?


 何で……。


 何でこんな事に──。


 涙でボヤけた視界。上空にいるパパを見ると、無情にも球体が体を包んでいく。


 《()()()()()()()とずっと一緒に──》


 パパがおまじないで出した左手に向かって、ヒーローも手を広げ腕を伸ばそうとする。


「っ!離して!離せぇええ゛え゛!!」


「お前まで死ぬ気かっ!」


挿絵(By みてみん)


 ヒーローが必死に上空へ腕を伸ばした瞬間、さっきまで響いていた雷鳴が一瞬にして静寂に変わる。

 ヒーローは指の隙間からパパが音もなく飛散していく様を見た。


 セドを必死に振りほどき、さっきまでパパが飛んでいた位置まで駆けつける。


 爆発の様に見えたが、無音だった──。

 爆発の円から、まるで意思を持っているかのように左腕が舞って落ちてくる。




 パパの左腕だけがヒーローを撫でる様に落ち、雷が空気を切り裂くような音を響かせ、消えていった。



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