第45話【青天の霹靂】
皆は酔い醒ましとばかりに夜の公園を歩いて解散する事にした。
アイランドシティ中央にある大きな公園は散歩には持ってこいの場所だ。
ヒーローの就寝時間も考え、20時には家を出た。
が、皆は散歩と言いつつ解散したくはなかった、というのが本音だろう。
誰も帰りを切り出さないまま、もう公園を2周もしている。
「アリーナも大盛況だし、この街はこれからもどんどん変わっていっちゃうんだね」
サリーが少し寂しそうに呟いた。ガービィは何か察して返答した。
「サリー、変化が寂しいのはわかるが、見ろ──」
顎で促した先には、ヒーローが公園を走り回って笑っている姿があった。
「──俺たちがここを第二の故郷にしようと決断したんだ。そして今、ここはまさにヒーローの故郷だ。いい街じゃないか」
「はい。知ってる街の姿がどんどん変わっていく事に、少し寂しくなっちゃって……」
「ガッハ、気持ちはわからなくも──」
ガービィは言葉を途中でやめ、顔が困惑に変わる。
視線は話してるサリーの後方に向けられていた。
不審に思ったサリーはすぐさま後方を確認した。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッと足並みを揃えてリズムよく歩を進め、こちらへ向かって来る部隊が見えた。
30人はいるだろうか。ファーストが部隊を組んでライゼを取り囲んだ。
「なんだテメェら!?ライゼさんに何の用だ!?」
「通して下さい!僕はNo.3です!!」
「パパ!!どうしたのママ?パパは何かしたの?」
ヒーローは心配そうにサリーに聞いた。
「わからない……でもパパならきっと大丈夫よ」
サリーは不安を隠してヒーローを安心させようと努めた。
大勢の中を割って、男が一人、高級そうな靴の音を響かせてライゼの方へ歩いて行く。
「フィッチ……」
ライゼは残念そうに名前を呟く。現れたのは情報局のトップであるフィッチだった。
「ライゼさん……」
フィッチも同じく残念そうに呟いた。
本来なら現場になど絶対に来ないが、今回だけは別だ。
自ら部隊を編成し、ライゼの元へやって来た。
「あなたを、逮捕します」
ライゼは黙っていた。心当たりは──
ある。
「マザーと会いましたね?」
「……ああ」
「あれだけ注意したのに──」
「すまないなフィッチ……。損な役回りを」
「あなたが能力を出せば、こんな人数に意味がない事はわかっています。大人しく連行されて頂けますか?」
会話の途中でいきなり轟音が響き渡り、驚いた二人が音のする後方へ目を向けると、ファーストの隊員たちが宙を舞っているではないか。
一撃でファースト約10人は吹き飛んだだろうか。ガービィが怒り狂っていた。
「ふざけんなテメェらぁ!ライゼさんを逮捕だと!?何考えてやがる!ライゼさんがどれだけ人類の為に尽くしてきたと思ってやがるんだ!!!」
暴れるガービィをエイリアスとギースがなんとか制止しようとする。
「先生!まずいですよ!落ち着いて!」
「そうよ!手は出しちゃダメ!」
ガービィは止まらない。
向かって来るファーストの部隊を次々と投げ飛ばして行く。
「がぁあああ!!ライゼさんがその気になりゃあな!この世界なんて好きに変えちまうパワーがあるんだぞ!?そんな事ぐらいわかってんだろフィッチ!!それでも、それでもライゼさんは俺たち、お前たちの為に──」
「やめろガービィ!!」
ライゼが怒鳴る。
顔は後ろを見ようと少し右を向いているが、ガービィからは表情が見えなかった。
「っ!?何でっスか!!ライゼさんも何で大人しくこいつらに──」
「俺が、一人では生きていないからだ」
「──!?」
「確かに俺は好きに生きられる。でもそれをした瞬間から俺はこの社会の一員ではなくなる。わかってくれ、ガービィ」
「わかんねぇ!!こればっかりはわかんねぇっスよ!!」
「お前たちが大切なんだ」
そう言いながら振り向くライゼは、あまりに悲痛な、悲哀に満ちた表情。
そこに最強の姿はなく、弱々しく、押せば粉々に割れてしまいそうな男の姿だけ。
この人には今すぐにでも助けが必要だ。
街ですれ違えば誰もがそう判断するであろう表情。
ライゼも感情を持った一人の人間であると思い知らされる一幕。
ガービィはそんな表情を見て尚更やりきれない。
「っ!!……だったら!!こんな茶番やめさせて、俺たちと一緒にいりゃいいんスよ!ライゼさんだってたまには自由に生きてもいいはずだ!!ずっと、ずっと他人の為に……」
「ガービィ、自由と勝手は違うんだ」
「──わかんねぇよクソォオオオオオオオオッッ!!」
──No.1とNo.2であるライゼ、ガービィ両名の逮捕は、世界を騒がせる翌日のトップニュースとなった。