第33話【ガービィの過去】
《決まったぁあああ!もうダメかと思われたその時!起死回生の一発!チャンピオンの勝利です!!》
あれだけ沸いていたアリーナが静まり返っている。
誰の目から見ても二人には実力差があり、決着には違和感しかなかったからだ。
《やはり!やはりヴィゴの勝利!チャンピオン防衛です!!》
ヴィゴが勝ち名乗りを挙げられるも──
──まばらな拍手。
ヴィゴ自身も戸惑いの表情を見せている。
「ガービィ!ガービィ!!」
ヒーローはずっとガービィを心配して叫んでいる。
防護壁が収納され、すぐにヒーローとサリーが駆け寄る。
「ガービィ!」
「ガービィさん!!」
返事はなく、お腹には大きな穴が。
「どいて!!」
メカリが信じられない跳躍で人混みを飛んで来た。
「メカリちゃん!?」
「サリーさん!話は後で!コピーを!!技はリカバリー!」
「わかった!!」
素早くメカリをコピーし、ガービィの治療にあたる。
「スーツが修復し始めて傷が見えない!」
「上を脱がしましょう」
「「リカバリー!」」
二人は素早くガービィのスーツを脱がし、手をかざして技を放った。穴はみる間に塞がっていく。
「あと少し!!」
ギースは人混みを掻き分け、狙撃した犯人を追っていた。
「逃がしはしない!どいてくれ!!(先生……どうか無事で!)」
ガービィの傷は全て再生していたのだが──
「ガービィ!ガービィ!?」
ヒーローが呼び掛けるも返事はなく──
「どうして!?メカリちゃん!?」
ガービィは起きない。
「ごめんなさいサリーさん……。傷の再生はできても、死者を蘇生させる事はできないんです」
「そん…な……」
「多分、到着した時にはもう──」
「ウソだ!!」
ヒーローは信じられない様子だ。
「ガービィは死なない!死なないんだ!」
「ヒーロー……。聞きなさい、お願い……」
「嫌だ!!」
ドン!ドン!ドン!
とヒーローは必死にガービィの胸を強く叩いた。
「ガービィさんは……もう……」
「ダメだ!今日だって一緒にご飯を食べるんだ!!」
(諦めない、これだけは!)
理屈じゃない。日常のくだらない事は諦めもつく。でもガービィを助ける事だけは諦めてたまるか!
ヒーローはまだ幼く言語化はできないが、この思いだけで必死に叩き続けている。
「っ!!」
その言葉にサリーは両手で顔を覆い、泣いてしまう。
ドン!ドン!ドン!
ドン!ドン!ドン!
━━ 約20年前、リーガの街 ━━
ドン!ドン!ドン!
と玄関を乱暴に叩く音が聞こえる。
ドンドンドンドンドンドン!!
「うるせぇ!!」
ガイザビィズはしつこく叩く音に目を覚まし、苛立ちながら乱暴にドアを開けると、そこには【イリオス】が焦った顔で立っていた。
「アニキ!」
「イリオスか、静かにしろよ」
ガイザビィズはイリオスに叩き起こされる。
【イリオス】は肌は白く、ガービィに憧れ同じ髪型をしている。
身長は170cmほどで、どこか胡散臭く、なぜか憎めない。
目は鋭く、目の下から顎下までナイフ傷があるのが特徴的だ。
ガイザビィズはイリオスを弟のように可愛がっていた。
「アニキ!いたっスよ!!リーガ広場に!」
イリオスもまた、ガービィの事を『アニキ』と慕っている。
「本当か!!」
イリオスは目当ての男を探し当て、二人は慌てた様子でリーガ広場へ行く。
「ハァッ、ハァ、速いスよアニキ……。ちょ……ハァ、ハァ」
「どこだ!?」
「あれっス、ベンチの女の子に話しかけてる」
「……本当にあれか?」
「本当にあれなんス……」
目当ての男は何故か昔のアニメのキャラクター、ミツバチ王子の着ぐるみで女の子を笑わせていた。
(本当にあれなのか……?)
「おい!!」
ガイザビィズがハチの男へ怒鳴った……ところでやはり恥ずかしくなり、イリオスにもう一度訪ねる。
「本っ当の本当にあれか……?」
「っス!」
「ゴホン!……おい!!」
ハチの男はつぶらな瞳でこちらを見ている。
「お前がNo.1のライゼか!?」
「……違うバチよ。ミツバチ王子だ」
「フフッ!」
女の子が笑う。と同時に女の子がガイザビィズに気付き、緊張している。
「あ、あの!ガイザビィズさん!」
「ふざけるんじゃねぇ!!お前がライゼだろう!」
「あ、あの!!」
「なんだ!?俺様に何か用か!?」
「アニキ、この子はアニキが用意したバラックに住んでんスよ。なっ、サリー!」
「は、はい!サリーと言います!あんなお家を用意して頂いてありがとうございます!」
「そんな事か、気にすんな。好きなだけいるといい。それより頼まれてくれねぇか?」
「はい!何でも!」
「あそこの木に張りつきに行ったミツバチ王子とやら。あれと話がしたい」
「フフッ!兄ちゃん!!呼んでるよ!」
「お前の兄貴か?」
「いえ、数年前に仲良くなって!最初にお兄ちゃんって呼んだからそれで……。ああ見えて凄い人なんですよ!」
「ミーンミンミン」
「そりゃセミだろうが!早くこっち来やがれ!……あれのどこが凄いんだよ」
「最強のヒーローになるって言って、本当になっちゃったんです!」
「っ!!……やはりあいつがライゼか」
「ジジジジジ」
「それもセミだ!!早く来いっつってんだろ!舐めてんのか!?」
しょうがない……といった感じでライゼはこちらに歩いて来た。
「俺がライゼだ。デカいな!なんセンチだ!?」
「2mちょっとかな。チッ、いちいち調子の狂う奴だ」
「用は?見ての通り忙しいんだが」
「大の大人がハチの真似してる時は忙しくねぇんだよ!」
「ハハハッ、全部突っ込むなぁ」
ドクンッ
とガービィの胸の鼓動は大きくなり、既視感を覚える。デジャブ……とはこれなのか。
「(なんだぁ?今のは)……とにかく、俺とバトルしろ」
「やる理由は?」
「リーガの街に最強は二人もいらねぇのよ」
「そんな事か、負けず嫌いなんだな」
ドクンッ──
「(──何なんださっきから)イリオス!」
イリオスはベンチに座って呑気にサリーと談笑していた。
「そん時アニキがさぁ──」
「フフッ」
「イリオス!!」
「あ、はいはい!」
「説明しろ」
「ッス!ライゼさん、バトルアリーナはご存知スか?」
「ああ、最近ちょっと賑わってるらしいな」
「でっスね。こちらがそこの創業者で、チャンピオンのガイザビィズさんっス」
「なるほど、それでバトルか」
「ッス」
「観客はいらん!今から俺様とバトルしろ!」
「普段なら断るが……受けよう」
「ガッハ!偉そうに。逃げないのは褒めてやるよ。さっきまではぐらかしてた癖に、何で急に受ける気になった?」
「最初から受ける気だったさ。アリーナ近くのバラック村を作ったのはガービィなんだろ?」
ドクンッ──
まただ。ガービィと呼ばれた瞬間、体全体が震えるような感覚だった。これは一体……。
「──ガービィじゃねぇ。ガイザビィズだ!」
「名前が呼びにくいんだよ、ガービィ」
「バトルが終わればテメエとは二度と会わねえ。好きに呼べ。バラック村は確かに俺様が作ったが、何の関係がある?」
「その精神性が気に入ったんだよ、ガービィ」
「ふん、イリオスについて行け。サリーも来るのか?」
「はい!」
「じゃあ一緒について行け。俺は寄る所がある」