第24話【ナイトの影】
「ファイアボール!!ハァッハァッ……」
こんなはずじゃなかった。
セドは寮を抜け出し、古巣ジローナにあったホールを見つけて興味本位で潜ってしまう。
自分は負けないと思っていた。
しかし自分の力を過信し、後悔する事になる。
コカトリスがホールにいたのだ。
雄鶏にヘビが合わさった異形で巨大なモンスター。
いくらセドが強いとはいえ、まだ子ども。
勝てるわけがない。
攻撃も効かず、逃げても逃げても追ってくるモンスターに今はただ恐怖しかない。
「ファイア!」
火は勢い良く出たが、パワーが明らかに足りない。
火の中から鋭い嘴が現れ、セドは回避しようとするものの間に合わない。
セドが終わりを覚悟した瞬間、鼓膜が破れそうなほどの強烈な音に思わず耳を塞いだ。
落雷、天災、規格外。
一瞬で敵は消え、あの時と同じくライゼがセドの前に立っていた。
「子どもがホールで何をしてるんだ!!」
あの時とは違うのは、ライゼの怒号。ライゼは本気で心配し、叱った。
技と風貌から、数年前に助けた少年だと気づくのに時間はいらなかった。
「君は……あの時の」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
セドはまるであの時の気弱な少年に戻ったようだった。
「こんな所で何をしていたんだ。HEROでさえ危険な場所だぞ」
ヒーローの相談を受けた後、この辺りのホールを潜っていたライゼ。
能力で声を感知していなければ助けられなかっただろう。
「こ、これ」
セドは綺麗に保管されたライゼのカードを取り出した。
「俺があげたカードじゃないか……」
「孤児院にこれを取りに行った帰りに、たまたまホールを見つけて。今のオレなら勝てると思ったんです」
ライゼは大きくため息をつくと、喋り出す。
「久しぶりだな」
「はい!」
「あれから頑張ったんだな、パワーが随分と上がってた」
「あ、ありがとうございます!」
「でもここは危険だ。二度とこんな事するんじゃない」
「はい……」
「しかし、縁があるな少年」
「セドって言います!」
「──!! 学園でヒーローと一緒か!?」
「はい!」
「よくも俺の可愛い可愛いヒーローを!!」
ライゼは拳でセドの頭を挟み、お仕置きをしてしまう。考える前にやってしまった。
「イタタタタタタタッ!」
ヒーローに自分で解決しろと言っておきながら、大人気ないライゼであった。
ホールから出たライゼは、セドを大きな木の根に座らせて話しをする事にした。
「セド、ヒーローが嫌いか」
「……自分でも理由はよくわかりません。ライゼさんがヴィゴより弱いと同級生に言われても、強く言い返さないんですあいつ」
「別にいいじゃないかそれくらい」
「オレには許されない事なんです!」
「そっか、あるよな……そんな事。誰でも一つくらいなぁ。仲良くしろとは言わないが、もうちょっと付き合い方を変えてやってくれないか?」
「……」
「ヒーローは悪い奴じゃあないぞ?」
「それはっ!それは……わかってるんです」
「そうか、ならいい。つい余計な口を出してしまった。ヒーローには内緒な!」
「はい」
「しかし、やっぱり学園になぁ。強いもんなセドは」
「っ!!」
ライゼに褒められ嬉しさを隠せないセド。
「あ、あの時、ライゼさんと一緒にHEROをやりたいって」
「言ってたなぁ。俺の気持ちも変わらないよ。そうなったら嬉しいなぁ」
「絶対に実現させます!」
「そうか。ならもう無茶をするんじゃないぞ。こうならない為に、学園で教わってるんだろ?ナンバー以外は申請もなくホールに入るのは法律違反だ」
「………はい」
「それにセドに何かあったら、お世話になってる先生や孤児院の人たちが責任をとらなきゃいけなくなる。もう一人じゃないんだ」
自分は一人だと決め込み、好きに生きると決めたセドにも響いた言葉。
周囲と繋がって生きていると実感するのは大人になる頃くらいだろうか。
「はい……!! もうしません」
意外にもちゃんと受け止めてくれたようだ。
子どもに響く言葉ではないと思っていたのに。
自省をする素晴らしい精神性だ。
ライゼはセドの成長が待ち遠しくなった。
「俺とヒーローとセド、皆んなで一緒にHEROか。一緒に飛び回って……。そうなると幸せだろうなぁ……」
未来を想像するライゼの顔は幸福に満ちていた。
口を端まで持ち上げ目尻は垂れ下がっている。
そんな横顔が印象的で、セドは子どもながらに再び心に誓った。
(必ずHEROになるんだ……!)
「よし。ガンが必須で、何故ルールがあるのかよくわかったな。今日はもう遅いから送って行こう」
「……あの!」
「うん?」
「よかったらコレにサインを……」
「なんだそんな事か」
慣れた手つきでサインを書くライゼ。セドにとってサイン以上に、まさに宝物のような時間だった。
「ほら!」
「ありがとうございます!」
「じゃあ行くぞ」
「へ?」
「雷帝」
青い雷光がセドを包み、地面に落雷のような音が響いたと思った瞬間、もの凄い速さで飛び立ち、引っ張られるような形で連れて行かれる。
「イダダダダダダダダダダダッ!!!」
まさに一瞬。またも落雷かと思うような音が響くと学園寮に到着していた。
「ついたぞ!」
「は、速い……」
「たまにギースと会うんだろ?」
「はい、いつもライゼさんの話をしてくれます! この運び方も痛いから嫌だと言ってました」
ギースの本音だろう。セドも痛かったようだが、ライゼと一緒に飛べた事でそれすら嬉しい様子だ。
「ハハハッ! ギースによろしくな!」
「あの!本当にありがとうございましたっ!」
ライゼは家には帰らず、先程のホールへと戻る。
何かを探すように──。
「──ここでもないか」