表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

第19話【崇拝】

 セドは孤児院ではなく、学園にある寮での生活を始めた。


 ベッドに寝転び、窓の外に浮かぶ月を仰ぎながら、今日の出来事を思い返している。


「……フン。お坊っちゃんどもが。なんでオレが、セカンドと、しかもあの能なしと」


 苛立ちを隠せずに呟く。

 最初から弱いものとは相容れない──そう決めつけ、心に高い壁を作っていた。


「ヒーロー……」


 険しい顔つきのまま、セドは歯を食いしばる。

 ギリ、と小さく響いた歯軋りの音が、彼の内に渦巻く怒りと焦燥を物語っていた。


 ──


 ━━ セド、四歳 ━━


 《今日もNo.1N.A.S.H.(ナッシュ)、ライゼが今まさに街の──》


「ハァッ、ハァッ……!」


「グルァアア!!」


 巨大なオーガが街を破壊しながら、幼いセドを執拗に追っていた。


「クソッ!……ファイア!」


【炎】


 火の上位に位置するこの能力は、非常に強力な技を使える反面、制御が難しい。

 だがセドは、わずか四歳にしてそれを独学で習得していた。


 だが──


「グルアッ!」


 立ち込める煙の中から再び姿を現したオーガが、小さなセドに拳を振り下ろす。

 セドは、もうダメだと目を閉じた。


 その瞬間、雷鳴が轟く。雷帝と化したライゼが間一髪でオーガの攻撃を受け止め、稲妻を放つ。


 眩い閃光と共に、オーガは一瞬で消し飛んだ。


「あ、ああ……」


 《素晴らしい活躍!! 小さな男の子をオーガから救い──》


 ──テレビで何度も観たあの人が、目の前にいた。


「強いな、君は」


「え……?」


「何歳になる?」


「ぼ、ボク、四歳……」


 この声、この顔、間違いない。

 いつも孤児院で遊んでくれる“お兄ちゃん(ギース)”がいつも自慢していたN.A.S.H.(ナッシュ)、ライゼだった。


「四歳か!驚いたな。俺の息子と同じ歳だ。名前はヒーローって言ってな、可愛いんだ!」


「う、うん……」


「それにしてもすごいぞ。自分の力でオーガに立ち向かったなんて」


「ボ、ボク、これ……」


 セドは、ボロボロになったN.A.S.H.(ナッシュ)カードを差し出した。


 孤児院のお兄ちゃんがくれた、お小遣いのないセドにとって大切なカード。


「これは……俺か!? カードになってるのか!」


「うん、あそこにも……」


 指差した先、200メートルほど先にあるカードショップの窓には、ライゼのレアカードがずらりと並んでいた。


「俺がいっぱい飾ってあるな! ちょっと待ってろ!」


 バチッ!と雷鳴を残し、ライゼは一瞬でその場を離れた。


 ライゼはカード屋の店先に立ったものの、どれを選べばいいのか見当もつかなかった。

 棚に並ぶ無数のパックに目をやり、しばし逡巡した末──


 彼は無言で商品棚に歩み寄ると、カードパックを片っ端からボックスごと抱え上げ、そのままレジへと山のように積み上げる。

 さらに、店内に飾られた額付きのコレクターズアイテムに視線を向け、指差した。


「これ、全部くれ」


 店主の表情が引きつる。


「ぃいっ!?あ、あんた……本物かい!?」


 まさかのNo.1 N.A.S.H.(ナッシュ)、ライゼの突然の来店。

 目を見開いた店主が、あわててサインを求めてくると、ライゼは笑みを浮かべて快く応じた。


 そうして大量の品を丁寧に包んでもらい、外に出た彼を、雷鳴が出迎える。


 袋を提げたまま、ライゼはセドのもとへと戻っていった。


 ──


「ほら!」


 両手に抱えきれないほどのカードと、立派なカードホルダーを携えて戻ってきたライゼが、誇らしげにそれらをセドに手渡す。


「い、いいの……!?」


「ハハハッ。店主も驚いてたよ」


 袋の中を覗き込んだセドは、思わず目を見開いた。


「こ、これ……! レアカード!雷帝バージョンの……!」


 ずっとガラス越しに眺めていた。希少な初期ロットで、ライゼの瞳が青く輝く雷帝仕様の超レアカード。

 セドの小さな胸が、歓喜で膨れ上がる。


 ライゼはそんなセドの表情を、少しだけ安心したように見つめていた。


(こんなに小さな子が、なんであんな危険な目に──)


「やっと子どもっぽくなったな。オドオドしてるより、今のほうがずっといいぞ」


「……うん!」


「これはな、君の報酬だ。オーガを弱らせてくれたおかげで倒せたんだ。自信を持て、君はすごく強い。将来、俺と一緒にN.A.S.H.(ナッシュ)をやってたりしてな!」


 その言葉は、セドの胸の奥深くに届いた。

 小さな瞳に、光が宿る。


「ボク……なるよ! 強くなって、一緒にN.A.S.H.(ナッシュ)やりたい!」


「俺の息子と、君と、三人でか……。本当にそうなったら、嬉しいなぁ」


 ライゼは思わず空を見上げる。

 心に描いた希望の未来が、目の前の少年にも見えているような気がした。


「は、鼻水……」


「ハハハッ、気にするな!いつもだ!……あ!ご飯作らないと!」


 雷鳴を残して飛び立つライゼ。


 セドは、去り行くその背中に叫んだ。


「ありがとう!! これ、一生大事にする!!」


「おう! N.A.S.H.(ナッシュ)として、また会おうな!」


 セドは立ち尽くしたまま、震える声で呟いた。


「ボク……いや、オレは……オレは、N.A.S.H.(ナッシュ)になるんだ……!」


 この日を境に、セドの人生は決まった。

 あの日の言葉、あの日の光景。

 ライゼはセドにとって、(かみ)に等しい存在となった──


 ──


 そして、現在──


「ヒーロー……。あんな能なし、オレの方が強いんだ……!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ