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第13話【もう一つの光】

 ━━ アイランドシティホスピタル ━━


 静まり返った病院の一室にはアラームのような機械音が定期的に鳴っている。


 ヒーローは色々な管に繋がれていた。

 最愛の息子につけられた管の意味すらわからない。

 ライゼは、自分のどこが最強のHERO(ヒーロー)なんだと、無力感に苛まれていた。


 代わってあげたい、とはこんな時に使いたくなる言葉なのだと実感した。

 でもそれは叶わない。時間だけが過ぎていく状況がもどかしかった。


 サリーも全く同じ思いだ。

 二人とも酷く憔悴しきっている。


 ヒーローが倒れてから三時間が経っていた。沈黙の二人はただ我が子の無事を祈る。


 そんな沈黙を破るように病室の自動ドアが開き、ガービィは心配でたまらず入るなりライゼに様子を聞いた。


「医者は何て……何て説明してたんスか!?」


「──能力はないが、体にかすかなパワーの片鱗があるそうだ。ガンに反応が……」


「なっ!?」


「それが悪さをしているのかはわからない。ただ、痙攣重積けいれんじゅうせき発作を起こしてる。意識が早く戻らないと……脳に障害が残る可能性はある、と」


 こんな時、どんな言葉をかければいいのか。

 ガービィには言葉が浮かばない。

 ライゼはやりきれない思いを口にした。


「ヒーローは頑張ってるのに、俺はこうやってただ眺めてる事しかできない……」


 ガービィはただ黙ってライゼの肩を支えた。

 こんな時こそ自分がなんとかしなければ……。

 しかしガービィもライゼと同じ状況だ。何もできずただ眺めるしかできない、それがやりきれなかった。


 再び病室のドアが開き、息を切らしたギースはメカリを連れて入ってきた。

 ギースは必死な形相で余裕がなさそうに見える。

 よほど焦って来てくれたのだろうか、ギースは辛そうな顔でヒーローを見つめた。


「ギース!No.6か!そうか!」


 ガービィが感心した様子で迎える。サリーはメカリが誰だかわからないようだ。


「誰?」


「君は、確かギースの研修で──」


 治癒の能力は珍しい事もあり、ライゼはしっかりとメカリを覚えていた。


 メカリは身長は160cmほど、印象的な緑の髪を二つ結びにして、研修ではしていなかった化粧を施し、すっかり大人の女性になっていた。


「覚えてて下さったんですね。先生もお久しぶりです。サリーさん、初めまして」


「……初めまして。初対面なのに、こんな状況でごめんなさいね」


「ギースから話は聞きました。役に立てるかわからないですが、私の能力は治癒です。やるだけやらせて下さい!」


「願ってもない。サリー、いいか?」


「ええ」


 ライゼがサリーに確認をし、治癒をお願いしたものの、ガービィが慌てて遮りメカリを止める。


「待て、戦闘の傷じゃないんだぞ?何かで試すか!?」


「見たところ時間がありません、今やれる事をやるだけです!」


「メカリ、頼む!」


 ギースに促されたメカリの手が光り、スキャンするようにヒーローの体を光が包み込む。

 目を閉じ、違和感の正体を探ろうとするもそれがいったい何であるのかわからない。


「何かあるんですが……。全く塞ぐことができません……キャアア!!」


 急にメカリが扉まで飛ばされ、激しくぶつかった音が大きく病室に響いた。

 皆が心配そうに近寄り、ギースもメカリの肩を抱いて心配している。


「大丈夫か!!?」


「大丈夫、でも何かある。私のパワーじゃ足りない……。そんなものがこんな小さな体に……!このままじゃこの小さな体は耐えられない!!」


「どうにかできないのか!?」


「治癒しようにも……パワーが足りなかったの。もう一人治癒できる人がいれば、あるいは」


 ギースは沈黙してしまう。

 いるわけがない。

 ギースが絶望してしまうほど治癒の能力は希少なのだ。


「ここにいるわ!」


 パァッ、と辺りが明るくなり、サリーがメカリをコピーする。

 メカリは驚くと同時に改めてサリーの凄さを実感した。

 二人は互いに目を見て一度頷き、急いでヒーローに向かう。


 皆が心配そうに見つめる中、二人の手が光って先程より大きな光がヒーローを包み込んだ。


「くっ……こんな!?」


「大丈夫ですサリーさん!二人なら何とか抑えられるはず!」


 治癒とはこんなに苦しく、負担があるものなのか。

 まるで自分の生気を吸いとられるようだ。

 サリーはメカリを見て、毎回この能力を他人の為に使っているのかと感心している。


 能力を使った今、サリーもまたメカリの凄さを実感していた。


 二人が苦しそうに続けると、ヒーローに繋がっている管が全て飛び、警告音が病室に鳴り響く。

 それでも二人は諦めない。


 やがてヒーローを包んでいた光がだんだん弱まると──


「くっ……!」

「キャアア!!」


 ──二人は見えない力に弾かれたように、病室の壁に飛ばされて激しく打ちつけられる。


「何事です!?」


 その音を聞いた医者が慌てて駆けつけ、驚きながら状況を確認した。そして目の前の光景に我が目を疑う。


「──っ!!…………し、信じられん……」


 ヒーローを包む光が消え、赤かった顔がみるみる正常に戻っていくではないか。

 ヒーローは虚ろだが目を少し開け、三時間ぶりに口を開いた。



「マ…マ……がっこは?」



「──!!くふっ……うっ!!」


 サリーはヒーローにすがり嗚咽する。


 ヒーローの言葉は倒れる前の言葉と続いていた。


 自分達にとっては長い、長い時間。


 しかしヒーロにとっては一瞬で、あの家の続きなんだと理解し、サリーは抱きしめながら更に泣いた。


 皆が抱きしめ合い、重なるように泣いていた。

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