1/32
第1話【最強が消えた日】
「っ! 離して! 離せぇえ゛え゛!」
「お前まで死ぬ気かっ!」
ヒーローが必死に腕を伸ばし、空へと手を差し出したその瞬間、
それまで空を裂いていた雷鳴が、嘘のように止んだ。
一転して、世界は静寂に包まれる。
指の隙間から、パパの身体が音もなく飛び散っていく。
まるで砂が風にさらわれるように、輪郭もなく球体に溶けていく。
セドを力任せに振りほどき、ヒーローは駆け出す。
たった今まで、パパが空にいたその場所へ。
爆発のようにも見えた。だがそこに音はない──。
輪の中心から、ひとつだけ遅れて、何かが落ちてくる。
まるで意思を宿したかのように、ふわりと舞いながら降りてくる。
それは──パパの左腕だった。
ゆっくりと舞いながら、ヒーローを撫でるように落ちてくる。
最後に一度だけ、息子に触れようとしたかのように。
その刹那、雷が再び空を裂いた。
鋭い音が大気を引き裂き、世界を貫く。
そして──パパは、消えた。




