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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
リグレイド領と盗賊の裏
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第63話 わからせ

 盗賊達のアジトへと戻って来た俺は、洞窟の前でその大穴を眺める。

すでに気付かれているのか、中が少し騒がしいようだ。


411:冒険者@水晶の精霊の加護(オーメル)

早めに戻っておいて良かったな


 このままだったら追撃を受けていただろうし、あの数を守りながら戦うなんて俺には向かない。

エルフを安全圏まで逃がした後、改めて潰しに掛かる。

これが一番確実な手だった。


 …ギアが着てくれていなかったら、トリックアートで隠れ続けて盗賊は見逃す事になった可能性もあったな。

結果的にだけど、単独行動をでなくて良かったよ。


418:冒険者@火山の精霊の加護(ドレアス)

入口に罠でも仕掛けて、外へ誘い出す?


419:冒険者@病魔の精霊の加護(レーヴェ)

他に出入り口は無さそうなんだよね?

こっちから行くよりは誘い出す方が良さそうだけど


 この辺りをぐるりと回った感じ、他に入口らしき物は無かった。

普通、裏口の一つぐらい用意しそうなものなんだけど、それだけ見つらない自信があったって事なんだろう。

あるいは、捕まらない確信があったか。


424:冒険者@土の精霊の加護(オーメル)

取り敢えず呼んでみれば?


425:冒険者@炎の精霊の加護(ロクト)

煽る? 煽ってく?


426:冒険者@川の精霊の加護(メフィーリア)

いや、これから決戦な訳だし、戦国武将みたいに名乗り上げようぜ


427:冒険者@水脈の精霊の加護(オーメル)

狂葬さん、法螺貝無いの? 法螺貝


 こいつら、他人事だと本当に楽しそうだな。


 さすがに法螺貝は持っていないので、近くの木を素材に加工を行う。

法螺貝っぽくしたそれを吹けば、こいつらも納得するだろう。


442:冒険者@死の精霊の加護(ロクト)

いや、それどんな音すんの?


 っていうか、どう吹けば音が鳴るんだろう。

法螺貝なんて俺は人生の中で一度も吹いた事無いんだが。


 取り敢えず、物は試しとばかりに口に加え、大きく息を吹く。

すると『ブフェア!』となんとも形容しがたい音が、大音量で響いた。


452:冒険者@風の精霊の加護(メフィーリア)

おい、なんか情けない音したぞ


453:冒険者@木の精霊の加護(ロクト)

リコーダーとか吹いた事あるやつにした方がいいんじゃないか?


454:冒険者@夜の精霊の加護(ロクト)

チャル〇ラ吹こうぜ!


455:冒険者@影の精霊の加護(オーメル)

その後に名乗りを上げるのか

うわ、ダッサ


 好き勝手言いおる。

今度こそ法螺貝を鳴らすべく、大きく息を吸い込んだ所で、中からぞろぞろと男達が出て来た。

…さっきの音を聞かれたらしい。


「…何モンだてめぇ。珍妙な音立てやがって…」


468:冒険者@暗闇の精霊の加護(ロクト)

珍妙……


469:冒険者@光の精霊の加護(メフィーリア)

おいやめろよ

街中で飲み物吹き出したじゃねぇか


470:弾幕@太陽の精霊の加護(メフィーリア)

ほら、今こそ名乗りを上げる時ではないかな?

時代掛かった演技で、力強く!


 やり難いわ。

コメントと現実の空気感の差がやばすぎる。


「奴隷達を逃がしたのはお前か?」

「どこの誰だか知らないが、ただで済むと思ってんのか?」

「俺達を誰だと思ってんだ、クソガキ」

「―――……」


 …名乗るタイミング逃した気がする。

俺だって、必死にどう名乗ろうか考えてたのに…。


「下手な笛吹くだけで、何も言えねぇのかてめぇは!」

「…初めて吹いたんだから見逃してくれたってさぁ…」


495:冒険者@空の精霊の加護(メフィーリア)

拗ねるなよ


「…まぁ、その。…奥のフードが親玉? 取り敢えず、捕まえるんでよろしく」

「…貴様、随分と大きく出たな」


 盗賊達のレベルは15~20。エルフ達とそう変わらない。

だが、一人だけ高い奴が居る。

それが、黒いフードを被ったこの男だ。

レベルは30、名前はカメオ。初めて会った時のドウザンと同じぐらいだ。

オリヴィアは規模も実力も普通の相手じゃなかったって言っていたけど、実力の部分はこの男を指しているんだろう。


505:冒険者@空の精霊の加護(メフィーリア)

他よりレベルが高いし、こいつなら色々知ってそうだな


506:冒険者@火の精霊の加護(ドレアス)

捕まえてから聞いてみてもいいけど、今聞ける事は聞いておく?


507:冒険者@竜巻の精霊の加護(ロクト)

なら心を折る所からだな


 …ま、そう言う事なら周りの雑兵を片付けておこうか。

短剣を抜いてクロックアップを使用すると、俺は左からなで斬りにするようにして、フードの男以外を斬り付ける。

一周した頃には、立っていた男達がバタバタと倒れて行った。


「……何を…した?」

「挨拶」


 フードで表情は見えないが、少しは驚いてくれたらしい。

じゃあ、追い詰めさせて貰うとしよう。

心も、身体も。


「君はどうするのかな、カメオさん?」

「……どうして、俺の名を知っている?」

「なんでだろうね?」


 ニヤリと笑ってみせれば、カメオは剣を抜き、俺へと駆けだした。

名前を知られるとまずいのかな。

いよいよ、怪しい話になって来た。


 首を狙って振り下ろされた剣を、指で摘まむようにして受け止める。

最近ギランに聞いて知ったが、刃の部分に触れなければダメージは通らないらしい。

まぁ、STRで大きく上回っていれば、と言う条件は付くが。


「な…」

「いきなり殺してしまっていいの? 俺に仲間が居るとは思わない?」


 剣を引こうとするカメオだったが、俺掴まれた剣はピクリとも動かない。

『チッ』と舌打ちしたかと思えば、胸元から抜いた短剣を俺へと投げる。

首元を狙って投げたそれを、持っていた短剣で叩き落とす。

その瞬間、カメオの口元が歪んだ。


 ボン、と音を立てて短剣から煙が広がる。

煙幕か。

短剣に仕込みがあったらしい。


 剣から手を離したらしいカメオが、俺の背後へと移動する。

どうやっているのか知らないが、煙の中でも俺の事を確認出来るらしい。

まぁ、俺もミニマップの情報で、カメオの動きは把握しているんだけど。

姿を消すなら、ミニマップも欺瞞しないと通じないのだ。

『EW』では常識の話――――。


 素早くステップしてカメオの背後を取れば、カメオは俺を見失ったようでキョロキョロと辺りを見渡している。


「どこ見てんの?」

「な!?」


 大きく飛び退き、煙の外へ出たカメオ。

そして、その後ろに再び周り込む俺。


「ほら、背後取らないでいいのかい?」

「くそ!」


 どこに隠していたのか、先ほどとは違う剣を手に俺へと振り下ろす。

また指で摘まもうかと思ったけど、同じ事の繰り返しじゃ心は折れないかもしれない。

と言う訳で、剣を横合いから殴り付けて圧し折っておく。


「馬鹿な! なんだ貴様は!」

「それはこっちの台詞だよ。…君は何者だ? 君の裏には誰が居る?」


 俺の質問には答えず、逆方向へ駆けだすカメオ。

勝てないと悟って逃げるか。


「今更逃げようって? それは甘くない?」

「う!?」


 走り出した先には俺の姿。

先回りなんてお手の物だ。


674:狂葬@色彩の精霊の加護(リグレイド)

あとどうすればいいかな?


675:冒険者@盾の精霊の加護(オーメル)

現状、フィジカルの差を見せつけているだけだからな

戦闘技術で上回ってみる?


 観客の要望に応えるようにして、近くにあった剣を拾い上げてカメオの足元へ投げる。

どういうつもりかと言う態度で警戒するカメオ。


「拾いなよ。抵抗する気が無くなるまで相手してあげるからさ」


 俺の言葉が終わる間際、カメオは剣を蹴り上げ、浮いた剣を手に取る。

逃げるのは難しいと考えたか。

いや、隙を突いて逃げるぐらいの算段はしているだろうけど。


「なんなのだ、貴様は!」


 心臓を狙って突き出された剣を、短剣で滑らせて反らす。

そのまま足を掛ければ、ズザァと小気味良い音を立ててカメオが転んだ。


「…さっきから急所ばかり狙うね? あんまり戦闘に慣れていないのかい?」

「…なんだと?」


 暗殺ならそれでいいだろうし、強襲でもそれでいいだろう。

ただ、相手と面と向かって戦うなら急所狙いはあまり向かない戦法だ。

相手だって、そこを狙われないように立ち回っているんだから。

フェイントを入れているならともかく、そうでもないならまず当たらない。

だったら狙い易い所を傷付け、動きを封じるのが先だ。


「暗殺者?」

「……」


 ある程度の技術はありそうだけど、『EW』視点から言えば下の下。

先ほどの煙幕もそうだし、そもそも真向から戦う事を生業としていないように見える。

集団戦に特化した相手かとも思ったけど、あの煙幕は味方も惑わしてしまうだろう。

とすれば、暗殺者と言う線はあながち間違いではないように思う。


「この…っ!」


 掴んだ砂を、俺の顔に向けて投げる。

目を庇うように手を掲げれば、体勢を低くしたカメオが俺に突撃していた。

脇に構えるようにして、俺の胴を突き刺そうとしているらしい。


 僅かに横に動き、その刃から逃れると同時、掲げた手でカメオの首を鷲掴みにする。

そのまま放り投げれば、カメオはゴホゴホと咳き込んだ。


「舐めてる? それが通じるほどの素人に見えた?」


727:冒険者@花の精霊の加護(レーヴェ)

圧を掛けていくぅ!


728:冒険者@闇の精霊の加護(ドレアス)

泣くまで追い詰めようぜ!


 ……観客の皆さん、奴隷の件に少々ご立腹であるらしい。

今日は一段と容赦が無いようだ。


「君が素直に洗いざらい喋るなら…この辺にしてあげてもいいけど」


 まだゴホゴホと咳き込むカメオを見ながら、そう提案してみる。

だが、カメオは俺を睨みつけると口元を隠した。

一瞬、フェンと同じように魔法を唱えているのかと思ったが、喉が動いたのを見て万能薬を取り出す。

ニヤリと笑ったカメオに万能薬をぶっ掛ければ、カメオはあたふたと慌て始めた。


「俺の前で死ねると思った?」


 毒でも呷ったのだろう。

それだけ知られたくない秘密があるって事だ。


754:冒険者@空の精霊の加護(メフィーリア)

まぁ、予想出来たな


755:冒険者@水の精霊の加護(ドレアス)

このタイミングで毒を飲むのはよくあるパターンだよね


 正に舐めるなって話である。

俺の後ろにはオタクの大群が控えているのだ。

創作物でのフラグ、テンプレは網羅していると言っていいだろう。

……字面だけ見ると、急に頼りなく感じるのは何故か。


「……ッ!」


 毒は無理と判断したか、今度は舌を噛み千切ったようだ。

俺は慌てる事なくポーションを振りかけ、それをも再生させる。


「薬ならまだまだあるよ。…あと何回でも、舌を噛み千切るといい」


770:冒険者@雲の精霊の加護(ドレアス)

狂葬さんのポーションが切れるより先に、俺の追加ポーションが届く予定だぜ!


771:冒険者@雨の精霊の加護(ドレアス)

俺もポーション持ってそっち向かおうかな


 …カメオ君、そうそう死ねなさそうだ。


 俺は剣を抜いてカメオのフードを斬り飛ばす。

フードの下には黒い仮面。

よほど素性を知られたくないらしい。


「くそっ!」


 再び逃げようとするカメオの正面へ回り込み、その仮面を斬り捨てる。

中から出て来たのは、意外と普通のおじさんだった。


「何が出て来るかと思ったけど…まぁ、なんと言うか…普通?」


 コメントに困って、思ったままを口にする。

カメオは露わになった顔を、手で覆い隠そうとしている。

よほど顔を知られるとまずいのか、あるいは意外に有名人なのかもしれない。

どっちにしろ、顔を見られると都合が悪いと言うのは間違いないだろう。


「…にしても、まだ逃げられるなんて思ってたんだね。少し優しくしすぎたかい?」

「……くっ」


 歪んだ表情を見つつ、まだ反抗する意思があるのは大したもんだと感心する。

であれば、もう少し強めに行こうかな。

嘘や誤魔化しなんて、しようとも思わないぐらいに。


「君達が奴隷にした事よりは優しくするつもりだったけど。……そっちがその気なら、こちらも相応の態度を取るよ」


821:冒険者@誘惑の精霊の加護(ドレアス)

わからせの時間だな


 ……おじさん相手に変な言い方しないで欲しい。




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