第56話 状況整理
さて、少し光明が見えて来た所で、ドレアスとの会議がどうなったかを聞かされた。
参加者はロクトからはゼペス、クェイン、シド、ウェイン、ロニ。
レーヴェからはメイ、アイリーン。
メフィーリアからはヤオ司祭長とロザンナ。
ドレアス側からはハーディ男爵、フェン、ネルソン、ロッシュだ。
他にも役人などが居たそうだが、主要な人物はこんなところだろう。
王様とヤオ司祭長は最初から険悪な雰囲気を醸し出しており、司会をしたのはクェインであったと言う。
…息子に尻拭いさせんな、王様。
「細かいやり取りは色々あったけど、それは国とドレアスの話だから置いておくとして。大きな収穫は地図の存在だね」
ウェインはそう言って、マップを地図化する。
ウェインが持っている地形の知識を紙へと映し、他者に渡せるシステムだ。
渡された地図をインベントリに収めて使用する。
そうすれば、俺のマップ情報が更新された。
「地図に書かれているのは大まかな位置と特徴的な地形だ。お陰で大陸全体がクリアとは行かなかったんだけど―――」
見れば、各街の位置や国同士の位置関係、国境、大きな山や森、湖などの位置が表示されている。
ただし、そこに辿り着くまでのルートは空白のままなので、元となった地図の正確性は微妙な物だったんだろう。
一応、国同士の位置関係は解るしそれだけでも有難い話だけども。
大雑把に説明すれば、クラウン王国の西にネリエル、北にアカラ帝国、東にステラ教国がある。
アカラ帝国が一番広い領土を持っているようで、クラウン王国とステラ教国が接している。
ネリエルは大きな山を挟んでおり、山が互いを隔てているようだ。
一番小さいのはステラ教国で、アカラ帝国に押されたのか端に追いやられているように見える。
「…どこの国でもない空白地帯がないか?」
「開拓が進んでない所だよ。レーヴェも未開拓地に転移したみたいだね」
思っていたより空白地帯が多い。
特にレーヴェから東側にかなり広い未開拓地があるようだ。
亜人達はこう言った場所に逃げ込んでいるのかもしれないな。
「で、重要なのはここからよ。雪原地帯を抜けた先に砂漠があるって言う場所を聞いたら、候補に挙がったのはここ」
テーブルに置かれた地図をアイリーンが指差す。
そこは大陸の一番北東の位置にある空白地帯。
「直線で行こうとすると、アカラ帝国とステラ教国の国境を横切る事になるじゃない」
そこって激戦区なのでは?
「昔、冒険者の一団が調査に向かったらしくてね。途中で断念したそうなんだけど、広い砂漠の先に雪山を見たって言い残しているそうよ」
…砂漠の先に雪山…確かに、オーメルから聞いた環境と良く似ている。
候補地としては有力だ。
「オーメルの連中にも早めに伝えた方がいいだろうね。砂漠を西に抜けたらアカラ帝国、南に抜ければステラ教国だ」
なんにしても場所が悪い。
こちらから向かうならアカラ帝国かステラ教国を抜けないと行けない。
アカラ帝国とは揉めそうだし、ステラ教国に辿り着くには未開拓地を抜けて行く必要がある。
「陸地を抜けるより、海路を開拓した方がいいかもしれないね」
「陸路も必要じゃない? 海からじゃ距離が有り過ぎて気軽に行き来は出来ないよ」
シグナルとエコーも落ち着いて来たのか、話し合いに積極的な姿勢を見せた。
前向きになったなら何より。
「会議では海路と陸路の両方を開拓していく事になったよ。海路でオーメルへの道を切り開きつつ、ステラ教国までの未開拓地を開拓して行って、ステラ教国と友好関係を結ぶ。その後に、ステラ教国からオーメルまでの道を整備する予定だ」
アカラ帝国との小競り合いに巻き込まれそうだけど…。
けど、どの道アカラ帝国に接触しても揉める可能性が高い訳だし、同じ結果になるか。
彼等は亜人を奴隷にしてるって話だし。
「それと、カリーシャ商会の撤収を手伝う事になったよ。護衛と、インベントリを利用した荷物運びだね。同時進行で、協力してくれそうな貴族に接触していって味方を増やす予定だ」
これはまた忙しい話だ。
しかも、ここまでの話はあくまで会議で決まった事。
さっき俺達が話し合った内容は含まれていない。
「やる事、一回まとめた方がいいんじゃないの?」
ロザンナが気だるげに言う。
アイリーンが頷くと、ホワイトボードに今後の行動を箇条書きにしていく。
まずは先ほど出た話。
一つ目、ステラ教国までの道を開拓し、接触する。
二つ目、海路からオーメルを目指す。
三つ目、カリーシャ商会の撤収作業を手伝う。
四つ目、クラウン王国の亜人庇護派貴族を味方に引き込む。
「…これだけでも大変ね」
レヴェリーの呟きは、多分全員の心境であっただろう。
五つ目、ヴィオレッタ達でのジュエル研究。
六つ目、邪神の宝玉の調査。
七つ目、五つ目と六つ目に関連する話として、魔法学院の知識を得る。
八つ目、迷宮から邪神の宝玉を回収する。
「八つ目の話だけど、すでに発見されている迷宮も地図に描かれているから、まずはこれらを攻略しつつ、新たな迷宮も探して行く事になるね」
九つ目、ネリエルにあると予想される宝玉への対処。
最後に、全体的な戦力強化。
「うへぇ…」
思わずと言った様子で、ユークが顔を顰める。
やる事が多い上に、どれもすぐに片付く問題では無さそうだ。
「一番問題なのは、どれも優先順位が高い事だね」
頭痛でもするのか、額を押さえながらウェインは溜息を吐く。
どれも後回しに出来ない問題だ。
更に言うなら、もし亜人を見つけるような事があればその種族も味方に引き込む事になるだろう。
そうなれば当然、そっちの仕事も増えて来る訳で。
「浮遊大陸の調査は?」
「そちらも継続だね。人員は少し削るかもしれないけど」
気になった事を聞いてみれば、ウェインはそう答える。
まぁ、国がある島の事が解らないって不安だし、勝手に浮遊大陸が動いても困る訳で…そう考えると無視も出来ない問題か。
「…オーメル放っておく?」
「オーメルと接触すれば戦力と人員を同時に確保出来るわ。他を進める上でも後回しに出来ないでしょ?」
邪神が再び現れる可能性がある以上、オーメルの戦力を放っておく選択肢は無い。
行き来さえ出来るようになれば、レベル100以上の『ジュエル持ち』が一気に増えるのだから。
「最低でも海路でオーメルには行っておきたいね。転移魔法が使える人を乗せて、暫くはタクシー代わりになって貰うって手もある訳だし」
転移魔法の多くは、一度行った事のある場所でないと使えないものが多いらしい。
その条件を整える為には長い船旅をして貰わないといけない。
…その後、一日中転移し続ける事になるってちょっとした拷問だけど。
「お偉方への説明と『ジュエル持ち』への説明もしなきゃいけないし、マジで忙しいんだけど」
本気で嫌そうなロザンナに苦笑してしまう。
俺は実働部隊で良かったよ。
少なくとも、目の前の事だけ気にしていればいいんだから。
「…うん、全て同時にやるしかないだろうね。担当の振り分けは大変だと思うけど、頑張っておくれよ」
「他人事だと思って~…」
ヴィオレッタがアイリーンの肩を叩けば、アイリーンは机へと突っ伏した。
オーメルにも『ジュエル持ち』の代表が居るし、向こうと協力出来るようになれば少しは楽になるだろう。
それまでの辛抱である。……それが何時になるかは知らないけど。
「ああ、そうだ。ユークとレイは行動が決まってるんだった」
今思い出したと言うように、手をぽんっと叩くウェイン。
俺とユークは顔を見合わせ、ウェインに向き直る。
「ロッシュさんの護衛をして欲しいんだ。行先はクラウン王国の王都だよ」
うわ、また面倒そうな所に…。
一歩間違えれば敵陣のど真ん中になる場所じゃないか。
「カリーシャ商会の本店があるらしくてね。そこの撤収はロッシュさん本人でないと難しいそうなんだよ」
「だから王都まで直接乗り込むと」
「そう言う事だね。そこまでの護衛と荷物の運搬を二人に依頼したい。ロッシュさんも知らない人よりいいだろうからね」
詳細を聞いてみれば、王都へ行くのはロッシュだけであるらしい。
レーナやローナ、護衛達はドレアスの支部に残り、レーヴェ側との商談を進めて貰う予定なのだとか。
ロッシュ一人で俺達と同行するって言うのは、それだけ俺達が信用されていると言う事か。
……あるいは、俺達がどうこうするつもりなら、護衛が居ても変わらないと考えたのかもしれないけど。
そして、王都までの道中、三つの領を経由するのだそうだ。
それぞれ支店があり、そちらにも顔を出しながら王都を目指すらしい。
「結構な長旅になりそうだな」
「忘れ物の無いようにね。―――それと、後先考えずに暴れない事」
「へーい」
遠足に行く子供を心配する親のようだ。
この様子だと、ウェインが釘を刺しても不安が残る感じだったのかな…。
「ああ、王都に行くのなら、ついでに魔法学院の方も任せられるんじゃないかい?」
「あ、確かにそうね」
ヴィオレッタに仕事を増やされたようだ。
無意識に小さく溜息が漏れる。
「解ったよ。王都に着いたら魔法学院の方にも顔を出す事にする」
「出来れば邪神の件以外にも、魔法の理論が詳しく解るような本も欲しいな」
探してはみるけど、LIVE機能を使って直接選んで貰った方がいいだろう。
その時になったら声を掛けよう。
「さて、取り敢えずこの話をお偉方に共有しに行こうか」
「やれやれね…」
どこかげっそりとした様子で、ウェインとロザンナが立ち上がる。
「ジュエルの説明とか無理だから、ヴィオレッタも手伝ってよ」
「はいはい」
アイリーンとヴィオレッタもそれに続き、会議は解散の流れとなった。
これから忙しくなりそうだけど、まずは一つずつ、だね。




