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第54話 邪神の宝玉

 ギランにあれこれ手伝わされつつノノやケインを案内したりで、メフィーリアでの日々は慌ただしく過ぎて行った。

観光中にメフィーリアの内情も見聞き出来たし、最低限の情報収集は出来たけど。


 メフィーリアでは果物の特産品が多かったんだけど、転移してからは気候も変わり、海が近いから潮風にやられたりで上手く育たないらしい。

色々試行錯誤しているけど、種を持って行って他の場所で育てた方がいいんじゃないかって話も出ているそうだ。

ロクトではそんな相談もしているのかな?


 代わりと言ってはなんだけど、魚介類が非常に充実していた。

取れたての魚を買ってインベントリにもしまっておいたし、暫く魚に困る事は無いだろう。


 メフィーリアを訪れてから三日、予定通りに俺達は帰る事になった。

ユーク達を何時までも放っておくわけにもいかないからね。


 ギランや見送りに来てくれた光の巫女キアラに別れを告げ、俺達は船に乗り込む。

今度はもっとゆっくりして行けとキアラに言われ、また来ると返しておいた。

…今度はもっと研究させろと言ったギランの言葉は聞き流す事にする。


 ともあれ、俺達は無事にロクトへと帰って来ていた。

…帰って来てすぐ、ユークから俺だけを呼び出されてゆっくりしている暇は無かったんだけど。


 そんな訳で、今はウェイン達のクランが所有している集会場へと通されている。

一番奥の会議室なら他の者に聞かれる心配も無いのだとか。

…一体なんの話をするつもりなんだか。


 ユークに案内され、辿り着いた会議室では見覚えのあるメンバーが顔を揃えていた。

ロクトの『ジュエル持ち』代表『一騎当千ソリタリータイタン』ウェイン。

レーヴェの『ジュエル持ち』代表『聖女ホーリーメイデン』アイリーン。

ウェインと同じクランに所属する『破壊者デモリッシャー』ユーク。

ロクトの『二つ名持ち』『百鬼夜行パンデモニウム』アイラ。

同じく『二つ名持ち』の『渡しザ・カロン』レヴェリー。

こちらもロクト国民の『二つ名持ち』である『弾幕クイックキャスター』ヴィオレッタ。

そして何故かレーヴェやドレアスで会ったシグナルとエコーも居る。

ついでにもう一人。


 奥の方で難しい顔をしているのはメフィーリアの『ジュエル持ち』代表ロザンナ。

実際の性格は知らないけど、なんだかダウナー系の印象を受ける。

彼女自身『歌姫ボイス・ディザスター』の二つ名を持ち、大型クラン『朝起こしに来てくれる幼馴染なんていねぇんだよ!!』のリーダーでもある。

…クラン名の由来は知らない。


 俺も含めたこの十人で一体なんの話が始まると言うのか。

顔触れを見ただけでもう不安しかない。


「レイさんも座って。紹介は必要?」

「…ロザンナさんは初対面だけど、後にしよう。何かあったんだよね?」


 アイリーンに促された席に座りながら、ロザンナに目礼だけしておく。

向こうも小さく会釈するだけで、特に異論も無いようだ。


 一瞬の沈黙が訪れ、その間に他の人の様子を窺う。

俺のように良く解らないと言った顔の者も多いが、特別気になるのはシグナルとエコーの二人。

シグナルはなんだか鋭い目をしているし、逆にエコーの方は下を向いてしまっている。

どう言う状況かとヴィオレッタに視線を送れば、彼女も何やら考え込んでいるようだ。


「…さて、まずは集まってくれてありがとう。少しみんなに相談事があってね…。関係しそうな人達に集まって貰ったんだよ」

「あ、ヴィオレッタはたまたま見つけたからアドバイス貰おうと思って私が連れて来たわ」


 ウェインとアイリーンが中心となって話を進めてくれている。

ヴィオレッタ以外は関係者って事なんだろうか。

俺からするとロザンナは初対面だし、レヴェリーだって転移前に会った事がある程度で、わざわざ一緒に呼び出される間柄じゃない。

ますます解らないな。


「説明をお願い出来るかい?」


 ウェインが振った先はアイラ。

コクリと頷き、アイラがドレアスの迷宮で起きた事を語り始める。

途中途中レヴェリーが口を挟んでくれたお陰で、何があったか大体の事が解った。


 要するに、迷宮の秘宝を巡ってアイラとシグナル、エコーが争ったらしい。

で、レヴェリーもその場に居合わせたと。

…死人が出なかったのが唯一の救いか。


 …アイラが話終わった後、俺達は押し黙ったままだ。

シグナルには奥さんが居て、身体が弱く、入退院を繰り返していたらしい。

自宅に居る時に『EW』を三人でプレイし、その最中VRサポーターが異常を検知して強制ログアウトした。

そして、その瞬間にこちらの世界へと転移してしまい、奥さんの無事が確認出来ずにいるとの話だった。


「…まぁ、理由は解った。言い方が合ってるか解らんが…なんつーか、災難だったな」


 言葉を選びながら、ユークが呟く。

普段からこのぐらい慎重に行動を考えてくれれば俺達の苦労も減るのだが。


「いや…場合によってはアイラ君を殺す事も覚悟していた。気遣いの言葉は受け取れない」


 ……これ、小競り合いってレベルじゃなさそうだな。

俺以外にも雰囲気を察したらしい数人が、チラリとアイラを見る。

当の本人は何を考えているか解らない表情だけど。


「…それで? 大事ではあるけれど、このメンバーを極秘裏に集める理由としては弱いんじゃないかな?」

「…迷宮の秘宝を持ち出したら、ドレアスにあった迷宮が消滅したらしいのよ」


 消えたか。

元々消える可能性があるって話もあったんだし、それ自体は驚く事じゃない。

ただ、ドレアス側は消して欲しくなかったって言うのが問題だ。


「ハーディ男爵には原因を伝えたの?」

「いいや…現在調査中って事にして濁して来た」


 まぁ、今水を差すような事はしたくないよね。

今後どうするかも含めて、一度持ち帰りたい話だっただろうし。


「けれど、何時までも黙ってはいられないよ? 情報共有の面から見ても、『ジュエル持ち』には共有するべき問題じゃないのかい?」

「それがねぇ…アイラ」


 ヴィオレッタに言われたアイリーンが苦い顔をしてアイラを呼ぶ。

そして、彼女は俺達が囲む円卓の上に、丸い球を置いた。


「これが、邪神の宝玉」


 …なんとなく嫌な予感のする名前だね。

みんなが順番にインベントリに収納していく。

俺もヴィオレッタから回って来た球をインベントリに収納して、その性能を確かめてみた。


『邪神の宝玉』

魂を集める事で願いを叶える為に必要な力を与える。大きい力が必要なほど、多くの魂が必要になる。

集められた魂32542/1000000


 …色々疑問はあるけど、これの中に三万人以上の魂が入ってるって事?

なんだか不気味に見えてきて、隣のユークにさっさと手渡す。

ユークも同じようにインベントリへと収納するが、すぐに不愉快そうな顔を浮かべた。


「…このアイテムの率直な感想を聞かせて欲しいな」


 ウェインは指を組んで俺達を見つめる。

さっき球を収納したのはアイラ、レヴェリー、シグナル、エコー以外の六人。

ウェイン達も収納していた所を見るに、話は知っていても実物は確認していなかったんだろう。


「私なら使いたくないね」

「俺も同感だよ。漠然とした事しか書いてないのが余計に怪しい」


 ヴィオレッタと俺は即答だった。


「…っていうか、これって呪われてたりしないのか? 死人の詰め合わせみたいなもんだろ?」

「止めてよ…。寝室には絶対に置きたくないわね…」


 嫌悪感を隠さないのがユークとアイリーン。

ロザンナは宝玉をじっと見ながら、その赤から黄色へとグラデーションする髪を掻き上げる。


「邪神って悪魔達を従えてた存在じゃないの? だとしたら絶対まともな物じゃないでしょうよ」


 名前は確かに気になるね。

こんな事になるなら、メフィーリアの遺跡を実際に見てくるんだった。

何か取り逃している情報もあったかもしれないのに。


「―――……魂、か」


 ヴィオレッタが瞑目して俯く。

こうなった時は何か考え事をしている時だ。

恐らく話し掛けても無視されるだろう。


「…一致してるのは、『使用するべきじゃない』って事でいいのかな?」

「お前はどうなんだ? ウェイン」

「私も一緒だね。こんな状況じゃなければ、調査はさせてもそれが済んだら破壊させてる」


 俺だって同じだ。

こんな怪しげな物、万一誰かの手に渡ったら面倒になる未来しか想像出来ない。

けど――――。


「…調査後、危険が無いと確認されたら…」

「いや、私からお願いさせてくれ。どうか、この宝玉を使わせてほしい」

「お、お願いします!」


 アイラを制するように、シグナルとエコーが頭を下げる。

だよね。元々、これを使いたくて争っていた訳だし。


「…アイラはそっち側なの?」


 二人を見て返答に困ったらしいロザンナ。

仕方なくアイラに話を振ってみたようだ。


「…レヴェリーも」

「うえっ!? え、ええそうよ!! 悪い!?」


 …この人、なんで急にキレたの?

腰に手を当てて、まるでヤケクソのようにさえ見える。

何があったんだ。


「…と言う事なのよ」

「発見者四人にお願いされては無碍にも出来ないだろう?」


 まぁ、普段であれば見つけた人間が好きにすればいいってだけの話。

ただ、今回はドレアスの一件…それこそ、襲撃の件からこれからの事にまで関わる内容だ。

迷宮を消すなって言われていたのに結果的に消えてしまっている以上、俺やユークへの風当たりも変わるかもしれないし。

こうやって説明している分、誠意を見せてくれているとは思うけど。


「…いいんじゃねぇの? 危険が無いって解った上でならさ」


 頬杖を付きながら、ユークがさり気無い様子で答える。

多分、シグナルやエコーの事を考えてこんな態度を取っているんだろう。

その気遣いを普段から発揮して欲しい。

…俺だけじゃなく、ウェインの目もそう言っている気がする。


「そう言った条件付きでなら構わないけど…当てはあるの?」

「レーヴェの技術者とメフィーリアの魔術師達に調べて貰おうと思ってるの。ロザンナを呼んだのはその為よ」


 ロザンナから魔術師達に働き掛けて貰おうと言う訳か。


「なるほどねぇ。私が居る意味がようやく解ったよ。まぁ、そう言う事なら暇してそうな連中に聞いてみるけど」

「いいんですか!?」

「…安全が確認されたら、って話。調査だって何時までかかるか解らないからね?」

「お願いします!」


 頭を下げたエコーを見て、居心地悪そうにロザンナがそっぽを向いた。

…照れてるのかな?


「…じゃ、反対意見は無いって事でいいのね?」


 アイリーンの言葉に反論は出ない。

ヴィオレッタは聞いているのかいないのかも解らないけど。


「であれば―――我々は共犯よ」

「えっ」


 突然出て来た不穏な言葉に、つい驚きの声が出た。


「宝玉の件、ドレアス側には伏せるわ。少なくとも、これがなんなのかはっきりするまではね」

「プレイヤー達にも暫くは黙っておくつもりだ」


 ドレアス側の事は解らないでもないけど、プレイヤーにもか。

取り合いになって分断されるのを恐れているんだろうけど、俺としては伝えるべきじゃないかと思う。

『ジュエル持ち』同士で不信感を持たせる結果になるんじゃないかって気がする。

それに―――もし本当に願いが叶うなら、ノノの『ジュエル持ち』だって蘇生出来るかもしれないのだ。


 そんな事を悩んでいる間に、ヴィオレッタがようやく再起動した。


「結論を出す前に、私の考えを聞いて貰えないかな」


 ここまで何を考えていたのかは知らないけど、なんらかの結論が出たんだろう。

ヴィオレッタはグルリと全員を見回し、特に否がないと察すると続きを話し始めた。


「以前から思っていたんだ。神の国ネリエルは、何故亜人を『殺す』事に拘るんだろうとね。愉快な話じゃないけれど、奴隷として使った方が労働力だって確保出来るはずだろう?」

「狂信者だからじゃないの? 教義だから殺す…解り易い話じゃない?」

「それは末端の話だろう? それを先導している者達も同じ考えだと思うかい?」


 教えを受ける側と、教えを広める側。

そこで考えが違うって言いたいんだろうか。


「私は、コレが原因なんじゃないかと思う」


 そう言ってヴィオレッタが指差したのは邪神の宝玉。

何故それが関わって来るのだろうかと首を傾げ掛けて、ヴィオレッタの言いたい事を理解した。


「あ…」

「まさか…」


 それぞれ思い至ったようで、みんなで宝玉を見つめる。

ネリエルが亜人達を殺す理由――――。


「神の国ネリエルはこれを持っているんじゃないかな? だから亜人を殺して魂を集める。集めた魂は誰かに力を与え、力を与えられた者が――――」

「聖女が使う奇跡ってそう言う事か!」


 つまり、亜人を殺して邪神の宝玉に魂を集め、その魂を使って力を得る。

力を得た人間が聖女と呼ばれ、与えられた力を奇跡として行使する。

…なるほど、話が繋がって来た。


「そうか。ダンジョンが消えたって話は過去にもあったんだったね。その時も当然、迷宮の秘宝が持ち去られているはずだ」

「それを手に入れたのがネリエル?」


 考えれば考えるほどその可能性が濃厚に思えて来る。


「こちらで調べるのも当然として、ネリエルを調べれば宝玉を使った者がどうなるかも解るはずだろう?」

「…確かに。正攻法で調べるより、実例を見た方が早いかもしれないね」

「まだ仮説ではあるけれど、それなりに有り得る話じゃないかな?」


 俺を含め、数人が頷く。

仮説とは言うけれど、状況証拠は揃っているし筋も通ってる。


「…さて、改めて提案しよう。ドレアス側にはネリエルの疑惑と一緒に報告すればいい。ネリエルの秘密がここにあるんじゃないかと考え持ち帰った所、迷宮が消えた。不満は残るかもしれないが、理屈は理解するはずさ」


 むしろ、その理由であればハーディ男爵は納得してくれそうだ。

不満を感じるとしたらドレアスの冒険者達、そしてギルドか。

これに関しては別の方法で補填すればいいだろう。

彼等が迷宮で得たいのは素材による稼ぎだろうし、代わりに割のいい仕事があれば矛は収めてくれるかもしれない。


「プレイヤー達、NPC達には協力を募る意味でも、警戒を促す意味でもこれらの事を伝えるべきだと思う。『奇跡』とやらが使えるのが聖女だけとは限らないからね」

「…取り合いになるかもしれないって話は?」


 エコーの不安げな質問に、ヴィオレッタは小さく笑う。


「調べる為の正当な理由が出来ただろう? 少なくとも、調べが付くまで無理矢理奪おうとする者は居ないと思うよ。三国とプレイヤー全員を敵に回す事になるからね」


 神の国ネリエルの対抗策にさえなり得る情報だ。

勝手に奪って勝手に使ったとなれば、それこそ指名手配もいい所だろう。

そもそも、正式に調査するとなれば厳重な警備だって敷かれる。

現実的に奪い取れるような状況じゃなくなる訳だ。


「重要な情報源だからね。三国のギルドから冒険者も警備に出そうか」

「いいわね」

「信頼出来る奴を派遣するから安心しなよ」


 各国の代表がそう言ってくれる。


「研究しなければならない理由があり、安全性が確認された時点で研究の一環として被験者に使用して貰う。被験者は発見者であるシグナルかエコーが担当した。…このシナリオならそれほど反発も無いんじゃないかな?」


 この短時間でよくもまぁ考えたものだ。

呆れ半分、関心半分で見ていると、ふっとヴィオレッタの顔が曇った。


「ただ……安全性に関してはあまり期待しない方がいいかもしれない。私は使用に反対だよ」




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