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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
ロクト王国とオーガの里
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第7話 バシリスク

魔法やスキルの詳細説明が中々出せないので、登場した回に後書きで付け加えておきます。

読む上で特に不便は無いと思いますが、一応と言う事で。

「アサカさん、幸せそうでしたね」

「だからこそ、里長さんもちゃんとした剣を送りたいんだろうね」


 俺達は夜、日が沈んでから起き出して冒険の準備を整える。

強敵がいると解っているので、少し念入りにチェックし、ドウザン宅を出る。


 ドウザン達も、もう戻って寝ているかと思ったのだが……。


「…まだ宴会してません?」

「だねぇ…」


 里の中では未だにガヤガヤと騒いでいる音が聞こえる。

この分だと主役達もまだ居るのだろう。

 出来るだけ目立たないように、家の影を通って里の入り口へと急ぐ。

どうにか見つからないように抜け出せたと思えば……。


「わふ」

「ヴィスター?」


 蒼い狼が里の入り口で、お座りして待っていた。


「どうしてここに?」

「わんわん!」

「ああ、静かにね。他の人に気付かれる」


 尻尾をぶんぶん振り回しながら、ヴィスターは俺達の周りをグルグルと歩き回る。

二、三週すると、今度は入り口に向かって歩き始めた。

 そして俺達へと振り返ると、「わん」と先ほどより小さく吠えたのだった。


「これは…」

「ヴィスターも来るって事?」

「わふ!」


 本当に頭のいい犬…いや、狼だ。

ご主人の為にヴィスターも何かしたいのだろう。


「忠犬だね」

「ふふ、ヴィスターは狼ですよ」


 ふと漏らした言葉に、フラウがコロコロと笑いながら答えたのだった。





 ドウザンの言っていた山へと踏み入る俺達。

と言っても探索しながら進むのとは違い、目的地がはっきりしている分進むのはあっという間だった。

 足の速さで言えばフラウが一番遅いのだが、それに合わせても小一時間と言った所か。

すでに頂上付近である。

足元には高所故か、薄く雪が積もっていた。


「魔物がいませんね」

「強力な魔物が居るらしいし、他の魔物が寄り付かないのかもね」


 ヴィスターは周辺の臭いを嗅ぎながら首を傾げている。

何か気になる事があるのかもしれないが、クラウスのいない今、それを正確に読み取る事は出来ない。


「山の上に住み着く魔物ってなんだろうな」

「竜種でしょうか」


 竜種…ねぇ。

所謂ドラゴンの事だが、強い魔物と弱い魔物の差が激しい。

 ゲームの知識になってしまうが、下は30レベル、上は150レベルまであった。

プレイヤーのレベルは100なのに対し、150レベルの魔物というのは反則と言える強さを持っている。

 仮にここにいるのがそのレベルなら、本格的に撤退を考えないといけない。


「わふ?」


 ふと、ヴィスターが空を見上げた。

俺のミニマップにも何かが接近してくる様子が伺える。

幸い気付かれてはいないようだが……この速度、空を飛んでるのか?


 フラウを引き寄せ、木の影に滑り込む。

本当に竜種だったら厄介だ。


「あ、あのっ…」

「空に何かいる」


 薄っすらと明るい空を見上げ、息を殺す。

森の光が反射しているのか解らないが、この時間だと言うのに空まで明るい。

こちらとしては助かる所だけど。


「見える?」

「……いますね。竜種にしては体長が短いような……」


 目を凝らし、空を見続ければ……何かの影が近場に降りて来ていた。

影になっていて全容が解らないが、俺の目にはそれの名前とレベルがしっかりと表示されている。


「バシリスク、か」


 ゲーム時代では50~60レベルの魔物だった。

こちらの世界では解らないが、鶏のような上半身に蛇のような下半身を持つ魔物だ。

 俺の目に映っているレベルは40。

やはり、こちらの世界では魔物のレベルが低いらしい。


「レベル40だね」

「バシリスクにしては低いですね」


 ヒュドラと同レベル。


 ヒュドラは再生能力が非常に高い。

クラウスが強かった為に、再生する間も無く倒されたというだけで、非常に厄介な魔物だ。

 対してバシリスクは攻撃力はそれほどでもなく、少し硬い程度の魔物だ。

オーガが強者と呼ぶほどだろうか……とまで考えて、幾つか思い当たった。


 まず、先ほどバシリスクが飛んでいた事。

上半身が鶏のようだから大して飛べないように思えるが、動きを見る限り普通に飛べるのだろう。

ゲームの方では飛べなかったのだが、あまりゲームの知識は当てにならないらしい。

 オーガ達の武器は近接の物ばかりだったように思う。

そう考えれば、空を飛ぶというだけで十分厄介な相手だろう。


 加えて、バシリスクには石化の呪いがある。

石化の治療薬を持っていなければ、戦うのは自殺行為と言える。

 とはいえ、一瞬で石化するほど強力なものでもないので、自分にアイテムを使う余裕は十分にある。

用意さえあれば全く脅威と呼べない相手なのだ。


 それを強敵と呼ぶオーガ達。

彼らは石化に対する備えを行っていないのではないか。

あるいは、誰も生き残らずにその情報が共有されていないのか。

 どちらにしろ、世界的に強敵だと言う予想は外れたと見ていい。

こいつは『オーガ達にとって』の強敵だ。


「身構えて損した気分だよ」

「え、ええ…」


 なんとなく歯切れの悪い返答に、フラウへと視線を向ける。


 ――――と。


「あ、ごめん!」

「い、いえ!」


 木の影に引き寄せたまま、密着していたらしい。

まさかラブコメでよくあるような展開を実際にしてしまうとは思わなかった。


 俺は常日頃からフラウに対して下心を持っているが、今回の事は全くの無意識だ。

それに、下心と言っても大人のあれこれをしたいわけではない。

 フラウはあまりにも綺麗で、俺が触れてはいけないもののように感じている。

正直、見ているだけで満足だ。

 ヘタレとでもなんとでも呼ぶがいい。

顔を赤くして、視線を逸らすフラウがとんでもなくいじらしい。


 俺達の様子を察してか、ヴィスターが小さくため息を吐いた。


「と、とにかく、あいつを倒して探し物に集中しよう!」

「そ、そうですね!」


 頭の中でさっと作戦を考える。

まず、フラウに遠距離攻撃の手段がない。

 俺が出来る事は精々投てき程度……まぁ、遠距離戦闘は考えない方がいい。

つまり、相手が空中に逃げると一気に面倒になる。


 ヴィスターの能力ははっきりしないが、言葉が通じない以上聞いても仕方ないだろう。

ゲームの特性上、自分やパートナーの能力を晒すのは悪手である。

 その考え方は異世界に来ても変わらないわけで、俺もクラウスもお互いの能力を把握してはいない。

精々、俺は色彩の精霊の加護を受けていて、クラウスは森の精霊の加護を受けている事ぐらいだ。

 なので俺がヴィスターについて知っているのは、森の精霊の加護を受けている事と、実際に走っているのを見てAGIは高そうだという事ぐらいしかない。

 この程度の認識で作戦に組み込むわけにはいかないだろう。


「これは不意打ちかな」

「いつも通りですね」


 俺の得意分野である。

魔法を使う、と意識して呟く。


「トリックアート」


 色彩の精霊の力を借りて使える魔法の一つ。

 周辺の景色を塗り替える魔法であり、視覚に大きく影響を及ぼす魔法だ。

使い方はかなり自由度があり、今回は自分達の姿を周辺の景色と同化させる。


 俺や目の前に居たフラウ、ヴィスターの姿が景色に溶けて行く。

この魔法の良い所は、自分の姿を消す魔法ではない事だろうか。

 相手のバフを消す魔法は存在するようだが、その魔法を俺に使った所でトリックアートは解けない。

トリックアートが掛かっているのは俺にではなく、何かを中心とした周辺の景色……今回で言うなら俺の持っている剣を中心とした空間だからだ。

 お陰で、通路を壁に見せかけるなどトラップとしても使用出来る優れものである。


 俺はこれを使って姿を消し、短剣のスキルで不意打ちの威力を上げ、片手剣の攻撃スキルで大ダメージを出すのが基本戦術だ。

 つまり、今回の作戦は『飛ばれる前に一撃で仕留める』である。


「フラウとヴィスターは俺の攻撃で倒せなかった場合に備えてて」

「解りました」

「わふ」


 声は聞こえるがどこにいるかはっきりしない。

トリックアートで足跡すら消されている訳で、視覚で見つけるのは不可能である。

 自分で使っておいてなんだが、これ酷い性能だよな。

習得レベル20ってのもバランス間違えてるようにしか思えない。


「クゥゥ……?」


 俺達の気配を察したのか、バシリスクが首を擡げて周囲を見渡す。

音でも聞いたかな。


 バシリスクは俺の知っている姿とほぼ変わりはないようだ。

鶏の頭をしていながら、その瞳は爬虫類のそれである。

 中々不気味な見た目だが、遥か格下の相手だ。

精々、石化の呪いが気になるぐらいか。

 もし万が一、瞬時に石化してしまうのなら厄介ではあるが……一撃で仕留めれば関係は無いし、それに――――。


「シャッテン・シュピール」


 今、自身に掛けた魔法は、あらゆる攻撃を一度だけ完全回避すると言うもの。

これで仮に呪いを掛けられようが回避出来る訳である。


 俺は木の影から一気に飛び出すと、相手の背後へと迫る。


 俺のステータスはSTRとAGIの二極特化であり、他のステータスは無いも同然だ。

HPなんて初期値である。

その高いAGIがあれば、バシリスクとの距離も一瞬で詰める事が出来る。


 俺は再び意識を集中し、スキルを使用する。


 魔法やスキルを使用する場合、三つの方法がある。

名前を口に出すか、メニュー欄から選択するか、強く意識するか。

一番確実で早いのが一番目の方法であるが、こんな至近距離で口に出せば気付かれてしまう。


 使用したいスキルを強く意識し、効果を発動させる。

短剣のスキルである、バックアタックとハイドアタック。

 バックアタックは相手の後ろから攻撃した場合に、攻撃がクリティカルするスキル。

 ハイドアタックは、相手に認識されていない状態で攻撃するとダメージが1.5倍になるスキル。

 これらのスキルの為に、俺は短剣を持っていると言っても過言ではない。


 あとは盾替わりに使うぐらいで、メインは片手剣。

俺の戦闘スタイルは短剣と片手剣の二刀流なのだ。

 両手武器の最大の特徴が攻撃力の高さであるのに対し、片手武器の特徴は空いた手に他の武器や盾を装備出来る事だ。

 それはつまり、もう一方の手に装備した武器や盾のスキルも使えると言う事でもある。


 短剣のスキルを使用した今、次は片手剣だ。

使うのは攻撃スキル――――バシリスクに気付かれる前に、叩き斬る。

 威力の高い攻撃スキルを発動すれば、走っていた姿勢から自然に攻撃モーションへと切り替わる。

攻撃スキルを発動すれば、オートモーションへと切り替わり、一時的に身体がプレイヤーの操作から離れる。

 一見不便ではあるのだが、面白い事にどんな体勢でも動作する。

つまり、空中だろうが体勢を整えられると言う事でもあるのだ。


 まぁ、それはともかく。


 俺の身体は前方宙返りの要領で前方に向かって飛び上がり、その勢いのまま振り下ろされた剣がバシリスクの背中を捕らえる。

剣先がバシリスクに触れ、まるで抵抗も無く両断していく。


 想像より、柔らかいな。


「グギャアアアアア!!」


 真っ二つになったバシリスクが慟哭を挙げ、やがて息絶えた。


 レベル110で覚えた片手剣スキル、名前はストラトスフィアストライク。

強力な一撃を叩きこむスキルだが、今まで使うタイミングもなかった。

 習得レベルが高いだけあって、十分な威力のあるスキルらしい。

バシリスクを真っ二つにした上で、地面までも深く切り裂いている。

 正直やりすぎである。


「私達は必要なかったようですね」


 フラウの声が聞こえたので、トリックアートを解いておく。

フラウとヴィスターの姿が、何もない空間から浮かび上がった。


「警戒しすぎだったね。…エメラルドガーデン」


 自分にMPが徐々に回復する魔法をかけておく。

トリックアートとシャッテン・シュピールの分しか使っていないが、一応だ。

 あまりに呆気なかった所為か、ドウザンの言っていた強敵がコイツではないのではないかと疑問が擡げる。

 まぁ、仮にそうだとしても今は周りにいないようだし、出会う前に目的の物を見つければいいだけの話だ。


「バシリスクは俺のインベントリにしまっておくよ。後はドウザンの言っていた剣だけど……」

「わん!」


 剣の話題を出せば、ヴィスターが真っ先に反応した。

尻尾を振りながら、こちらを振り向いている。

 ヴィスターの前方に何かあるのだろう。


「ヴィスターが何か見つけたようですね」

「探し物は任せた方がいいかもね」


 地面の匂いを嗅ぎながら進むヴィスターに、俺とフラウが付いて行く。

辺りは静まり返っており、薄く明るい森の中は中々に幻想的だ。


 探し物の剣はどこにあるのだろうと周囲を見渡すが、それらしい物は見当たらない。


「変ですね」

「ん?」


 フラウが髪を耳に掛けながら呟く。

周囲の景色も併せて、非常に幻想的だ。

 この子は天使かな?


「遺体や遺品どころか、戦闘の形跡すらありません」


 言われてみれば、確かに。

この場は殆ど荒らされてはおらず、綺麗なものだ。

 ドウザンの父親の代からオーガ達が挑んでいたのなら、もう少し痕跡があっても良さそうなものなのに。


「すぐ石化されたから、とか?」

「だとすれば、犠牲者の石像が残っていそうなものですが……」

「なんにも無いね……」


 ヴィスターの後ろをついて行きながら、俺なりに考えてみる。


 そもそもバシリスクが敵を石化させるのは何の為だったっけ?

ゲームの設定にモンスターの生態についても説明があったはずだ。


「……産卵期に備えて、餌を保管しておく為に石化させてるんだったっけ?」

「そうなんですか?」

「確かそんな話があったはずだよ」


 記憶を掘り返しながら会話をしていた時、ヴィスターが大きく吠えた。

釣られて目を向ければ、目の前には洞窟が口を広げていた。


「…この中?」

「わふ!」


 ミニマップに意識を向ければ、中には大勢の反応がある。


 …これってもしかして。


「行こう、フラウ」

「はい」


 俺は洞窟に踏み込むと、視線を走らせる。

洞窟とは言うものの、大きな空洞と言った所であり、一歩踏み込めば広大な空間が広がっていた。


 そして、その奥には……。


「こんなに沢山のオーガ……」

「わふぅ…」


 総勢で百人分近い石像が並んでいる。

 その誰もが、驚愕や恐怖の表情を浮かべ、悪趣味な美術品のようになっている。


 この様子だと、バシリスクの産卵周期はかなり長いのだろう。

相当昔の人物もここに居るかもしれない。

 俺はインベントリを開き、石像へと近づいた。




〇トリックアート

習得レベル20 色彩魔法 使用MP10 効果時間15分 再使用20分 詠唱時間5秒

特定の対象に掛ける事で、その周囲一帯の景色を塗り替える。

陰影さえも再現する為、目で真贋を判断する事は不可能であり、マップさえも欺瞞する。

見せる光景は使用者のイメージによる為、リアルタイムに変更する事が可能。


〇シャッテン・シュピール

習得レベル10 色彩魔法 使用MP5 効果時間10分 再使用5分 詠唱時間1秒

この魔法の効果時間内、あらゆる攻撃を一度だけ無効化する。


〇ハイドアタック

習得レベル60 短剣スキル 再使用5分

相手に認識されていない状態で攻撃するとダメージが1.5倍になる。

AGIが高いほど、威力に補正が掛かる。


〇バックアタック

習得レベル30 短剣スキル 再使用5分

相手の背後から攻撃した際、攻撃が必ずクリティカルする。

DEXが高いほど、威力に補正が掛かる。


〇ストラトスフィアストライク

習得レベル110 片手剣スキル 再使用20分

対象への五倍撃。

空中へ飛び上がり、縦回転しながら相手を斬り付けるスキル。

STRが高いほど、威力に補正が掛かる。


〇エメラルドガーデン

習得レベル60 色彩魔法 使用MP45 効果時間5分 再使用30秒 詠唱時間5秒

対象にMPを徐々に回復する効果を付与する。

秒間で3ずつ、合計で900回復する。

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