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第52話 魔法の国

 翌日、俺達は今船の上に居る。

ロクトへは船でニ十分ほど。

そこで皆が降りて行く中、俺とフラウ、ノノとケインはそのまま船に残った。

と言うのも、この船がこのままメフィーリアへ向かうと言う話だったからだ。


 ユークとギアが居ないのは、お説教とその付き添いでロクトに向かったからだ。

メフィーリアを見た事が無いと言うケインはこっちで預かる事になった。


「こんなに長く船に乗るのは私も初めてです」

「『EW』で船に乗る事自体、あんまりないもんね」


 『EW』の国々は陸続きだ。

国自体も比較的内陸の方にあり、船で行く場所など一部のダンジョンぐらいであった。

…まぁ、バージョンアップで新大陸が追加されていたら、船の需要も増えていたんだろうけど。


「実家に居た頃も、私はあまり船に乗りませんでしたし…」

「…実家?」

「私、漁村の出なんです」


 ……そうなのか。

不思議なものだと思う。

俺が作ったはずのフラウが、俺の知らない過去を持つ。

こちらの世界に来た時に、不具合が起きないように記憶が改ざんでもされたのかな。

NPC達の認識についても未だに解らない所があるし。

だとすれば、それこそ神でもなければ出来ない芸当だけど。


「―――……」

「レイ?」

「なんでもないよ」


 嫌な考えが頭に浮かんだ。

俺達の持っている記憶は、どっちなんだろうか。

改ざんされた物か、元々持っていた物か。

あるいは、フラウ達の持つ記憶の方が正しいのかもしれない。


 かぶりを振って、海へと目を向ける。

考えてもどうせ解らない。

記憶が偽物だったとしても、俺が俺である事に変わりはない。

変に不安になった所で疲れるだけだ。


「…メフィーリアも久しぶりだね」

「精霊に会って以来ですか」


 メフィーリアでは自分の守護精霊と実際に話す事が出来た。

ゲーム開始以降、特別なイベント以外ではそこでしか会えない。

時々会いに行くと変わった素材をくれる事がある程度で、通い詰めるような場所ではないけど。


「色彩の精霊ってどんな精霊なの?」


 ノノに問われて、俺とフラウが考え込む。


 …最初、ゲーム開始時に会った時は礼儀正しいお姉さんと言った感じだった。

ただ、会う度に印象が変わって行った気がする。


 俺が二回目に会ったのは精霊祭の時だ。

たった四人しか居ない参加者を見て、色彩の『ジュエル持ち』を増やす為にも活躍するよう鼓舞して来た。

なんか芸術家にしか興味を持たれないって事で『色彩の本質が理解されていない』と憤っていたのを覚えている。


 三回目はメフィーリアにある精霊の間。

精霊と対話を行う為の場所で、素材が貰えないかと思って顔を出した時だ。

その時は色彩の『ジュエル持ち』が増えないと酷くイジけていた。


 で、四回目は第二回の精霊祭。

二人しか増えなかった『ジュエル持ち』を見て、『どうせ色彩なんて人気が無いんだ』とやさぐれ始めた。


 その後も何度か会っているが、最初の態度はどこへ置いて来たのかと聞いてみたいぐらいに病んでしまっている。

……いや、聞くと余計に面倒そうだから聞かないけど。


「まぁ、ちょっと変わった精霊だよ」

「そうですね…」


 最初以外ではフラウと一緒に会った事は無いはずだけど、フラウもどこかで会っているんだろうか。


「メフィーリアってあれじゃないか!?」


 そんな俺の疑問を打ち消すように、ケインが大声を上げながら海を指差す。

そちらに目線をやれば、遠くに島が見えて来ている。

元々は森の多い場所にあったと言うのに、随分と様変わりしたものだ。

―――…なんか奥に見えるピンクにライトアップされた城は見なかった事にしよう。


「何もないといいんだけど…」

「巫女達に会いに行くんでしょう? 警戒はしておいた方がいいかと」


 …だよね。





 メフィーリアに着いた俺達は、真っ直ぐに神殿へと向かう。

ここは役所と宗教施設を混ぜたようなもので、精霊信仰を命題とするメフィーリアらしい作りになっている。


 俺達は司祭長に呼ばれており、悪魔について話をする為に来た。

話をした後は司祭長がロクトへと向かう事になっている。


「お待ちしておりましたよ、レイ様。お連れの方々もようこそ」


 神殿に入った瞬間に、目の前に居た大男が俺達を迎え入れた。

色黒で真っ赤な髪、猫を思わせるような、瞳孔が縦に割れた金色の瞳を持つ大男である。


「うお!?」


 ケインはいい反応で驚いてくれる。

何せこの大男、顔が怖いのだ。

牙が生えているし耳が尖っているし、法衣で隠してはいるけどなんなら羽も生えている。


「ヤオ司祭長、お久しぶりです」

「こうして再び会えました事、精霊に感謝致します」


 そう言って胸に手を当てる司祭長。

当てられた右手は、親指を隠すようにして折り曲げられている。

メフィーリアでは精霊こそを人類の親と考える。

だからこそ、精霊達に感謝を示す時『親』指を隠すと言う訳だ。

親に感謝するのに、親にも感謝させるっておかしな話だもんね。


 同じように礼を返せば、ヤオ司祭長はニッコリと笑顔を浮かべた。

この通り温和な人物なんだけど、見た目の怖さで大分損してる気がする。

 いやまぁ、怒らせると怖いんだけども。

なんせレベルは150だし。

俺の知る限り、レベル150なんてこの人とゼペスだけだ。

しかも、こちらに来てレベルが上がったのか現在は152だ。

まだ成長しているらしい。


「こ、この人って人間なの?」

「いや、魔人だよ」


 『弾幕』ヴィオレッタのパートナー、コールと同じ種族だ。

悪魔と人間の血を引いている存在で、羽まで残っている辺り恐らく悪魔の血が濃いんだろう。


「悪魔と戦ったと言う若者は君達かな?」

「うえ!? は、はい!!」

「大変な相手だったと聞いているよ。これからも力を磨き、精霊様や救世主様の為に頑張るんだよ」

「きゅ、救世主様?」


 ノノとケインにそっと『ジュエル持ち』の事だと伝えておく。

メフィーリアでは『ジュエル持ち』の事を救世主と呼ぶのだ。

 精霊信仰の強いこの国であるからこそ、精霊とそれに認められた『ジュエル持ち』は特別な存在とされる。

精霊だけではなく、『ジュエル持ち』も信仰の対象となっているのだ。


「さて、巫女達も集まっております。悪魔とやらの事、詳しくお聞かせください」

「解りました」


 そうやって促され、俺達は奥へと向かう。

この先にあるのは巫女達が生活している居住区と、精霊と対話する精霊の間などがある。

普段は巫女達と世話役、司祭長と『ジュエル持ち』しか入れない場所だが、今回はフラウやノノ、ケインも関係者だ。

遠慮無く入らせて貰おう。





 俺達が出会った二人の悪魔、血の悪魔スペルデュスと風の悪魔ゼファラス。

それほど解っている事は多くないが、それぞれの事を順を追って説明していく。

主にゼファラスから聞いた情報が大半を占めるが、ユークから内容は聞いているし不都合は無いだろう。


「――――なるほど」


 重々しくヤオ司祭長が頷いた。


 今この場に居るのは、俺達四人とヤオ司祭長、それと六巫女と呼ばれる大精霊の加護を持った巫女達だ。

全員が120レベルオーバーと言う、メフィーリアの最高戦力が集まっている。


 光の巫女はキアラと言う老婆だ。

いや、見た目は若い女性なのだが、光の屈折を利用して若く見せているらしい。

色彩も光に属する精霊なので、俺が一番関わって来た巫女だ。

レベルは131で、巫女の中で一番レベルが高いのがキアラである。

ちなみに、さすがに年齢を感じているのか近々後進に任せるつもりであるとか。


 火の巫女はラヴァナと言う女性。

二十代後半ぐらいの女性で、キアラを抜けば保護者的な立ち位置をしているのが彼女だ。

火の巫女と言うから苛烈な性格かと思いきや、一番礼儀正しいのがラヴァナである。

俺は殆ど会話をした事が無いので、正直言ってあまり知らないけど。

ただ、メフィーリア国民専用のイベントでは、彼女の戦闘シーンが見られるとか。

イベントの時は125レベルだったそうだが、現在は128。

その当時でさえ、プレイヤー達からは強かったと太鼓判を押されていたぐらいだった。


 水の巫女の名前はリュー。

史上最年少の巫女であり、年齢は十歳らしい。

この年齢で128レベルと言うのだからとんだ天才児だ。

ただ、魔法能力に優れていながらも、巫女としてはまだまだ経験不足なんだそうで、血の悪魔を倒した時も彼女は変化を感じられなかったらしい。


 土の巫女の名はグラウンディア。

ニ十歳ぐらいの女性で、なんか貴族の令嬢のような喋り方をする巫女である。

とは言え、高慢と言えるほどではなく、どちらかと言えばドジっ子であるそうだ。

レベルは126で、不器用過ぎてよく備品を壊しているらしい。


 風の巫女はサイラと言う名前だ。

見た目は十代後半と言った所だが、殆ど喋らないのでよく解らない。

今も目を閉じていて、起きてるんだか寝ているんだか判断に迷う。

レベルは126で、確実に強いって事だけは言える。


 最後に闇の巫女。

名前はヴェイル。

レベルは130とキアラの次に高い。

巫女の中で最大のトラブルメーカーであり、あれこれと暗躍するちょっと面倒な人だ。

各国の色々なイベントに彼女が絡んでおり、ゲーム開始当初はラスボスポジションなのではないかと見られていた。


「悪魔ね…」


 ……また変な事考えてるかな。


 彼女もメフィーリアの人間らしく、精霊や『ジュエル持ち』に信仰心を持っている。

ちょっと行き過ぎているぐらいに。

 彼女の目的は、『ジュエル持ち』をメフィーリアに取り込む事。

その為に魔物を誘き寄せ、『ジュエル持ち』に戦わせ、危なくなったら颯爽と現れ恩を売ろうとする。

やっている事は完全にマッチポンプだ。

 彼女が現れる前に『ジュエル持ち』が自力で倒すと『予定が違う』と呟いたり、思わせぶりな態度を取って来た所為で黒幕扱いされがちだが、彼女は別に『ジュエル持ち』を傷付けたい訳ではないのである。

まぁ、やられる方はたまったものじゃないが。

 それらが『ジュエル持ち』にバレてからは、何かある度『またあいつか』と揶揄されるようになった。

最早ネタキャラになりつつある。


 今回も何か仕込んでいるかと思ったが、今の所その様子も無さそうだ。

さすがに司祭長の前では無茶をしないらしい。


「精霊の気配を感じるようになったとか」

「ええ、ヴェイルやサイラはそのように言っていますね。二人の他、血の精霊や風の精霊の加護を受けた救世主様にも交信を行って頂きましたが、今の所、交信までは出来ていません」


 単純に悪魔を倒せばいいって話でもないのかな?

それとも、倒した数が足りないとかか。


「しかし、精霊と対になるように存在する悪魔…無関係とは思えませんが…」

「イマイチどう絡んでいるのかが見えないねぇ」


 ラヴァナとキアラは真面目に考え込んでいる。

ヴェイルを筆頭に、他はなんか別の事を考えている気がしてならない。


「次に迷宮が見つかったなら私も行くわ。悪魔と直接会う事が出来れば、得られる事もあるでしょう?」


 …この提案がヴェイルでなければ頷いたのに。

絶対何か企んでるぞ、こいつ。

 サッと司祭長を見れば、司祭長は大きく頷いた。


「では、私と六人の巫女全員で向かいましょうか」

「えっ」


 全員出て行ったらメフィーリアどうなるの?

俺がそう口に出す前に、ヴェイルから戸惑いの声が出た。

どうやら闇の巫女には不都合であったらしい。


「悪魔が精霊様の顕現を邪魔していると言うのであれば、精霊の使徒であるメフィーリアが鉄槌を下さねばなりません。―――己の身の程と言うものを理解させてやらねば、悪魔にとっても不幸と言うものでしょう」


 覇気とでも言えばいいのか、空気が重苦しくなった気がする。

この人、本気だ。

『ジュエル持ち』が頼み込めば止まるかもしれないけど、基本的に国の指針は精霊と巫女達の助言しか聞かないのが司祭長だ。


「…いいの?」

「わしは行かないけどね。光の巫女候補達に行かせて、その資質を見るのには丁度いいかもねぇ」


 キアラに意見を求めたが返答はこんなだった。

次に見つかった悪魔はかなり不憫な事になるだろう。


 …本当に、この国は精霊が絡むと好戦的でいけない。




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