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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
城塞都市ドレアス騒乱
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第47話~第48話 幕間3 悪魔対悪魔

 強烈な音と共に、ゼファラスは大きく吹き飛ばされた。

ゴロゴロと転がって行く様は、今までで一番の衝撃が彼を襲ったのだと推察出来る。


「が…はっ…! なん…だ、この力は…」


 崩れ落ちるケインを支え、城壁の傍へとその身体を運ぶ。

そしてその身にポーションを振り掛けた。


「…兵士さんよ。吹っ飛んでった嬢ちゃんにこいつをぶっ掛けといてくれ。まだ死んでないはずだ」


 銀髪の男はそう言って、兵士の一人へとポーションを投げる。


「あ、ああ…」


 どこか放心状態のまま、兵士はそれを受け取った。

理解が追い付かなかったのか一瞬の躊躇いを見せたものの、兵士は城壁を降りて街の方へと向かって行く。


「お…お前は、何者だ…?」


 横面を殴り飛ばされたゼファラスは、未だフラフラとした様子で立ち上がる。

ノノとケインが与えて来たダメージより、この男の拳の方が遥かに堪えていた。


「ああ、こいつらの教育係さ」


 ユークはそうとだけ答え、大剣を構える。

その姿は堂入っており、ケインよりも優れた使い手である事を雄弁に物語っていた。


「悪魔に名乗ると服従させられるんだろ? 名前を名乗らなくても悪く思うなよ。――――…あれ、悪魔の方が名前を知られるとまずいんだったか?」


 言っている事はどこか抜けた様子であったが。


 突如現れ、顔面を殴り付けて来た銀髪の男に、ゼファラスは警戒の表情を浮かべる。

ゼファラスの長い生の中で、これほどのダメージを受けた事など一度も無い。

かつて自分達を阻んだ者でさえ、これほどの痛手を与えて来る事など無かった。


「ああ、一つ聞きたい。血の悪魔は知ってるか? スペルデュスとか言ったかな」

「…スペルデュスがどうした」


 普通、人間から悪魔の名など出る事は無いが、先ほどの二人も悪魔を知っているようであった。

その事を踏まえて、スペルデュスとこの者達の間に何かがあったのだろうとゼファラスは考える。


「あいつ、俺の仲間が殺したんだ。すまんな」

「…殺した? スペルデュスをか?」

「ああ。多分死んだと思う」


 あっけらかんと答えるユークに、ゼファラスは耳を疑う。

悪魔を殺せる人間など居るはずが無い。

そんな考えが根底にあったからだ。


「…迷宮外に遊びにでも行ったか、あの馬鹿め」

「迷宮の外に出ると弱体化でもするのか? 今のお前も弱体化中って事になるが」

「ふん。悪魔は自分の迷宮から離れれば離れるほど力を失う。だが、この程度の距離なら七割ぐらいの力は出せる」


 随分お喋りな奴だ。

そんな思いを抱きつつ、もっと突っつこうかと考えるユークである。


 だが、不意に向けられた手に、ユークはその場を飛び退いた。


「このようにな」


 ユークの立っていた位置を、強烈な風が吹き抜ける。

完全に避けたはずのユークでさえ、その余波で身を崩し掛けたほどの暴風だった。


(あいつらこれと良く戦えたな)


 ユークの目には、風の悪魔ゼファラスと言う文字が見えている。

風の魔法が来るなど想定内である。

 だが、ケインやノノには解らなかったはずだ。

あれを初見で撃たれたら、それで終わっていた可能性だってある。


(まぁ、なんだかんだ勘はいいし、上手く避けたか。…あるいはこの悪魔、自分で名乗ったのかもしれないが)


 お喋りな悪魔を見て、有り得るかもしれないと胡乱気な目でゼファラスを見る。


「なんだその目は」

「いや、弟子達が世話になったみたいだからな。念入りにぶっ飛ばそうと思って」


 こちらもユークの本音である。

ゼファラスもスペルデュスと同じく155レベルの悪魔。

スペルデュスより弱体化していないと言うのであれば、手を抜いて勝てる相手ではないだろう。

と言うより、普通に考えれば分が悪い。


 こちらに協力させるのであれば完全に心を折らねばならない。

ただし、それは身の危険を感じるまでの話だ。

無理だと判断すれば自分の身や周りの命を優先する。


「じゃあ、やる気みたいだし始めるか?」

「ふざけた男だ。―――が、贄としては優秀かもしれん」


 贄とは何か。

問いかけるより先にゼファラスが動いた。

真正面から飛び込み、その爪をユークの首へと突き立てる。

しかし、ほぼ反射で動いたユークがその爪を両断した。


「斬った…だと?」


 呆然とした顔のゼファラスに裏拳を叩き込む。

再び吹っ飛んで地面を転がるゼファラス。

よく転がる奴だとユークは内心で呟いた。


「はっ、ぶふっ…げほごほ…!」


 咳き込むゼファラスの口からは、血と牙とが流れ出ていた。

前歯を数本折ったらしい。


 ゼファラスは斬られた爪や折れた牙を見て、信じられないと言った顔を浮かべる。

ゼファラスの知識には、ユークのような人間など一度たりとも存在していなかった。


「悪いな。割とイケメンだったのに」

「イケ…メン…?」


 呆然とした様子で聞き返すゼファラス。

なんともマヌケな問答だ。


「顔がいいって事さ。俺の方がいいけどな」


 『EW』の容姿は、時間を掛ければ掛けた分だけ美しくなると言われる。

まぁ、そこはセンスなども当然あるのだが、概ねその傾向があると言っていい。

かなり時間を使ったらしいレイ達が目立つが、ユークの容姿も絶世の美男子と言って過言ではない。

だがしかし、今そこはどうでもいい話である。


「どうする? 戻らなくなるくらいまで整形されたいか、俺達の軍門に下るか」


 下ったとしても裏切る可能性のある相手だ。

何かしらの対策は考えなければならないだろう。


「ふざけるなよ…! 人間風情が!」


 素直に聞くとは思っていなかったが、案の定怒り出した。


(まぁ、上手くはいかないよな)


 ある意味で納得の結果に落胆すら感じない。

ユークは改めて剣を向けると、ゼファラスの動きを注視する。


 先ほどの攻撃、ゼファラスの動きを完全には見えていなかった。

動き出しの動作からの予想と、身体に染みついた経験から判断したに過ぎない。


(防御は抜ける。ただ、俺が二度殴ってもピンピンしてるし、多分HPは高いな。STRは解らんが、AGIとINTはかなり高そうだ)


 内心の警戒を悟られないよう、余裕の態度を崩さずにユークは分析する。


「エアブレイク!」


 風の塊がユークへと迫り、一旦考えを中断する。

余波が大きく、かなり大袈裟に避けなければならないと内心で舌打ちした。


 それを見て嫌がっている事を察したか、ゼファラスからは続けて魔法が放たれた。


(連射が効くわけだ。…しかも、着弾地点からの効果範囲が広い。俺の足じゃ逃げ切れないな)


 逃げ回っていたユークは、足を大きく振り上げ大地を踏み抜く。

すると、信じられない事に大地が捲れ、砂煙でユークの存在を隠した。


「舐めた真似を!」

「ヒートサンドヴェール」


 ゼファラスの現在地を中心に砂が舞い上がる。

視界を覆うほどの砂は熱を持ち、その場の温度を上昇させた。


「そんな児戯が通用すると思うな!」


 ゼファラスが大きく羽ばたくと、周囲で強烈な風起こり砂煙を消し飛ばす。

だが、その間にゼファラスの背後を取ったユークが、その背に向けて大剣を振り下ろしていた。


「クラッシュストライク」


 その一撃はケインと同じもの。

ただし、威力は天と地ほどの差がある。

 無防備に背を晒していたゼファラスは、背中からの衝撃を感じた瞬間、地に伏せていた。

激痛が襲って来るのはその後である。


「ぐ…は…!?」


 まともに呼吸すら行えない衝撃。

叩きつけられたゼファラスはクレーターの中心で藻掻く。

何が起こったのかと自身の身体を確認し―――そして、自分の片翼が切り裂かれているのを目撃した。


「…私の…翼が…? おのれ、人間!!」


 怒髪天に達し、痛みも忘れて起き上がるゼファラス。

ユークに飛び掛かり、右手の爪で何度も斬り付ける。

 しかし、ユークはそれらを全て大剣で捌き、一撃も届く事は無い。

相手は信じられないほどの激戦を潜り抜けた達人であった。


「何故だ!? 人間風情が悪魔を傷付けるなどと!」

「人間は舐めても構わんが筋肉を舐めるな!」


 謎の怒声と共に繰り出された一撃が、ゼファラスの右爪を跳ね上げた。

そして、無防備になった腹部へと拳を叩き込む。


「がっ…おえっ…」

「そろそろ諦めてくれねぇかな」


 大剣を肩に担ぎ、ユークは余裕の表情を崩さない。

ゼファラスの速度は確かに厄介だ。

風の魔法もユークには相性が悪い。

しかし、それを表に出さないで相手を精神的に追い詰める。


(攻撃は確かに単調だが、それを補えるステータスや魔法を持ってる。…言うほど楽じゃねぇぞ、こいつ)


 誰かが言っていた、技術を磨く必要が無かったと言う言葉。

それを今、ユークは実感として感じていた。


「お前達は……悪魔の餌なのだ!!」


 やぶれかぶれに振り下ろされた右爪。

大剣で受け流そうとし爪と刃が合わさった瞬間、今度はユークが吹き飛ばされた。


「ぐっ!」

「エアブレイク!」


 なんとか受け身を取ったものの、迫る空気弾が躱せない。

まずい、とそう思った次の瞬間には、ユークの身体は空高く打ち上げられていた。


(爪に風を纏ったか…。そんな攻撃も考えてはいたが、威力を見誤った…)


 ユークは地面に激突するまでの間に、そんな事を考えていた。


「はっ…ははは!」


 脱力したまま地面に激突し、そのまま動かないユーク。

確かな手応えを感じたゼファラスから笑い声が漏れた。


「やはり人間は脆い。ここまで私を追い詰めた事は褒めてやるが、この屈辱は忘れん。お前やガキ共の魂は、この私が責任を持って蹂躙してくれる…!」


 狂気的な笑みを浮かべ、ゼファラスがユークへと歩み寄る。

明確に相手を撃ち抜いた感覚があったゼファラスからすれば、ここでユークが起き上がるなど考えもしなかった。


 ゆらりと立ち上がるユークを見て、ゼファラスの顔が引き攣る。


「何故…生きている…?」

「俺達みたいなのは一度殺したくらいで安心しない方がいいぞ。―――まぁ、経験を活かす機会は来ないがな」


 ユークを立ち上がらせたのは『起死回生』のジュエルスキル。

一日に一度だけしか使えないが、HPが0を下回った時に発動する。

HPの全回復や一時的なステータスの倍加など、困難を打ち破る為のスキルだ。


「悪いけど、こっからは全力だ。お陰様で保険が無くなったからな。フェイタルデザートシフト」


 ユークから目に見えるほどの魔力が広がって行く。

その魔力に触れた地は砂漠と化し、ユークを視認出来ないほどの砂嵐が覆う。

驚きから固まっていたゼファラスは、あっと言う間に砂嵐に巻き込まれてしまった。


「なん…だ? これが人間の魔法だと言うのか!?」

「ストラグルサバイバー」


 ユークの持つ大剣が熱を帯び、赤く発光する。

そして、砂がユークを包むマントのように広がり、その身を覆った。


 ゼファラスはユークの姿を見つける事が出来ず、ただ何かを呟いている事だけしか解らない。


「風よ! 吹き飛ばせ!」


 ゼファラスが自身を中心として風で砂を舞い上げる。

だが、視界が晴れたのは一瞬で、再びゼファラスは砂嵐に飲まれた。


「馬鹿な! なんだと言うのだ、この魔法は!」

「『デザートヒート』」


 ユークの固有魔法が、攻撃力と防御力を倍加させる。

ユークは一撃必殺の戦士だ。

全てを次の一撃に賭ける為に、ただその牙を研ぎ澄ます。


「『ソウルイグニッション』」

「どこだ!? 姿を―――!?」


 砂漠化の影響で、ゼファラスの足元が流砂へと変わる。

バランスを崩し掛けたゼファラスは、ようやく恐怖を自覚した。


 逃げなければならない。

そう強く思ったと同時、風の魔法で自身を空へと舞い上がらせる。

羽が片方無い事で酷くバランスが悪く、思うように飛べない。

とにかく砂嵐の外へと向かうゼファラスに、再度ユークの声が届いた。


「『デーモンシフト・アザゼル』」


 瞬間、ゼファラスの全身に悪寒が走る。

自身と同質の魔力が増大していくのが解る。

ユークを視認出来ていないはずのゼファラスが、明らかに見られていると確信出来るほどの悪寒だった。


 早くこの砂嵐を抜けなければ。

焦れば焦るほど遠く感じるその距離。

しかし、薄っすらと光が見えた事でゼファラスの心に希望が満ちる。

―――だが。


「どこへ行く?」


 瞬間、場が凍り付いたかのような重圧。

恐る恐る振り向けば、全身を黒く染め上げ、悪魔の角や翼を持った銀髪の男がそこに居た。

それをユークと認識するより早く、ユークの口元が動いた。


「『ラヴェージエクスキューション』」


 ズドン、と言う激しい空気の衝撃。

それが踏み込みと理解する間も無く、神速の一撃がゼファラスの身体を両断する。


 悪魔が死ねば、その身体は露と消える。

だが、強烈な衝撃による加速で、身体が消え去るよりも早く身体が地面へと激突した。

その破壊力は凄まじく、その身体が消えるまでの間に地面を深く掘り進めるほどだった。


 大気を揺らし、大地をまでをも破壊するその一撃を放った男は、悠々と空を舞う。

その衝撃でゼファラス以上に城壁を壊していた事など、気にも止めていなかった。




〇ストラグルサバイバー

習得レベル80 使用MP30 再使用10分 効果時間3分 詠唱時間10秒

熱で攻撃力を高め、砂で防御力を高める魔法。

効果は、攻撃力、防御力を1.1倍にする。


●ソウルイグニッション

大剣EXスキル 再使用50分

次の一撃を当てた際、与えるダメージを10倍にする。

ただし、この効果が発動すると同時に、自分のHPは1になる。


●デーモンシフト・アザゼル

使用MP100 熱砂固有魔法 効果時間5分 再使用12時間 詠唱時間5秒

自分の肉体を悪魔と化し、ステータスの上昇と特殊能力を得る魔法。

効果は全ステータス2倍と、飛行能力、HP、MP自動回復能力の取得、熱砂魔法の効果増大。

この魔法が切れた際、10分間全ステータスが半減する。

半減効果は時間経過でしか回復しない。


●ラヴェージエクスキューション

大剣EXスキル 再使用30分

大剣による10倍撃。

強い踏み込みから始まる獰猛な振り下ろし。

この強力過ぎる一撃は、武器の耐久度を半減させてしまう。


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