第43話 ユークのテンプレ回避作戦
俺達が領主邸へ訪れた翌日。
詳しい情報収集も兼ねて、今はドレアスの冒険者ギルドを目指している。
まぁ、俺達はギルドの場所を知らないし、ローナとナイアに案内を頼んでいるけど。
快く承諾してくれた二人には感謝しかない。
「迷宮から溢れた魔物の討伐依頼ですか」
「そう。領主からの依頼とは言え、魔物絡みなら冒険者ギルドに話を通しておいた方がいいかと思ってね。実際の状況も知りたいし」
あとは、冒険者ギルドをまだ一度も見ていないと言うのも理由の一つかな。
この世界のギルドがどんな感じなのかと言うのは、俺を含め多くの『ジュエル持ち』が興味を持っている。
冒険者ギルドに着いたらLIVEでみんなにも見せる予定だ。
「間引きとは言っていましたが、一体どの程度狩ればいいんですかね?」
「さぁな。俺達はそもそも迷宮の魔物とその辺に居る魔物の区別が付かないから、まずはそこから聞かないとな」
ハーディ男爵に聞いてみてもよかったのだが、なんだか随分と老け込んでいたので、ギルドへの紹介状を書いて貰うに止めた。
ロッシュがそのまま残って話をしたようだし、元気になってくれてればいいんだけど。
「にしても、視線がすげぇな。余所者がそんなに珍しいのか?」
ケインが鬱陶しいとばかりに、顔を顰めながら言った。
うん、俺も気付いてた。
初めてドレアスに来た時も凄かったけど、今日はまた一段と見られてる。
ノノなんかは視線に晒されるのが嫌なのか、俺とフラウの後ろに隠れてしまっている。
「どこぞの怪力が暴れた所為では?」
「だからそれは謝っただろ?」
ギアがユークの肩を叩きながらからかう。
…例の話をどこまでしたのかは解らないけど、以前より距離が縮まったようだ。
あれからユークの雰囲気も幾分か柔らかく感じるし、良い方向へ向かっているといいんだけど。
「―――……」
ちらりとフラウを盗み見れば、髪を耳に掛けて何か考え込んでいる様子だ。
俺ももっと距離を縮めたいと言う思いと、このままでいいと言う思いがせめぎ合う。
―――……まぁ、あまり高望みはしないでおこう。
「それより、冒険者ギルドってどんな感じなんだ? 荒くれ者の巣窟か?」
新人冒険者や余所者の冒険者が、その土地の冒険者に絡まれると言うのは良くある話。
所謂テンプレ展開だ。
ある程度心構えはあるものの、実際に起こり得るのかは気になる。
「一部そう言った方が居るのも事実です。以前絡んで来た冒険者がいい例ですね」
「でも良い人も居ますし、みんながみんなと言うわけではないんですよ」
ローナとナイアが言うにはそう言う事らしい。
ただ、その一部に遭遇すると言うのがテンプレと言うものでありまして。
「どう思う?」
「ちょっと俺に考えがある」
ユークに話を振れば、自信のありそうな顔で返された。
前に揉めたのを教訓として何かを学んだのかもしれない。
そこまで自信があるのなら任せようと、俺はそこで考えを打ち切った。
「『スターシーカー』使う?」
「大丈夫だよ。ユークも馬鹿じゃないだろうし、任せてみよう」
心配そうなノノに、俺はそう言って笑い掛けた。
◆
冒険者ギルドに到着した俺達は、ちょっとドキドキしながらその扉をくぐった。
LIVEは起動中である。
「へぇ! こんな感じなのか!」
思わずと言った様子で、ケインがきょろきょろと見渡す。
受け付けと思われる場所には職員が並んでおり、壁には依頼書らしき羊皮紙が貼られている。
酒場も併設されているようで、食事をしている冒険者も見られた。
「ロクトのギルドと比べると、少し乱雑に見えますね」
「そうだね」
なんと言うか、単純に散らかっている。
テーブルの上にある使用済みの食器は食べたままになっているし、なんなら所々にゴミも散乱している。
ロクトでこんな事をすると、掃除のおばちゃんにEXスキルをお見舞いされるだろう。
「取り敢えず、受け付けに話を聞いてみましょうか」
ギアに促される形で、俺達は受け付けへと近づく。
すると、気付いた冒険者達から俺達へ一斉に視線が注がれた。
俺達ってそこまで目立つのか?
「ようこそ冒険者ギルドへ。ご依頼でしょうか?」
俺が呼び掛けるより早く、受け付けのお兄さんから挨拶された。
若干疲れているように見えるけど、忙しいのかな。
「いえ、責任者に話を聞きたくて。これハーディ男爵の――――」
「おい、てめぇら!」
要件を話そうとした俺の言葉を、男性の大声が遮る。
見れば冒険者だろうか、厳ついスキンヘッドの男性がこちらに詰め寄って来ていた。
210:冒険者@水の精霊の加護(ロクト)
来たか…!
211:冒険者@火山の精霊の加護(レーヴェ)
これはテンプレだな?
何やら期待のコメントが流れているが、当然期待に応える気などない。
出来るだけ刺激しないよう、静かな声で問い掛ける。
「なんでしょうか?」
「ゴッヘルが世話んなったみてぇだな!」
誰だゴッヘル。
困惑と共にユークを振り向けば、解っているとばかりに頷いた。
226:破壊者@熱砂の精霊の加護(ドレアス)
俺が考えたテンプレの回避方法を見せてやろう
よく解らんが凄い自信だ。
逆に不安になってくるのは何故だろう。
ここに来て止めようか迷う俺だったが、ユークの行動の方が一瞬早かった。
「ヘイ、ブラザー! そんなに怒んないでくれYO! こんな天気のいい日はGO・KI・GE・Nに行こうぜ! おっと、これは太陽じゃなくてブラザーの頭だったかHAHAHA!」
―――…ユークは男と肩を組み、男の後頭部をペシペシ叩きながら、陽気な声でそう言った。
◆
―――俺の目の前では、ギルドに居た冒険者達が全員地に伏せ、ギルド職員などの非戦闘員は物影に隠れて震えている。
テーブルは倒れ、そこに乗っていたであろう料理や食器が散乱し、まるで竜巻にでも遭ったのかと言うほどの惨状だ。
「…ごめん。『スターシーカー』必要だったね…」
その中心で立ち尽くすユークを見ながら、俺はノノに謝った。
「おかしいな。陽キャのノリで行けば仲良くなれるはずなんだが…」
すげぇな。アレで少しでも行けると思ったのか。
あと多分、ユークは陽キャを何か勘違いしてる。
299:冒険者@火の精霊の加護(オーメル)
テンプレの回避方法が斬新過ぎる
300:冒険者@影の精霊の加護(メフィーリア)
結局これってテンプレ回避出来たの?
出来てないんじゃないかな。
あの後、激高した男性冒険者がユークに殴りかかり、ユークに反撃されてノックアウト。
そして男性に加勢しようとした冒険者達も、止めに入った冒険者達もまとめて薙ぎ払らわれた。
絡んで来た冒険者に力を解らせる的な流れをテンプレと言うのであれば、結果的に力を見せつけているわけで。
「まぁ、こうなる気はしていましたが」
ギア君、そう思ったなら早めに教えて欲しかったよ。
インベントリから出したポーションをフラウ達に渡しつつ、小さく溜息を吐いた。
…そう言えば、ウェインが作戦を破壊されたって言ってたな。
元々やらかすタイプだったっぽいのを忘れてた。
ちなみに、俺達は巻き込まれるのが嫌でずっと静観していた。
と言うか殴り合いが始まった時点で、もう止まらないだろうと諦めた。
オロオロしていたローナとナイアには後でユークから謝らせようと思う。
それと、ハーディ男爵やロッシュには胃薬でも渡した方がいいかもしれない。
「なんの騒ぎだこれは!?」
二階から、怒声と共に降りて来る男性の声。
色黒で金髪を後ろで縛った、体格のいい中年男性だ。
「ギ、ギルマス!」
ギルマスかよ。
このタイミングで顔を合わせたくなかったんだけど。
「何があった!? 誰の仕業だ!!」
「「「「「この人がやりました」」」」」
俺達は迷う事なくユークを売った。




