表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
城塞都市ドレアス騒乱
62/147

第42話~第43話 幕間3 ロクトの王女

「ほう。そりゃ面白いな」


 王座に深く座り直し、ゼペスは足を組んだ。

声は楽し気で、しかし物騒な笑みを浮かべている。


「何人かその域に達しましたが、みんな違う能力ですね」


 ゼペスと話しているのはクラウスだ。

横にはヴィスターとアサカを伴っている。


 クェインは別件で外しており、この場にはこの四人だけだ。

王が護衛も無く会話しているなど、普通は有り得ない光景である。


「へぇ、どんなのがある?」

「妻は一時的に力を引き上げる能力。フドウさんは斬撃を無効化する能力でしたね」

「よし、アサカ、俺を全力で斬り付けてみろ」

「何言ってんだアンタは」


 わくわくした顔で言うゼペスに、クラウスも雑にツッコんだ。

一国の王に斬り掛かれとはかなり狂った提案である。


 ちなみに、アサカもわくわくした顔で剣を抜き掛けていた。


「俺達で言うEXスキルや固有魔法みたいなもんか」

「50レベルで得た特殊能力って言うのも似た印象を持つ一因ですかね。これがオーガ固有のものなのか、この世界の存在は全員そうなのかは解りませんが」


 へぇ、と言いながら、ゼペスは手に持っていた瓢箪に口を付ける。

レーヴェから手土産として受け取った清酒だ。

プレイヤーの誰かが日本酒を再現して作ったものである。

最近のゼペスのお気に入りでもあった。


「よし、引き続きオーガ達の訓練を進めろ。100レベルになったらまた覚えるかも知れねぇだろ? 能力の詳細報告はいらねぇ。あとで体感してくるからな」

「アンタはそこに座ってろ」


 どうせ聞かないだろうと思いつつも、クラウスは釘を刺しておく。

クェインがこの場に居ないのも、監視の目を緩める為に仕事を押し付けたのではと邪推してしまう。


「じゃあ、俺はまたオーガ達と騎士団の一部を連れて探索に行くって事でいいんですね?」


 ここ最近のクラウスの仕事は、オーガや騎士団の訓練を兼ねた浮遊大陸の探索である。

オーガの件以降、冒険者と言うよりは半ば城の人員として扱われていた。


「おう。面白いもん見つけたらすぐ報告しろよ」

「はいはい。じゃぁ、俺は帰りま―――」

「あら、クラウス様はもう帰ってしまいますの?」


 うわ出た。

思わず口にしそうになったそのセリフを、クラウスは全力で飲み込む。


「これはセリーナ様。本日も大変麗しゅうございます」

「まぁ…ふふっ、お上手ですこと」


 上手く取り繕った。

そう思ったと同時、頬を染めるセリーナを見て噂は本当だったかと頭を悩ませた。

曰く、マジで見境が無いだとか、生きた心地がしないだとか。

すでに既婚のクラウスに対してもこの態度である。

 セリーナの後ろから付いて来ていたタニアも、こめかみに指を添えて頭痛に耐えているようだった。


「初めまして。私はクラウスのでアサカと申します。どうぞよろしくお願いしますね」


 妻の部分にアクセントを置きつつ、アサカはクラウスの腕を取る。

状況を見極めてからのこの反応速度はさすがである。


「あら、ご丁寧に。わたくし、セリーナ・ロクト・ラナクイアと申します。仲良くしてくださいましね」


 そうは言いながら、セリーナとアサカの間には冷たい空気が流れている。

クラウスからすればセリーナの固有魔法を発動しないか、あるいはアサカにあとで何と言われるか…冷たい空気が無くても肝が冷える思いであった。


「「はぁ…」」


 溜息を吐いたのはタニアとヴィスターの二人だけであり、ゼペスはニヤニヤとそれを眺めるのだった。





「セリーナ様…クラウスはもう既婚ですよ」

「解っていますわ、そんな事」


 あの後は比較的穏やかに別れる事が出来た。

そこにはタニアの機転があったからでもあるが。

クラウスが帰ってしまうのを見送ると、ゼペスに用は無いとばかりに部屋へ引き返したセリーナである。


 解っているだろう事を敢えて指摘してみても、目の前の王女はどこか楽しそうに返事を返すだけだ。


「以前集まった『二つ名持ち』にも思わせぶりな態度を取ったと聞きましたよ?」

「思わせぶりとは何かしら? 楽しくお喋りしただけですのに」


 セリーナは独特な感性を持っている。

こうして話してみても、タニアには理解出来ない事が多い。


「…まぁ、とにかくご自重くださいませ」

「ふふふ、良く解らないわ」


 そうして笑う姿は、明らかに道化の態度だ。

言っても無駄と察したタニアは、一礼すると部屋を出て行った。


「本当に…解らないわ、貴方の気持ち」


 そう言ってセリーナは、自分の化粧台の引き出しを開ける。

中にあるのは、鍵の付いた複数のアルバム。


「『ジュエル持ち』を前にして、どうして平静でいられるのかしら?」


 うっとりとした表情で呟き、アルバムを開けば――――。


 そこには、大勢の『ジュエル持ち』を隠し撮りした写真。

ロクト所属の『ジュエル持ち』だけじゃない、ロクトへ訪れた『ジュエル持ち』を全て網羅する夥しい量の写真が収められている。


「一人でも多く、傍に置きたいと思うのは当然ではないの?」


 誰に言うでもない、彼女の本音が零れ落ちる。

魔物の脅威に晒され続けた世界にとって、『ジュエル持ち』は希望の光。

救いをもたらす救世主。


「クラウス様は結婚されてしまったけれど…まぁ、奥方ごと頂いてしまいましょう」


 くすくすと笑う姿は可憐であるが、この彼女を見た時、一体何人が可憐と感じるだろうか。


「そう言えば…ヴィオレッタ様が帰っていらしたのよね。ああ、王宮にいらっしゃらないかしら」


 それは恋と呼ぶにはあまりに歪。


「ベガ様とアイラ様はレーヴェに行ってしまわれたのよね。レイ様もユーク様もまだ戻られないし……。早く会いに来てくださらないかしら」


 愛と呼ぶにはあまりに熾烈。


「早く世界を――――私を救って」


 ヴァンパイアの姫は、今日も焦がれている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ