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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
ロクト王国とオーガの里
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第4話 接触

 周辺の警戒をしながら、焚火に枯れ木を足す。

警戒と言ってもミニマップを確認しているだけなので、大した作業ではない。

 クラウスとヴィスターはテントで眠っている為、今は俺とフラウが警戒に当たっている。

っていうか、テント一つしかないんだけど……俺とフラウって一緒に寝るの?


「本当に不思議な森ですね」

「…そうだね」


 内心の焦りを表に出さないように注意しつつ、俺も辺りを見回す。


 いい加減見慣れてもいい頃だが、改めて考えるとやはり不思議な気持ちになる。

時間は22時を過ぎた頃……この世界の一日が24時間かどうかは確定していないが、日の出や日の入り、星の動きを観測していた者によれば、大きなズレはないだろうとの事だった。


 深い森の夜ともなれば真っ暗になるはずだが、ぼんやりとした光に包まれている。

さすがに昼間ほどではないが、肉眼で周囲を認識出来る程度には明るい。

日の入り直後ぐらいには明るいんじゃないかな。


「ここはどう言った世界なんでしょう?」

「他の国ではちゃんと夜になってるらしいし、ロクトの場所が特殊なんじゃないかな」

「例の精霊機で聞いたんですか?」

「うん」


 精霊機を使って、各国の情報等が毎日やり取りされている。

ファンタジー世界でインターネットというのも変な気分だが、実際にやってる事はそんな感じだ。


 精霊機は『ジュエル持ち』……つまり、プレイヤーにしか使えないようで、フラウが見ても真っ黒い画面としか見えないらしい。

 ちなみに、彼女にはメニューを開くという事も出来ないようだ。

そう考えるとプレイヤーがどれだけ特殊か解るというもの。


「レイはすごいですね。不安は無いんですか?」


 フラウには俺が落ち着いているように映ったらしい。

正確には、この後の休憩を考えて結構動揺しているのだが。


「全く無いとは言わないけど……見知らぬ土地を冒険するって意味じゃ、前の世界とそう変わらないかなって」

「環境が変わっただけ、ですか。……確かに」

「フラウは不安?」


 問いかけてみれば、フラウは髪を耳に掛け、悩んだ素振りを見せる。

最近気づいた事だが、フラウは何か考え事をする時、髪を耳へと掛ける。

その動作がなんとなく印象に残り、ついつい見惚れてしまう。

火に照らされる彼女の顔は、さすがと言うべきか正に美少女。

伊達に俺好みにしていない。

 半分見惚れながら返答を待つと、フラウは少し俯き、形の良い唇で言葉を紡ぐ。


「不安は不安です。でも、その……レイがいるから、怖くはないです」


 よし、可愛い。

俺から顔を背けて呟く姿の、なんと可憐な事か。

耳まで赤いのが高得点だ。


 俺まで顔が赤くなるのを自覚しながら、思った事を口に出してみる。


「…フラウ、落ち着いたらこの世界を見て回ろうか。えっと……二人で」

「……はい、いいですね」


 これは実質ハネムーンと考えていいのではないだろうか。

ハネムーンですよ、ハネムーン。

童貞なのにハネムーンの予定が立ってしまった。

いや、先に婚姻だろうか。


 頭の中がグチャグチャし出した辺りで、一度大きく息を吸う。

イカン、落ち着け。フラウ可愛い。


「…照れてます?」

「…少し」

「…ふふ」





「……ちゃんと眠れたのか?」


 クラウスが俺の様子を伺うように尋ねる。


 休憩時、結局フラウと同じテントで休む事になった。

あの空気の後で同じテントとか、童貞にはハードルが高い。

別に何かあったわけではないのだが、寝付けるはずもなく……。

まぁ、フラウの寝顔を合法的に眺める事が出来たと思えば安いものか。


「問題ないよ」


 今、俺達はヴィスターの誘導の下、ゾンビ達の通って来た道を辿っている。

ヴィスターは時折地面の匂いを嗅ぐぐらいで、全く迷う事なく歩いていく。

 気になる所と言えば、ゾンビは散々彷徨いながら歩いてきたのか、あっちへ行ったりこっちへ行ったりとどこかへ向かっているような様子ではない事か。


「ゾンビってさ、五感で周りを認識しているわけじゃないのかな?」


 思っていた事を口に出してみる。

出会った時、随分と遠くからこちらに敵対反応を示していた。

目で見えるような状況ではなかったし、匂いや音と言うにも少し無理があるように感じていた。


「まぁ、目や耳も腐ってそうだしな」

「なら、どうやってこっちに気付いたんだろうね?」

「解らんが、魔力や生命を感知する能力があるのかもな」

「これからもそう言う相手がいるかもって事か」


 単なる世間話のようであるが、俺にとっては割と重要な事だ。

意図を察したのか、フラウも思案気にこちらへ目を向けている。


 匂いや音、魔力反応、生命反応……これらには注意しないといけない。

俺が使う魔法は、光の精霊に属する色彩の精霊の物。

視覚はいくらでも誤魔化せるのだ。

 ただし、それ以外となるとそうはいかない。

敵がどうやって相手を察知しているか…これを事前に把握出来るかは大きな課題になりそうだ。


「ん? ヴィスター、どうした?」


 クラウスの声でヴィスターの様子に気付く。

茂みに頭を突っ込んで、尻尾をフリフリ。

……何か引っ張り出そうとしてるのかな?


「わふ!」

「これは…」


 少し傷んでいるが、どうやら革製のバッグらしい。

ゾンビの臭いを辿って来た場所にあるということは、彼らの生前の持ち物だろうか。


「中身は……短剣に保存食に謎の薬品、あとは地図、か?」


 かなり大雑把なものではあるが、どうもこの森の地図らしい。

保存食はすでにダメになっているのか、カビが生え始めている。

薬品の方は見ても解らないが、冒険に持ってくる物と考えればポーションの類だろうか。


「短剣の方は何か刻印がありますね」

「もし村のような場所があったなら、遺品として返した方がいいかもね」

「地図……これ、多分村の場所も書いてあるんだろうが、文字は読めないし現在地も解らんな。ヴィスター、結局お前頼りになりそうだ」

「わん!」


 俺も地図を横から覗いて見るが、訳の分からないグニャグニャした文字となんとなく目印になりそうな表示がいくつかある。

クラウスの言う通り、現在地が解らないと使用は難しいかもしれない。


 ……いや。


「あのさ……地図を買うとマップに反映されるよね? これはどうなんだろう?」

「言われてみれば……ちょっと見てみるか」


 ゲーム内であれば、地図を買う事でメニューから開くマップにも影響が出る。

行った事の無い場所であっても、買った地図周辺が表示されるようになるのだ。

 あとは、地図化と言って、自身の行った事のある場所を地図としてアイテム化出来る。

紙が必要になるが、これを他のプレイヤーに渡す事によってマップの共有が出来るのである。


「ああ、地図の目印になってた場所だけ表示されてるな」


 マップを見れば、大きな木や木に付けた目印など、先ほどの地図に書かれていた内容が反映されている。

道筋こそ解らないが、どこに目印があるのかが解れば向かう方向も特定出来ると言うものだ。


 更に――――。


「村も表示された。オーガの里、ね」

「アレはオーガで確定か」


 目的地は定まった。


「オーガ、ですか? 私たちの世界の存在とは随分違いますね」


 エレメンタルワールドでは魔物扱い…意思疎通も出来なければ、里なんてものも作る事は無かった。


「名前が同じってだけで、『EW』での存在とは別って考えた方がいいかもね」

「なるほど」


 他のゲームでは亜人として扱われている事もある。

だから、俺達プレイヤーにとっては驚く事ではないのだが、フラウ達にとっては中々出てこない発想だろう。


「里を作るような相手なら意思疎通も可能か?」

「言語が一緒ならね。…この地図を見てるとちょっと不安だけどさ」


 書かれている文字は全く知らないもの。

とは言え、『EW』の世界でさえ、当然の如く見知らぬ文字が使われている。

なのに日本語でフラウ達と会話出来ているのだと考えれば、全く可能性が無いわけじゃない。


「まぁ、行ってみるしかないな」

「だね」





 目印などは無視して、オーガの里とやらに一直線に向かっていた時、ミニマップに異変があった。


 中立、つまり緑色の点が三つ。

しかも、二つと一つとで激しく交差している。


「これって戦闘中?」

「かもな。急ぐか?」

「どうかしましたか?」


 フラウにも事情を説明しながら、小走りでそちらへ向かう。


 足の速い俺が先行しようかとも思ったが、何がいるか解らない以上、無理をするわけにはいかない。

ここまで深い場所へ来たのだから、今までにない強敵とも考えられる。


 にしても、もし戦闘中であるなら、ミニマップで赤表示になるタイミングは『俺や仲間に対して攻撃の意思がある』状態と言える。

 今後はそう考えて動けそうだ。


「戦闘音が聞こえてきましたね」

「……魔物の鳴き声と金属のぶつかる音。こりゃ、当たりか?」


 ようやく視認出来る所まで来てみれば、片方は武装した二人組。

もう片方は――――。


「ヒュドラじゃないか。今までの奴らと比べると一気に強くなったね」

「レベルは低い個体みたいだがな」


 言われてレベルを確認すれば、レベル40となっている。

エレメンタルワールドでは60~70レベルの魔物だったと考えると、随分弱い相手だ。


 問題は戦っているもう一方の側。

 男性と女性の二人組で、男性の方がガロウ、女性の方がアサカ。

ガロウはレベル25、アサカがレベル23だ。


 『EW』の常識で当てはめれば、レベルが20離れた相手にはパートナーを含めて六人は欲しい。

50レベルを超えて来るとその辺りは変わってくるが、彼らのレベル帯で当てはめれば相当無茶をしている。


「助けた方がよさそうだね」

「ああ」


 言うが早いか、クラウスが一気に駆け出すと、ヒュドラを後ろから斬り付ける。

正にバッサリ。

真っ二つに割られたヒュドラは、一撃で地へと崩れ落ちた。

また出番が無かったじゃないか。


 とは言え、レベル111のクラウスとレベル40のヒュドラだ。

相手になるわけがない。


「な、なんだ!?」

「ヒュドラが一撃……!?」


 俺達としては当然の結果、だがガロウやアサカにとってはそうはいかない。

特に、彼らのレベルは20程度。

自分達より格上な相手を一撃で倒すとなれば、それは驚くと言うもの。


「怪我はありませんか?」


 そんな二人に優しく声を掛けるフラウ。

隣にはハッハッ、と息を荒くしているヴィスターが居る。


「こんな所に人間が何の用だ?」

「アサカ、相当な手練れだ。一度退くぞ」

「あー、敵対する気はないので話を聞いて貰えませんか?」


 二人の様子を伺いながら声を掛ける。

逃げられては困るのだ。

ようやく出会えた、この世界の住人なのに。

という訳で、退路に立たせてもらう。

 立ち去ろうとして振り向いた二人が、俺を見て大層驚いていた。

まぁ、知らぬ間に囲まれていたら驚くよね。


 それはともかく、問題はこの二人。

言葉が通じるのはいいが、頭には角。

ガロウが二本、アサカが一本。

例のゾンビと同じ種族なのだろう。

 俺の知るオーガは体長3m以上。

だが、ガロウは180cmぐらい、アサカは170ほどと言った所だろうか。

角がある以外は人間と変わらないように思える。


「……ちっ!」


 我に返ったガロウが、俺に向かって武器を振る。

大きな鉈と言った形で、斬るよりも叩き潰す為の武器だ。

そんなものでいきなり斬りかかるとはなんとも……。

 この世界の人間はオーガと敵対しているのかな?

などと余計な事を考えつつ、引き抜いた短剣で鉈の軌道を反らす。

100近いレベル差を考えれば、この程度は造作も無いわけで。


「くっ! アサカ、逃げろ!」

「しかし!」

「お前を死なせては長に面目が立たん!」


 そんなやり取りを横目で見つつ、クラウスに問いかける。


「これ、どうしようか?」

「どうしようって言われても……」

「あの! 話を――――」

「行け! アサカ!」

「お前一人を置いて、おめおめと逃げ帰れるか!」


 なんかちょっとカオス。

俺達とオーガとで温度差が凄い。


 そんな中、一番冷静だったのは――――。


「わふ!」


 俺とガロウの間に躍り出たヴィスターが、先ほど手に入れた短剣をガロウの前へと置いた。


「わんわん!」

「!? ……その短剣……」


 どうやら、少しは話を聞いて貰えそうだ。

グッジョブ、ヴィスター。犬とか思ってごめん。


「敵対する意思は無い。その短剣を見つけた経緯を含めて、話がしたい」


 クラウスが場を纏めれば、二人は顔を見合わせ―――小さく頷いた。





 ちょっとした自己紹介を済ませ、ガロウとアサカにゾンビとの一件から荷物を見つけた経緯を説明し、ようやく場が落ち着いた。

 今は焚火を囲みながら、フラウと俺とで軽食を準備している。


「兄上……」

「親父も、か」


 どうやら、ゾンビとして出会った二人はガロウの父親とアサカの兄であったらしい。

狩りに出たまま、一月以上帰って来なかったらしく、ここ最近はガロウとアサカで二人を探していたそうだ。


「すまん、ゾンビ化していたとは言え、二人の身内を斬ってしまった」

「それは仕方がないだろう。俺達だって、出会っていたら同じ事をした」


 クラウスが苦々しい顔を隠さない。

というか、元々人間だった存在を斬ったのだから気分は良くないだろう。

それに対して、ガロウは攻めるでも無く、理解を示してくれる。


 ここまでの会話で解った事と言えば、オーガは十分に知性的で、会話が成り立つと言う事。

俺達と比べて、そう大きな違いは感じられない。


「……お前達の目的は?」


 ガロウは少し打ち解けてくれたようだが、アサカの方はそうでもないらしい。

まだまだ警戒の籠った目で、俺達の様子を伺っている。


「先に一ついいかな? 君達は人間を随分警戒しているようだけど、敵対でもしてるの?」

「よくもまぁ、そんな事が言えたものだ」

「やめろ、アサカ」


 どうやら、根の深い問題らしい。

まぁ、新参者の俺達にしてみれば心当たりの無い話だが。


「信じて貰えるかは解りませんが、私達は別の世界から来た人間です。こちらの世界の常識には疎いので」

「えっ」

「ちょ…」


 どう話したものかと悩んでいた内容を、フラウがいとも簡単に発して見せた。

普通信じないだろ、という突っ込みを入れる間も無く。


「別の世界? 何を言っている?」

「私達が居たのは、精霊達によって作られた世界で、『EWエレメンタルワールド』と言います。一月ほど前に、突然、国ごとこちらの世界へ転移してしまったのです。なので右も左も解らず、この世界の事を調べていたんです」

「……それを信じろと?」

「信じて貰えるとは思っていませんが、それ以外に説明のしようもありません」


 フラウと二人のやり取りを見ながら、それぞれの前に食事を並べて行く。


 今日のメニューは魔物の肉を挟んだサンドイッチと焼きおにぎり、コーンスープにレーヴェコーヒーである。

どれもこれも『EW』では良く見る食事であり、現実の食事と比較しても遜色がない。

味も保障出来るし、ステータス強化も出来る優れもの。


「…これは?」

「ん? 食べながら話そうと思ったんだけど…」

「そうではなく……どういう料理だ?」


 ガロウが訝し気に料理を見つめる。

素材は魔物由来の物もあるが、別段変わったものではない。

と、そこまで考えて、もしかしたら魔物を食べると言う習慣が無いのかもしれない、と気付く。


「こっちの世界では魔物は食べないとか?」

「そんな事は無いが……これは魔物を使った料理なのか?」

「この手の料理自体、初めて見るんじゃないか?」


 なるほど、物珍しさから尋ねたって事か。


「こっちのパンに具を挟んでいる食べ物は、サンドイッチって食べ物だよ。手で食べるから一緒に用意した手ぬぐいで手を拭いてから食べるようにね。具はマンドラゴラの葉と三日月草、ヌエの肉を挟んで、調味料で味付けしたものだよ」

「ま、待て。マンドラゴラだのヌエだの…本当なのか?」


 ん? と思って、二人のレベルを思い出す。

マンドラゴラはレベル30ぐらいで、ヌエは60ぐらいだったか。

さっきのヒュドラを思えば、俺の知っている魔物と同じレベルかは知れないが、まぁ彼らのレベルなら苦戦するか、逃げるかする相手なんだろう。


「俺達の世界ではよくある料理だ」

「君達はオーガでいいのかな? ひょっとして食べられない食材でもあった?」

「いや…食べた事自体が無いから、なんとも言えん。人間が食べられる物なら食べられるはずだ。それと、俺達はオーガで間違いない」

「お前達の言う人間ってのに、俺達は会った事が無いんだがな」

「俺達と違ったらどうしようね」


 クラウスとガロウと、男三人で話を進める。

アサカは相変わらずの表情で、フラウはそれをそっと覗き込んでいる。


「他の料理も俺達の世界の素材で作った物だ。毒見が必要なら一口食ってみせようか?」

「いや、いい。…さっきの戦いを見れば、毒を盛らなくても俺達を簡単に殺せるだろう?」


 これは頷いてもいいのだろうか。

実際、レベル20程度素手でも余裕だが。


 ガロウは一瞬躊躇ったように見えたが、それでもサンドイッチを掴むとガブリ、と食いついて見せる。

それが諦めの気持ちか、あるいは少しでも俺達を信じてくれたのかは解らない。


「―――美味い! こんな料理は初めてだ!」

「……本当なの? 私はどうしても信じきれないのだけど」


 ガロウはよっぽど気に入ったのか、アサカの問いに頷くだけで、どんどんとサンドイッチを口へ運ぶ。


 オーガの寿命は解らないが、ガロウは30代ぐらいで歴戦の猛者と言った風貌をしている。

黒い髪に赤い目、無精髭がワイルドさを感じさせる。

好みはあるだろうが、日本人の感覚で言えばモテそうな印象である。

 アサカはキレ目の美人と言った感じで、こちらも大層モテそうな見た目をしている。

白い髪に青い瞳、白い髪は後ろで束ねられており、戦闘時に邪魔にならないようにしているのだろう。


「気に入って貰えたなら何よりだよ」


 そう言って、俺もサンドイッチにかぶり付く。

ゲームの食事がそのまま食べられるのは有難い。

マズい食事で済ますと言うのは日本人的に辛い所だからな。


 アイテムボックスに保管していた食べ物が、異世界に来てからも大活躍である。

これは俺に限った話ではなく、多くの冒険者が口に出していた事だ。

アップデート前に食材関連のクエストがあり、そこで多くのプレイヤーが様々な食材を手に入れていた事が、今の状況に響いている。


「………あむ」


 俺達も揃って食事を始めた為か、アサカも諦めてサンドイッチに手を出した。

途端、目を見開いて咀嚼し出す。

……どうやら気に入ったらしい。


「食べながらで構わないが、先ほどの話を教えて貰えないか? オーガと人間は敵対しているのかどうか」

「……ゴクン。敵対と言うよりは、人間が他の種族を認めていないのだ。見つければ殺すか奴隷にするか。お前達の言う事を信じた訳ではないが、普通の人間であれば食事を与えるような事はしないし、先ほど対峙した時に殺されていただろう」

「まぁ、殺すか捕らえるかするのが普通ね」


 ここの人間は排斥的な思考を持っているらしい。

これは、他の種族と接触する時にも注意が必要だな。

後は、人間自体に接触する時にも。


 アサカが意を決したように、クラウスに向き直る。


「お前達が普通の人間と違うのは確かだ。だが、違う世界から来たなどと言われても信じられるわけがない。だが――――」

「だが?」

「剣を交えれば、その者の在り方や生き様が見えて来るものだ。クラウスと言ったな? 私と戦え」

「えっ」

「私が見極めてやる」


 返答に困ってこちらを見るクラウス。

こっちみんな。

 どうやらオーガ族は脳筋の気があるらしい。


「いいんですか? あれ、放っておいて」

「命の取り合いにはならないよ。それで納得するんならいいんじゃない?」

「わふ」


 ご主人の状況を理解しているだろうに、ヴィスターでさえ静観の構えだ。

俺はガロウの方へ向き直り、そちらへ訪ねる。


「ガロウはどうする?」

「俺はいい。お前と打ち合ってすぐ察したよ。どうあがいても勝てないほど、力に差がありすぎる。願わくば、アサカにあまり怪我をさせないで欲しい。気は強いが、それでも里長の娘だ。兄であるヤマトが死んでしまった今、里長の子はアサカだけなんだ」


 責任重大だね、クラウス。

まるっきり他人事で、俺はクラウスに視線を向ける。


 とはいえ、心配はしていない。

クラウスが負ける事はまずないだろうし、何よりプレイヤーに備わっている能力はまだあるのだ。


 手加減攻撃。

相手を捕らえる時に使用する攻撃手段で、HPが0になる攻撃でも、必ずHPが1残ると言う物。

こちらの世界に来てからも試してみたが、身体に傷が付かず、HPだけにダメージが入る優れもの。

 異世界に転移してからは様々な検証が行われ、人間なんかと戦闘になった時には、後腐れないように手加減攻撃をするよう推奨されていた。

これを使えば、まず死なせるような事は無い。


 魔物もHP1では瀕死状態らしく、ロクに動けはしない。

ここもプレイヤーとは大きく違う点だ。

俺達はHPが1だろうが、全力疾走だって出来る。

0になったら死ぬんだろうが、死ぬ直前まで超元気なのである。


「本当にやるのか?」

「当然だ。己の言い分が正しいと言うなら、己の剣で証明してみせろ」


 あちらは随分と熱くなっている。

それぞれ食事は終わっていたようで、フラウが食後のお茶を入れてくれていた。

完全に観戦モードに入っている。


「解った……」


 諦めたようにクラウスが立ち上がると、アサカは武器を構える。

見た所、大剣と言うよりは大きな刀と言った様子。

軽々と構える所を見るに、見た目よりもSTRのステータスが高いのかもしれない。

まぁ、デカくても軽い武器なんて珍しくもないが。


 対するクラウスの武器は刀。

現実で考えれば一撃で叩き折られそうなそれだが、刀に使われている素材を考えれば実際に折られるのはアサカの武器だろう。

 正確な所は知らないが、アダマンと言う硬さに定評のある鉱石と、何かの魔物素材を合成して作った代物だろうと予想出来る。

装備のレベルからして違い過ぎる。


「行くぞ!」


 アサカが大きく踏み出し、クラウスに接近する。

対するクラウスは刀を抜いて、その動きを観察しているように見える。

カウンター狙いか?


「やあああ!」


 掛け声と共に、大きな刀が振り下ろされる。

刹那の間に、急接近したクラウスが左手でアサカの腕を掴む。


 結果、アサカの腕はクラウスによって止められ、武器が振り降ろされる事は無かった。

同時に、クラウスの右手にある刀が、アサカの胴体に突き付けられている。


「勝負有りだと思うが、どうだろうか?」

「……お前、手を抜いたな?」

「抜かれたくないのなら精進しろ。あまりに力量差がありすぎる。…それでも挑んできた心意気は買うけどな」


 あいつ、何カッコ良さげな事言ってんの?

あとで他の奴らにも報告しておこう。

きっと楽しい黒歴史が誕生するはずだ。


「…それでも、相手はしてくれたのね。いいわ、信じてあげる」

「いいのか?」

「ええ。オーガは強者に敬意を払うものよ」


 やっぱり脳筋じゃないか。


「話がまとまったなら、こちらの事情を伝えたいんだけど。それと、この世界の事についても色々知りたい」

「私達だけで聞くより、ギルドの代表に会って貰った方がいいのでは?」

「いや、待ってくれ。死んでしまった二人の事を里長に伝えたい。一度里に戻りたいのだ」


 そう言えばそうか。

彼らの目的は最初からそれなのだから。


「なら、改めてどこかで待ち合わせるか? 里についていくと問題もありそうだし」

「さっきも言ったわ。強者には敬意を。力試しに挑まれるかもしれないけど、私達から説明すれば問題ないと思うわ」


 そう言ってクラウスの腕を取るアサカ。

……何あれ? なんかフラグ立ったの?

アサカの表情も、先ほどとは打って変わって女のソレに見える。


「お、おう」


 クラウスは童貞だ。

童貞だと信じてる。

だからこそ、彼の反応にも共感出来る。

俺もフラウと腕組みたい。


「そういうことだ。里長には俺から説明しよう。遺品を持ってきてくれた恩人であることには変わりない。歓迎させてもらう」


 そう言って、ガロウは立ち上がった。

俺達も食器類などを片すと、それに続いて行く。


 さて、ここからが本番か。




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