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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
レーヴェ共和国とオーク
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第32話~第33話 幕間2 それぞれの楽しみ方

 ヴィオレッタは足元に落ちていた壺の欠片を手に取り、それを光に照らしてみる。

禍々しかったであろう装飾とべっとりと付いた赤黒い何かに、わずかに顔を顰めた。


「それは、悪魔が出て来たと言う壺の欠片だな。見て何か解るのか?」


 一緒になって壺の欠片を見ているのは、『死神グリムリーパー』ランゼンである。

レーヴェの技術者やロクトの冒険者達が集まり、改めて洞窟内を見分中なのであった。

 そんな中、『破壊者』が空けた大穴を覗き込んでいたヴィオレッタが、ひょいっと飛び降りたのを皮切りに、何人かもこの場へと降りて来ている。


 ここは、レイと悪魔が戦った場所だ。


「……コール、『EW』の悪魔については詳しいかい?」

「わたくしは魔人ですが」


 コールが魔人である事など、ヴィオレッタ自身が作った存在なのだから当然知っている。

しかし、魔人とは人と悪魔の混血。

ヴィオレッタの知らない情報を持っているかもしれないと、念の為尋ねてみたのだ。


「そうですね…。『EW』の悪魔は人の負の感情から産まれます。そして、人を堕落させ、そこから産まれた負のエネルギーを主食としているのです」


 コールの説明を聞きながら、ヴィオレッタは悪魔が消えたであろう辺りを調べ始める。

地面が大きく割れており、派手なスキルを使ったのだろうとすぐに推察出来る有様だ。

 レイの性格をよく知るヴィオレッタからすれば、フラウに手を出そうとした時点でこうなる事は予想済みであったが。


「時に人を食らう事もありますが、本質的にはその時に生まれた恐怖を食らっています。人の感情から産まれたと言う事もあってか知能が高い者も多いですね。分類としては魔物、発生の条件を踏まえれば、ゴーストに近い存在と言われています」


 勿論、精霊の加護を受け人と共に存在する悪魔も居るが、それは例外中の例外だ。

そして、コール自身、その例外から産まれた存在でもある。


「『血の悪魔・スペルデュス』……。これ、種族名だと思うかい? それとも個人名?」

「さぁ…そもそも、この世界の悪魔についてを存じ上げません」


 それまで、あまり興味無さげに聞いていたランゼンだったが、今の言葉は聞き逃せなかった。


「ネームドだと言いたいのか?」

「155レベルだよ? 有り得る話じゃないかい?」


  ネームド。

固有の名前を持つ魔物の事をこう呼ぶ。

殆どがレアモンスター、あるいはイベントボスであり、同じ種族の魔物と比較しても数倍の戦力を持つ強力な個体だ。


「ねぇ、コール。『EW』では、悪魔を殺した後って消えていたかな?」

「ええ、露と消えますね」


 ゲームとして遊んでいた時は、魔物の死体が残る事などなかった。

その認識がコールと同じか判断出来ず、ヴィオレッタはコールに尋ねたのである。

どうやら『EW』でも悪魔は死ねば消える存在のようで、今回の悪魔と同じと考えられた。


「と言う事は死んだ可能性はあるな」

「だね。…しかし、155レベルがこんなにあっさり倒せるものかな」


 死んでいないなら、今後も現れる可能性がある。

しかし、死んだならそれはそれで疑問点が残る。

155レベルに見合った相手であったか―――あの悪魔の映像を見た者は、十人中十人が『見合っていない』と答えるだろう。

『EW』であれば、100レベルの魔物の方が遥かに強い。


 この世界の魔物が弱いと言うのは以前から言われていた事だった。

だが、それはあくまで『レベルが低い』と言う意味合いであり、『レベルが高いのに、戦闘能力が見合っていない』と言うのは初めてのケースだ。

 ヴィオレッタに言わせれば、あまりに不自然。

なんらかの理由があるのではないかと考えてしまうのだ。


「悪魔が実力を発揮出来ていなかった、とかどうだろう?」

「それはどう言った理由で?」

「この空間に何かあるとか」


 そう言いながら、辺りを見渡して見る。

しかし、剥き出しの岩肌とすでに消えてしまった松明が壁に掛かっているだけだ。

これと言って不自然な様子も無ければ、ヴィオレッタ達、そしてコールにも特段異常は出ていない。


「シシー、君は魔物だったね。何か影響は?」

「何も無いよ。至って普通さ」


 ランゼンの肩に止まるシシーに問うも、答えは同じ。

ヴィオレッタは腕を組み、指をトン、トンとリズム良く打つ。


「気になるのは解るが、判断する材料が無さすぎる。現状で結論は出せないだろう」

「それはそうなんだがね。…私はてっきり、私達をこの世界に召喚した存在は、この悪魔達をなんとかさせたかったんじゃないかと思っていたんだよ」

「まぁ…ありそうな話ではあるな」


 ランゼンもLIVE越しに悪魔を見た時、同じ事を思った。

なんと言っても155レベルの存在である。

しかし、実際に戦いが始まってみればレイによって圧倒。

あの場に居たのが他の者であったとしても、同じ結果になっただろう。


「最後に『狂葬』のパートナーを転移させていたが、あれも意味が解らんな」


 人質にするなら解る。

だが、実際には無防備な相手を攻撃しようとしただけであった。

ランゼンには、そこになんらかの意味があったような気がしてならない。


「幾つか推測は出来る」


 そう言いながら、ヴィオレッタはコールを呼ぶ。

心得たとばかりにコールはヴィオレッタの後ろで膝を付き、ヴィオレッタがコールの肩へと座った。

そうして立ち上がれば、ヴィオレッタ専用移動要塞の完成である。

ゲーム時代でも良く見られた、ヴィオレッタの特等席がここであった。


 ランゼンはそれを見て自分で歩けと言い掛け、自分のパートナーも似たようなものである事を思い出し、口を挟むのを止めた。


「一つ、人の感情を食らうという話から、あの悪魔は空腹状態で思ったほどの力を出せていなかった。その為、フラウを傷つける事でなんらかの食事を行おうとした」


 人が寄り付きそうもない場所である。

食料が豊富とは到底言えないだろう。

 しかし、無いとは言わないが、ランゼンとしてはあまり賛成出来ない意見だ。

あの悪魔の様子を思い出してみても、空腹だったようには思えない。


「二つ、『血の悪魔』と言うぐらいだから、血を流させる事でなんらかの強化、あるいは魔法が使えた」

「そちらの方が有り得そうだな」

「しかし、ご主人。この場には血の溜まった壺があったよ? あれでは駄目だったのかな?」


 言われてみればと視線がそちらへ向く。

あれを壊したのは悪魔本人だ。

自分の力が弱まると解っていて壺を破壊するだろうか。

考えれば考えるだけ、ランゼンの中で悪魔の意図が解らなくなっていく。


「三つ、逃げようとした」

「逃げる? 『狂葬』のパートナーを呼び出しておいて、逃げる算段をしたのか?」


 まぁそう思うだろう、とヴィオレッタは小さく笑う。

とは言え、ヴィオレッタもただの当てずっぽうではない。


「実物を見られなかったのは残念だけれど、あの壺ってそこまで大きくはなかったようだね。悪魔が入っていたとは思えないほどに」


 LIVEの映像を思い出す限り、そこまで大きい壺ではなかった。

ヴィオレッタの目測でしかないが、それでも悪魔の方が倍以上大きかったように思う。

であれば、あの血の中に潜んでいた訳ではない。

いや、潜んではいたかもしれないが、それは物理的な方法ではないと考えられた。


「血を通路や転移門に変える力があると?」

「あの悪魔、レイ達を転移させてはいたけれど、自分が転移する事はしなかった。血がなんらかの条件だったんじゃないかな?」


 『EW』に存在する魔法でも、そう言った条件を持つ魔法は存在する。

二人もそう言った魔法を目の当たりにした事はあったし、それほど珍しい魔法ではない。


「お嬢様、壺に入っていた血を利用すれば転移は出来たのでは? 割れたとは言え、地面には広がっていたでしょう?」


 会話しながらではあるが、この場から移動する空気が流れている。

レーヴェの技術者達が梯子を取り付け、元居た場所への道を作っていた。

ヴィオレッタ達もそちらへ向かいつつ、しかし会話は止めない。


「血を利用するのではなく、血の魔力を利用しないと使えない方法だったとかどうだい? 一度転移して来たから、血の魔力が失われていた。だから、新しい血が必要だった。…この推論が当てはまるなら、二つ目の可能性も捨てきれないね」

「…確かに、血には持ち主の魔力が宿るものだからね。有り得る話だと思うよ」


 ヴィオレッタがレーヴェで学んだ事から導き出したのは、これである。

相変わらず、魔力や魔法と言ったものの原理は解らないままだが、その性質はなんとなく理解出来るようになっていた。

絶対とは言えないものの、少なくともシシーを納得させるだけの推論ではあったらしい。


「ならば、あの悪魔の本拠地はここではなく、あくまで狩場…別荘のようなものだったと言う訳か」

「そうも考えられるね。…ただ、あそこまで弱かった理由については相変わらず謎なんだけどさ」


 ヴィオレッタはそう言って、お手上げのジェスチャーをする。

過去、殆ど関わりの無かったランゼンでさえ、ヴィオレッタが今の状況を楽しんでいるのが見て取れた。


「随分と楽しそうだな」


 思わず指摘してみれば、ヴィオレッタは心の底から不思議だと言うように、きょとんとした顔をした。


「君は楽しくないのかい?」

「俺は―――」


 言いかけて、止まる。


「冒険は好きだろう? なんだかんだで、みんな楽しんでいると思うけどね」

「俺は冒険が好きな訳じゃない」


 しかし、とランゼンは思う。

孤児院に通い、幼女達と言葉を交わす。

そんな日常に充実感を感じている自分が居る。

彼女達を見守る事が生き甲斐となっているのも確かなのだ。

最近は男の子達にも好かれ、正直に言えば悪い気はしていない。

ティルは口煩いが、ああして憎まれ口を叩くのも日課の一つになっている。


「なんだ、やっぱり楽しそうじゃないか」


 ヴィオレッタに言われ、自分の口元が緩んでいた事に気付いて引き締める。

『死神』の仮面をかぶり直し、ランゼンは答えた。


「俺は幼女達を愛でられればそれでいい」

「……人の性癖に文句を言うつもりはないけれど、人前では隠す努力ぐらいはしようか」


 ランゼンの肩で、シシーが大きく溜息を吐いた。




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