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第26話 和やかなお茶会

「そろそろ座っていいか?」


 ユークが呟いたその言葉は、今この場に居る全員から無視された。

なんなら、冷たい目を向けられているほどだ。


 今、俺達が居るのは王城にある謁見の間。

この場には俺とユーク、ベガ、アイラ、王族三人に、ウェインとロニが集まっている。

例の如くテーブルが用意され、全員が席についていた。


 ユーク一人を除いて。

我等が『破壊者』様は絶賛正座中である。


「話は解ったよ。うちの馬鹿が本当に済まないね」

「アンタが謝る事じゃないぞ。それを言うなら、止められなかった俺達の責任だ」


 洞窟であった事、その情報から予想した事…そう言った事を報告し終わると、ウェインは開口一番に謝罪した。

 それを否定したのはベガだ。


 あの場に居た全員に責任があるとは思うが、中でもパーティメンバーである俺の責任は重いだろう。

罠に掛かった事も含めて、反省点が多い冒険だった。

 今思えば、ノノの『スターシーカー』で罠について占ってもらうべきだったのだ。

ノノの教育係が聞いて呆れる。


「何か被害があった訳じゃないんだ。お前らにも責任はない」

「結果的にいい方に向いたんだから別にいいだろ」

「お前は黙ってろ」


 ベガ達にフォローを入れたクェインだが、ユークに対してだけは手厳しい。

ユークが悪いのは大前提なのだ。


「それで、レーヴェで船を用意するんだな?」

「『聖女』はそう言ってた」


 王様が問えば、アイラが答える。

答えたかと思えば、またもしゃもしゃとケーキを貪る。

 …話なんて聞いてないと思っていたが、アレでちゃんと聞いているようだ。


 とは言え、アイラやベガがこの場に居るのは俺が頼んだからだ。

罠に掛かった後、俺は悪魔と戦っていただけで、洞窟内で何が起きていたかは把握し切れていない。

その説明をユークに任せるのは不安であったという理由からだ。

 例え、二人がまともに話を聞いていなかったとしても、無理に頼んだ身としては指摘し難い。


「で、ロクトの動きとしてはメフィーリアを探しつつ、この『浮遊大陸』の解析を進める訳か」

「自由に動かせれば、オーメルも見つけやすいという算段らしいね」

「簡単に言うが、適任者はいるのか?」

「レーヴェから技術者を送るそうですよ」


 王様からの言葉を、シドやウェインが補足、返答する。


 いっそ、ウェインを文官として雇用した方がいいのではないだろうか。

剣ばかり振っている貴族達より、よほど有用に思える。


「っつーか、あの国には飛行艇があるだろ? アレ使えばいいじゃねぇか」

「動力源となる紫光石がないらしいです。今まではレーヴェ周辺ならどこでも採掘出来ましたが、転移した事で取れなくなったと」


 紫光石とは、レーヴェ周辺で取れる紫色の水晶だ。

魔力を取り込む性質があり、それをバッテリーのように使って機械類を動かしている。

 紫光石が生まれる原理としては、世界に溢れる精霊の力が結晶化したものだとされ、単純な魔力の結晶とはまるで違う物らしい。


「予備は? 保管していた分は残ってるんじゃねぇのか?」

「すぐ取れるから保管してなかったんだそうですよ。レーヴェだと、それこそ穴を掘れば街中でも取れましたから」


 そんな場所だからこそ、レーヴェは技術の国として力を付けて行ったのだ。

身近に有り過ぎた為に、その有難みが薄れていたのだろう。

予備を確保する事より、倉庫に空きを作っておく方が重要とされてしまったそうだ。


「今は代わりの動力を探しつつ、紫光石を人工的に作れないか試してるんだとさ」

「向こうの技術者は忙しそうだな」


 苦笑しながら言ったベガに、クェインがおどけて見せる。


 話している様子こそ軽いが、紫光石が取れないのは俺達にとっても死活問題だ。


 ロクトにある機械もレーヴェで作られた物……つまり、紫光石で動いている。

その機械は上下水から門の開閉、建物の明かりから乗り物まで、生活に必須のものだ。

 ロクトには多少の備蓄があるが、それもいずれは無くなるだろう。

それまでには、何か解決策が見つかると良いんだけど。


「ただ、やはり最優先はオーク達の保護ですね」


 放っておけば、犠牲が出てしまう。

だが、オーク達を保護したなら確実に人の国との軋轢が生まれる。

放置しておくと言う選択肢は無いが、その後を考えると悩ましい問題だ。


「保護に応じるかな? 時間が掛かれば、例の王国がやって来て三つ巴みたいになるかもしれないね」

「最悪は洗脳してでも連れ帰って、あとから説得するか」

「鬼畜」


 シド、ベガ、アイラと、それぞれ思い思いの言葉を発する。

周りでは、アイラに別のケーキを運んで来たり、王様に酒を頼まれて断るメイドなどがいる。

 話の内容に目を瞑れば、和やかなお茶会だ。


 ……段々、麻痺して来たが、ここは王城であり謁見の間だ。

ケーキを食べながら談笑する場ではない。

俺も時々思い出さないと忘れそうだ。


「方法はどうあれ、人員が必要ならロクトからも出すようになるか」

「緊急性の高さで言うならその通りだね。ただ、この大陸の探索もまだ終わってないし、平行して進めたいんだよね…」


 ロニやウェインは人員で頭を悩ませているらしい。

周辺の警戒に当たっていた冒険者も駆り出されるかもしれない。


「そっちは騎士団の一部も参加させよう。オーガ達も強くなってる。実戦を試すにはいい機会だ」

「あいつらも警備ばっかで色々溜まってるようだしな。丁度いいかもしれねぇ」


 そんな感じで、これからの事や対策が決まって行く。

繰り返すが、こんな談笑交じりに決めていい事ではない。


 そんな中、話は悪魔の事へと変わって行った。

そして、その話の中心になるのは、やはり俺であるらしい。


「レベルばかりで弱い悪魔ねぇ…」

「それは、実際にどう弱いんだ?」


 王様もクェインも興味を示すものの、弱いと言われた途端に落胆の色が浮かぶ。

人を餌にしているという辺りを、もう少し重要な事と捉えて欲しいんだけど。


「攻撃は基本、腕と足、尻尾が中心で、振り下ろすか薙ぎ払うかしかしない。連続攻撃の継ぎ目も隙だらけ……155レベルの魔物にしては耐久力も無さすぎるし、かと言って足が速い訳でもない。攻撃力だけは相応だったのかもしれないけど、当てられないんじゃ意味がないね」


 思った事を羅列してみると、より弱さが際立つ。

聞いていた人達も、うーんと唸ってしまった。

 

 俺としては耐久力の無さが気になる。

150レベルの魔物でさえ、ありったけのバフを受けた状態から、『クロノスグレー』でのスキル連打をした所で倒れなかった。

その後の戦闘時間を考えるに、十分の一も削れていなかっただろう。

 だと言うのに、155レベルの魔物があれだけで倒れるものだろうか。


「やっぱり、適当に切り上げて逃げただけとか?」

「転移の魔法も使えたようだし、可能性はあると思う。理由は思いつかないけど」


 手加減して戦っていたとして、それをする理由はなんだろう?

 真面目に戦っていたとして、フラウを呼び寄せた時、何故人質にせず攻撃を加えたのだろう?

考えれば考えるだけ、あの悪魔の事が理解出来ない。


「私が映像を見ていた限りでは、ただの初心者に見えたけどね」

「俺もだ。あの素人らしさが演技なら、大した役者だよ」


 俺を目で追えて無かったり、そもそも隙だらけだったりで、演技じゃなさそうと言うのは俺も思った。

弱く見えるように演じていたとしても、咄嗟の時には反応してしまうだろうし。

そう辺を思えば、ウェインとベガの言う事も理解は出来る。


 でもなぁ……155レベルなら、もっとステータスが高いと思うんだよ。

あの『エンシェントフレア』でさえ、それなりの威力はありそうだけど、俺の予想を大きく下回った。

絶対に、155レベルに見合った一撃ではない。


「よく解らん奴だが、そもそもなんであの洞窟に居たんだ? 餌場にしたってもっといい場所があるだろう」

「あの壺も謎」


 壺と言えば、ミニマップでもあそこに居た悪魔を確認出来なかった。

だからこそ奇襲を受けた訳だが、ミニマップを欺くような魔法があるのだろうか。

 解らない事だらけである。

やっぱり、生かして情報を聞き出すんだった。

カッとなってしまった事を猛省しよう。

 あれこれやらかして、少し自信喪失中だけど。


「で、俺は何時まで正座だ?」


 ……反省するまでじゃない?

ちょっとユークのメンタルが羨ましくなってしまった。





 するべき報告が終わると、なんとなく解散の流れになって来た。

そんな中、王様がニヤリと笑った。


「『黒騎士』よ。俺に挑まなくていいのか?」


 かつてベガが暴れたのは、ロクトの王に挑む為。

本人が目の前に居るのだ、絶好の機会ではある。


「やめとくよ。アンタより前に、タニアへのリベンジが先だ」

「ははは! そいつは残念だ。今んとこ引き分けてんだったか?」

「いや、三勝三敗だが、最初に制圧された時のを数えれば負け越してる」


 中々いい勝負をしているらしい。

タニア相手に渡り合う辺り、ベガの強さが伺い知れる。

いや、ジュエル無しで『二つ名持ち』に渡り合うタニアが凄いのか。


「あら、皆さま、ご機嫌よう」


 ふと、謁見の間に響いた声に、ジュエル持ちが固まる。


「おう、セリーナ。ここに顔を出すなんて珍しいな」


 ギギギ、と言いそうな様子で、プレイヤー達がその人物を見る。


 そこには、白く長い髪を結った女性――――セリーナ・ロクト・ラナクイアが居た。

彼女はゼペス王の娘で、クェインやシドの妹である。

 その動作は優雅の一言―――細かな動きからも彼女が淑女である事を伺わせる。

蛮族と血が繋がっているなど、中々信じられない事だろう。

 線の細さから感じさせる儚さと、ヴァンパイアが持つ蠱惑的な魅力を同時に持ち合わせ、一見するとこの場が華やいだかのように見える。


 ――――だが、実際は。


108:黒騎士@魂の精霊の加護(ロクト)

おいどうすんだ?

ついに出会っちまったぞ


109:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

セリーナの中で私達の認識がどうなっているかだよね、問題は


110:破壊者@熱砂の精霊の加護(ロクト)

ロクトのプレイヤー全てにフラグが立ってた女だぞ

どんな態度を取るか予想がつかん…


111:狂葬@色彩の精霊の加護(ロクト)

ごめん、ちょっと姿消すね


112:百鬼夜行@影の精霊の加護(ロクト)

私も影の中に忘れ物した


113:破壊者@熱砂の精霊の加護(ロクト)

絶対に逃がさん!


 保身に走った俺とアイラは、何時の間にか傍に来ていたユークに腕を掴まれている。

こいつ、全員で討ち死にする気か?


114:狂葬@色彩の精霊の加護(ロクト)

離せ! フラウが待ってるんだ!


115:百鬼夜行@影の精霊の加護(ロクト)

犠牲者は少ない方がいいはず

今すぐ離せ


116:黒騎士@魂の精霊の加護(ロクト)

落ち着け! 俺達の記憶とビッチの記憶は違うかもしれないだろ!

誰か一人に想いを寄せる純情っ娘の可能性はまだ潰えていない!


 まさか周りも、穏やかな笑顔を浮かべながら水面下でこんなやり取りをしているとは思うまい。


 ちなみにこの王女、男女見境なくフラグが立つらしい。

ただの噂かと思っていたが、アイラの反応を見る限り真実なのだろう。


「や、やあ、セリーナ。久しぶりだね」


 そんな中、一番に声を掛けたのはウェインであった。

ロボットを思わせるようなぎこちない動きであったが、持ち前のイケメンオーラによって不自然さは感じさせない。

さすがは『一騎当千』と言われる人物だ。


「まぁ、ウェイン様。このような所で出会えるなんて……セリーナは幸せ者でございます」


 そう答えたセリーナは、頬を赤らめ、恋する乙女のようであった。

遠慮がちにウェインに向けられた瞳には、しっかりと愛慕の念が見て取れる。


「うへあ」

「うへあ?」

「い、いや、そのドレスも良く似合ってるよ…」

「まぁ…お上手です事」


117:破壊者@熱砂の精霊の加護(ロクト)

よっしゃあああああ! そいつはウェインに任せた!


118:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

いや、おかしいって! なんで私!?


119:百鬼夜行@影の精霊の加護(ロクト)

ロクトの平穏の為に、ちゃんと手綱を引く事


120:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

私の平穏は!?


 セリーナ・ロクト・ラナクイアと言う人物は、ロクトのプレイヤー達にとってのヒロイン枠である。

全員にそんな態度を取っているのはシステム上の都合であり、そこは仕方ないと割り切ったとしても、見逃せない事がある。


 セリーナには、加護が二つあるのだ。

加護が二つある理由についてはゲーム中では語られていなかったが、二つある事は真実であるらしい。


 セリーナのレベルは100。

か弱そうな見た目の彼女ではあるが、レベルはしっかりと上げられている辺りロクトの血は濃い。

 そして、レベルが100であると言う事は固有魔法が使える訳で。

加護が二つあれば、四つの固有魔法を持っている事になる。


 これだけだったら何も問題は無かったのだ。

いや、問題はあるが些末な物でしかない。

 だが、固有魔法の一つに『感情の発露によって発動する』ものがあればどうか。

そして、連鎖的に他の固有魔法まで発動するとしたらどうか。


 彼女のエピソードにはこんなものがある。


 ゼペス王の妻は人間であり、すでに天寿を全うしている。

それ自体は仕方のない事だが、セリーナはその事を受け入れられず、悲しみに暮れた。

 その結果、ロクトは『嵐』に見舞われ、『雹』が降り注いだと言う。

これが一週間続いたと言うのだから恐ろしい。


121:黒騎士@魂の精霊の加護(ロクト)

泣かせるなよ! 絶対に泣かせるなよ!!

お前にはロクトの未来が掛かってるんだからな!


122:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

私、可愛い男の子にしか欲情出来ないんだけど!?


 本人の知らぬ間にそんなやり取りをしつつ、安堵と共に用意されたコーヒーに口を付ける。


 俺の平和は保たれた。


「立ってないで、二人でゆっくり話すといい」


 そうやってウェインの横に椅子を用意するアイラ。

他人事になった時点で、彼女からは余裕すら感じられる。


「あら、アイラ様はお話してくれませんの?」

「………ん?」


 ………ん?


「アイラ様のお声…もっとお聞かせくださいな」


 アイラの手を、自身の両手で包み込むセリーナ。

包み込んだ両手を自分の頬に寄せるようにして、アイラを見つめる。

その視線には、外から見ていても熱を感じるほどで―――――。


「――――うぇ!?」

「うぇ?」

「あ、こほん。そのドレス、良く似合ってる」


 ドレス以外も褒めろ。

ウェインと言ってる事同じだぞ。


123:黒騎士@魂の精霊の加護(ロクト)

…うん、じゃあ、俺は先帰るわ

って動けねぇ! なんだこれ!? 束縛の状態異常!?


124:百鬼夜行@影の精霊の加護(ロクト)

誰一人として逃がさん…


125:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

協力しよう


 セリーナの瞳がスッと動き、今度はユークを捉える。

ポカンとしていたユークと、セリーナの視線が交わる。


「ユーク様も、そんな所に座っていないで、こちらにいらしてくださいな」


 ニコリと優し気な笑みを浮かべ、ユークに語り掛ける。

その声には優しさや気遣いだけでなく、『それ以外』の感情も乗っている。

 俺は咄嗟に顔を下げ、絶対に目を合わせまいと心に決めた。

このお茶会が終わるまで、俺は空気に徹する。


126:破壊者@熱砂の精霊の加護(ロクト)

おいなんだ!? 何が起こってるんだ!?

生贄はウェインで決まったんじゃないのか!?


127:黒騎士@魂の精霊の加護(ロクト)

決まらなかったんだよ!

王女様は生贄一人じゃ不服なんだとよ!


128:破壊者@熱砂の精霊の加護(ロクト)

見境なさすぎるだろ!


129:狂葬@色彩の精霊の加護(ロクト)

マジで帰りたい…


 未だかつてない緊張感の中、『和やかなお茶会』が始まった。




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