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第24話 悪魔

「……チッ」


 伸ばされた手は、何にも触れる事なく分断された。

別れ際のフラウを思い出して、無意識に舌打ちが出る。


「見てる人、ユークの状況を教えて」


 LIVEを見ているだろうプレイヤー達に語り掛ける。

 マップを開けば、ロックしておいたユークとフラウ、ノノの位置は解る。

ロック機能は便利だが、この洞窟内のマップが解らない為、どう行けばいいか判断が付かない。


 周囲に目を向けるが、中央に何か壺のような物が置いてあるだけの地下空間だ。

松明が灯してあり、視界はいいが出入口は見当たらない。


330:冒険者@冥界の精霊の加護(レーヴェ)

狂葬さん、破壊者さんは孤立してるけど無事だよ

ケインって子は他のパーティの近くに飛ばされたから、そっちと合流してる


 フラウとノノはどう言う状態かは解らないか。

HPが変動していない事を考えると、今すぐ危険な状態ではなさそうだが。

 ギアに関しては…ユークに任せる他ないな。


336:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

ユークはギアと合流するように伝えておいたよ

狂葬さんはそこから出られそうかい?


 非常事態と見て、ウェインも様子を見に来たか。

今、この場で一人になってしまったが、こうして見ている人がいるというのは心強い。


「出入口はなさそう。中央のこの壺みたいのはなんだろうね」


 ここから出るのに関連した仕掛けでもあるのだろうか。

近付いてみると、なんだか不気味なデザインの壺である。


347:冒険者@炎の精霊の加護(オーメル)

もうデザインからして呪われています感が強い


 苦悶の表情を浮かべた顔が、壺一面にびっしり描かれている。

中を覗き込めば……赤い液体が溜まっていた。


352:冒険者@水の精霊の加護(メフィーリア)

これって血なの? 悪趣味過ぎない?


353:冒険者@吹雪の精霊の加護(レーヴェ)

まだ錆び水って言う可能性があるよ!


354:冒険者@鎌鼬の精霊の加護(ロクト)

絵具を溶かした水かもしれん!


 んなわけあるか、と心の中で突っ込みつつ、爪先で壺をつつく。


 その瞬間、ザバッ! という音と共に、壺の中から勢い良く腕が伸びてきた。


「ッ!?」


 首元に伸ばされた腕を間一髪で躱し、壺から距離を取る。

臨戦態勢で構えていると、腕に続いて頭、肩、胴と、人のようなモノが外へと出て来た。


「咄嗟によく避けたものよ」


 そう言って、壺から出て来たのは、赤い肌に鋭い牙、爪、そして角や翼、尻尾を持つ生物。

蝙蝠のような翼を広げ、身体に纏わりつく血を振り払って見せた。


「……悪魔?」

「ほう。悪魔を知る者か」


 その存在の頭上には、『血の悪魔・スペルデュス』の文字が浮かぶ。

それよりも問題なのは―――。


393:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

レベル155!?


394:冒険者@滝の精霊の加護(レーヴェ)

おい、いきなりインフレし過ぎだろ!!


 これと単独で戦う事になるのか?


 …いや、言葉が通じる以上は交渉の余地もあるだろう。

戦闘を避ける方向で考えていきたい。


「…俺は、何かの罠でここへ飛ばされて来ただけなんです。元の場所へ戻る方法を教えて貰えませんか?」


 とにかく刺激しないよう、下手に出る作戦である。

変に媚を売ると逆効果の場合も考えて、出来るだけ当たり障りなく行きたい所だ。


「ほう?」

「……待たせてる人がいるんで、出来るだけ早めに退散したいんですけど…」


402:冒険者@空の精霊の加護(メフィーリア)

逃げとけ逃げとけ!

100レベル以上の魔物なんて耐久がバカみたいに高いに決まってる!


403:黒騎士@魂の精霊の加護(ロクト)

狂葬さんどこだ?

俺の場所から向かえないか?


404:冒険者@雪の精霊の加護(レーヴェ)

一旦逃げて、パーティで出直せ!


 出口が無いんだって。

 そんな言葉を飲み込みつつ、相手を観察する。

肌は赤く、筋肉質な体格を持ち、顔と胸元意外は毛に覆われている。

見た目では武器らしき物は持っていない。

 攻撃方法としては爪で切り裂くか、牙で噛みつくか、だろうか。

見た目からして魔法ぐらいは使って来るだろうし、その辺は警戒した方がいいだろう。

 他に攻撃手段は、拳や蹴りでの格闘…いや、あの野太い尻尾も使いそうだ。


「罠を仕掛けたのは俺だ。この遺跡に入って来た者を餌とする為に、一人ずつここへ誘き寄せる為のな」


 あ、駄目だこれ。

交渉の余地ないわ。


「安心しろ。久しぶりの餌だ。お前以外の連中も順番に食らってやる」


 ドン、と言う激しい音と振動が響くと同時、スペルデュスが飛び掛かる。

鋭い爪を振り上げたかと思えば、ゴウ、と言う激しい音と共に叩きつけられた。

 俺は大きくステップしながら、それを避ける。

速さならこちらに分があるか…?


「ほう? 今のが見えたのか? それとも直感か? なんにしても、一撃で終わらぬ餌など初めてだ」


 ……よほど自信があるのだろう。

随分舐め腐った攻撃をしてくる。


459:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

狂葬さん、無理に反撃せず時間を稼いでくれ

他の奴らが到着するまで凌げればいい


「……了解」


 逃げ回るのは得意だ。

小さく了承を告げ、相手の動きを探る。


「精々嘆くがいい。その絶望も悲鳴も、俺の餌なのだからな」





 それから、敵の攻撃を躱す事に専念し……すでに十分ほど経過している。


「ちょこまかと生意気な餌だ。逃げ回るだけか?」


812:冒険者@動物の精霊の加護(メフィーリア)

これ、どう言う事なんだ?


813:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

当事者に聞いた方が早いな

狂葬さん、率直な感想は?


 スペルデュスの尻尾が横薙ぎに迫り、それを屈んで躱す。

躱されたのを見て、タックルするようにして飛び込むスペルデュス。

それをサイドステップで躱すと、今度はまた尻尾を振り回す。


 先ほどから似たようなやり取りだ。

つまり―――。


814:狂葬@色彩の精霊の加護(ロクト)

弱い


 155レベルと言うなら、当たればデカいのだろうとは思う。

 ただ、当たるような攻撃をして来ない。

攻撃は単調、フェイントもない、殴る蹴る尻尾の繰り返しだ。

 戦闘技術なんてあったもんじゃない。

100レベル超えのプレイヤーなら絶対に負けないと断言出来る。

それが例え後衛タイプのプレイヤーだとしてもだ。


 事実、俺はLIVEに自分でコメント出来る余裕があるほどなのだから。


821:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

すまないな

今後のデータとして様子見を頼んでしまって


 戦闘が始まって三分もしない内に、実はこの悪魔は弱いのではないか、と議論が始まっていた。

 だが、仮にも155レベルである。

何か隠し玉があるのではないか、何か理由があるのではないかと頭を捻りながらの様子見である。


825:鬼若@憤怒の精霊の加護(オーメル)

戦闘技術が皆無

戦いの基礎の基礎さえ知らないド素人だね

子供でももうちょっと考えて攻撃するよ


826:冒険者@血の精霊の加護(メフィーリア)

わーお、辛辣ぅ


827:弾幕@太陽の精霊の加護(レーヴェ)

多分だけど、身体能力だけで叩き潰して来たから技術が育たなかったんじゃないかな

この世界の生物ってレベルが低いようだし


 レベルの高い魔物でさえ40レベル…確かに、技術がなくとも叩き潰せる相手だ。

今までは戦闘技術そのものがいらなかったと仮定すれば、こんな奴が出来上がるのかもしれない。


835:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

言葉は通じるようだし、投降を促してみるかい?

情報源にはなるかもしれない

人を餌と呼ぶ155レベルだけど


836:冒険者@光の精霊の加護(ロクト)

後々を考えると倒した方がいい気がするが…


 個人的には、言葉が通じる『だけ』の手合いに思える。

 とは言え、パートナーになった悪魔という存在も『EW』には居た訳で。

一応、話だけはしてみるか。


「ここまでやって、勝てそうかどうかぐらいは解ったんじゃない? 今の内に投降するなら話は聞くよ?」

「何…? ちょこまか逃げ回っていただけの餌が、俺に投降しろと…?」


 恐ろし気な顔付きこそしているが、表情は人のそれと変わらない。

明らかにイラついた顔と態度である。


 だが、イライラしているのはこちらも同じだ。

さっさとフラウと合流したいのに、長々相手をさせられた俺の身にもなってほしい。


「ならば、決定的な力の差と言う物を見せてやろう!」


 そう言ってスペルデュスは大きく羽ばたき、洞窟の天井付近まで飛び立った。


 何かやってくる、そんな直感と共に身構える。

戦いの才能はないとしても、レベル155という数字は警戒に値するのだ。


「灰になれ! 『エンシェントフレア』!!」


 大きく息を吸い、そう叫ぶと同時に開いた口をこちらに向ける。

そして、口からは大型の火炎球が放たれた。


「おっと…」


 射線から離れ、スペルデュスの真下へと潜り込む。


 放たれた火炎球は、地面に叩きつけられると同時に、高熱と衝撃を振りまきつつ爆散する。

着弾地点を中心に広がるクレーターを見れば、その威力がそれなりの物である事が伺えた。

 だが―――。


「ほう。よく避けた。逃げ回るのだけは一人前だな」


 そんな事を言いながら、顔には『どうだ、驚いたか』と言わんばかりの表情が浮かんでいる。


 ただ……『エンシェントフレア』とやらを評価するなら、稚拙の一言だ。

 人外の者が大きく息を吸い込んだ時点で、ドラゴンなどのブレスを思い浮かべるのは自明の理。

火炎放射のようなタイプか火球のようなタイプかの見極めがいる程度。

 逆に、解り易すぎて別の可能性を考えていたほどだ。


859:冒険者@土の精霊の加護(オーメル)

あれが奥の手なら、もう終わりだな


 見ていたプレイヤーですらこんな言葉が出てしまう。

 そもそも、羽ばたいて上空から狙うなど警戒してくれと言っているようなものだ。


「レイジングカッター」


 ドヤ顔でこちらを見下していたので、斬撃を飛ばす。


 あれだけレベルが高ければ回避ぐらいするだろう、その間に接近するか…そんな考えで行った牽制の為のスキル。

 だが、俺の予想は外れた。


「げはぁ!?」


 おい、直撃したぞ。


 スペルデュスは『レイジングカッター』に反応する事なく、胴体で受け、その衝撃で吹っ飛んだ。

壁に叩きつけられ、そのまま地面にベシャリと落ちる。

 相手のレベルは155である。

真っ二つになる事はないだろうとは思っていたが、受け身も取れないほどのダメージを受けたのだろうか。


881:冒険者@疾風の精霊の加護(レーヴェ)

待って、あいつ弱すぎる


882:冒険者@花の精霊の加護(ロクト)

反応出来なかったわけじゃないよね?

大したダメージじゃないと思ってドヤ顔で受けたら思ったより痛かったってだけだよね?


883:冒険者@時空の精霊の加護(メフィーリア)

どっちにしてもダサいよ!


「あの…ごめん、やりすぎたかも」


 プルプルと震えた状態で、蹲るスペルデュス。

なんだかちょっと申し訳ない気持ちになって、謝罪する。


「こんな…餌如きに……このような……!」

「いや、今のは事故みたいなものなんで…」


 ドン! と、地面に拳を叩きつけ、こちらを睨みつける。

血走った黒い瞳が、俺を捕らえた瞬間、視界に状態異常を知らせるアイコンが光る。


「―――……」

「クッ、ハハハッ! かかったな、マヌケめ!! 我が呪いに苦しむがいい!」


 状態異常のアイコンを確認すれば、呪い。

 呪いとは、幻覚を見せて疑心暗鬼にし、敵と味方の判別がつかなくする状態異常だ。

敵同士で同士討ちをさせる為の魔法である。

 ……つまり。


903:冒険者@空の精霊の加護(メフィーリア)

こいつ、ソロの相手に呪いかけてどうすんだ?


 そういう事である。

同士討ちする相手がいないのに、何故呪いを掛けたのだろうか。


「ここまでコケにしてくれたのだ!! 贓物を引き摺り出し、四肢を捥ぎ取り、死を切望するまで甚振ってくれる!!」


 立ち上がり、そう叫ぶスペルデュスを無視し、ポーチから取り出した万能薬を呷る。


 『EW』のアイテムは、飲んでも良し、浴びても良し、容器を破壊しても良し…つまり、色々な手法で発動する。

 飲めば即発動するが飲んでいる間は無防備だし、片手が塞がる。

 浴びた場合は素早く済むが、一定量以下しか浴びられなければ効果が出ない。

 入れ物を破壊した場合は効果が出るのが遅く、破壊した地点に暫く留まる必要がある。


 まぁ、その時々で使い方を分けろって話だ。


「アクセルスラッシュ」


 そう呟けば、身体が自動でモーションを開始する。

俺のAGIで踏み出した身体は、一瞬でスペルデュスに到達し、その胴体を薙ぎ払う。


「げぶぉ!?」


 斬り付ける瞬間、スペルデュスの目を見ていたが、俺の動きを追えていないようだった。

何をされたかも解っていないかもしれない。


「…投降する?」


 相手は腐っても155レベルである。

バフも掛かっていないただのスキルで死ぬ事もないだろう。…多分。


 壁にめり込んだスペルデュスを見ながら、少し不安になりつつも聞くだけ聞いてみる。


「はぁ…がはっ! …はぁ、はぁ……なん、なのだ貴様は!?」

「冒険者ですが…」

「ふざけるな!」


 だって、他に何て言えばいいんだ。

ロクト王国の伯爵とでも言えばよかったかな?


929:冒険者@泥の精霊の加護(オーメル)

人を餌にしてる奴相手に言うのもなんだけどさ

こいつって殺しちゃっていいもんなの?


 和解を無理だと察したらしいプレイヤーが、悪魔の取り扱いについて質問を投げかける。

 一応は会話が出来る相手である。

広義で言えば、亜人と呼べるかもしれない。


 とは言え、放置していいものなのかどうかである。

戦闘技術が甘いとは言え、ステータスは高いはずだ。

……俺の攻撃力で斬ってるから割と柔らかそうに見えているってだけだと思う…多分。

 下手に見逃して、今後子供や非戦闘員を殺されてはたまらない。

殺すな、と言った所で通じる相手にも見えないし。


「くそ…! 『リープ』!!」

「ん?」


 一瞬、思考してしまった隙を突かれ、スペルデュスが唱えた魔法に反応が遅れた。

スペルデュスの眼前にある地面が、光輝いている。


 …これ…見覚えがある……さっき転移した時の罠だ。


「…あ、レイ!」


 何かが転移して来た後、現れたのはフラウ。


 そして、その後ろに立つスペルデュスが、鋭利な爪を振り上げフラウへと振り下ろそうとしている。


 ――――何かが切れる音がした。





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