第22話 決意
あの後、ノノの『スターシーカー』の説明を行い、その使い方の相談とケインの『波濤』の詳細を説明された。
『波濤』は思っていた通り、範囲を上げるだけのスキルではなかったらしい。
効果時間中、攻撃範囲が10倍、攻撃力を5%上げると言うもの。
効果時間は15分。
それだけなら良かったのだが、攻撃を一度当てる毎に攻撃範囲と攻撃力が1%上昇していくらしい。
このスキルの怖い所はその上昇限界。
なんと、青天井なのだそうだ。
効果時間内であれば、いくらでも攻撃範囲と攻撃力が上昇する。
なるほど…範囲攻撃に優れたアタッカーと言うのも納得だ。
そんな事を考えつつ、ケインに目を向ければ、なんだか難しい表情で黙り込んでいる。
「どうかした?」
「ああ……なんつーか……EXスキルとか固有魔法って、本当にやべーんだなって」
以前の言い合いを気にしているのだろうか。
現実に、こんなスキルや魔法がゴロゴロしていると知れば、思うところもあるだろう。
「レベル100以上の奴等はこんなのを四つ持ってるんだ。人間同士で争わない理由も解るってもんだろ?」
「まぁ…そっちのフラウさんの魔法なんかはどうにもなんねぇもんな」
『ウルトラヴァイオレット』…フラウの固有魔法だ。
3分間、あらゆる攻撃に対し無敵になる。
再使用まで1440分…一日に一度だけしか使えない大技。
パーティメンバー全員に効果がある為、これが発動した途端、捨て身の一斉攻撃に切り替わるだろう。
俺の『クリムゾン・レジェンド』もそうだが、色彩の固有魔法は『なんでもあり』だ。
以前、精霊祭で出会ったプレイヤーは、固有魔法で炎属性の攻撃魔法を使っていたし。
色の名前が入ってればなんでもいいらしい。
「けど、これで動きが考えられる。ギアの分身を壁役に置く方向で考えよう」
「だな。後は範囲攻撃に対してどうするかだが…」
そこが問題だな。
俺はまぁ、何度かは耐えられる訳だけど…他の三人はどうなんだろう。
「私の固有魔法は一日に一度だけですので、そこまで当てにはできません」
「あの…言ってなかったんだけど…」
そう言って遠慮がちに手を挙げたのはノノだった。
自分の能力に付いて話すつもりなのだろう。
俺があまり教えない方がいいと言ったのを気にしているのか、こちらの顔色を伺うようにしている。
…別に怒らないし、そんなに遠慮しなくていいんだけど。
そう思いながら頷いてみせれば、少しだけホッとした表情を見せた。
「私の魔法に、魔法攻撃を一度だけ無効化する魔法があるの。パーティメンバー全員に効果があるんだけど…」
え、何それ凄い。
強力な魔法ぶち込まれても、無視して殴りに行けるって事になるわけだ。
攻撃偏重のこのメンバーであれば、一撃凌げれば十分勝機がある。
「凄ぇじゃねぇか。そりゃ助かる」
「え、あ、でも、15分に一度しか使えないし」
「十分ですよ。あとは物理攻撃に対する防御方法があれば完璧ですね」
わたわたと慌てるノノを見て、少し感慨深い気持ちが湧く。
色々と抱えているノノだからこそ、少しでも気持ちの変化が見られてよかった。
最初会った時の状態では、こんな姿も見せてはくれなかっただろう。
「あー……俺、鏡の精霊から加護貰ってるんだけど…一定時間内なら、物理攻撃を反射する壁を張れるぞ」
そう言ったのはケイン。
彼は鏡の精霊の加護を受けているのか。
今の我々には非常に有難い効果だ。
「強い魔法だね。固有魔法?」
「いや、60になった時に覚えたんだ」
鏡の精霊って怖いんだな。
俺やユークにとってはあまり相手取りたくない手合いだ。
自分が研ぎ澄ました攻撃が跳ね返って来るなど、悪夢でしかない。
「その壁って全員を覆えそうか?」
「覆うって言うか、前に張れるって言うのかな? 全員が隠れ切れるぐらいにはデカいぜ」
攻撃を反射して、手が緩んだ隙に攻め切る……いけそうな感じはある。
物理も魔法も、一撃を凌いで一斉反撃…このパーティの攻撃力なら、それで壊滅するだろう。
「なんとも情けない話ですが、我々はこの二人がいないとどうにもならないようで」
「これはもう、置いていくという選択肢はありませんね」
その通りである。
パーティとして行動するに当たって、レベルの低い二人がパーティの柱となっている。
「二人とも、頼りにしてるぜ」
ユークがそう言えば、二人は少し照れたような様子を見せていた。
なんとも初々しい事だ。
◆
あの後、動きの確認と魔法の効果を確認して解散となった。
今はまた、ベランダから外を眺めている。
もう遅い時間だが空は薄っすらと明るく、繁華街の方も煌々と光が灯っている。
「また何かお悩みですか?」
そうしていると、聞こえてきたのはフラウの声。
いつかのように、甘いコーヒーの香りが鼻孔をくすぐる。
「悩みじゃないよ」
そう言って苦笑すれば、彼女はニコリと笑ってコーヒーを手渡してきた。
ちらり、と室内を見れば、ノノはいないようだった。
「ノノさんなら浴室です」
「そっか」
コーヒーに口を付け、それを味わう。
この甘い香りに最初は違和感を感じていたものだが、何時の間にか慣れてしまったようだ。
「人はあっという間に成長するね」
「ノノさんとケインさんの事ですか?」
まだまだ粗削りだとは思うし、教えるべき事も沢山ある。
でも、きっとそう遠くない内に、俺の助言など必要なくなるだろう。
「…本当にこれで良かったのか、って思ってます?」
「上手く諭して、戦い以外の道を示すことが出来たら良かったんだけどね」
これは俺の本心だ。
ノノに戦い方を教えていて感じていた事だが、どうにも死に急いでいるように思える。
いや、正確には、『今度こそ守ろうとしている』のだろう。
だからこそ、自分が傷付く事を厭わない。
故に、それとなく戦いから遠ざけられないか考えていたのだが…。
「随分、難しい事を要求するとは思っていました」
「高レベルで求められるような事を最初から教えたからね」
それで、『自分には向かない』と諦めてくれれば良かった。
けど、そうはならなかった。
それだけ、『ジュエル持ち』を失った事が大きいのだろう。
「今も時々うなされているようですね」
「―――……なんとか諦めてくれた方がいいんだけどね」
「無理だと思いますよ」
即答で答えられて、ちょっと驚く。
フラウに目を合わせれば、彼女は真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「私達は『パートナー』ですから」
彼女達の存在意義。
『ジュエル持ち』と共にある事。
頭では解っていたが、その感情までは理解出来ていなかった。
『パートナー』にとって、『EW』の住人にとって、『ジュエル持ち』は『救世主』だ。
神話に語られる英雄であり、精霊の代行者。
闇を払う存在であり、『ジュエル持ち』が失われると言う事は、闇の時代が訪れる事と同義。
それと共に生きる事が、どれだけ重い使命であり、それがどれだけ、彼女達にとって心の支えなのか。
彼女達が命を懸けてでも守る存在、それが『ジュエル持ち』だ。
「――――俺としては、そうあって欲しくない」
「え?」
「俺達は、背中を預け合う存在じゃないの?」
フラウが虚を突かれたように驚く。
俺達プレイヤーは、パートナーの事を『共に歩む者』と言われている。
フラウ達を盾にしてでも生きろなどとは言われていない。
何より、俺はフラウの死を望まない。
「――――……ええ、そうですね」
「フラウもノノも死なせない」
「貴方もです、レイ。守る為に、その身を犠牲にしないでください」
そんなつもりはなかったが、気負っているように見えるのだろうか。
フラウに苦笑を返せば、フラウはニコリと笑ってくれた。




