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第21話 切り札

「――――というわけで、その洞窟を探索する事になったんだけど」

「そちらの…ユークさん達と一緒にですか?」


 ロニ達との話を終えた俺達は、フラウ達に説明するため、一階の酒場に降りて来ている。

この場には、俺とユーク、フラウとノノに、以前ユークと戦ったケイン…そしてもう一人。


「やれやれ…こちらの世界に来てからと言うもの、こき使われてばかりですね」

「文句言ってもしょうがねぇだろ、ギア」


 ギアと言うのは目の前のエルフ…長い銀色の髪に、細い目をした男性で、ユークのパートナーである。

亜人を含んだパーティを組むというのが当初の本題であるはずなのに、何故ユークと組む事になったのか、というのがこの答えである。


「それで、ケインとノノはどうする?」


 問いかけながら、ケインの頭上に視線を向ける。

元々レベル50を超えていたケインだったが、現在は60…50レベル以降はレベルが上がり辛いはずなのだが、随分上がっているようだ。

 俺とフラウ、ユークとギアは揃って115、ケインが60でノノが50。

この周辺の敵を考えれば、過剰戦力…多少強い手合いが相手でも守り切れるだけの力はあるだろう。


「連れてっても問題ないんじゃねぇか?」


 同じようにノノの頭上に目を向けていたユークが呟く。

すると、隣にいたギアがチラリとケインを見つつ、続けた。


「まぁ、自分の身ぐらいは守れるでしょう。何時までもおんぶにだっこと言うわけにはいきませんから」

「ぐぬ…! てめぇ! いつか思い知らせてやるからな!」

「まずは俺に一撃入れられるようになってから言う事ですね」


 ……大分、賑やかになりそうだ。


「ん? これから昼食かい?」


 声を掛けられ、そちらに視線を向けてみれば、先ほどまで話していたウェインの姿。

にこやかな表情をこちらに向け、俺達の座っているテーブルへと近づいてきた。


「なに、ただの顔合わせさ」


 気安い様子で答えるユーク。

ただ、それと反するようにフラウは硬い表情を浮かべている。


「どうかした?」

「いえ…」


 一瞬、フラウの好みがウェインのような男性なのではないか、と言った思考が過るが―――。


「あの、ウェインさんは可愛らしい男性が好みと伺ったのですが……」

「え? …あぁ、まぁ……そうかな?」

「……レイも…いえ、なんでもありません」


 何か大きな誤解がある気がする。

とは言え、それを説明するのは難しい。


 ウェインと言う人物はちょっとややこしいのである。

ウェインの好みは『小さくて可愛らしい男性』、これは事実だ。

所謂、『ショタコン』である。

ただし、同性愛者ではない。

 羅列すると意味が解らないが、ここに一つ説明を加えると疑問が融解する。

『彼女』は男性ではない。

まぁ、見た目は間違いなく男性だ。

だが、『プレイヤー』は女性なのである。


 ここに大きな誤解があるのだろう。


「まぁ、ちょっと変わってるけどそう悪い奴ではないよ」

「そう…ですか」


 なんとなく歯切れが悪いフラウと、それを見て小さく溜息を吐くノノ。

なんだか最近、この構図を良く見る気がする。


「そうそう、LIVE機能あるだろう? 洞窟に入ったらあれを使って欲しい。他の探索者と情報共有も出来るだろうからね」

「ああ、そんな機能もあったな。解った」

「それと、他のパーティは今日、明日中に探索を開始するそうだよ。それに合わせてくれると嬉しい。それじゃ、よろしく頼むよ」


 そう言って去って行く姿は爽やかイケメンである。

まるで『空に舞う全裸。轟く全裸。駆け抜ける全裸』とか名付ける人間とは思えない。


「今日、明日中、ですか。我々はどうします?」


 ギアに言われ、少し考える。

 正直言って何時でもいいが、立ち回りの確認ぐらいはしたい所だ。

その旨を伝えてみると。


「まぁ、そうだな。もう昼過ぎだし、今日はパーティとしての動きを確認するだけにしとくか。そんで、出発は明日から…って事でどうだ?」

「悪くないと思う」


 俺としては主にギアの動きを確認しておきたい。

ユークが攻撃力特化である事を考えると、恐らく防御力はほぼ無いに等しいだろう。

それは俺も同じ。

 と考えれば、敵の攻撃を受けるのはノノになるのだが、レベルを考えても適性ではない。

同じ理由でケインも却下…まぁ、大剣を扱っている辺り、敵の攻撃を受け止める役割とは考えにくいし。

 フラウも壁役が出来なくはないが、向いてはいないだろう。

となると、ギアの立ち回り次第で全体の動きを考える必要がある。





「―――ってわけで、まとめると、だ」


 神妙な顔で話すユーク。


 現在、ロクトを出てすぐの森の中である。

適当な魔物相手に実戦を想定した動きをした結果、たった一戦で問題が発覚した。

 光景としては、森の中で六人の男女が地面に座り込み、頭を抱えている状態である。


「このメンバーバランス悪くね?」

「ですよね」


 これが全てだ。

とにかくバランスが悪い。

どいつもこいつも能力が局地的過ぎる。


「私がもっとレベル高ければ……」

「ノノが気にする事ないよ。みんないいレベルなのに壁役も出来ない方が問題なんだから」


 まさか100レベル超えが四人もいて、誰一人壁役に向いていないなど思いもしなかった。


「あーっと…壁役ってそんな重要なのか?」


 一人良く解っていなさそうなケイン君である。

それぞれがちゃんと防御力を持ってたら何も問題なかったんだけどね。


「お前やノノは俺達よりレベルが低いんだ。もし強敵が現れたらそれこそ死にかねない。だからこそ、攻撃を引き受ける役割は必要だ」

「それに、俺もユークも防御力は飾りでしかないからね…」


 つまり、攻撃力の高い敵が現れた場合―――俺とユーク、ノノとケインの四人が即死しかねない状態だと言う訳だ。


 なんて不安定なパーティなんだろう。


「一旦整理しましょう」


 こめかみに指を当てていたギアが提案する。

 こうやって問題点をまとめてくれる人がいると、話が進みやすくていい。

そんな事を、若干現実逃避した頭で考えていた。


「ユークは一撃特化タイプの物理アタッカー。レイさんは奇襲や強襲を得意とする物理アタッカー。フラウさんは連続攻撃を得意とする物理アタッカー。ケインは範囲攻撃を得意とする物理アタッカー。ノノさんはバランスタイプ…まぁ、サブ盾要員と言った所でしょうか」

「そんで、ギアが継続戦闘が得意な物理アタッカーだ」


 ノノ以外全員アタッカーだった。

壁役どころか、なんなら魔法アタッカーすらいない。

 あくまで自己申告ではあるが。


「スライム系が出て来たら地獄だね…」


 スライム系は基本的に物理攻撃が効かない。

フラウと二人だけの時は攻撃アイテムで対応してきたけど、まさかそれをパーティプレイでもする事になるとは思わなかった。


「いや、魔法攻撃力は微妙だが、俺やギアには攻撃魔法自体はある。ケインも少し使えたな?」

「ああ」

「私も少しだけなら…」


 ……それ、威力は期待するなって事では?

ノノが使える攻撃魔法は少しクセがあって使い難い。

しかし、このメンバーで考えると主力になりかねない状態なのが悲しい。

 バランス型とは言え、魔法攻撃で一番頼りになりそうなのが、一番レベルの低いノノだとは…。


「っていうか、レイは全く使えないのか?」

「攻撃魔法はないね…フラウも持ってない」


 色彩の精霊が得意とするのは、バフやデバフ、あとは状態異常だ。

その他にはトリックアートの様な変わった魔法が多く、そもそも魔法戦に向いていない。

 …まぁ、この手の強そうじゃない精霊と言うのは、固有魔法が怖いというのが俺の持論ではあるが。


「なんにしろ、壁役の問題だけでも解決しておかねばなりません」


 候補はフラウとギアしかいないけどね…。

ノノが敵の攻撃を受けるのに不安がある以上、この二人の二択である。


「レイ、回避盾はできねぇの?」

「敵のヘイトを稼ぐ術がない。人が相手なら気を引くぐらいは出来るだろうけど、魔物相手だとねぇ…」


 主に盾のスキルではあるが、相手の注意を引き、攻撃を自分に向けさせるスキルが存在する。

俺にはそんなスキルが無いので、無視されたらおしまいである。


「盾を持ってみるとか?」

「…一考の余地はありそうかな」


 俺のEXスキルは片手剣なので、短剣から盾に変えてもそこまで不都合はない。

ただ、活用出来るかと言われれば微妙だ。

 攻撃の中には盾の上からダメージを与えて来るスキルも存在している。

これはちゃんと受け流せばダメージを受けずに済むが、まともに盾で受けると、受けた攻撃の数パーセントが本体に貫通すると言うものだ。

俺の防御力とHPでは、その貫通したダメージで死ねる。

 つまり、盾を持っていようが基本的に避けるしかないのである。


 メリットとしては敵の注意を引くスキルが使える。

 デメリットとしては短剣スキルが使えなくなるので、俺の攻撃力が低下する。

ノノやケインを守る事を優先して考えれば、一つの手ではある。

 特に、俺の攻撃力が落ちた所で、このパーティには『破壊者』がいるのだからあまり問題にはならないだろう。


「というか、そもそもなんですが……洞窟の探索なんですよね? 範囲攻撃をされたら逃げ場が無い以上、このメンバーでの探索は無謀なのでは?」


 ……ごもっとも。

 昔、『弾幕』さんに瞬殺された時は、まさに逃げ場のない場所で範囲攻撃を連発されたのが原因である。

少なくとも俺は死ぬ。


「…ユークは生き残る自信ある? 俺は無いけど」

「俺も無理」


 ユークの生存能力…もしかしたら俺以下かもしれない。


「―――……なぁ、あまり褒められた事じゃないが、手の内を明かさないか? それが無理ならパーティメンバーを考え直せってウェイン達に泣きつくようだぞ」


 思わぬ提案を受けて、少し驚いた。

時々、手の内を明かす事はある。

例えば、強敵と戦う時。

 だが、そう言う場合は同じクランのメンバーであったり、特に仲の良いプレイヤーである事が前提だ。

信用出来る相手でないと、その情報が洩れる事だってあるからだ。

今回たまたま組んだ俺達で、情報交換をするのはさすがに躊躇われる。


 ……とは言え、他の『二つ名持ち』もすでに動き出している頃だろう。

このタイミングでメンバー交代など可能なのかどうか。

 これに関しては連絡の遅いロニ達が悪いのだけど、あっちも忙しいだろうし仕方ない所かもしれない。


「お互いに、情報を洩らさないって信用出来る?」

「『狂葬』さんとしては不安だろうな。俺がクランメンバーに洩らせば、クラン全体に『狂葬』さんの情報が広がる」


 ついでに言えば、強敵相手にユークがEXスキル、あるいは固有魔法らしき物を使った映像は出回っている。

正確な効果までは解らないが、ある程度知られているユークと、知られていない俺とでは情報の価値に差がある。


「…ユークがこう言ったのは、お互いに明かせばパーティを解散する必要がないからです」

「―――……へぇ」


 つまり、EXスキルか固有魔法を使えば、壁役が出来ると言う訳だ。

多分、ギアの方だろうな。

 この発言だけでも情報になる……これは信頼の証と言うより、裏切るなって言う忠告かな。


「フラウはどう思う?」

「……いいのでは? 私達のは、防ぐ方法が限られますし」


 あるいは、そんな俺達の手を封殺するようなEXスキル、固有魔法が存在するかもしれないけどね。


 依頼を断ると言うのも手ではあるけど……。

 フラウに目を向ければ、スッと髪を耳にかけるのが見えた。

何か思う所があるんだろう。


「全部とは言わないさ。ただ有用そうなEXスキルか固有魔法をそれぞれ一つを明かす、って事でどうだ?」

「解った。ただ、そっちから出せる?」

「いいぞ」


 試すつもりで投げた言葉は、拍子抜けするほどあっさり返された。

マジでいいの? と聞き返す間もなく、ギアが口を開いた。


「俺のEXスキルに分身を作るスキルがあります。囮とでも言えばいいですかね。…まぁ、見た方が早いですか。『デコイ・ディパート』」


 手に持った槍を構えつつ、ギアが言う。

と、ギアの身体から何かが出たと思った瞬間、それはギアの姿へ変わった。


「…これは?」

「分身のようなものです。とは言え、攻撃は出来ず、相手の気を引くだけですが」


 近づいて見比べて見ても、ギアと見分けは付かない。

相手の気を引く効果があるのならば、盾としては使えるかもしれない。

ただ、耐久力と持続時間、再使用時間による。


「発動するとMPが徐々に減っていきます。そして、相手からの攻撃を受けると、俺のMPにダメージが入ります。持続時間は、俺のMPが切れるまで…再使用は、15分ですね」


 再使用時間が少し不安ではあるか。

 大きくダメージを負えばそれだけ早く分身が消えるし、分身が消えた時に15分が経過していたとしても、MPを回復してからでなければ使えない。


「なるほど…なら、こうすると倒されにくくなる訳ですね。『エメラルド・ガーデン』」


 フラウが使った魔法はMPを徐々に回復していく色彩の魔法。

消費MPに対して回復するMPが破格の魔法であり、色彩魔法の中でも強力な魔法だ。

 これだけで継戦能力が大きく上がる。


「…MPを回復させていく魔法ですか。回復量も多いし、これ便利ですね」


 受けたギアもどこか満足そうに頷いている。


「ちなみに、それはスキルなの? 魔法?」

「これはスキルですね。見ての通り、槍のスキルです。俺、MPは高めなので、本体が盾をするよりしぶといですよ」


 本体よりしぶといって事は、本体の防御力も反映されているのかな?

どの程度耐久があるのかは興味がある。

 そんな思考に耽っていると、今度はユークが前に出る。


「俺は固有魔法でも使うか。『デザート・ヒート』」


 そう言って放たれた魔法は、ユークを中心にして広がって行く。

赤い光のように見えたそれは、光に触れた途端、力が湧いてくるような感覚がある。

 これ、バフか?


「範囲内の味方に、攻撃力と防御力アップの効果がある。上昇率は二倍だ」

「範囲バフで二倍? パーティメンバーじゃなく、範囲内の味方って辺りが壊れてるよね…」

「それは同感だ。ただ、再使用まで60分掛かる。やばい相手が出た時にしか使えないな」


 そうなんだ…と言いつつ、俺も魔法を唱える。


「『クリムゾン・レジェンド』」

「おっと? …バフか?」


 これは俺の固有魔法の一つ。

指定した対象に対して、全能力を二倍に引き上げると言うもの。

消費MPが少し多めだが、効果時間は5分と長め。

 ただ、再使用まで30分かかる。


「二倍って…俺のと合わせて、攻撃力がすげぇ事になってるな」

「ギアの分身にも掛けられるようだから、防御力強化目的で使ってもいいかもね」

「全能力が上がるならそれも有りか。…っておい、HPとMPの最大値も倍になってるじゃねぇか」


 『全』能力だからね。

まぁ、範囲バフで、攻撃力と防御力を二倍に引き上げるってのも大概だと思うけど。


 ―――……でもね。


「では、私からも固有魔法を」


 そう言って前に出たフラウが唱えたのは、正に彼女の切り札。


「『ウルトラヴァイオレット』」


 フラウ自身が強く輝いたかと思うと、その光が全員に降り注ぐ。


「この魔法は?」


 疑問を浮かべるユークに、フラウが答える。


「3分間だけですが…パーティメンバー全員を無敵にする魔法です」




●デコイ・ディパート

両手槍EXスキル 再使用20分

相手の注意を引く効果がある分身を生み出す。

使用中はMPが減っていき、MPが0になると消滅する。

また、分身がダメージを負うと使用者のMPにダメージが入る。

MPが0になるか、使用者が効果を切らない限り消滅しない。


●デザート・ヒート

熱砂固有魔法 使用MP120 効果時間3分 再使用60分 詠唱時間20秒

パーティメンバー全員の攻撃力、防御力を二倍に上昇させる。


●クリムゾン・レジェンド

色彩固有魔法 使用MP50 効果時間5分 再使用30分 詠唱時間10秒

指定した対象に対して、全能力を二倍に上昇させる。


●ウルトラヴァイオレット

色彩固有魔法 使用MP400 効果時間3分 再使用1日 詠唱時間40秒

効果時間中、パーティメンバー全員を無敵状態にし、あらゆるダメージ、状態異常を防ぐ。

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