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第19話~第20話 幕間 あるパートナーの希望

 フラウの生まれは、ロクトの西にある小さな漁村だ。

 漁師の父と裁縫の得意な母との間に産まれ、二歳年下の弟がいる。

これと言って特筆するような事はなく、極々普通の……『EW』で言えば、比較的平和な日常を送っていたと言える。


 フラウの人生が大きく変わったのは十歳の時。

ロクトでは十歳になると精霊の加護を得る為、儀式を受ける。

各地に点在する精霊の森と呼ばれる場所へ赴き、自身と相性のいい精霊から加護を与えられるのだ。

 与えられた加護は『色彩』。

芸術家…特に、絵描きに多く加護を与えると言われる精霊である。

それを知った時、フラウは何か芸術に関わる人生を送るものだと思っていた。

 だが、村にいた占い師にこんな事を言われ、自分の生き方について考え直すようになった。


『お前は遠い未来、『ジュエル』を授けられし者と旅に出るだろう。今のお前では想像も出来ないほどの途方のない旅に。だが、それはずっと先の未来。お前は守るべき者を守れず、絶望を抱くだろう。しかし…その先にこそお前の求める物がある』


 抽象的でよく解らない占いだと思った。

 だが、何か感じる物があったのも確か。

それから―――旅に出ても問題ないよう、自身を鍛え始めた。


 今なら思う。

あの占い師は、『ジュエル持ち』達の言う『EXスキル』や『固有魔法』と呼ばれる能力で未来を見たのではないかと。





 これは夢だ。

何度も見た事がある……夢。

 そう認識しながらも、フラウは身体を駆ける悪寒を止められない。

生まれ育った村……見知った場所のはずが、暗く、淀む空によって全く違う場所のように映る。


 虚ろな記憶―――だが、見た事のある景色。


(……また、この場所―――)


 そして、この後は必ず――――。


 空が黒く光る。


 天が裂けて行く衝撃。


 大地が反転し、重力が消滅した。


 己が身が浮き上がり、空に投げ出された。


 必死に閉じそうになる眼を開き、正面へと視線を向ければ――――。


「……っ」


 強大な存在感に息を飲む。

それはきっと根源的恐怖。

体中を駆け巡る寒気に震えながら、それでも視線は下げない。


 目の前に在るのは黒き巨人。

世界を飲み込むほどの巨体が、フラウを睥睨している。

今すぐ逃げ出したい気持ちを押し止めながら、しかし、フラウは決して目を逸らさない。


 紅く歪む口が、ゆっくりと孤を描く―――と思えば、唐突にその顎が開かれた。


「くっ……」


 口が開かれたと思った途端、その口の中にあらゆる物が飲み込まれて行く。

家族と過ごした家も、よく遊んだ草原も……思い出の品も、友人達も。

 これが世界の終わり――――だが、フラウに絶望は無い。

巨大な口がに飲み込まれるかと思われた時、目の前に光が現れる。

 その光に手を伸ばせば―――――。


「―ラウ……フラウ?」


 目の前には、愛しい人の顔。

今、その金色の瞳には心配の色が伺える。


「……レイ?」

「大丈夫? なんだかうなされていたけど……」


 ゆっくりと身を起こし、周囲を見渡せば…そこはリビングのソファ。

本を読んでいたはずだが、どうやら眠ってしまったらしい。

 自身に掛けられていたレイの上着を見て、フラウの口元が緩む。


「すみません、転寝してしまったようです」

「そう…」


 ほっとしたような表情を浮かべ、レイは立ち上がる。

もう少し傍にいて欲しかったのに…そんな言葉を飲み込みつつ、自分の手にあるレイの服を抱きしめる。

目の前にあったレイの顔―――色白の肌と瑞々しい唇、柔らかな黒髪―――思い出すだけで、込み上げる物がある。

可能ならレイの髪に触れてみたいが、中々触る機会に恵まれない。


「何か悪い夢でも見てた?」


 優し気な微笑みを浮かべ、レイが問いかける。

 一瞬、意識が別の方へ向かっていたフラウだったが、声を掛けられて意識を戻す。


 ああ、そう言えば…そう言いかけて、フラウは首を振る。


「いいえ。――――希望の夢です」


 そう、何時だってレイが救ってくれる。

フラウにはそんな確信がある。


 だからこそ―――レイを絶対に手放せないのだ。




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