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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
ロクト王国とオーガの里
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第17話 『狂葬』

 王様は剣を抜いて、数段高い場所にあった王座から降りてくる。


 一歩一歩踏みしめるほどに、その重圧が増していく。


 本人の重圧だけじゃない、剣も業物だ。

使用しているのは片手剣一本だけか…?


 ――――大した理由もなく挑んで来たのに、凄い強敵感だ。


「他の奴らは下がってろ。まずはレイ、お前からだ」

「……フラウも下がって。ちょっと斬って来る」


 他の貴族達や俺と一緒に並んでいたクラウス達が下がって行く。


 狭い室内での戦闘なんて本来は俺の土俵じゃないが、この状況で言えた事ではないだろう。


「あんまり周りを壊すなよ。俺の小遣いから引かれるからな」

「更地にしてやるよ」

「それはやめろ」


 俺の数メートル先まで距離を詰めると、王様は半身の状態で止まる。

剣を構えている訳じゃない。


 対する俺は少し腰を落とし、短剣を逆手に持ち、前に構えている。

剣は地面に向けた状態で、身体の後ろに隠れるようにする。


「魔法は無しで、剣とスキルだけで行こうじゃないか」

「…俺はジュエルスキルもあるんだけど」

「そいつは使わせてやる。自動効果のものもあるんだろ?」

「そりゃどーも」

「こうやって前に立っているだけで解るぜ? 楽しめそうじゃねぇか」


 ……その割に、油断している?

いや、違う―――――何か仕掛けるつもりなのか?

 なんとも読み難い相手だ。

これと言った構えを取らない所為か、行動が予測し難い。

全体を把握するように、目線を下げて漠然と全体像を見る。


 仕掛けて来いって事か? 始めの合図も無いし、いっそ一気に仕留めに――――ッ!?


「ほう、よく避けたな」


 気付かなかった。

決して早い剣ではなかったのに。

 何時攻撃に入ったのかすら解らず、目の前に迫った剣にようやく反応出来た。

ほぼ反射で顔を仰け反らせた瞬間、鼻先を剣が通過して行った。


 何をした? 全体を把握するように意識していたはず。

でも、筋肉の動きも呼吸の乱れも、何一つ感じ取れなかった。


「今ので仕留めるつもりだったんだがな」


 そう言いながら、足を大きく開き、剣を横に構える。


 …こいつ、さっき何をした?


 あれはスキルじゃない…勘でしかないが、恐らく剣の技術のみで成し得た一撃。

多分……俺の警戒が薄い場所を縫うようにして剣を滑り込ませて来た。


 冗談じゃない……本物の化け物じゃないか。


「……実は魔物でした~、とかないだろうね?」

「よく言われる」


 あれは剣の極地。

目の前にいるのはただレベルが高いだけの奴じゃない。

戦闘技術も一級品……これは最悪だ。


 EXスキルだって、50レベル毎に覚えている以上、恐らくは三つあるだろう。


 これは、本気でやばいかもしれない。


「でも――――」


 前方に構えた短剣を僅かに揺らす。


 左足に力を入れ、一瞬だけ呼吸を乱す。


 流れるように、視線を相手の足元へと向ける。


 それをほぼ同時に行い、俺の身体に隠れた剣を相手の死角へと走らせる。


「ッ!? ほほう」


 さすがに反応が早い。

剣が身体に到達する前に、剣で打ち落とされた。


 そのまま真似をするほどの技量は、俺にはない。

けど、意識を誘導すれば少しは再現出来る。


「大したもんだ。想像以上だよ、レイ。まさかこんな簡単に真似されるとはな」

「オリジナルには程遠いけどね」

「伊達に百年生きてねぇから、な!」


 突然の加速と振り下ろされる白刃。

咄嗟に半身を反らし、相手の懐へと踏み入る。


「前のめりなのは嫌いじゃないぜ!」


 短剣で斬り付けてやろうかと思ったのだが、王様の拳が眼前に迫り、大きく飛びのく。


 片手剣と拳撃の二刀流?

拳撃は両手武器のはずだが、どうなってる。

 ――――いや、片手の装備を空けておけば殴る事は出来るか。

スキルが使えないと言うだけ。

両手武器を使っていても、片手さえ離せば相手を殴り飛ばす事が出来るのだから。


 どちらにしても、面倒な事この上ない。

片手剣の間合いで戦い、懐に入って来たら格闘で牽制。

 インファイター過ぎるだろ。

遠距離相手は魔法頼りか?


「逃がすかよ!」


 距離を稼ごうとした俺を、王様が追撃する。

 足は速くない。

けど、剣の速度が速すぎる!

 一撃目を躱し、二撃目を受け流す。

僅かに…そう、本当に僅かにだけ重心がズレ、その合間を狙って剣を振り下ろす。

 だが、それを空いていた左腕で受け止める。


 ……違う、こいつ。


「その小手、盾か!」

「もう気付いたのか? 殴りつければ勝手に誤解してくれるし便利だぜ?」


 小手型の盾。

『EW』の装備品は、見た目に関して自由度が高い。

剣に見せかけた杖、杖に見せかけた銃、銃に見せかけた剣……挙句、ローブに見せかけたフルプレートアーマーなんてものもある。

純後衛の見た目でバリバリの前衛などそこら中にいるのだ。

 『EW』とは、見た目が全く当てにならない世界なのである。


 片手で扱っている事から、恐らくは小盾。

全く…今の攻撃に『パリィ』を合わせられたら危なかった。


 まぁ、それぐらいで負けるつもりはないが。


「そんなに離れるなよ。盾は嫌いかい?」


 盾持ちの怖い所は防御スキルやカウンタースキルの多さ。

テクニカルな動きが求められるが、極めれば純粋に強い。

 なんと言っても、攻め辛いのが面倒だ。


「クロックアップ」


 短剣のスキル、クロックアップ。

説明欄に書かれている効果は、3分の間、AGIを1.2倍にすると言うもの。

 この説明欄に書かれている内容は結構な難敵だ。

トリックアートなどがいい例だが、意味合いをちゃんと理解すると別の使い方があったりするのである。

ゲーム時代はそうでもなかったが、現実となった影響がここにも及んでいるようだ。

 まぁ、それはともかく。


 速度アップと同時に、全速力で相手の後ろを取る。


「バックアタック」


 背後から攻撃すればクリティカルするスキルを使用し、その背中に剣を突きたてる。

当然、手加減攻撃を乗せている。


 だが、剣が届くかと言う刹那、王様の口元が動いた。


「サークルウェイブ」


 王様がオートモーションに入った瞬間に空中へ撥ねる。


 サークルウェイブは片手剣の範囲攻撃スキル。

STRで威力と攻撃範囲に補正が掛かり、人によってはとんでもない範囲を攻撃してくる。

唯一の弱点と言えば、あくまで円状に攻撃するだけであり、空中へは届かない事か。


 天井へ着地しながら、周囲へ視線を巡らせれば、誰かが張った結界が割れる所だった。

幸いそれ以上の被害はないようだが、一歩間違えば周りが巻き込まれていた。

 無茶をする。


「ちっ、足の速い奴だ」


 天井を蹴り、王様の頭上を狙う。

ガキン、と大きな金属音を立て、剣を止められた。

 少し押し合うが……力なら俺が上か。

なら、攻められるだけ攻め立ててやる。


「クロススラッシュ」


 クロススラッシュは片手剣のスキルで、高速の二連撃を叩きこむ事が出来る。

そして、空中でスキルを発動すればモーション中は滞空する事が可能なのだ。

 つまり、スキルを上手く活用すれば頭上から攻め続けられると言う訳だ。

スキルの合間に通常の攻撃を加えつつ、連続で攻撃を叩き込む。


 先ほどから絶え間なく剣撃の音が鳴り続ける。

これだけ真向から打ち合える相手なんて久々だ。

『鬼若』以来だろうか。


「ヴォーパルインパクト」

「ぐっ! 俺が力で押し負けるたぁな!」

「アクセルスラッシュ」


 通常の三倍の威力で攻撃するスキル、ヴォーパルインパクト。

 さすがに堪え切れず、王様が後方へ距離を取る。

それを追うように急加速から攻撃するスキルを繋ぐ。


 俺がこの王様に勝てるのはSTRとAGIのみ。

剣術、戦闘技術、その他のステータス、どれもが劣っている。

連続で攻め立てる以外に勝てる可能性が見出せない。


 一見して俺が押しているように見えるが、追い込まれているのは俺の方だ。


「てめぇ、本当に容赦ねぇな!」

「どの口が言う!」


 こうやって攻めている間もフェイントを織り交ぜて来る。


 ほんの一瞬でそれを判断しなければ、一気に攻勢に回られる。


 長引けばこっちが不利だ。


「この……『天元突破』!」


 言葉と同時に、剣を押し返される。

聞いた事の無いスキル…EXスキルか!?


 一気に距離を離し、様子を伺おうとした…のだが、先ほどとは明らかに違う速度で急接近された。


「な…」

「逃がすか!」


 振り下ろされた剣を避けきれず、短剣で受け止める。

だが、あまりの衝撃に大きく吹き飛ばされる。


 ステータスアップ系のスキルか。

AGIはまだ勝ってるようだが、STRは上回られた。

とは言え、AGIが勝てているのはクロックアップの効果が続いている為でしかない。

スキルが切れれば速度でも負ける可能性が高い。


 ……無理だ、これでは勝ち目がない。


 相手の速度がこれだけ上がっては、フェイントかどうかの判断が効かない。

たった一度の判断ミスで負ける。


 ……やるしかない。


「『バーサーク』!」


 叫びながら、相手の剣に合わせ、こちらの剣をぶつける。

 一瞬目を見開いた王様だったが、剣で上手く受け流そうとして――――吹き飛ばされた。


「ぐ……てめぇ、バケモンか!」

「そりゃアンタだろ!」


 俺がレベル50で覚えたEXスキル『バーサーク』。

EXスキルや固有魔法は長い説明文が多いらしいが、俺の覚えたスキルは非常に簡潔に書かれている。

 『バーサーク』もそうであり、内容は以下の通りだ。

『10分間、防御力を0にする代わりにSTR、攻撃力を3倍にする』。

誤解も深読みも出来ないほど単純な効果なのだ。

 一つだけ注意点があるとすれば、STRを3倍にし、攻撃力も3倍にしている為、実質的な上昇量は3倍では済まない。


 このスキルを初めて見た時は、強すぎてバグか何かかと思ったぐらいだ。


 まぁ、プレイヤーの殆どが経験する事だが、EXスキルを覚えて、自分が強いんじゃないかと勘違いし、他のプレイヤーのEXスキルに敗れる。

ここまでがセットだったりする。

俺は防御力0の記述があった為に無理はしなかったが。


 態勢を立て直したばかりの王様に追撃を掛ける。

剣を受け止められはしたが、切り返したり受け流す余裕はないらしい。

 『バーサーク』…いや、クロックアップが切れるまでに決めなければ。


「俺の剣が悲鳴上げてやがる…!」

「城ごと圧し折ってやる!」

「だからそれはやめろ!」


 すでに足元ボコボコになってるけどな!


 実際は相手の剣が折れる前に俺の剣が使い物にならなくなるだろう。

攻撃力を重視した為に、耐久力は高くないのだ。

相手の攻撃を短剣で受けていたからこそ今の所はなんとかなっているが、どんどん状況は悪くなっている。

 起死回生の一手が欲しい所だ。


「楽しいなァ、レイ!」


 互いに打ち合いながら、王様が笑う。

楽しいと言われて、自分の口元が笑っている事に気付く。


 …そうだ、楽しいんだ。


 ギリギリのスリル。


 不利を覆す快感。


 現実では得られなかった高揚感がここにある。


 己の全力をぶつけ、出し抜き、騙す一瞬の攻防。


 ――――たまらない。


 心臓が高鳴って行く。


「―――――ふふ」

「あん?」


 止められない。

 楽しくて楽しくて――――楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて楽しくて――――――――。


「アハハハハハハハハ!!」


 止められない、止めたくない。何時までも斬り合っていたい。俺の全力を受け止めて欲しい。相手の全力を受け止めたい。精魂尽き果てるまで戦い続け、戦い続け、戦い続けて―――その先へと辿り着きたい。

 もどかしい、もっともっと。


 もっと戦いを、俺に。


 もっと強さを、俺に。


 もっと恐怖を、俺に。


 相手に。


「アハハハハハハ!」

「来たか、『狂葬』!」


 目の前の獲物が獰猛に笑う。




〇クロックアップ

習得レベル20 短剣スキル 効果時間3分 再使用10分

一時的にAGIを1.2倍にする。


〇サークルウェイブ

習得レベル60 片手剣スキル 再使用15分

円状に範囲攻撃をするスキル。

身体を回転させるようにして、周囲へ斬撃を放つ。

STRが高いほど、威力と範囲に補正が掛かる。


〇クロススラッシュ 再使用10分

習得レベル40 片手剣スキル

左右から斬り裂く高速の二連撃。

AGIが高いほど攻撃速度、威力に補正が掛かる。


〇ヴォーパルインパクト 再使用15分

習得レベル80 片手剣スキル

三倍撃。

空中高く飛び上がり、相手の頭上から強烈な突きを叩き込む。

STRが高いほど、威力に補正が掛かる。


●天元突破

片手剣EXスキル 効果時間10分 再使用90分

効果時間中、使用者のステータスを2倍にする。

また、効果時間内は自分のHPが0以下になっても戦闘不能にならない。

HPが0以下になった場合のみ、ステータスが5倍になる。

スキルの効果が失われた際にHPが0を下回っていた場合、その場で戦闘不能になる。


●バーサーク

片手剣EXスキル 効果時間10分 再使用60分

効果時間中、使用者の防御力を0にする代わりに、STRと攻撃力を3倍にする。



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