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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
ロクト王国とオーガの里
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第16話 報酬

 ノノ達へ授業を行ってから一週間。

 あれから街の周りでノノに実地訓練をしたり、フラウと模擬戦を行ったりしていたのだが、王城からの招集に応じて今は応接室にいた。

再び王城へ呼ばれた俺達は現在、謁見までの時間を潰している所である。


 今回はクラウスとヴィスター、ドウザンも呼ばれており、恐らくはオーガの里の一件に関した事だろう。

 高そうな調度品が飾られている待合室で、俺、フラウ、ノノ、クラウスにヴィスター、後はアサカが寛いでいる所だ。


 ドウザンには他にやる事があるらしく、王城についた途端、別の場所へと連れて行かれた。

アサカはついて行かなくて良かったのだろうか。

…いや、この娘がクラウスから離れるとは思えないけど。

 今も他人の目があるにも関わらず、俺達の目の前で幸せ空間を作り出している。

俺がクラウスを殴りたいと思っても許されていいはずだ。

床に寝そべっているヴィスターも、どこか呆れているように見える。


「わ、私、こんな所に来ていいの…?」


 それぞれマイペースに過ごす中、ただ一人だけ落ち着きがないのはノノである。

 呼ばれたのは俺とフラウ、クラウスとヴィスターの四人なのだが、一人だけ残して行くのもどうかと思い連れて来たのだ。

一応呼びに来た使者にも確認したが、問題無いとの事だったしね。


「大丈夫だよ」

「で、でも呼ばれてないし…」

「あの王様がそんな細かい事気にする訳ないって」


 大体アサカも呼ばれた訳じゃないらしいしね。

 他の貴族も来ているみたいだけど、ロクトの貴族なんて全員脳筋である。

十人ぐらい多く来たって気にしないだろう。


「呼ばれたのはオーガの里の一件でしょうか?」


 相変わらず動物が好きなのか、フラウはヴィスターをモフり倒している。

ここ最近はノノも良く撫でまわされていたけど、動物好きと言うよりは可愛い物が好きなんだろうか。


「何か見つければ国から報酬が出るって言ってたし、それじゃないかな」

「な、なら余計に私はいらないんじゃ…」

「今回の件とは関係ないかもしれませんが、居てはいけない訳でもないでしょう」


 大体、当日にいきなり迎えに来る方がおかしいのだ。

お陰で、王城に呼ばれたと言うのに俺達は全員普段着である。

 まぁ、あの王様相手に服装なんて気にしないけど。

あっちも気にしないだろうし。


「しかし急だよな。事前に知らせてくれれば良かったんだが」

「相変わらず文官が足りてないんだと思うよ」


 一般的に王国と呼ばれるとどんな物を思い浮かべるだろうか。

 俺だったら武官と文官の仲が悪かったり、貴族達が悪だくみしたり、権力抗争なんかがあるとか…そんな想像をする。


 はっきり言って、ロクトはそんなものとは無縁である。


 文官は誰もやりたがらず、だからこそ文官をやっている者達は武官から尊敬されているし、貴族達は脳筋ばかりなので悪だくみなんて遠回りな方法を好まない。

権力抗争以前に、彼等は権力に興味がないのである。

 というか、多くの当主がさっさと子供世代に権力を継がせて、自分は前線へ戻りたいと考えている。

対する子供世代は前線から離れたくないので、必死に抵抗する。

ある意味、貴族達にある抗争とは親と子の権力の押し付け合いである。


 『蛮族に毛が生えたようなもの』とはよく言われるが、個人的には蛮族の方がまだまともなんじゃないかとさえ思う。

こんな国を運営している文官達は苦労に絶えない事だろう。


「聞いているかもしれないが、俺達は別々のパーティになるらしいな」

「パーティに亜人を入れるって話? まぁ、魔物はいても亜人はいないしね」


 今後、他の種族と接触した時に対しての備えだろう。

人間と亜人は仲が悪いようだし、人間と亜人の混成パーティにして、どちらにも対応しやすいようにするという事だ。

 俺達は三人が人間で、ヴィスターは狼の魔物だ。

ノノを連れ歩いたとしても、彼女も人間であり状況は変わらない。

 アサカ辺りが入れば状況も変わるが、クラウスや彼女にはやる事がある。


「俺はオーガ達とロクトの橋渡しで暫くは冒険に出られない。その内、お前に新しいパーティ編成が伝えられると思うぞ」

「ならこのパーティも解散か…」

「ヴィスターに会えなくなってしまうんですね…」


 フラウにとって重要なのはそこか。

本当に動物でも飼おうかな。

すぐには無理だが、予定が空けばフラウと見に行くのも楽しそうだ。


「短い間だったが世話になった。また何かあればよろしく頼む」

「こちらこそ。パーティ組んだのなんて久しぶりだったし、楽しかったよ」


 色々あったけどね。

主にオーガの里で。

 結果的に良い方向へ向かったのだから、今更文句を言うつもりもないが。


「『狂葬』の本領を見れなかったのは残念だったけどな」

「本領って…」


 俺のスタイルから言えば、姿を隠しての強襲、遊撃だろうか。

 何を期待されているか知らないが、今の所は強敵らしい強敵に出会っていない為、本領を見られなかったのは俺も一緒である。

森の精霊の加護が、どんな魔法を使うのかすらも見られなかった。

 ヴィスターの戦い方にも興味があったんだけどな。


「そういえば、レイが戦ってる所って見た事ないわね」

「バシリスクの時にはレイが一人で倒したんですが、あの時は私とヴィスターしかいませんでしたしね」


 オーガの里に行った時は、俺の出番なんて殆ど無かった。

唯一戦ったのはバシリスクのみである。


 …そういえば、クラウスに会うタイミングがなく、あの時の報酬を渡し忘れていた。


「これ、渡しておくよ」

「ん?」

「あの時の素材を売った報酬」


 テーブルの上に、金を出す。


 気持ち多めにしているのは……まぁ、結婚祝いだし。


「多くないか?」

「これから大変そうだしね。…子供とか」

「ぐぬ」

「沢山育てるには必要でしょ?」


 からかうように言えば、クラウスはくすぐったそうに笑った。


 多分、クラウスの所持金だけでも問題はないのだろうが、こういうのは気持ちの問題だ。

俺の意図は伝わったらしく、穏やかな笑顔を浮かべながら、クラウスは礼を言うのだった。





 謁見の間へ入ると、王座にゼペスが腰掛け、クェイン、シドが左右を固めている。

 周囲には今回の転移に巻き込まれた貴族が集まっていた。

貴族達の正装が冒険者っぽい恰好なのが、この国の貴族の限界だろう。

 何より人相が悪い。


「オーガの里長ドウザン、レイ・ウェスト・ソード伯爵、クラウス・ノース・カタナ子爵、フラウ、ヴィスター……あと、なんか二人。面を上げよ」


 もうちょっとなんか誤魔化し方あっただろ。


 跪いていた俺達は、ゼペス王の言葉で顔を上げた。


「えーっと…オーガの里を見つけ出し、オーガ達との友好を結んだ事、誠に大義であった。あの、ほら、あれだ。その功に対し、褒賞を与える。…もうちょっとカンペを高く上げてくれ」


 カンペ言うな。


 チラりと後ろを見れば、恐らく文官だろう人間が横断幕のようにカンペを掲げていた。

なんか妙に俺達の後ろを気にしてると思ったら、これか。


「父上…」


 自分の父親を残念そうな目で見るシド。

 クェインは顔を手で覆い隠し、肩を震わせている。

笑ってやるな。


「また、オーガの里長であるドウザン氏には、この場を持ってオーガ達を正式にロクトへ迎え入れる事を約束しよう」

「はっ」


 ロクトの作法なんて大して知らないだろうに、それっぽく対応するドウザン。


 まぁ、そもそもこの国に改まった場での作法なんぞ存在しない。

精々、号令に対しての受け答えがあるだけだ。

自分の武器を、胸元で逆さに構えると言った簡単なものだが。

今のような剣を抜けない場面では、それを鞘付きでやる。

 本来なら跪くと言った作法すらないのだ。


「さて、レイとクラウス、フラウにヴィスター……………おい、あの二人誰だ?」


 確認するの遅っ。


 隣のシドが微妙な表情を浮かべながら、こっそりと耳打ちする。


「オーガの女性はクラウスの奥方でドウザン氏のご息女、アサカ殿です。もう一人はノノと言う、レイが預かっている少女だそうです。…それと、レイとクラウスを呼ぶ時は爵位を忘れないように」


 完全に聞こえている辺り、シドもロクト王家の脳筋である。

こんなんで取り繕う気が本当にあるんだろうか。


「まぁいいや」

「言葉遣い」

「ん、ゴホン。レイ伯爵、クラウス子爵、フラウ、ヴィスター…お前達に対する褒賞だが、クラウス子爵とヴィスターからはすでに要望を受けている。レイ伯爵、フラウ、お前達は何を望む?」


 特にない。

っていうか、クラウス達はもう決めてたのか。


 ……んー……――――どうしよう、本当に何も思い付かない。

事前に知らせてくれれば何か考えておいたのに。


 うんうん唸っていると、王様がくつくつと笑い出した。


「相変わらず欲のねぇ奴だ。最前線送りや俺との決闘を望んでもいいんだぞ?」


 周りの貴族達が『おお!』とか言っているが、ロクトの脳筋以外に対しては単なる罰ゲームだ。

最前線送りとか国によっては極刑だぞ。


「陛下、言葉遣いが乱れております」

「うるせぇな、お前は俺の母親か」

「息子です」


 最もな返しに王様は大きくため息を吐く。


「こんなんじゃレイ達だって言いたい事言えねぇだろうが。はい、堅苦しいのは終了~」


 パンパンと手を叩きながら、王様は足を組む。

それを見た貴族達もそれぞれ大きく息を吐きながら、楽な姿勢へと移行していく。


 ……楽な姿勢つっても、壁に寄りかかったり地面へ座るのは如何なものか。


「で、なんかねぇのか? 爵位でも上げてやろうか?」

「いらないっす」


 先ほどから言っていたが、俺やクラウスには爵位がある。

俺が伯爵、クラウスが子爵だ。


 この爵位だが、実は特定のクエストを達成すると得られるものだ。

ロクト国民にしか受けられないクエストなので、爵位を得られるのはロクト国民だけである。

クエストで得られるのは男爵、子爵、伯爵、侯爵の四つ。

 だが、本当にプレイヤーが欲しがっているのは爵位ではない。


 男爵の爵位を得ると、同時に報奨金が得られる。


 子爵の爵位を得ると、騎士団が討伐した魔物の素材を安く買う事が出来る。


 この先は趣味の範囲になってくるので、殆どのプレイヤーは子爵で止める事が多い。

では何故、俺の爵位が伯爵であるか、と言えば。


 伯爵を得る時に同時に得られる報酬というのが、王城に居るNPCと模擬戦を行える権利である。

王族とはさすがに出来ないが、騎士団長であるタニアとも戦えるようになる。

勘が鈍らないようにと、時折相手をしてもらいたかったのだ。


 ちなみに、それだけである。


 模擬戦をする権利を得るだけで、例え模擬戦で勝った所で何もない。

クエストが面倒なのも相まって、伯爵になろうと言う者が非常に少ないのはこれが理由だ。


 侯爵になると領地を与えられ、領地経営と言ったミニゲームに似た要素が追加されるのだが、かなりの時間を使わなければ得られる物もない上に、仕様が面倒なのでこちらも人気が無かったりする。


 この辺りの事情もあり、ロクトのプレイヤーは大半が子爵なのだ。


 今回の件、この爵位の所為で余計な気を遣う事になってしまった。

この世界の住民に会った際に、貴族として接する事になる訳で……へりくだった態度を取れないのである。

後々の力関係に影響する可能性があるとかで、立場のある人間はそれなりの態度を求められているのだ。

 この辺りは、王様達とそう変わらない。


 後は余談だが、爵位を得ると同時に名前を与えられる。

 この名前だが、キャラクターネーム・王城から見てハウスのある方角・任意の武器種名という形の名前になる。

 ロクト国民のプレイヤーはほぼ爵位を持っている訳で、そうなると方角や武器名では分けきれない。

……つまり、被りまくっているのだ。

俺と同じ『ウェスト・ソード』だけで千人以上はいるだろう。


 ちなみに、この名で呼ばれるのはイベント時のみ……故に、得意武器の名前を付けたとしても人に知られるという事もゲーム時代にはなかった。


「ならそうだな……俺の娘と結婚するか?」


 何言ってんだ、このおっさん。


 おっさんの娘と言えば王女でもある、セリーナ・ロクト・ラナクイア。

ロクト国民においてはヒロイン枠のNPCであり、それなりの数のイベントが用意され、優遇されているキャラクターだ。

その力に秘密があったりと設定が多い人物でもある。


 さて、登場回数が多く、ロクトのプレイヤーからは人気がある人物なのだが、一つ問題があるのだ。

ヒロイン枠と言うだけあり、プレイヤーを慕うようなセリフが多く、プレイヤーに好意を持っている事が伺える。

恥じらいつつも、そんな言葉を投げかける健気さを見せるのだが――――ロクトのプレイヤー全てにそんな事を言うのである。

 結果、プレイヤーからこう言われる事になる。


 『単なるビッチじゃねぇか』と。


 まぁ、仕様上の問題なので人気があるのは変わらないのだが、プレイヤー達には『ロクトのビッチ』で通じてしまう程度には広く認識されている。

 ゲームでの記憶をどの程度引き継いでいるかは知らないが、正直あまり関わりたくない人物である。


 俺が眉間に皺を寄せつつ、王様を見ていると――――。


「そんでフラウはクェインと結婚―――――」

「おっさん、そこに直れ」


 咄嗟に剣を抜いていた。


 それは断じて許さん。

抜いた剣をおっさんに向けながら断固拒否の姿勢を取る。


「へぇ、嬉しいじゃねぇか。少しはやる気になったか?」


 王様が獰猛な笑みを浮かべる。

……元々これが狙いなのだろうが、知った事か。


「俺が勝ったらそれぞれ結婚してもらおうか。いい加減、身を固めてもらわないとな」


 周囲の貴族達が歓声を上げる。

こんな場所でわざわざ煽って来たのはこういう事か。

ここで戦闘を放棄したら、周りの脳筋共が暴れるのは目に見えている。


 チラリと視線を走らせ、ざっとレベルを確認する。

 くそ、当然の如く100レベル以上がゴロゴロいる。

これを全員はさすがに勝ち目がない。


「……親父、俺をダシにしてないか?」

「さてな」


 クェインも不服そうな表情で王様を見ている。


 小さく『俺が戦いたかったのに…』とか呟いたのは聞こえなかった事にする。


「……俺が勝ったら? 言っておくけど王位とかはいらないよ」

「いつでも俺と戦える権利をやろう」


 またも周囲から歓声が上がる。

 いや、嬉しくないから。

っていうか戦いたいのは王様の方だろ。


「それは、私にも抵抗する権利がありますよね?」

「いいぜ? ただ、一人ずつだ。どっちかでも勝てれば結婚は撤回しよう」


 フラウが何時になく真剣な顔で問う。

 フラウは美人ダナー。

荒んだ心が少しだけ癒され、俺のやる気に火を付ける。


 っていうか、これもう褒賞じゃなくて脅迫だよね?

……逃げ道は塞がれ、戦うしかないのだが――――これ、絶対負けられない。






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