表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
ロクト王国とオーガの里
15/147

第13話 騎士の国と戦士の里

「なんだかすみません…」


 テーブルに座って一休みすると、ノノが開口一番そう呟いた。


「まぁ、近くに居る方がいざと言う時に楽だし、そう謝る必要はないよ」

「ですが、部屋までお借りしてしまって…」


 そうなのである。

ノノは今日から俺のハウスに寝泊まりする事になったのだ。

 というのも、あまり家事が得意でないらしく、彼女の使っていた――――つまり、死んだプレイヤーのハウスが埃だらけで、生活出来る状態とは言えなかったのである。

 たった一月であんなになるものなのか、と内心驚愕したほどだ。


「部屋って言っても倉庫にしてた所だからね」


 家事が苦手と言うノノを一人暮らしさせるには不安と言う事で、俺の家で倉庫代わりにしていた部屋をノノの部屋にしたのである。

 倉庫代わりと言っても普段から掃除はしているし、他の部屋と特に変わる所はないので生活に支障はないだろう。


「家事も私達が少しずつ教えますよ」

「本当にすみません…」


 俺の家では、洗濯はフラウ、掃除は俺である。

料理なんかは俺が担当する事が多いが、フラウも時々作ると言った感じで、どちらか暇な方が作ると言った感じだ。

 元々、俺は現実世界で一人暮らしだった分、普段生活する程度の家事は出来るのだ。


「さて、ノノ。取り敢えずその敬語なんとかしようか」

「敬語ですか?」

「こうやって同じ家で生活する訳だし、変な遠慮はいらないよ」

「で、でも、フラウさんも…」

「私、元々こうですよ」


 パートナーを設定した時に口調も設定できる為、敬語のキャラクターにしたのである。

つまり俺の所為なのだが、それは言わないでおく。


「う、うん…解った」

「それでいい」


 まだ少しぎこちないが、生活して行く内に慣れて来るだろう。


 さて……いきなり聞くべきか迷うが、最初に済ませておこうか。


「さて、ノノ。少し聞きたい事があるんだ」

「聞きたい事?」

「答えたくなければいいんだけど…君のパートナーについて」

「……」


 ノノは視線を足元へ下げ、俯いてしまった。


 早まったかな。

そんな感想を抱いたが、俺の心配は杞憂であり、ノノは視線を上げ口を開いた。


「私のパートナーは『星の精霊』様から加護を受けた異世界人でした」


 ……うん?


「異世界…人?」

「うん。…レイは違うの?」

「レイも異世界人ですよ。というより、『ジュエル持ち』は皆、異世界人だと思います」


 え、ちょっと待って。

フラウ達の中で、俺達の認識はどうなってるんだ?


「フラウ、どうして俺が異世界人だと?」

「え? 『色彩の精霊』から言われました。それに、『EWへようこそ。異世界のお客人』とも言われてましたよね?」


 ……これは、キャラクター設定直後…『色彩の精霊』を選んだ後に、彼女から挨拶された時の話か。

その時点でフラウのキャラクター設定も終わっており、続けてフラウの紹介をされた。

 ゲーム開始の冒頭だったので、彼女達の記憶に残っているとは思わなかった。


「…そういえばそうだったね。えっと…別に隠すつもりじゃなかったんだけど、混乱させるかと思って黙ってたんだ」

「周知の事実だと思いますよ? メフィーリアでは精霊と交信して『ジュエル持ち』が現れた事を広く伝えていますし、それが異世界人だと言う事も言っていたはずです」


 マジかよ。

あまり違和感の無いように取り繕ったつもりが、思わぬ返答に驚かされた。

隠せていると思ってたのはプレイヤーだけか。

 いや、隠す必要はないんだけど、説明しづらいもんね。


 ……ああ、でも。


「だから王様達は、俺達が異世界転移したんじゃないかって言った時、それほど驚かなかったんだね」

「異世界から来た『ジュエル持ち』が言う事ですからね」


 色々合点が行った。

混乱が少ないとは思っていたんだよ。

 『ジュエル持ち』が行動していたから混乱が少ない、と思っていたけど『異世界から来たジュエル持ち』が言う事だから、恐らく真実だろうって思ったわけだ。


「なるほどね。話を戻すけど、ノノのパートナー……言い難いんだけど、死亡したって言うのは事実なの?」

「うん…元々あまり戦闘はしない人で、『EW』に来てからも私と街を見て回る事が多かったの」


 ゲームの楽しみ方は人それぞれ。

ノノのパートナーは街を散策して楽しんでいた訳だ。

初心者と言うよりは、ゲームスタイルの違いでレベルが低いってだけかもしれない。

 まぁ、異世界の街並みをVRで見て回るのも確かに楽しいんだよね。


 死んだ時のレベルが幾つかは解らないけど、経験値自体、戦闘以外で得た物かもしれない。

 『EW』は、極端な話、歩いているだけでも経験値が入る。

膨大な歩数が必要で、歩くだけで100レベルまで上げるには十年以上必要とも試算されていたけど。

 戦闘が一番経験値を稼ぎやすいのは確かだが、鍛冶などの生産を含め、あらゆる事で経験値が入るように出来ているのである。

 そうなれば、戦闘自体不慣れで…ロクに戦かった事がない、なんて事さえ考えられる。


「たまたま街の外に出た時に異世界に転移して、魔物に囲まれてしまって…」

「…倒されたパートナーは、ノノさんが連れ帰ったんですよね?」

「うん。城門からはそれほど遠くはなかったから、魔物を引き連れながら逃げて来て…」


 衛兵か誰かに助けられた、って所か。


 だが、その時にはプレイヤーはすでに…。


「ニーナ…私のパートナーは、そのまま目覚める事もなく……」

「ノノさん…」

「『ジュエル持ち』はそう簡単に死なないって聞いていたから、何時か目を覚ますんじゃないかと見守っていたんだけど……ある時、光に包まれて消えてしまったの」

「消えた?」


 プレイヤーの遺体がどうなったか、なんて聞いた事なかったな。

弔ったものだとばかり思っていたけど。


「うん、急に…。一緒に見ていた人からは、精霊が弔ったか、もしくは異世界に帰ったんじゃないかって」

「……フラウ、昔の『ジュエル持ち』も異世界人だったのかな? その『ジュエル持ち』は死んだ後、どうなったんだろう」

「すみません、私も詳しくはないんです。メフィーリアなら記録があるかもしれませんが…」


 これはどう考えるべきかな。

 精霊が弔った、あるいは元の世界に帰った。

後者ならまだ救いはあるが、前者なら結局は死んだ事になる。

 ……気にはなるけど、試すわけにもいかない、か。


「この世界についても、俺達『ジュエル持ち』についても解らない事だらけか」

「ノノさんは、その後どうしたんです?」

「私は……パートナーを守れなかったから、もっと強く、誰かを守れるようになりたい、と。……もう、失う事のないように」


 それで、冒険者として活動し始めたわけだ。

…どことなく必死に見えたのは、この出来事が背景にあったんだな。

 彼女を一人前に育てると約束した以上、協力は惜しまない。


「本来なら、パートナーと一緒に考え、学んでいくはずだった知識や経験。君のパートナーの代わりに、俺達と一緒に学んで行こうね」

「うん…お願いします」


 話してみれば中々にいい子じゃないか。

作ったプレイヤーの接し方が良かったのかね。





「どうしてこうなった…」


 今、俺達は街の中央広場にいる。

俺とフラウは静かに噴水に腰掛けているが、呆然と立つ人物は天を仰ぎ、哀愁の表情を浮かべていた。


「ロニ、色々間が悪かったんだ。諦めなよ」

「だからと言ってこの惨状はなんだ……?」


 今目の前では、帰って来ていた冒険者達、街へとやってきたオーガ達、オーガ達を迎えた国の重鎮達や護衛の名目でやってきた騎士団、衛兵達、そして通りかかった住民達が酒を飲み交わしている。

 中央広場って結構広かったはずだが、随分狭く感じるものだ。


「これ、全部俺の奢り……?」

「…まぁ、国も出してくれるんじゃない?」


 保証はしないけど。


 こんな状況になっているのは悲しい出来事が重なった結果だ。

簡単に言えば、ロニの奢りと言う事で関係ない冒険者までもが集まり、そこへオーガ達を連れたクラウス、ヴィスターが帰って来た。

 出迎えに来た国の重鎮達だったが、横から酔っぱらった冒険者達が出て来てオーガ達…というかクラウスに絡み、なんかもう来客を持て成す空気じゃなくなったって事で、王様が宴会を宣言し―――――まぁ、御覧の状況だ。

 うん、ある意味ロクトらしいとも言えるか。


「あれ? ノノは?」

「あっちで泣いてます。…色々溜まっていたんでしょうね」


 慈愛の目を向けるフラウだが、その実、ノノは悪酔いしているだけのようである。

逃げようとするケインの袖を掴んで、泣き喚いており、周囲は距離を取って様子を伺っているようだ。

 一応保護者と言える俺やユークも遠くから傍観しているばかりで、近付く素振りすらない。

絶対あっちには行かないと言う強い意志を持って、視線を反らす。


「おい『狂葬』! 今見てただろ、助けろよ!」


 何も聞こえんな。


「ここにいたか、レイ殿、フラウ殿。先日は世話になった」

「暫くぶりだ、二人とも」


 そんな俺の前に現れたのは、オーガの里長でもあるドウザンとガロウである。

 返事を返しつつ、ドウザンのレベルを見れば35まで上がっている。

ガロウも上がっているようだし、クラウスと特訓でもしていたんだろうか。

 オーガ達を見れば、20レベルを超えている者も増えており、以前より強くなっている事が伺えた。


「お前達を信じていなかった訳じゃないが、こうして自分の目で見るまで中々受け入れがたかった……本当に、人間と亜人とが共存しているんだな」

「亜人どころか魔物さえいるけどね。王様とは話した? あの人も吸血鬼の血を引いているよ」

「吸血鬼? 魔に魅入られた魔法使いが時々、変異するとは聞いたが…」

「こちらの世界の事は解らないけど、俺達の世界では一般的な種族だよ」


 『EW』の世界の吸血鬼は亜人の一種である。

血を飲む事は飲むが、毎日ではない上に、一度に飲む量もそれほど多くはない。

同じ吸血鬼から吸血する事は出来ないようで、殆どの吸血鬼は他種族の伴侶を得て、伴侶から血を貰う。

吸血鬼にハーフが多いのはその為だ。

 勿論、吸血鬼同士で結ばれ、知人から血を分けて貰う事もあるらしいが、それが社会問題になるような事もなかったようだ。

 戦闘において頼れる存在であり、寿命が長く、知識で人々を救ってきた実績があるからこそとも言える。

この辺りは、魔物に苦しめられてきた『EW』の世界ならではの図式かもしれない。


「む? そちらの御仁は?」

「ああ、冒険者ギルドのマスターで、ロニだよ」

「ん? …ああ、オーガの里から来た方か?」

「里長をしているドウザンと言う。よろしく頼む」

「こちらこそ。歓迎させてもらおう」


 現実に帰って来たロニだが、敬語もなく、態度も普段通りである。

この状況では仕方ないだろうが、礼節を弁えた接し方とやらはどうしたのか。


「クラウスとドウザン殿のご息女が婚姻を結んだのだとか。我々の国とオーガの里、その架け橋となって欲しいものだ」

「全くだ。この国は素晴らしい。酒もつまみも美味いし、誰もが強くあろうとしている。我々の目指す形を体現したような国だ」


 はっはっは、と豪快に笑うドウザン。

そして、それを見て後ろから声を掛ける人物。


「気に入って貰えて何よりだ、ドウザン」

「おお、ロクト王。先ほどは我が里の若者が失礼した」

「なぁに、若いのはあれぐらい元気でいいのさ。上には上がいるって知れば、剣にも身が入るってもんよ」


 立場を気にしてか、一歩引いていたガロウに、そっと何かあったのかと問えば。


「若い者がな、ロクト王が強いと聞いて挑んだのだ。まぁ、剣を抜かせる事すら出来なかったがな」

「あらら…」


 相手が悪すぎる。

一対一という条件であれば、今この場にいる者の中でも最強格だろうに。


「もし希望者がいれば騎士団で鍛えて貰うといい。話は通してあるからな」

「それは有難い。婿殿に影響された者も多く、力を持て余していたのだ」

「そりゃ勿体ねぇ。やる気があるのに場が与えられないってのは辛かろうよ」


 これが一国の王と里の長の会話である。

会話の内容もそうだが、何より問題なのは会話している場所である。

街の中央にある噴水の前で、ロニの奥さんが漬けた果実酒を手に談笑中だ。

 っていうか、自作って言うから弱めの酒かと思ったら随分と強い酒なんだよね。

俺は一杯で遠慮しておいた。

代わりにフラウが平気な顔して飲んでるけど。


「にしても、対談の場がこんな形で良かったんですか?」

「酒飲んで殴り合った方が話が早そうな連中じゃねぇか。これで良かったんだよ」

「全くだ。剣以外に、酒の製法についても学ぶいい機会を得られた」


 本当にそれでいいのかね…。

出会ってはいけない文化が出会ってしまったんじゃないだろうな。


「そういえば、レイ殿。お主、なんでも『二つ名持ち』と呼ばれる者なのだとか」

「クラウスに聞いたの?」

「ああ。なんでも精霊に認められ『ジュエル』という神具を授けられた者の中に、精霊から特別な名を与えられる存在がいる、とな」


 神具とか特別な名とかそんな大袈裟な話なんだろうか。

『ジュエル持ち』はプレイヤー全員だし、特別な名というか一種の呪いって感じだけど。


「レイ殿は『狂葬』と呼ばれているのだろう? 随分と活躍した事があると聞いたのだが」

「ああ、精霊祭の時にな。私も聞いた時は随分と驚かされた」


 俺の二つ名について、ロニまでも会話に入って来る。

人の黒歴史をほじくり返すのはやめてほしい。


「精霊祭以外にも――――」

「いや、もういいじゃない。昔の話だよ」

「そんなに前でもないだろうに」


 とは言ってももう一年以上前の話なんだけどね。

精霊祭自体、夏のイベントとして二度開催されてるわけだし。


「ロクト王から見てどうなのだ? レイ殿の強さは」

「そうだなぁ……『ジュエル持ち』の中にはやり合いたいと思う奴が何人もいるんだが、『狂葬』はその筆頭だな。能力頼りの戦闘をする奴が多い中、こいつは戦闘技術も一級品だ」

「……参考までに聞きたいんだけど、他にやり合いたい『ジュエル持ち』って誰?」


 この場で斬り結ぶ事になりかねないと思い、話題を反らす。

 こんな得体の知れない化け物と、気軽に斬り合いたいとは思わない。

せめて心の準備ぐらいはさせてほしい。


「『魔刃』、『鬼若』は外せんな。『破壊者』や『暴虐』も味わいたいし、『金剛』を砕きたいとも思う。剣を交える訳ではないが、『弾幕』も崩してみたいところだ」


 どいつもこいつも相手にしたくない奴らだ。

はっきり言って正気を疑う。


「ロクト王にそこまで言わせる者が他にもいるのだな。大変興味深い」

「『破壊者』ならさっきそこで見たな。他の奴らがこの世界に来ているかは解りかねるが」


 実際、『二つ名持ち』が何人来ているかは不明だ。

 プレイヤーの数が三千万人を超えると言われる『EW』であるが、『二つ名持ち』はわずか百人程度と言われている。

 以前、ロニがロクトに十人ほどいると言っていたが、メフィーリア、レーヴェ、オーメルでも同程度だとすれば、こちらの世界に来ているのは四十人と言った所だろうか。


「なんにせよ、楽しいのは保障するぜ? 暇ならお前達も付き合えよ」

「…ふっ、ふはははははっ! お主達の王は戦士の扱いが上手い! 無論、付き合わせて頂こう。山の強者もレイ殿に討伐され、暇をしていた所だ」


 あらら、意気投合しちゃったよ。

まぁ、馬は合うだろうと思ってたけどさ。


「……こんな形で良かったんでしょうか?」

「上手くまとまったし……揉めるよりはいいんじゃない?」

「私は頭が痛いがな」


 俺とフラウの会話に、ロニが続く。

ギルマスの立場から考えればそうなるだろう。

 俺はノノの教育と言う大義名分があるので、堂々とロニに丸投げさせて貰う。


「ところで、レイ。先ほどからあちらの若者がお前の名を叫んでいるようだが……」


 ガロウの言葉にチラリとそちらへ目を向ける。


「助けてくれ~! ユーク、こっちを見ろ! レイもなんとかしろ~!!」


 うん、何も聞こえない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ