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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
アルテシア領と『ジュエル持ち』
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第82話~第83話 幕間 それは静かに

 アルテシアでは今も馬鹿騒ぎが続いている。

本格的な祭りが始まったようで、『ジュエル持ち』はよく解らない踊りを踊りながら街中を練り歩いていた。

街中至る所が飾り付けられており、一部はお化け屋敷かと思うほど不気味な装飾が並べられ、また一部では、玩具屋か何かかと見紛うような建造物が大量に建てられていた。


 そんな中を、するりと抜けて行く人物が二人。

『天駆』スヴェンと、そのパートナーのロナ。


「どこへ行く気だ?」


 街の門を出て、いざ旅立とうかと言う時、目の前には『死神』が居た。


「ランゼンにシシーか。…どうして気付いたんだ?」

「一時とは言えパーティを組んでいたんだ。お前達をロックしてたんだよ」


 そんな二人が妙な動きを見せ始めたのだから、見ている方は嫌でも気付く。


「…で、どこへ行く気だ?」


 問われたスヴェンは、頬を搔きながら苦笑する。

この態度を見るに、どうやらランゼンの予想は当たったようである。


「ネリエルに行く気だな?」

「バレちゃあしょうがないな。ま、ウェイン達には適当に誤魔化しといてくれよ」

「なんで俺が」


 元々、足場を固めてからネリエルとの交渉、あるいは対決に臨むと言うのが『EW』の方針だ。

つまり、先にクラウン王国で立場を手に入れる事が優先されている。


「みんなの考えは解るさ。でも、放っておけば放っておくだけ被害者が出る」

「…単独で止めるつもりか?」

「そこまでは考えちゃいないさ。一応偵察のつもりだ」


 そう、一応だ。

――――場合によっては、その場で決着を付ける事も有り得る。


「相手の情報が無さすぎる。返り討ちに合う可能性もあるぞ?」

「引き際は知ってるつもりだ。俺に追いつける奴もそうはいないだろ」


 空を走る、これだけでスヴェンを追える者は少ない。

…だが、現状でこれはなんの保証にもならなかった。


 ネリエルは人を操る鐘を使った。

知らぬ間に何かされていたのではどうにもならない。

 それに、おそらくは他にも色々と持っているのだろう。

それが、スヴェンに追いつくような移動手段である可能性だってある。


 この世界の住人達は総じてレベルが低い。

まともに戦ってスヴェンに勝てる相手など居ないかもしれない。

それを加味しても、邪神の宝玉一つで覆る事は十分有り得た。

 願いを叶える為の力を与えるのが邪神の宝玉だ。

スヴェンを倒す術を願われたなら、一体何が出て来るか。

そう言った事をさせない為に、ネリエルに気付かれないよう一気に包囲する必要があるのだ。


「…村人の件か?」


 そう問えば、スヴェンは視線を反らす。

嘘の付けない男だ。


 まともな答えは期待出来ないと考えたランゼンは、ロナの方へ問い掛ける。


「お前も従うだけか?」

「愚問だ。どこへ行こうと、私がスヴェンの傍を離れる訳が無い」


 ランゼンからすれば、彼等を止める義理は無い。

だが、それが回り回って自分に被害を及ぼす可能性がある以上、黙って見送る訳にもいかないのだ。

自分達の存在がバレれば、これまで重ねて来た労力が無駄になる。


「見逃して欲しいんだけどなぁ」


 スヴェンのお願いを聞き流し、ランゼンは門の方へ顔を向ける。


「……そっちの奴等はなんなんだ?」


 その視線の先には、四人の影。

『黒騎士』ベガとアクア、シェイドとミリアだ。


「俺達もネリエルの方が気になってな。街を出た途端、こんな場に居合わせるとは思わなかったが」


 シェイドはそう答えて、スヴェンの横に並ぶ。

どうやら、彼等もネリエルを調べに行くつもりらしい。


 力尽くで止める事も考えていたランゼンだったが、この時点でその考えは捨てた。

ただでさえ二対六。

その内二人が『二つ名持ち』ともなれば勝ち目は無い。

……と言うより、そもそもスヴェンがランゼンにとっては天敵と言えた。

元々厳しいとは思っていたのだ。


「『黒騎士』さん達もネリエル行きかい?」

「まぁな。…どうにも、奴等の行動に納得がいかない」


 レオンを簡単に処分したその目的。

それほどまでに魂を集める理由。

あるいは、邪神の宝玉で本当は何をする気なのか。


「後回しにするには、少しばかり不安がある」


 はぁ、と溜息を吐いて、ランゼンは門の方へ歩き出した。


「掲示板でもいい。後で自分から説明しろ」

「見逃してくれるって事かい?」


 背を向けたランゼンが、視線だけをスヴェンに投げた。


「もし幼女達に被害が及ぶような事になれば、その時は容赦しない」


 結局の所、ランゼンの行動原理は全てそこだ。

村人も、この街の惨状も、全て報酬目当てで受けた仕事に過ぎない。

その報酬が向かう先は、孤児院などの子供達。

ここにランゼン自身の感情は介在しない。


 何時も通り変態的な言葉を残して去って行くランゼンを見送りながら、六人は思い思いの様子を見せた。


「ま、アレは何時も通りだな」

「別の反応を見せた方が怖いっての」


 それなりの覚悟を持って街を出たつもりが、ランゼンの台詞で気が抜けてしまった。


「で、『天駆』の目的は偵察か?」

「それもあるけど、必要なら宝玉を奪うぐらいはしようと思ってる。そっちは?」

「似たようなもんさ。奴等の目的を探りたい」


 この世界に来て、今日まで協力して事に当たって来た。

だが、『EW』の冒険者など、日々思い思いに過ごしているのが普通だった。

これからする事は、彼等にとってこの世界で初めての冒険だと言えるだろう。


「亜人を三人も連れて、ネリエルに突撃とはな」


 ロナは解り易く角が生えているし、ミリアも猫耳や尻尾が生えている。

アクアだけ肌が青白いぐらいではあるが、彼女はこう見えてマーメイドである。


「四人だ」

「いや、五人だぞ」


 だが、シェイドが発した言葉はスヴェンとベガに否定された。


「…お前ら、種族は?」


 歩き出しながら、シェイドが二人に話を振る。

他の者達も、特に合図も無く続いて行った。


「俺はこう見えてホムンクルスだ。『天駆』は?」

「スヴェンでいいぜ。俺は悪魔だ」


 見た目はただの人間だが、鎧を脱げばなんらかの特徴があるのかもしれない。

ネリエルがどうやって亜人を見分けているかは知らないが、速攻でバレないか不安である。


 即席で生まれたパーティは、各々が違う目的を携えて行動を起こしていた。




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