表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
アルテシア領と『ジュエル持ち』
122/147

第78話 アルテシア領の今後

「ええと、なんかごめん…」


 レオンって執行者が呼び出したらしい魔物を討伐後、色々急を要するって事でその日の内に人が集められた。

伯爵邸の会議室っぽい所を占拠し、今回の件の関係者と、各国、各領の主要人物が集合している。


 まず、ロクトからは王子クェインと宰相シド、オーガ代表としてドウザンが。

ロクト冒険者ギルドのマスターであるロニと、『ジュエル持ち』代表として『一騎当千』ウェインの姿もある。


 レーヴェからは大統領メイと、レーヴェ冒険者ギルドのマスター、ハンナ。

『ジュエル持ち』代表として『聖女』アイリーンと『金剛』ベルン、オーク達代表としてラードリオンも来ている。


 メフィーリアからは司祭長ヤオと光の巫女キアラ。

『ジュエル持ち』代表としてロザンナの姿があり、その横には銀髪の女性の姿。

彼女はメフィーリア冒険者ギルドのマスターで、名前をアブリナと言う。

こう見えて、闇の巫女ヴェイルの双子の妹だ。

 正確にはメフィーリアから、と言う訳ではないのだが、鐘などについて直接見たいと言う事で『弾幕』ヴィオレッタやシグナルの姿もあった。


 今回は『EW』側の人々だけではなく、ドレアスやリグレイドからも人が集められている。

ドレアスからはハーディ男爵とフェンにドレアス冒険者ギルドのマスター、ネルソン。

リグレイドからはキース子爵一人が参加している。


 更に、今回の騒動での主要なメンバーも集められていた。

俺やユークにロッシュ、『天駆』スヴェンに『死神』ランゼン、『黒騎士』ベガと前にノノ達の訓練をしてくれていたと言うシェイド。


 ……あとは、目の前で全く反省していなさそうな『爆炎姫』ルビー。

口では謝りながらも、スチャ、と片手を上げるだけのルビーに対し、それぞれがなんとも言えない瞳を向けた。


「あのグロスペントとか言う魔物、調べてみたかったんだけど…」


 微妙な沈黙が続く中で、ヴィオレッタがボソリと呟いた。


 現れた双頭の蛇に関してだが、上空に打ち上げられた後にルビーの魔法の餌食になった。

肉片一つ残らず、灰は空を舞ってどこかへ流れて行ったそうだ。

鱗の破片や牙の欠片は残っているものの、そちらも原型を留めておらず、瓦礫に埋もれてしまっている。

…この魔物の情報を得るのはさすがに難しいだろう。


「それもそうだけど、街がね…」


 そう言いながら、アイリーンが外に目を向ける。


 今頃、冒険者達があれこれと建物を直している事だろう。

単にグロスペントに壊された建物だけじゃなく、ルビーの魔法の余波によって街に被害が出たのである。

中心地に近い建物には一部融解が見られ、衝撃波で比較的脆い建物が崩れた。

はっきり言って、グロスペントよりもルビーの魔法による被害の方が大きい。


 急な避難で怪我人も出て居るし、それの治療と街の修繕、捕縛者達の尋問。

掲示板をチラリと見ただけでも、その忙しさが伝わって来る。


「街の破壊痕を見る限り、大変素晴らしい威力の魔法であったようですな。是非ともこの目で見たかったものです」


 ヤオ司祭長はそう言ってニッコニコの顔を覗かせている。

キアラとアブリナも頷いているし、魔法馬鹿共の感覚としてはそっちの方が重要なんだろう。


「でしょ? 新魔法を遠慮なく使えると思って張り切っちゃったのよね」


 …こいつ全く反省してないな。


 聞く所によると、彼女が使ったのは120レベルで覚える火の魔法なのだとか。

威力より特殊効果が強い系統の魔法であるようで、同じ火の精霊に加護を受けた『ジュエル持ち』からは、『自分が使ってもあんな馬鹿みたいな威力は出ない』と呆れられていた。


「魔法での怪我人は出ていないし、街も修繕しているんだろう? なら、それほど気にせずともいいじゃないか」

「ルビーちゃんったら、相変わらず豪快なんだから」


 クェインやハンナでさえこんな調子だ。

『EW』のNPCは『ジュエル持ち』に甘すぎる。


 …でも、本題でないのも確か。

ルビーの件はアイリーンに丸投げして、さっさと本題に入るべきだろう。

……この濃すぎるメンバーを誰がまとめるのかと言う問題はあるが。


「あの転移魔法とやら、なんとも便利なものだな。突然現れ、一瞬視界が揺らいだかと思えばもうこの地に立っていた」

「全くですな。なんでも一度行った地なら瞬時に移動出来るそうですぞ」


 キース子爵とロッシュも転移魔法の件について話に花を咲かせている。


 今回集められたメンバーは、転移魔法持ちが集めてくれていた。

キース子爵やハーディ男爵は突然の事で驚いただろう。

と言うより、こんな急に呼ばれてよく来てくれたもんだ。

それだけ、俺達が注目されているって事なのかもしれないけど。


「…それで、結局この地には何が起きていたのですか?」


 …なんと、話を促したのはハーディ男爵だった。

一番小物臭があったのに、この中に斬り込んでいくとは見上げた根性だ。


「今、モリスン伯爵から情報を聞き出している所だよ。ただ、ロッシュさんの読みは大方当たりみたい」


 伯爵が降伏した後、伯爵は情報を聞き出せそうな『ジュエル持ち』に引き渡した。

今も尋問中みたいだけど、ロッシュの推測はほぼ当たっていると言っていたそうだ。


「一度まとめて貰えるかい? 僕達もまだその件は聞いていなくてね」


 シドに促され、今回の概要をまとめる。


  まず、モリスン伯爵は――――いや、モリスン伯爵を含む、歴代の伯爵家当主は百年ほど前の大火事を機に、ネリエルから送り込まれた人間に摩り替っていた。

その時から裏でネリエルと繋がり、ここで得た税収を納めていたようだ。


 それは単に伯爵がネリエルの人間だからと言うだけではなく、納めた額によってネリエルでの地位が上昇する為。

歴代の当主も、ある程度の地位が確保された時点で後継へと譲り、自らは早世したとしてネリエルに戻っていたと見られている。

…ネリエルを調べれば、先代の当主とか見つかるかもしれないね。


 で、鐘の力を使って住民達を洗脳し、人を集めるようにもなった。

時期としてはここ二、三年の間に始まった事。

その辺を踏まえると、洗脳を含め相当な前準備があったのだろう。


 集められた人はネリエルへと送られるか、洗脳して汚れ仕事をさせていたのだとか。

人が減って滅びかけた村はグルと言う執行者が処理していたようだし、聞けば聞くほど気分が悪い。

 送られた人がどうなったかは……あまりいい想像は出来ないな。

尋問している人も真っ先に聞いたようだけど、行った先の事は伯爵も知らなかったようだ。


 その他にもリグレイドからの食糧を盗賊に奪取させ、その取り分を上納させていたらしい。

食料はアルテシアで有効活用していたそうだが、それで浮いた金もネリエルに渡っているんだろう。

 いや、きっとそれだけじゃない。

食料が滞る事によって、より食料を求める領主が増える。

そうなればリグレイドは更に食料を送る事になるだろう。

関税は増えるし、食料は浮く……一石二鳥とでも思っていたのかもしれない。


「…あとで一発、あの狸を殴らせろ」


 キース子爵は大変ご立腹である。

領民を除けば一番の被害者は彼だろうからね。


「鐘はスヴェンが持っているのかい?」

「ああ。ここに出すにゃちょっとデカいけどな。あとで『弾幕』さんに引き渡すよ」


 キアラの問いに、スヴェンはそう答えた。

あの魔物が呼び出されたと言う剣は回収出来ていないが、別の執行者達の剣も含めて調査対象だ。

これで邪神の宝玉の調査にも進展があればいいんだけどね。


「ちなみに性能ってどうなってる?」

「『金剛』さんも後で見てみるといい。面白い事が書かれてるぜ。説明文を見る限り、邪神の宝玉によって生み出された物品らしいぞ」


 その言葉を聞いた途端、全員の顔付きが硬くなる。

つまり、ネリエルに邪神の宝玉がある事が確定した訳だ。


「鐘の音を聞いた奴を洗脳状態にして、繰り返し聞かせる事で効力が増すらしい」


 ロッシュやキース子爵と違って、領民達はこの領の状態に疑問すら持てなかった。

これは、繰り返し聞いた事による効力の差なんだろう。

俺に掛かった時も『洗脳・レベル1』ってなってたしね。


「私達の世界にも洗脳の状態異常はあるし、そちらとの違いも調べたい所だね」

「ウェイン様が言っておられるのは洗脳の精霊様ですな。直接お話出来れば詳しい事が解るのでしょうが……今の所は、加護を持つ者に検証して貰うしかないでしょう」


 ヤオ司祭長の言葉を聞く限り、未だ精霊との接触は出来ていないようだ。

やっぱり悪魔を倒さないとどうにもならないのかもしれない。


「なんにしろ、そちらはメフィーリアとレーヴェが合同で調べるのでしょう? 今早急に片付けるべきは、この街の事ではありませんか?」


 すげぇ。

ハーディ男爵が今までで一番輝いてる。

今の彼は間違いなくダンディ男爵だ。


「その通りだね。現状を教えてくれるかい?」


 メイに言われ、ベルンがホワイトボードを出す。

なんだそれ、と言う顔で見ている人達に、近くの人がホワイトボードが何なのかを説明している。


 ベルンが書き出したのは村人達や街の人の状況など、今現在解っている事だ。


 殺される危険があった村人はリグレイドとドレアスに避難中。

その他の村は、『ジュエル持ち』達が駐留して保護していた。


 街の人々は一ヶ所に集められ、安全が確認されるまではじっとして貰っている。

グロスペントとルビーの魔法で怯えた人々は、大人しく従ってくれているそうだ。

とは言え、長引けばどう転がるかは解らない。


 このまま解放しては、この街で起きた事がネリエルに伝わる可能性もあるし、彼等には黙ってて貰う必要があるけど――――どうやってそれを為せばいいか。

それに伯爵の件も。

このまま連絡が付かなくなれば、ネリエルに察知される可能性は高い。


 ネリエルとは多分、ぶつかるしかないのだろう。

けど、先にクラウン王国をなんとかしてからの話だ。

今すぐ大事になれば、ネリエルと王国が手を結ぶ事だって有り得る。

 理想を言えば、クラウン王国と協力関係を築いた上で、ネリエルに察知される前に包囲網を完成させ、ネリエルを一気に落としたい。

相手に邪神の宝玉を使わせる間を与えない為に。


「何か案がある人は居るかな?」


 メイが尋ねれば、真っ先に手を上げたのはキース子爵だった。


「貴殿等の世界にも洗脳する術があるのだろう? だったら伯爵を洗脳し、適当に言い訳させればいい。ネリエルにも伯爵が対応すれば、向こうに怪しまれる事無く済む」


 目には目をって事?

人道的にどうなのかはともかく、実際可能なんだろうか。


409:聖女@癒しの精霊の加護(アルテシア)

って事なんだけど、出来そう?


 同じ疑問を持ったのか、アイリーンが掲示板に問い掛ける。

ここの状況はLIVEで中継されていて、みんなも作業しながら見ているらしい。


418:冒険者@傀儡の精霊の加護(アルテシア)

操る事なら出来るよ

自分では治せない状態異常もあるし


419:冒険者@誘惑の精霊の加護(アルテシア)

ある程度の思考能力を残した上で、こちらの意に沿う動きを取らせようか?

特定の薬か魔法じゃないと治せないよ


420:金剛@泉の精霊の加護(アルテシア)

お前ら怖すぎるんだけど…


 ……可能らしい。


 この手段、実際に有効ではあるだろう。

街の人も領主の言う事であれば受け入れ易い。

領主が変わる訳ではないのでクラウン王国から変に思われる事もないし、今まで通りネリエルとのやり取りを続けて貰えば、ネリエルから疑われる事も無いだろう。


 今まで通りを装いつつ、こっちの意のままに操る。

要は、クラウン王国やネリエルに対して、俺達が潜伏出来る時間が稼げればいい。

 状況が整った後であれば、バレてしまっても構わないのだ。

それまでの時間稼ぎと考えれば、十分役割を果たしてくれるだろう。


「…最大の敵はモラルね」


 ロザンナの呟きに、何人かから苦笑が漏れる。

逆に何を気にしているのかって顔の人も居るし、これは生まれた世界で考え方も変わるだろう。


「気にする必要はありますまい。このまま罪人として扱えば死罪は免れないのですから」

「それに、領民の為に働かせる事で罪を償わせると言う考え方もあるしな」


 フェンとドウザンは同じような考え方であるらしい。

難しい顔をしているのはもっぱら『ジュエル持ち』の方。

こう言った所では、こっちの世界の住人の方が思い切りがいいのだろう。


「俺もそれでいいと思うがな。やった事がやった事だ。奴の人権に配慮してやる必要もないだろうよ」

「同感だ。相当にあくどい事をしているようだし、そうする事で伯爵家も浮かばれるだろう」


 ロニとネルソンもそちら側。

正直、俺も同じ意見だ。

これだけの人を踏みにじって来たんだ、自分も一度踏みにじられてみればいい。


「それでいいんじゃない? 反対意見はある?」


 そう問えばアイリーンなんかは難しい顔をしたけど、明確な反対は示さなかった。


 …まぁ、難しい問いだろう。

反対すれば、モリスン伯爵の行き着く先は恐らく処刑だ。

この国の法律には全然詳しくないけど、これだけの事をやって無事で済む訳がない。

生きて今後の可能性がある、あるいは誰かの為になる方がまだいいんじゃないかな。

…本人の望む望まざるは置いておくとしても。


「なら、その方向で行こう。あとは民衆にどう説明するか、今後この領をどうして行くかと言う話になるかな」


 シドがそうまとめてくれた。


 …今後はネリエルとも本格的にぶつかるようにもなっていくだろう。

その時、冷徹な判断も必要になるかもしれない。

少なくとも、彼等は人を人とも思わない行動を取っている。

なら、俺達も覚悟を決めるべき時が来たんじゃないだろうか。


 …自分の手をそっと眺めながら、自分に問い掛ける。

俺は必要な時に人を殺せるだろうか。

悪魔を殺した時を思い出し、目を閉じる。


 フラウを守る為なら、俺は戦える。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ