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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
アルテシア領と『ジュエル持ち』
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第75話 強硬手段

 『ジュエル持ち』に散々遊ばれていた監視者達だが、日を跨ぐ前には逃げ出したらしい。

逃げた先は伯爵邸なんだそうで、今はホラーな報告をしている頃かもしれない。


 で、立て続けに問題が起きた。


 カリーシャ商会の支店が襲撃を受けたらしい。

幸い、『黒騎士』ベガが見張っていたそうで犯人は捕まった。

こうなる可能性を考えて待機していたんだそうだ。


 被害としては入り口の破壊と、夜に帳簿をまとめていた商会員が斬り付けられていたぐらい。

ぐらい、と言い切るのはすでに治療済みだからだ。

肩を斬られて大怪我をしていたそうだが、今は健康そのものだ。


「私がこの街に留まっているにも関わらず、支店を狙いますか…」


 襲撃後にすぐこの事を報告すると、ロッシュはまず従業員の様子を見に行った。

腕が皮一枚でぶら下がっているような状態だったらしいが、俺達が到着した頃には平然としていた。


 取り敢えず命に別状はないって事で、一度宿へ戻って仮眠。

朝早く、支店の様子を見に来たと言う訳である。


496:冒険者@砦の精霊の加護(アルテシア)

なんで支店を襲ったんだろうね?

相手が知りたいのってロッシュさんが状態異常から復帰した理由じゃないの?


497:冒険者@炎の精霊の加護(アルテシア)

理由を探すのを諦めたか、別の手段でも取るつもりか?


498:冒険者@水底の精霊の加護(アルテシア)

その手段がこれ?

さすがにこっちは別件じゃないかな


 掲示板でもあれこれと推察する様が見られる。


 確かに動きが妙ではある。

相手の目的がロッシュの回復した理由についてならば、あのまま監視を続けるなり別のアクションを『ロッシュに対して』取るはずだ。

商会員を襲ったとしても、ロッシュに何があったかを知るには繋がらないだろう。

大手の一般社員が、社長のプライベートを知っているかと言ったら普通は知らないのと同じだ。


504:冒険者@空の精霊の加護(アルテシア)

犯人はなんて言ってるの?


505:黒騎士@魂の精霊の加護(アルテシア)

捕まえてすぐ兵士が来たから引き渡しちまった


506:冒険者@極光の精霊の加護(アルテシア)

なんでよ?


507:黒騎士@魂の精霊の加護(アルテシア)

渡さなきゃ怪しまれるだろうが


 確認したい所ではあるけど、すぐには無理そうだな。


 支店の中を見分しているロッシュを見ながら、俺とユークで壊された所を直しておく。

俺達に巻き込まれたようなもんだし、ちょっとは悪いと思っているのだ。


「商品が荒らされてはいますが、盗まれている様子はありませんな」


 あちこちに商品が散らばっているものの、盗まれてはいないと言う。

じゃあ、何の目的で押し入ったんだ?


531:黒騎士@魂の精霊の加護(アルテシア)

犯人も盗品は持ってなかったぞ


532:冒険者@夜の精霊の加護(アルテシア)

なら、少なくとも強盗じゃないって事だよな?


533:冒険者@風の精霊の加護(アルテシア)

普通に考えれば脅しじゃないのか?


534:聖女@癒しの精霊の加護(レーヴェ)

何の?


535:冒険者@風の精霊の加護(アルテシア)

例えば…撤収するなって言う脅しかもしれない


 そうだとすればやりすぎじゃない?

商会員だって、万が一発見が遅れれば死んでいた可能性だってある。

いや、もし本当に脅しだったんなら、殺すつもりだったのかもしれない。

…でも、何の為に? そこまで撤収して欲しくない理由って何だ?


「…独り言ですが」


 ロッシュが背を向けたまま、呟いた。


「私、こう見えても昔は少々やんちゃをしておりましてな。そんな私を変えてくれたのが先代の商会長でした」


 共に破損を直していたユークが、俺に視線を飛ばす。

俺も、なんでこんな話をし出したのか解らず、首を傾げてみせた。

片付けを手伝っていたフラウ達も、手を止めて聞き入っているようだ。


「先代は私にとって、師であり親です。商人としても、人としても尊敬しておりました」


 その先代が居なければ、俺達も今の状況を作る事が出来なかったのかもしれない。

人の歴史って言うのは、どこで繋がってくるか解らないものだ。


「商人としての在り方を教えてくれた先代。……この地での契約は、それを踏みにじるものです。最初の契約を取ったのは先代でしたが、あの人があんな一方的な契約に同意するはずがない」


 …あの時、ロッシュが妙に怒っていたのを思い出した。


 多分、先代も状態異常に掛かっていたんだろう。

でもそれは、商人としての誇りや、先代に対しての思いを汚すもの。

あれだけロッシュが怒っていた理由が、今になって理解出来た。


「…その先代が亡くなる前に言ったのです。商会と商会員を守れと」


 振り返ったロッシュの顔は、俺達の知る商人のものじゃなかった。


 誇りを汚し、商会員を傷つけられた。

恐らく、ロッシュが一番許せないもの。

それを為したのが誰であれ、今、ロッシュと言う男を完全に敵に回したのだ。


「私自身に戦う力はありませんが、金ならあります。今回の件、きっちりケジメを付けて頂くよう、ご依頼致します」


 チラリとユークを見れば、その口角が上がった。


「当たり前だ。なんの憂いもなく次の街へ向かえるようにしてやる」





88:一騎当千@大地の精霊の加護(ロクト)

聞いていると、強盗に見せかけた脅しの線が濃厚に思えるね


89:冒険者@雫の精霊の加護(アルテシア)

問題はそこまでする目的が見えない事だが


90:冒険者@吹雪の精霊の加護(アルテシア)

そうなんだよねぇ…

そうなって来ると、伯爵とは別の相手が居るのかも?


 宿へ戻った俺達は、一度状況をまとめる為に話し合っている。

『ジュエル持ち』達も掲示板で意見をくれていたが、まだ見えないものが多すぎる。


「ドレアスの一件、多くの人が目撃していたでしょう? そこから私達の情報が漏れている可能性はありませんか? もしそうなら、先手を取って警告して来たとも考えられます」


 フラウが言いたいのは、俺達の素性が相手にバレているんじゃないかって話だろう。

だから、ロッシュ個人ではなく、協力者である『ロッシュを含んだカリーシャ商会』に対して警告を発した。


「無いとは言えないね。でも、少なくとも俺達の素性にまでは辿り着けない。脅しをするほどの理由は無いんじゃない?」

「確かに…俺達の目的も見えてはいないはずか」


 レーヴェと接触したのは、ネルソンが選んだ冒険者だけ。

その他はハーディ男爵の選んだ役人ぐらいだ。

未だ、一般の冒険者達はレーヴェの事を知らないはずであり、当然住民だって知らない。

 俺達みたいのが居るって事は伝わったとしても、俺達が何を目的として動いているかまでは察する事が出来ないだろう。

警告や妨害をするほどの情報を持っているとは思えない。


 やっぱり、伯爵絡みと言うより別件の方が納得は出来る気がする。

でも、そうなると商品は盗まれて然るべきものな訳で。

荒らすだけと言うのは不自然だ。


125:冒険者@洗脳の精霊の加護(アルテシア)

牢屋に押し入って、犯人を洗脳して来る


 情報を聞き出そうって事なんだろうけど、文章で読むととんでもない事言ってるな。


 カタリ、とグラスを置く音がして、俺はその発生源を見る。


 ロッシュは宿に戻ってから押し黙ったままだ。

酒も出してはいるが、今はあまり飲んでいない。


「…ロッシュさんとしては、一番避けたかった事態ですよね」


 そう声を掛ければ、瞑っていた目を開いた。

…相変わらず、剣呑な色が見え隠れしている。


 俺達との協力に後悔しているかと思えば、そんな顔付きじゃなさそうだ。


「…一時撤収すると言うだけでこの対応です。どの道、何時かは起こっていた事でしょう。今後は、こう言う事もあると念頭に置いて行動する必要がありますな」


 声色は大人しいものだ。

けれど、感情を抑え込んでいるのが見え見えだ。

ここまで取り乱すロッシュは初めて見る。

…それだけ、今回の事が逆鱗に触れたって事なんだろう。


 それと気になるのは、ロッシュが一時撤収と襲撃を絡めて考えている事。


「…その言い方だと、モリスン伯爵が手を引いているかのようですが」

「タイミングが良すぎますし、疑うには十分かと」


 確かに怪しいんだよね。

第一容疑者なのは間違いないんだ。

けど、結局何を目的としての行動かが解らない。

偶然、別の犯罪が起こったって方が解り易い。


「商会に撤収されると、何か困る事ってあんの?」

「商会と領の関係など税収ぐらいなものですよ」


 俺達に見えていない目的。

ケインが聞いたのは、何か心当たりがあるかどうかだ。

しかし、ロッシュの言葉通りならこれと言った関係は見られない。

……駄目だな、俺には思い付きそうにない。


「…なるほど、税収ですか」

「ギア?」

「金の行先、結局解らないままじゃないですか。何かに使っていると言うなら、税収が減るのは困るはずでは?」


 人が集まる場所を限定し、金の回りを良くする。

税が払えない村はさっさと切り捨てる。

…確かに、よくよく考えてみれば金に関連した行動は多いのかもしれない。


 なら、カリーシャ商会が撤収する事で税収が減るとなれば、それを阻止しようして動いたって事だろうか。


「カリーシャ商会が払う税金って多いのか?」

「……まさしく、それが契約の内容です。ここに支店を置く条件として、通常の五割増しで税金を払っていました。売上が多いので黒字ではありますが」


 そんな横暴、素人でも飲まない。

前商会長がどんな人だったかは知らないけど、商人が結ぶ契約としては有り得ない。

…しかも、これに対してロッシュは不自然さを感じなかったって事も問題だ。


 ともかく、俺達が考えるよりカリーシャ商会の撤収は税に大きく影響するのは間違いないだろう。


191:冒険者@洗脳の精霊の加護(アルテシア)

侵入してみたんだけど、犯人らしき人間がいねぇぞ


192:冒険者@闇の精霊の加護(アルテシア)

行動早っ!?


193:破壊者@熱砂の精霊の加護(アルテシア)

消されたか、解放されたかだな


194:冒険者@岩の精霊の加護(アルテシア)

そんなの権力者にしか出来ないじゃん


 犯人が居ない事をロッシュ達にも共有し、改めて話をまとめる。

どうしても、伯爵が怪しいと言う結論に落ち着いてしまうけど。


「相手がどうやって人を操ってるか解んねぇけど、このまんま放置でいいのか?」

「その操っている方法が解らないから、同士討ちを避ける為に大人しくしているんですよ」


 ケインを宥めるように、ギアが言う。

ただ、ケインの言いたい事も解るかな。

このままやられっぱなしと言うのも性に合わない。


「…いっそ、伯爵の息が掛かってそうな奴を捕まえて、操っている方法を聞き出すか?」


 そう言って、ユークは窓の方を親指で差す。

支店を訪れた後から、また俺達は尾行されている。

窓の外には三人の監視者が居るようだ。


 まぁ、誰にでも出来るスキルではないんだろうし、彼等を襲ったとしても操られる心配は無いだろうけど。


「聞いても知らないと思うよ」


 そんな重要な情報、中心人物が把握していれば済む話だ。

尾行するような末端が知っているとは思えない。


244:天駆@雲の精霊の加護(アルテシア)

なら、知ってそうな奴を捕まえればいいな


245:死神@沼の精霊の加護(アルテシア)

伯爵に関わる奴、一人ずつ誘拐すれば警告にもなるだろう

余計な真似をすると火傷じゃ済まないとな


246:冒険者@洗脳の精霊の加護(アルテシア)

洗脳なら任せろー


247:爆炎姫@火の精霊の加護(アルテシア)

まぁ、相手が強硬手段を取って来た訳だし、こっちも遠慮する必要は無いわね


 …あれ? なんかやる気になってる人達がいる。




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