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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
アルテシア領と『ジュエル持ち』
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第72話~第73話 幕間2 『天駆』と老人

 徴収官を名乗る黒いフードの男。

しかし、それが実際に何者であるかは予想に難くない。


「…そちらは?」

「たまたま立ち寄った冒険者さ」


 徴収官の後ろには、十人ほどの兵士の姿がある。

道中魔物に襲われた時に対処する為か、もしくは――――。


「ここからは村の今後について話し合う場になるのでね。…お引き取り願えるか?」

「俺達には聞かせられない話かい? 爺さん達は今、本調子じゃないようなんだが」

「そちらは我々で面倒を見る」


 スヴェン達にはどうしても消えて貰いたいらしい。

他の村の惨事を聞かされている身としては、ここから退くと言う選択肢は無い。


 暫し睨み合いが続く中、口を開いたのは村の老人だった。


「わしらの息子達、孫達はどうしておられますかな? 奉公に出て、もう十年近く経ちますが」

「……何故、そんな事が気になった?」

「子を心配するのは、親として当然の事でしょう?」


 徴収官が兵士達に目配せする。

それを受けた兵士達は、剣を抜いてスヴェン達に向けた。


 それを受け、スヴェン達は村人の壁になるよう前へと並ぶ。


「変な聞き方だとは思ったが…子供達を気にする事自体がおかしいと言う事か? そんな事、疑問に思うはずがないと」

「貴様達、何者だ? ここで何をしていた?」

「一方的に質問は良くないぜ?」


 ランゼン達が武器を抜き、シシーは上空へと飛び立った。


「…それはなんだ?」


 徴収官が聞いているのは、ランゼン達が持つ武器についてだ。


 ランゼンが持つのは魔長銃と言う、魔法の仕組みを利用したライフル。

そして、スヴェンが持つのは魔銃と言う、同じく魔法の仕組みを利用したピストル。

スヴェンはそれを二つ使用し、高速で戦闘を行うのを得意としている。

…これらの武器は、こちらの世界に存在しない物だろう。


「さてな」


 仕組みなど説明する気も無ければ、ここで一人たりとも逃がすつもりは無い。

質問に答える気がないのはお互い様なのだ。


「…仕掛けていいのか?」


 二メートルはあろうかと言う大斧を担ぎ、ロナが問う。

その姿は、なんとも恐ろし気に映った事だろう。


 しかし、兵士達に動揺は無く、その目はしっかりとランゼン達を捉えていた。


「…まぁ、後で吐かせればいいだけだ。捕らえろ」


 徴収官の言葉に従い、兵士達が駆けて来る。

しかし、その内三名は一歩踏み出した段階で崩れ落ちた。


 ランゼンとスヴェンの銃からは煙が立ち昇っている。


「なんだ!?」


 驚くのは徴収官のみ。

兵士達は気にせずランゼン達へと迫る。


「こいつらもか」


 まともな判断力を失っている。

ただ忠実に命令をこなす…謂わば人形。


「あとで万能薬でもぶっかけろ。まずは黙らせるぞ」


 十人…いや、七人の兵士とて、レベル100を超えるランゼン達には足止めにもならない。

彼等の目前に迫る事も無いまま、あっと言う間に制圧されてしまった。

命令を出してから五秒と経っていないだろう。

…何かする暇も無かったロナは、なんとも不満気に斧を弄んでいる。


「…その武器は何だ?」

「教えたら、お前の事を聞かせてくれんのかい?」


 スヴェンがそう問い返せば、徴収官は黙り込む。


「……お前、ネリエルの執行者だな?」


 こんな問答を続けていても仕方ないと、ランゼンが直球を投げ込んだ。


「…何故、それを知っている?」

「名前はグルか。…カメオとは顔見知りか?」

「なんだと言うのだ、貴様達は!」


 名前、所属、役職名…そして、同じ執行者の名前。

それらを当てられては、さすがに平静ではいられなかったらしい。

表情は見えないが、さらけ出している口元だけでもその感情は伺える。


「ここで起こってる事を話して貰うぜ? 連れ去った若者達もどうしたか、領主は何を考えているか…聞きたい事は山ほどあるんでな」


 グルはスヴェンの言葉を無視し、腰に下げていた剣を抜く。

恐らく、カメオが持っていたのと同じ執行者の剣。


「その剣で殺せば魂が手に入るって訳か?」

「魂が手に入る?」


 カメオからの自白で、一つ解った事がある。

執行者は―――少なくともカメオは、邪神の宝玉について何も知らない。

 彼等はただの狂信者。

ネリエルからのお告げとなれば、そこに疑問を挟まずに任務を実行する。

それが…例え人の命を奪う事であっても。

それが正義だと信じているのだ。


 グルも魂について何も知らない様子であるし、彼も尖兵に過ぎないのだろう。


「何か知ってるとすれば領主の方か」


 興味を失ったランゼンは、そう呟いてグルを雑に撃ち抜いた。

ここに居る者に、グルを操って情報を吐かせる術など無い。

一先ずは捕らえ、他の冒険者に引き渡した方がいい。


 撃たれたグルは、何をされたか解らないまま意識を手放した。


 グルが崩れ落ちた頃、ランゼンの肩にシシーが戻る。


「周囲に人影は無さそうだよ。こいつらで全部みたいだ」

「なら、こいつらは縛り上げておいて、情報を引き出せそうな奴を呼ぶか」


 スヴェンがそう言って振り向けば、老人の一人が剣を持って立ち上がっていた。


「…爺さん?」

「アンタ方は、何か知っておるのですな? 今、わしらの子がどうなっているかも知っているのかね?」


 その目は赤くなり、最悪を考えているのが見て取れる。


 ランゼン達は明確な答えを持っている訳ではない。

ただ、後味の悪い話を考えてはいる。


「詳しい事は解らねぇよ。でも、何か知ってたとして…爺さん達はどうするつもりなんだ?」


 握りしめた剣が答えとも言えるが、それでも問わずにはいられなかった。

老人が握りしめた剣が、僅かに軋む。


「今日まで心配一つせず、こうしてのうのうと生きて来たわしらが…こんな事を言うのも無責任じゃろう。…いや、今まで心配一つして来なかったからこそ、責任は取らねばならぬ」


 他の村人達も剣を拾い上げ、真っ直ぐにスヴェンを見つめた。


 なんと不幸な話だろう。

自分達の子がどんな苦境を経験したか解らない。

しかし、それを察する所か気にする事さえ許されなかった。


(これを考えた奴に、人の心はねぇな)


 スヴェンが心の中で吐き捨てる。


 シシーやロナと言った魔物の方が、よほど人の心を理解している。

いや、彼女達は普通の魔物とは違う存在であるが、それでもそう思ってしまう。


「…アンタらの無念は解ったよ。でもまだ、何も確定してはいないんだ。こいつらから話を聞いて…んで、あれこれ考えんのはその後だ」


 スヴェンは優しく、諭すように話す。

己の内にある苛立ちを覆い隠し、ただ静かに告げる。


「もしアンタらの子供達に何かあったとして、殴り込みたくなる気持ちも解るけどさ。…少し堪えちゃくんねぇかな。会ったばかりでなんだけど、俺達に任せてくれねぇか」


 何か解決策がある訳じゃない。

もし若者達の命が失われていたとして、それを取り戻せる訳でもない。

でも、村人達を無駄に散らせる事が正しいとも思えなかった。

…自分達がその気になれば、何か出来る事もあるんじゃないか…そう思えた。


「…お前、そんな事言って、それこそ責任が取れるのか?」


 巻き込まれたランゼンからすればいい迷惑だ。

スヴェンが村人にどれだけ心を傾けようが構わないが、今は一緒くたに扱われてしまう。


「んなの解んねぇよ。…でも、もし領主が黒幕だってんなら――――俺が始末する。何も出来ないってなるぐらいなら、俺が仕留める」

「…少し入れ込み過ぎだ」


 ロナが、スヴェンの背を軽く叩く。

どちらかと言えば、スヴェンはあまり過激な事を言わない。

らしくないとさえ感じる言動だった。


「…一番手っ取り早い手ではあるがな。俺もさっさと帰れる」

「ご主人。冗談を言っていい空気じゃないよ」


 半分以上本心ではあったのだが、シシーからすれば困った話だ。


 『ジュエル持ち』の多くは、殺しに否定的だ。

シシーにはその理由は理解出来ないものの、懸念している事は解る。


 『ジュエル持ち』が命を軽く扱った場合、『ジュエル持ち』同士で争いが産まれる可能性がある。

…互いが互いに対して天敵であるかもしれないのだ。

簡単に人を殺すとなれば、不信感だって生まれるだろう。

次は自分かもしれない…そんな気持ちから争いに発展する事だってある。


 それがまだ個人個人の話で済めばいいが、きっとそうはならないだろう。

もし『ジュエル持ち』が殺された時、パートナーはどう行動する?

――――復讐に走るかもしれない、とシシーはそう思う。

少なくとも、シシーならそうする。


 そうして行く内、もっと大きな争いへと発展していくだろう。

行き着く先は戦争だ。

…簡単に環境を変えてしまえる者達の、止めようのない戦争が始まってしまう。


 その第一歩が、人を殺める事なのだとシシーは思うのだ。


「…俺、祖母ちゃんに育てられたからさ。老人ってなんかほっとけねぇのよ」


 少しは冷静さを取り戻したか、スヴェンは小さく溜息を吐くと、そう言い放った。

追い詰められた老人達は、思っていたよりもスヴェンの心に入り込む。


 座り込んで俯くスヴェンの肩を、ロナがポンっと叩く。


「何もお前が手に掛ける事は無い。必要なら私が食ってやる」


 スヴェンの気を紛らわせるように、ロナはそう言って笑った。

…一瞬、瞳孔が縦に開いた所為で、あまり冗談には聞こえなかったが。


「…解った。アンタ達に託すとしよう」

「いいのか?」

「兄ちゃんが心配してくれる気持ちは伝わったからの」


 苦々しい顔ではあったが、老人は少しだけ笑顔を浮かべた。

スヴェンの気持ちが、少しでも届いたのなら救いもあるだろう。


「…しかし、子供や孫か。連れて行かれた幼子も居たのだろうな」


 ロナが不意にそんな事を呟けば、魔長銃を手にランゼンが立ち上がった。

その速度は今まで見て来た中でもトップクラスの動きだっただろう。


「領主の眉間撃ち抜いて来る」

「ご主人!?」


 ロリコンは何時でもどこでもロリコンだった。




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