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この世界で一緒に。~おかしな奴等と異世界転移~  作者: シシロ
リグレイド領と盗賊の裏
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第69話~第70話 幕間 ロッシュとキース子爵の関係

「お前は信用したのだな?」

「まぁ、そう言う事だ」


 屋敷に残ったロッシュが、キース子爵に答える。

ここはキース子爵の私室であり、この場には二人しかいない。


「先に話をしておけ。いきなり転移だどうだと言われた方の身にもなれ」

「これでも心配してたんだぞ? 盗賊の件、お前が大人しくしているとは思えなかったからな」


 ロッシュとキース子爵。二人で話す時はこんな感じである。

キース子爵はこの口調で構わないと言っているものの、仕事が絡む時は敬語で接している。

だからこそ、今回も敬語で現れたロッシュを見て、真っ先に警戒が顔を出したのだが。


「どうせ水面下で反撃の用意でもしていたんだろう? アルテシア側への食料供給を止めるなんて、事前準備でも無ければ咄嗟に出せない言葉だぞ」


 レイ達が現れずとも、食料供給を止める案は出ていたし、なんならその準備も終わりかけていた。

あとはアルテシアへ通告するだけだったのである。


「お前が現れた時には私を止めに来たのかと思ったが…全く想定していない話になったな」


 止めに来たと思った相手が、商人の仮面を被って現れた。

もうこの時点で、何か想定外の事態が起きる事は確定していただろう。

幾らキース子爵とは言え、異世界からの訪問者と言う発想は出なかったが。


 色々な考えが過り、キース子爵はそれをワインと共に飲み干す。

グラスが空になった所へ、再びロッシュが注ぎ込んだ。


「…いいワインだ。王国でもお目に掛かった事はない」

「だろう? 他にも様々な物が溢れていた。あの国と協力する事が出来れば、きっと救われる者も多いだろうな」


 農業や作物に関しては詳しいと自称していたキース子爵。

しかし、彼等が並べた品々はキース子爵の知っている物ではなかった。

どれもこれもが夢のような作物。


「……先に装備品を見せる事で疑問を生じさせ、有り得ないと断言出来ない状況を作り出した」


 キース子爵の視線の先にあるのは、赤いルビーが嵌め込まれた指輪。


「火に強くなる指輪か。…そんな物が作れるなど、この世界の常識には無いからな」


 これは一体なんなんだ、そう考えた矢先、異世界から転移して来たと言う話を聞かされた。

この世界の技術では無いと知った時、馬鹿々々しいと思うよりも納得の気持ちの方が大きかった。


「その上で作物を見せ、私の興味を惹いた。…相変わらず、お前のやり方は姑息だな」

「姑息とは心外だ。お前にはこれが手っ取り早いと思ったからだぞ」


 互いに良く知る関係である。

キース子爵がどうすれば味方になるかなど、ロッシュには手に取るように解るのだ。

…それが相手にも知られているからこそ、キース子爵に冷たい態度を取られるのだが。


「…レーナやローナは知っているのだろうな?」

「知っているも何も、一番最初に篭絡されたのはあの二人だぞ。今頃は、彼等の街で金貨でも数えている頃かもしれんな」


 むしろそちらが黒幕か。

ならば、遅かれ早かれ、自分もそちら側に付く事にはなっただろう。

そう思う気持ちを押し込め、レイ達から貰ったチーズを口にする。


「……こんなものを食べていては、簡単に太りそうだな」

「つい食べ過ぎてしまうな。最近は考える事や動く事が多いからマシだが、落ち着いたら太りそうで怖い」


 ロッシュは元々少し小太りだ。

これ以上となれば、妻や娘に指摘されるのが目に見えている。


「……盗賊共に関しては?」

「後日話し合いをする者が、詳細な報告書を持ってこちらへ来るそうだ。私はすでに聞いているが、楽しい話では無かったぞ」

「だろうな」


 そう呟きながら、思い浮かべるのはアルテシアの領主。

思えば、昔からいけ好かない男だった。

明確な証拠がある訳ではないが、今回の件に絶対絡んでいる。…そう、キース子爵は確信していた。


「揺さぶるつもりだったんだろうが、食料供給を止める前で良かったかもしれん」


 ロッシュも、キース子爵が誰を疑っているかなど解っている。

今回の盗賊騒動、街で情報収集をした時にきな臭いと思ったのはロッシュも同じなのだ。


「そんなに黒いか」

「真っ黒だな。…思えば、あまり目立たない領主だった。良い噂も悪い噂も聞かない。しかし、領の悪い状態ばかり耳に入る」


 領の状態が悪ければ、領主の悪い噂ぐらい歩き出しそうなものであるが、ロッシュはそう言った噂を聞いた事が無かった。

誰かが意図的に消している――――その可能性さえある。

その場合、裏に居るのは――――。


「…なんにしろ、これで俺もお前も共犯と言う訳だ。…最悪、クラウン王国と言う国が無くなるな」

「国など枠組みに過ぎん。人が居れば、また新たな国が興るさ」


 貴族と言う立場に居ながら、こう言った所は非常にドライなキース子爵。

だからこそ、クラウン王国の中央貴族と上手く付き合えないのだが。

ロッシュはそんなキース子爵に好感を持ちつつも、損な性格だと苦笑するよりない。


「お前一人自滅するならいいが、ソニアが巻き込まれる事を忘れていないだろうな?」

「その場合はお前が匿ってくれるのだろう?」


 口角を上げて、キース子爵はそう答えた。


 ソニアとはキース子爵の妻であり、ロッシュの妻、レーナの妹である。

この二人の関係は、それぞれの婚姻以降続いていた。


 事の発端はキース子爵がソニアに惚れ込んだと言う噂だった。

レーナやソニアの実家はそれなりに規模の大きい商会であり、パーティで見掛けた時に一目ぼれしたと言うのが真相である。


 それまで仕事上の付き合いしかなかったロッシュだったが、この噂を聞きつけてキース子爵に接触して来たのだ。

その時の内容はこうだ。


『自分とレーナが結婚すれば双方の商会に利のある話になる。商人同士の話なので簡単ではないが、間に貴族が入ればそれも叶うだろう。そうすれば、キース子爵とソニアの仲を持つ事だって出来る』


 要は、自分がレーナと結婚する協力をするなら、キース子爵とソニアの仲を取り持とうと言う話である。


 この時、レーナ達の実家は売上が落ちている所だった。

双方の商会に利があるとしたロッシュではあるが、抱え込む問題も多く存在する。

それに目を瞑ってでも自分の為に行動してくれている―――――キース子爵は当初、そんな風に感じていたのである。


 結局、二人の思惑通りに進み、ロッシュとレーナ、キース子爵とソニアの結婚が続いた。

その時点では、ロッシュに感謝しかなかったキース子爵である。

……結婚して一年もしない内に、ロッシュの本心を知る事になったが。


「今でも忘れていないぞ。貴様が私を出汁にしてレーナと結ばれた事を」

「何を仰いますか。最初からキース子爵の為だけではないと言っていたではないですか」


 一瞬で商人の仮面を被り、ロッシュはおどけて見せた。


 だが当時のロッシュは、直接的では無いにしろ、ずっとキース子爵の為と思われる言動を繰り返していた。

そうする事で恩を売ったのである。

―――――レーナへの求婚はすでに済んでいたにも関わらず。


「貴族が間に入れば相手も断れない。強引な手で嫁にし、挙句貴族にも恩を売れる」

「恩を売ったのはついでだ。ソニアにとっても悪い話ではないと思ったからな」


 結局、ロッシュが動いたのは自分の為だったのである。


「…それでよく勘当されないものだ」

「何度も言っているが、求婚した時にレーナには伝えていたぞ。逃がすつもりなどないと」


 ロッシュはレーナよりもかなり年上だった。

もっと合った結婚相手も居ただろうし、ロッシュとしては分が悪いと自覚していた。

だが、惚れ込んだものは仕方ないと取れる手は全て取った。

 レーナもレーナで商人の娘らしく『そこまで言ったなら本気を見せてみろ』と煽っている。

結果的に、本当に退路を塞がれ結婚するよりなかったのだが。

まぁ、『それが出来る商人』なら望む所と言う事で、最終的にはレーナも納得の上での結婚であった。

この夫婦の関係が良好なのは、この一件があってこそでもある。


「結果的にソニアと結婚出来たんだ。何の問題がある?」

「それとこれとは別だ」


 キース子爵からすれば、利用された上に恩を着せられたのだ。

納得いかないと言う気持ちは拭えない。


「私に何かあればソニアを匿え。貴様なら出来るだろう」


 困った愛妻家である。


「解った解った。言われずとも、見捨てればレーナに愛想をつかされる。俺に選択肢など無いよ」


 こちらもこちらで困った愛妻家であった。

雰囲気や考え方は違えど、その性根は似通った二人なのである。


「それに、早い段階で異世界の国々と繋がった領主だ。彼等が傍に居る以上、滅多な事は起こらんよ」

「戦争のただ中に放り込まれそうだが?」

「なら尚の事安全だ。勝ち馬に乗れるのだからな」


 もし戦争になれば、クラウン王国に勝機は無い。

これは彼等を見ていたロッシュだからこそ確信出来る言葉だ。

レーヴェの技術力、ロクトの兵力。

そして、巨大な魔物を単独で倒したレイ、ドレアスと同じぐらい巨大なクレーターを作ったユーク。

これを見て、勝ち目があると判断する理由が解らない。


「私には向こうの国の事は解らん。だからこそ、異世界の国々に乗る訳ではない」

「では何故協力する?」


 キース子爵はワインで口を湿らせる。

芳醇な味わいが、キース子爵の口を少しだけ滑らかにしていた。


「私はお前に乗ると言ったのだ」


 色々と思う所のある相手ではあるが、キース子爵はロッシュの事を認めている。

それを口にするとまた利用されかねないのであまり言わないだけだ。

…それが解っているからこそ、ロッシュもこうして二人で飲む訳だが。


 余計な事を言ったと気付いたキース子爵が、小さく咳払いをする。

ロッシュはそれをニヤニヤと見つめていた。


「―――それより、妻に喜ばれる品があると?」

「レーナとローナからのお墨付きだ。本格的な流通はまだ先だが、間違いなく世界中の婦人が欲しがるぞ」


 夜も更け、酔いが回って来た二人。

だが、彼等の話が盛り上がるのは、むしろここからが本番である。




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