第7話 魔獣との契約
長々と話を終えたセバスに私は、聞きなれない言葉を繰り返していた。
「いや、確かに昔を思い出した怒りで、切り捨てたりなどはしたが、その『断罪の儀』とはなんだ?
そんな大層な名で呼ばれているのか?」
「はいっ。
まさに凄惨に相応しいと。
中には、金を払っても観たいと言う貴族まで話がでています。
どうしますか?」
「見せるわけなかろう!
見世物では無いのだぞ!
私は、ただ盗賊を始末していたら王都に呼ばれて王に、男爵になれと言われたから嫌々なっただけだ。
上手く丸め込まれたがな。」
「わかりました。
見学の件は、丁重に御断りしておきます。」
「当たり前だ!
それと、レイナと婚約の件に、さっきの話は関係ないだろう。
まぁ、あっても断固として認めん!
これは、決定事項だ!
わかったな?」
「畏まりました。
ですが、困りましたね。」
「何だっ?
まだ、あるのか?」
「はいっ。
申し上げ憎いのですが…。
近々ジェラール騎士団長が、褒賞金を渡しに来ると、本人から手紙が来ておりまして…。
息子のアルフレットに見聞を広める為に、一緒に連れてくると言っております。
レイナ様と同い年ですし、婚約は早くともお友達として友好関係を築いておくのに損はないかと。」
「そんな話、聞いてないぞ。」
「当然です。
今、お話しましたので、知らないのは仕方ないかと。」
「もし、レイナがアルフレットとやらを好きになったらどうする?
パパよりアルフレットが好き等と言われたら、私は騎士団長もろとも馬車にくくりつけて、引きずり回して仕舞いそうだ。」
「それなら、大丈夫ですよ。
訓練中もお父様に会いたいとしか言っておりませんでしたし、まだ異性に会っても何も感じないお年頃かと思います。」
(半分は嘘ですが、まぁ、大丈夫でしょう。)
「そ、そうか。
それを早く言わんか!」
ニヤケ出したグランは、執事の言葉を微塵も疑っていない。
「申し訳ありません。
それと、何日も移動となりますのでジェラール様とご子息様には、到着されたらお疲れかと思いますので、何日か屋敷で滞在された方がお身体に宜しいかと思いますがどうされますか?」
「そうだな。
段取りは任せたぞセバス!」
「はいっ。
お任せ下さい。」
『コンコンッ』
話終えた2人に、ドアがノックされる音が響いた。
―――――――
セバスとグランが話をしていた頃、俺とクリスは屋敷の回りを走り続けて、4週目に差し掛かるところだった。
「はぁ…、はぁ…、マジで……、死ぬ……、いつまで…、走るの…、クリスぅ…。」
「あと、2週は行きたいですね。」
『………………。』
(ふざけんな、バカやろー。
くそぉー、子供の体でこれはキツすぎる!
あと2週ってこいつ、俺のこと子供って理解してんの?
これだから脳筋は。)
苛立ちと苦しみを胸に隠し、俺は走り続けた。
走り続けてラスト1周になり、屋敷の裏側になった俺はラストスパートに入ろうとした。
すると、森の方から何かの鳴き声が聞こえてきた。
助けを求めるような鳴き声は、次第に小さくなっている。
「クリス、こっちで何か鳴いてる。」
走るのを止めて、屋敷の裏から森に入り、鳴き声のある方に歩きだした俺は次第に小さくなっていく鳴き声に引き寄せられていた。
「声が大分小さくなってる。
そろそろ、着きそうなんだけどな。」
耳を凝らし、早く!っという思いを圧し殺して小さい鳴き声に向かい歩きだす。
さらに、奥に行こうと前に出た俺にクリスは注意を呼び掛ける。
「お嬢様、危険です!引き返しましょう!!」
何故か、小声で申し出るクリスを大丈夫といなして、前に進む。
(何で、クリスの奴、小声で言ったんだ?ビビってたりして。)
ありそうで無さそうなクリスの心境を想像しながら、草木を掻き分け、鳴き声の元に着いた俺たちの目には、一匹の泥だらけな小さい獣が、蔓に絡まっていた。
(何だあれ?犬に見えるなぁ。
絡まって弱ってるし、可愛そうだな。)
俺は実家にいたミックス…、まぁ、『雑種なんだが』飼っていた犬『くろ』を思い出した。
全く動かないそれは、鳴き声がまた小さくなっていく。
「見つけた!クリス、蔓を切って!」
「しかし、お嬢様に危害を及ぼすかもしれません。」
「いいから早く!
早くしないと、死んじゃうだろ!」
渋々クリスは蔓を切り、衰弱しきった獣は抵抗もせず、俺の腕に抱えることができたので急いで屋敷に持って帰った。
到着するなり、近くにいたメイドにお湯とタオル2枚を早急に用意してもらい、ミルクとパンも持ってくるように伝える。
一生懸命、俺が瀕死の獣に付いている汚れを落としていると、クリスが後ろから…
「お嬢様。
これから、その獣をどうするつもりですか?」
「どうするって、飼ったらダメなの?」
「危険がなければ、大丈夫だとは思いますが。
私からは、なんとも言えませんね。」
洗いながら話をしていた俺が、綺麗に泥を落とせた獣を見て、綺麗に洗えて満足そうにクリスに見せつける。
見せつけられた男には、瀕死の状態でお湯で揉みくちゃに洗われ、頭も支えれず『ぐでんぐでん』になって弱りきっている獣を可哀想だと思い初め、少し心が揺らぎだす。
なんとか、心を持ち直したクリスは、獣の頭の突起物に目がいった。
「っん?
お嬢様、これは魔獣のウルフです。
それにこの頭に生えた角、ユニークモンスターの可能性が高いです。」
「ユニークって、確かっ、普通とは違うっ魔獣って事?」
「そうです!
普通のウルフに角はありませんからね。
ですが、好都合ですね!
魔獣なら契約すれば安全ですし、今は衰弱しきっています。」
(なにっ?
そのユニークって、ちょっとカッコいい!!
『ユニーク』っ君に決めた!!)
テンションが上がった俺は、被っていない帽子の鍔を後ろにまわして、ワンコロに人差し指を突きだす……。
ポーズをとりおえ地面に置いた、『ぐでんぐでん』になっている獣をまた持ち上げる。
ワンコロの頭がずっと下を向いているのも気にせずに俺はクリスに続きを興奮ぎみに尋ねた。
「契約ってどうするの!?」
「簡単ですよ!
弱りきってますし、失敗はしないでしょう!」
もう、死んでいるのではないか、っとクリスは疑いつつレイナに説明する。
俺は、教えてくれた通りに、魔獣の頭に手をかざし、マナを全力で流していく。
嫌がって逃げたり、攻撃してくれば契約失敗で、近付いて頭を差し出したり、離れたりしなければ名前をつけて契約終了となるらしい。
普通は命すら失う可能もある、もっと危険な行為らしいのだが、相手が子供でなおかつ弱りきっていることもあってか、こちらに有利な条件『無条件』での契約に成功しやすいそうだ。
「さぁ、どうなるんだ?」
犬の魔獣は俺の手に始めは怯えていた様子だったが、次第に近づき、指からでるマナを舐め始めた。
「やったぁー!
ちょー可愛い♡
俺、犬飼いたかったんだよ!
これ成功でいいよね?」
「お嬢様、発言には気を付けてください。
それと、早く名前をつけませんと。」
「おっと、そうだった。
じゃあ角に黒と白の螺旋模様があるから、お前の名前は『ゼブラ』でどう?」
「キャン!」
俺からのマナを貰った『ゼブラ』は元気良く吠えた。
さっきまで衰弱していたのに、尻尾を振りこちらによちよち歩いてくるゼブラを抱き締める。
(かっ、かわえぇっ…♡)
「ってゆうか、さっきまでバリバリ衰弱していたのに何で、こんなに元気になったの?」
『…………。』
はぁ……。
それはですね、魔獣にはマナが必要不可欠だからです。
お嬢様に渡した魔石がマナを吸い込んでいるように、生きている魔獣も回りのマナを取り込んでいるのです。
今回みたいに本体が幼かったり、消耗仕切ったりしていると契約してでも、生き残るという生存本能に狩られた魔物も、出て来やすいのですよ。」
そんな話をしていると、先程頼んだメイドとは別の銀奴隷メイドがパンとミルクを持って走って来た。
「ありがと!
ゼブラお腹空いてる?
いっぱい食べて大きくなるんだぞ!
それから、俺たちは魔獣マスターになるんだ!
一緒に魔獣リーグ、目指そうぜ!!」
すると、俺の頭の中から懐かしい音楽が再生される。
―――――――『たとへ、火の中、水の中、草の中、森の中~…、土の中、雲の中、かのコのスカートの中(キャ~!)』―――――――――
キャンと鳴き、がっつくゼブラの横でクリスに「そんなもの、ありません!」っと突っ込まれたが、楽しかったので良しとしよう。
ゼブラの食事を見ていると側にいるクリスの様子がおかしく、何だか落ち着きがなかった。
目線は綺麗なメイドを気にしているようだ。
「クリスどうしたの?」
「いっ、いえ別にどうもしていません。
ゼブラが食べ終えたらグラン様に報告に行きましょう。」
(ん??『ハッ!?』
こっ、こいつ!?年上好きなのか!!
確かに、綺麗だが、20代後半か30代前半の見た目だな!
フッフッフッ…。
少しからかってみるか…。)
早く食べ終われと言わんばかりにクリスはゼブラをじっと観てそわそわしっぱなしである。
『ニヤッ』
「えっ、なに?
なんでそんなソワソワしてるの?
クリスってそこのメイドさんのこと好きなの?」
「「…………。」」
「いっ、いえっ、すき…、好きなどでは決っしてなくて…。」
いつもと違うクリスの反応に笑いを堪えるのに苦労した。
それから、俺はメイドに目線を移す。
(さぁ、どんな反応をするんだ?
顔を真っ赤にするのか…?
それとも、男がいるのか?
見物だぜっ!)
「はぁ。
クリス…、あなたはもう少し落ち着きが足りませんね。」
(ん?なんか、凄く仲良くない??)
レイナの目線を見かねて、銀奴隷のメイドが口を開いた。
「だって、母さんは領地の村にいると聞いていたので。」
(かっ、母さんだと……。
こんな綺麗な女が……。
かあさん……だと……。)
クリスの顔が赤くなっていく。
クリスの顔を見ながら怒りで俺も赤くなっていく。
「私がセバス様にお願いしたのです。
助けて貰うばかりではなく、何か役に立ちたいと。
そしたら、メイドになるかと誘われたのですよ。」
話を聞いたクリスは顔が真っ赤に染まりきっていた。
俺は、怒るのを止めていた。
よくよく考えれば、俺は女の体をしている。
女体触り放題の見放題と気付いてしまったからだ。
(フッ…、マザコンめっ……。
顔を真っ赤にしやがって。
だが、俺には神聖な場所『お風呂場』が付いている。
このサンクチュアリは誰にも邪魔されない俺だけのオアシス!
お前が話して顔を真っ赤にしているお子ちゃまの間に、俺はお前のお母様の全身の裸体を拝むことにしよう。
ふふっ。
アッハハハハハ!!)
不適な笑みを浮かべて勝利を確信し、小さく笑っていた俺に、『クリスの』お母様は不意に…、
「申し遅れました。
私はクリスの母、マリヤと申します。
レイナ様の父、ご当主グラン様に助けられた大恩があり、役に立ちたいとメイドに成りました。
クリス共々どうぞ、よろしくお願いいたします。」
(ほぇ~。良くできていらっしゃるお母様だこと。)
「…なぁんだ、お母さんか。
此方こそ、よろしくお願いします。」
「キャン!」
ゼブラがパンとミルクを平らげた合図を出すとクリスはゼブラをタオルに包みレイナに渡すと、レイナをだき抱えて急いでその場を後にした。
いまだ顔を真っ赤にして走るクリスをからかおうと俺は抱えているクリスに追い討ちをする。
「クリスって照れ屋なんだね!
お母さんのこと好きなの?」
「キャン!」
1人と1匹にからかわれ、顔が真っ赤でも隠せないクリスは無言のまま急いでドアの前にたどり着く。
『コンコンッ』
――――「入れっ!」――――