第1話 転生したら幼い女の子でした。
派遣会社に就職した和哉は、念願の制作していたゲームを完成させる。
ようやく完成したゲームを眺め、修繕の内容を考えていると彼女と木場から信じられないを現実を突きつけられる。
生きるということに嫌気がさした和哉は向かって来る電車に飛び込んだ。ーーー
俺は再び目を覚ました…。
《称号…転生者を獲得》
頭の中で誰かの声が聞こえたような気がしたが頭が働かない。
まだ、夢の中なのだろうか?
俺は…、何をしていたんだっけ?
目覚めて、まだ起きてない頭に鞭を打ち、目を閉じて必死に思い出そうと頭を働かす。
「えーと、んー、あー、………っ!?」
思い出した。
あの時、俺は…、全てが嫌になって、迫ってくる電車に、自分から…。
全て思い出した。
俺が生きてきた35年間と数ヶ月。
ほどほどに楽しかった学生時代。
就職活動の末、大手の会社に内定が決まり父ちゃんと母ちゃんが喜んでいたこと。
親友のコネを使って新しい職場に再就職したこと。
再就職で派遣された場所が、ゲーム会社で、同じ職場の先輩に虐められていたこと。
それと離れていった彼女…。
先輩と元彼女に心を砕かれたこと。
生きるのを諦め…、電車に身を投げた後の痛みも、思い出したくない出来事も…。
全てを思い出し、俺は身体の震えが止まらなくなった…。
体が震えていると気付いたとき、自然と自分の瞳から涙が溢れてくる。
生きている事が嬉しい…。
―――[違う。]――
『アイツ』からいいようにこき使われ、反論も抵抗もろくにしてこなかった俺でも、死ぬ気でやれば何だってできるって分かったこと。
―――[違う、アイツの報復が恐くて逃げることしかできなかったんだ。]―――
『アイツ』から解放されたと思うと、電車で轢かれて激痛を通り越して笑ったことでさえもいい経験だったと思えてくる。
―――[痛みじゃない、哀れな自分に笑ったんだ。]―――
――『沢山、泣いた』――
体が干からびるんじゃないかと思えるほど、解放された嬉しさとこれから親に迷惑を掛けることになる後悔の悲しみ、自分の弱さへの怒りも混ざった涙を…。
これまでの人生を洗い流して、新しい自分にリセットできるんじゃないかと思えるほどに…。
喜怒哀楽の感情を噛み締めて泣いた。
ようやくある程度、気持ちを落ち着かせれるようになり涙が出てこなくなった。
ほんと…、今までこんなに泣いたことなんてなかったから気分も大分ましになれた。
泣き疲れると、不思議なことに滅入っていたのが嘘のように、やっぱり『生きてて』良かったと思えるようになった。
よし、えーっと、じゃあ、とりあえず……。
『……えっ!?』
此処は、どこなんだ?
「病院じゃないのか?」
冷静になったとたん自分の置かれている状況がわからず、周りを見ようと上半身を起こしてみる。
――体が軽い。
っていうか、身を投げた時に、手も足も引きちぎれたような…
『……っ!?』
「手もある、足もある、どうなってるんだ?」
「ていうか、俺の手…小っさくね?」
『…………。』
「それにしても、でかい部屋だなぁ…。」
自分のいる部屋の広さに感心していると、誰かが飲み物を持ちドアを開けて入って来るようだった…。
―――ガッシャン―――
入ってこようとした、身なりの整ったおじいさんと俺の目が合うなり、持っていた飲み物を盛大に床にぶちまけた。
「だっ、だん、旦那様!!
レイナお嬢様がお目覚めになられましたぞ!!」
酷く慌てた様子で執事っぽい、おじいさんが奇声のようにも似た叫びをあげて走り去っていった。
「レイナお嬢様って、誰のことだよ!」
喉が渇いていた俺は、目の前で落とされた飲み物を睨みながら呟いた。
他に飲み物は、無いのかと周囲を見渡した俺の目に、やたらと豪華な衣服を着た、可愛い女の子と目が合い軽くお辞儀をした。
(…えっ、俺、泣いてる間、ずっとこの子に見られてたの?
はっ、恥ずかしいっ!!)
真っ赤になっていると分かるぐらいに俺の顔が熱くなる。
俺のお辞儀に合わせるように、いや、同時?
違うな…、『同調率』100%でシンクロした女の子も『俺と』一緒にお辞儀をしているのに違和感があった…。
んー?
あの子、何か変じゃね?
ずっと目が合う女の子に困り、頭をかいた。
『っ!?』
「えぇぇぇーーー!!
嘘だろっ!
誰だよおまえ!!!」
女の子はベットから慌てて飛び降り、鏡の前に立った。
綺麗に赤色に染まったストレートの長い髪。
まんまるで大きな黄色い瞳。
小さくて胸もない幼い体。
だいたい5歳児くらいに見える容姿。
そこには、可愛い容姿をした女の子を写し出す、デカイ鏡の前に立ち、俺と寸分の狂いもなく一緒の動きをしている幼女に向けて、叫んでいる自分の姿が写し出されていた…。
「………っあ!」
咄嗟に右手で服の上から股間を触り、突起物の有無を確かめる。
――「無い…。」――
俺はショックのあまり膝から崩れ落ちた。
男の快楽を味わう前に、『去勢』された猫の気持ちは、こんな感情なのかと下唇を噛み締める。
まさか…、去勢された猫が自分の、『アレ』が無い事に気づいて驚いている。
そんな動画を見て笑っていた俺が…。
猫と同じ立場になるなんて…。
誰が想像できるってゆうんだ…。
「まだ、新品で使ってすらないのに。
何で、どっか行っちゃうんだよ。
――『相棒』――。」
俺はいつも股関の場所にいた、髪の毛がツンツンして、首に『ピラミッド型』のアクセサリーを鎖で繋げている『相棒』の姿を思い出していた…。
35年間、共に歩んだ長い道のりだった。
朝が来れば、たまに怒って自分を大きく見せて来たり。
用を足す時には、わざと大きくなり出しにくくしてジャレて来たり。
我慢比べで、お前の体をくすぐって、いつもお前が耐えきれず泣いていたな…。
毎日一緒にお風呂に入って、お前の体を洗い忘れる事なんて無かっただろ…。
どんなことをされても、俺はお前のワガママを聞いて、支えてたじゃないか…。
なのに、なんで…。
どうして、俺はお前にあんなに尽くしてきたのに…。
なんで、何も言わずに、俺を見捨てて行くんだよぉ。
35年、このまま死ぬまで一緒だと思い、片時も離れず、苦楽を共に過ごした『相棒』は、俺になんの断りも告げずに、忽然とその姿を消した…。
「どうして…、なんでだよ…、AIBOー★☆!」
枯れ果てた俺の体から出てくる涙はない。
出したくても、もう出せない…。
なぜなら、全てをついさっき出し切ったから…。
唯一無二の、『相棒』が居なくなった俺には、自分が『女』なんだという事に疑う余地がない…。
「っくそ!!」
やけくそになり、俺は人生初めての女性のおっぱいを見るのが自分の胸になるという奇妙な体験をする直前であった。
いざ拝もうと、まだ膨らんでもいない、自分の胸を覗こうと手を伸ばしたとき―――
「レイナー!」
部屋の外から、ドカドカと走ってくる音と、何やら叫んでいるのが聞こえた。
別に悪くはないのだが、俺は自分の首もとに伸ばして掴んでいた手を離し、姿勢良く直立した。
部屋に入ってきた小太りなおっさんは泣いているのか顔がグシャグシャになり、ひどい顔になっている。
綺麗に着ていたであろう衣服が乱れて、泣いていたせいか過呼吸と急いだからか息切れが合わさり息をするのも苦しそうだった。
直立した俺と目が合うなり、俺の元まで全力で走って抱き締めてきた。
「ぶじっっ、無事でよかったぁー!!」
いきなり入ってきた小太りのおったんに、強く抱き締められ息が出来ない。
(レイナって誰のことなんだ?)
そう思っていると、抱き締められている女の子の記憶が頭に流れ込んできた。
(痛っ!)
突如襲ってきた頭痛…。
強く抱き締めてくるおっさんのおかげで身動きがとれない…。
(そうかっ、俺は死んでこのおっさんの『娘』になったのか…。)
「……苦しぃ…。」
聞こえない声を絞り出す。
泣きじゃくる父親の顔を見て意識が薄れていく。
俺が死んだとき…、父ちゃんも母ちゃんもこんなに泣いてくれたのかな――――




