第14話 探検章6…【ゼブラの出自編】2
『っ!!??』
「黙れっ!!
その名前で私を呼ぶなっ!!
それに、貴様も対して私と変わらんでわないかっ!!
調子に乗るなよ小僧っ…。」
重苦しい重圧『プレッシャー』が主『ヘカテー』とサタンからぶつかり合い、私『ハウ』は立っているのも苦しく、難しい状況に陥っていた。
そんななか、無言の重圧を静止し、口を開いたのは悪魔の王で名声を世に轟かした『サタン』であった。
「まぁまぁ、そんな警戒なさらずとも良いではないですかっ♪
私は、絶望と私欲が強いところに、ただ引き寄せられただけなのですから。」
そういうと、悪魔の王『サタン』は私『ハウ』に視線を送ってくる。
「貴様が、引き寄せられるわけが無いだろう。
魔界に何人の悪魔がいると思っている。
貴様を呼ぶだけでも何万という悪魔の中を掻い潜らなければならない。
実質…不可能だ…。
狙って出来ることじゃない…。
貴様の回りに居た、お節介共がそれを許しはしないだろう。
……何が、狙いだっ!」
『クフフフフ…』
「詮索は止めにしましょう…。
私にも、私の使命が有るのですよ…。
これで、手打ちということにして頂けないでしょうか…。」
『………使命だと………?』
(こいつに、命令できる悪魔なぞ居るわけがない…。
だとしたら、こいつが前に使えていた主『契約神』しか居ないはずっ………。)
『っ!!!!????』
「まさかっ!?
貴様の目的は―――」
『……グシャ…………。』
ヘカテーが言葉を言い終わる前に、サタンの右腕は巨大に大きく膨れ上がり、着ている執事服が破れることなく巨木の様に大きくなった腕は、易々と女『ヘカテー』を踏み潰す。
『クフフフフっ…』
「それ以上は、言ってはいけませんよ。
あなたも、もう少し隠れて思惑を実行しなければ、直ぐにバレてしまいますよ。
この、私にっ……。
さてっ、本題に入りましょう。
そこのヘルハウンドの貴女!!
願いを聞いて差し上げましょう。
早くしないと、彼女『ヘカテー』が起きてしまいますよっ。」
サタンは腕を元に戻し、潰れた女を見ながら女眷属の魔獣に問いかける。
潰れた女神は、みるみる体を再生させてもとの姿に戻っていく。
すべてを目撃し、一時的に元に戻った男眷属の魔獣『バト』が口を開けた。
「俺の命を対価に…。
我が子を…、息子を助けて下さい…。
お願いしますっ!!」
「私の命も差し上げます…。
だからどうか……、この子を自由に…。
…私達のような……。
…運命から縛られない……
……そんな人生を送れるように……。」
『クフフフフっ♪』
「非常に美味ですねっ♪
この感情は、絶望からの渇望…。
願い……ですか。
逃げられない運命からの、唯一差し込んだ一筋の光…。
なるほど、私が動くに値しますねっ♪
いいでしょう!!
その願い、この悪魔の王の名を持つ私。
『サタン』の名に懸けて叶えて差し上げましょう!」
2人『2匹』の絶望からの渇望…。
地獄のなかでの唯一の希望…。
目の前の悪魔に2人は命を代償にして身体を伏して願う。
『…この子に自由を…
…生きる喜びと…
…生きる意味を…
…誰にも縛られずに…
…生きていける人生を…』
2人は心から願い、そして受け入れられた。
2人から産まれた失われていない…。
掛け替えのない…。
…最後の命…。
2人の『愛』から産まれた命は、偽物などでわなく本物だった。
すでに、もうこの世には、いないであろう『子供達』の分まで、生きれるように…。
『……私達の命と引き替えに……
……この子は自由を手に入れる……』
「「ありがとうございますっ!!」」
涙を流し、願いを聞き届けてくれる。
我が子を救ってくれると言う偉大なる悪魔の王…『サタン』に頭が上がらない。
その光景を潰れた身体を頭だけ先に治した神『ヘカテー』は横から言葉を投げ入れる。
「ふっ、ふざけるなっ!!
行きなり来た奴が、私の邪魔をするなっ!」
「おやおや、ずいぶんお怒りのご様子ですねっ。
再生されても困りますし、早く済ませてしまいましょう。
願いの対価として、あなた達の魂をいただきます。
覚悟は宜しいですかっ?」
「「はいっ!!」」
「あぁ、できるなら『あなた』を大きくなるまで側で見届けたかったわ…。」
「あぁ、そうだなっ…。
俺たちの子だっ!
もし、人間の居る世界に行っても、俺達の眷属が守ってくれるさっ!!
そんな、心配するな。」
命を代償として叶えられる願いを前に、2人は決して無いであろう世界を口にする。
残り少ない命と言う灯火。
そんな、儚い時間さえ2人は我が子を気に掛け、淡い期待と我が子の強さを信じて口にする。
「どうか、私のように優しく…、
他人を思いやれる子に育ってね…。」
「俺みたいな、立派で強く、
カッコいい『バーゲスト』になるんだぞっ!」
2人の涙が止まることはなく、別れの言葉を口にする。
「でわ、そろそろ宜しいですかっ?
強引にゲートを使い『ここまで』来たものですから、私もあまり力が残っていないのですよ。
ですので、御守りと言う意味も含めて私『サタン』はこの子に取り付きます。
人間界にも興味がありますし、退屈していたのであなた達の願いは、丁度よい機会でした。」
そう言うと、『サタン』は目の前に黒い空間『ゲート』を作り出す。
赤子を抱き締め、ゲートに入る前に振り向き、2人の伏している夫婦に手をかざす。
「よせっ!
止めろっ!!
その子達は、私にはまだ必要な存在なんだっ!
殺さないで…、お願いだから…。」
頭だけ再生されて、動けずに叫んでいるヘカテーを無視して、『サタン』は2人に問いかける。
「何か、言い残すことは?」
問われた2人は理解する。
本当に最後の別れの時がきた。
もう、2度と2人が『この子』に会うことは叶わないだろう…。
ならばこそ、2人は私達を不幸な『運命』に導いた神にすら頭を下げる。
私達の不幸の分だけ、この子に幸せが訪れるように…。
『この子に…』
『俺の子に…』
「「神のご加護が有らんことを……。」」
顔を上げ、頬に伝う涙も気にせず、最後に我が子の寝顔を見てから告げた2人の言葉に悪魔は至福の笑みを溢した。
『……ニヤッ』
「合格です…。
私が、あなた達の魂を喰らうのに値するのか品定めをしていましたが。
どうやら、お2人は上物のようですね。
契約してしまいましたから、この子をあなた達の目の前で殺すことも出来ません…。
安心してください。
そこに倒れている、ヘカテー様みたいに操ったりはしませんよ。
御守りなのですから。
そういえば、此方に落とされてから名前を変えたんでしたね。
確か、マ―――」
「うるさいっ!
貴様っ!
私を敵に回したことを必ず、後悔させてやるっ!
その子供は必ず見つけ出して、私の傍に置いてやるっ!」
「恐いですねぇ。
それでは、お2人の魂は頂いておきますよ。
それでは、また御会いできる日を楽しみにしております。」
そう言うと、『サタン』は伏している2人の身体から触れずに、光る何か『魂』を取り出し、右手に握る。
光が抜けるのと同時に2人は地面に倒れ込む。
急激に薄れていく視界。
鼓動が、自らの命が弱っていくのも気にせず、2人はゲートに向かって歩くサタンの後ろ姿から目を離さない。
声を出す気力もなく、逃亡で疲弊しきっていたハウは『サタン』が後ろに振りむき、ゲートに向けて1歩程いた頃には、もう目の前は真っ暗で見えなくなっていた。
『あの子達の分ま…で
生きて…しあわせに…なっ…ぇ…』
『ハウ』の命が尽きた事にも気付かず、隣のバトはサタンから決して目を離さず、視界がボヤけながらも今までのを振り返りながら見守り続けた。
『こんな腐った運命でも
ハウと出逢えてよかった…
子宝にも恵まれた…
強く、誰にも臆さず、
自由に生きろ…。
何があっても俺はお前の味方だからな…』
ゲートに片足が入る3歩目から4歩目で入りきるまでにバトは、もう、目が見え無くなっても目を開け続けた。
我が子を見送る…。
魂が抜き取られた残りカス…。
コップから水を飲み干し、置いた時に残る極僅かの水に等しい状態で残された『バト』の魂…。
体を大きく、くり貫かれた泥人形の様に『バト』から少しずつ漏れでる魂は、乾いた砂のように大きく空いた泥人形のように体からは見えなくなりながら大元の大部分へと戻っていく。
目の前から何も音がしなくなったのを確認し、張りつめた糸が切れたように『バト』は眠るように深く目を閉じた。
すると、バトの目の前に広がったのは大自然の草原と眩しい太陽。
まさに、ピクニック日和と言っても異論無い光景。
そして俺の回りには死んでいった筈の子供達が元気にじゃれて合ってはしゃいでいる。
辺りをしっかり見回すと、さっき送り出した筈の赤ちゃんを少し離れた場所から『ハウ』が笑顔で咥えて運んでくるのがわかった。
眠たくて伏せていた俺の頭を無理にお越し、我が子を迎え入れる体勢は万全である有無を態度で示し、鼻先をやや左上に上げて『ハウ』に目配せをする。
まるで、『育児をする俺も格好いいだろ?』っと言っている様子だ。
それを見た『ハウ』も優しいため息で返し、胸元に赤ちゃんを逃げないように優しく寝かせ、俺の傍に伏せるように寄り添って頭を軽くすり付けてくる。
俺とハウの間に赤ちゃんを移動させ、逃げ出さないようにお互いの足で交差さして足の要塞の完成だ。
「どうだ!
逃げ出せないだろう!?」
眠っている赤ちゃんに向かって、からかいながら話す俺に『ハウ』は子供をあやすお姉さんのような声でいった。
「こーらっ!
今は眠ってるんだから、邪魔しないのっ!」
そういいながら、また軽く頭を俺の体に押し付けてくる。
今度は俺も『ハウ』の方に頭を軽く擦り付け、2人とも自然と微笑んだ。
「愛してる…」
『っ!?』
不意打ちの言葉に意表を突かれ顔を真っ赤にして狼狽えていた『ハウ』だったが、照れながらもすぐに優しい顔に戻り、再び『ハウ』は頭を先程より少し強くバトに向かって打ち付ける。
「私もよ…バト…。
あなたを愛してる。」
返事をもって反撃としたハウ…。
顔を赤くして、少し照れている「バト」だったが言われた本人よりも、返した首謀者の顔の方が茹で蛸になっていた。
『…フフっ』
「知ってるよ。」
策士、策に溺れるとはこう言うことなのだろう。
バトから向けられた曇りなき好意を前にして、これまで言ったことの無なかった言葉を自分が言ってしまったのだと理解したときには、『ハウ』は恥ずかしさとバトから返された言葉の嬉しさの余り、口を開こうとしない。
もしかしたら、開けないのかもしれないが…。
まるで、クロスカウンターをカウンタークロスと言い間違い、
『それ、カウンターちゃうやん!
台拭きやん!ww』
っと、話し相手に鋭い突っ込みのカウンターを喰らうように、ものの見事に標的との共倒れが自爆になってしまった『ハウ』は、浅はかな考えをした数秒前の自分を恨むほどに恥ずかしさと後悔に陥った。
「……ブフッフフアハハ!」
返事してから、『借りてきた猫』のようによそよそしくなってしまい、一言も喋らなくなった『ハウ』を見て、(犬なのに猫みたいだ)っと思ってしまい笑いが込み上げ、吹き出した。
2度、下を向きながら上目遣いで顔を真っ赤に火照らせて様子を伺っていた『ハウ』を覗き込むように俺は顔を近づけてお互いの目線が触れ合い、重なって半時もしないうちに『ハウ』は俺の首元に顔を埋めて他に類をみない恋した乙女の声で小さく声をかける。
「…もうっ、ずるいわ!
なんで私ばっかり/////。
…バトは悪魔よっ!」
「あぁ、何にだってなるさっ!
お前とこの子らを守れるなら…。」
バトが言い終えた瞬間、『ハウ』は喉から怒りの唸り声を発し、バトの首元に甘噛みしてから、少し怒った口調で吃ることなく俺の目を見て話す。
「お前なんて言葉で私を呼ばないでっ!
ちゃんと名前で呼んでっ!!」
そう言うと、何事もなかったかのように『ハウ』は再び俺の首元に頭を埋めた。
俺は頷き押し付けてくる『ハウ』の頭の上に蓋をするように、優しく顎を乗せる。
「あぁ。
俺は、『ハウ』と『この子』達の為ならなんだってやるさっ!
ハウとできた最後の宝だっ!
誰にも奪わせない。
例え、世界が敵になって、この子の味方が俺だけになっても…。」
俺がいい終えると、『ハウ』は首を横に振り、下から目が線に見えるほどの笑顔で覗き込む。
「あなただけじゃないわっ!
私が守るものっ!」
「そうだな。
そりゃ、安心だ…。」
すっかり熱が入り、『ハウ』の事を忘れていた俺に、慈愛をもって思い出さしてくれた事に感謝していたら、冷静になっていく俺がいた。
心地いい天気、優しく包み込む暖かい春風、眠気が急にまた押し寄せる。
「なぁ…。
『ハウ』…。
少し眠ろう…。
ちょっと頑張りすぎたみたいだ…。」
瞼と頭が重く無理して持ち上げ上下している『バト』の提案に、ハウは回りの子供達を見渡す。
「そうね…。
子供達もいつの間にか、遊び疲れてみんな眠ってるっ…。
この子も気持ち良さそうに寝ているわ。
ようやく、永い眠りにつけそうね…バト…。」
子供達と2人の間に挟まれているこの子が皆眠っているのを確認し終えた『ハウ』は、安心からか、周りの環境の影響なのか、段々と瞼が下がっていった。
「そうだな…
そりゃ…、朗報だ。
なぁ、ハウ…。」
「ん?
…なぁに?」
互いに横に寝転がり、お互いの胸をくっ付けて足を上で交差させながら赤ちゃんが逃げないように道を塞ぐ。
お互いの顔と赤ちゃんが見える。
『バト』が赤ちゃんの右側の頬に鼻を軽く触れながら寄り添い微笑み出した。
それを観ていた『ハウ』も同じように左側の頬に鼻を軽く触れて微笑み返す。
なにも知らず気持ち良さそうに2人の間で寝ている赤ちゃんと互いの顔が目に写る。
「ハウと…出逢えて…
俺…は幸せだっ……。」
「えぇ…、私もよ…。
誰よりも…
愛してる…バト…。」
気持ちを伝え、互いの言葉を聞き届けた2人は永い永い眠りに身を投じた。
―――――――
『サタン』がゲートに入りきる寸前、何故だか後ろが気になってしまい自然と立ち止まる。
そこには、ただの魂のない骸があるだけだと知っているのに自分の欲求には抗えない…。
振り向く先に見えたのは、頭を伏して懇願していた2匹の魔獣のつがい。
だが、良く観てみると2匹は寄り添い、この上なく幸せの微笑みを浮かべて死んでいた。
私は、目を丸くしてから広角がつり上がるのを押さえられない。
そのつがいに堪らず声を掛けずにはいられなかった。
それは、ただの魂の抜けた肉の固まり。骸だが、私にはそれはとても美しく映ってしまったから…。
「安心して永い眠りにつきなさい。」
―――――――
2人から込められた想いも知らずに、サタンに抱かれてゲートに入った真っ黒な魔獣の赤ちゃんは、深い森の中で、ただ小さく『1匹で』寂しく鳴いていた。
そんな、小さくも力強く鳴く赤子の声に釣られて、辺りを見回し、心配して近寄ってくる1匹の美しい毛並みをした真っ白な魔獣がいた。
その凛とした姿は、決して何者も寄せ付けず、だが見るものを魅了する。まるで神秘をそのまま形にした姿が魔獣だったとさえ思える程の美しさ。
辺りに誰もいないことを確認した魔獣は、必死に生きようと鳴くその魔獣の赤子を群れまで連れて帰ることに決め、優しく咥えて自分の住みかまで運んでいく。
だが、その神秘的に美しい魔獣ですら気付けない…。
その、連れ帰った赤子の中に『サタン』と言う悪魔の中の神の悪魔…。
《最上位の頂点にして王》
唯一無二に位置する存在、『悪魔の王』が宿っているとも知らずに…。