第12話 探検章4…【加護の真意】
『……………………。』
(ここら辺も、もう取るとこ無いし大分集まっただろ…。
まだ、要るのかシャルルに聞いてみるか…。)
「おーい、ゼブラ!
1回シャルルと合流しようぜ…。
どこにいるか分かる?」
「(わかるよぉー!
あるじー、こっちー!!)」
記憶と匂いを頼りに歩くゼブラを後ろから歩いて着いていく。
歩いている『ゼブラ』のお尻を後ろから観ていた俺は、大袈裟に『フリフリ』とお尻を横に振って歩くゼブラをみて思う。
(……これ、わざと尻振ってないっ…?)
ふと立ち止り、辺りを見渡すゼブラは困ったように呟く。
「(あれー?
居ないー。
また隠れてるのかなぁー?)」
「……隠れるって、シャルルは薬草を取ってるんだろ?
隠れる意味は……。」
言い終わる前に相手が子供であることを思い出した俺は、途中で言うのを止めた。
(まぁ、子供だし遊びながらでも仕事するのは偉い方だよな…。)
「よし、わかった!
ゼブラは匂いで近くに居ないか探して!
俺も、声だして探すから!」
声を出して近くを歩き回り、探していると慌てた様子でゼブラが近くまで走ってきた。
「あるじー!
シャルルがいた所に、袋が落ちてて、血が広がってたのー!」
「…はっ?
どうゆうこと…?」
急いで駆けてきたゼブラが告げた。
俺が、言われたことを考えていると、返事を待っていたゼブラが口を開こうとするより早く、俺の考えは正解を導きだしてしまった。
目を見開き、慌ててゼブラに場所を案内するように告げる。
ゼブラが案内した場所には、薬草が入った袋が落ちていた…。
近くには、血が染み込んだ地面…。
その地面から生えている草に、付いていた血は乾燥して黒くなり始めている。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!!
誘拐されたの…!?
魔物に襲われたの…!?
黙って帰ったって言うドッキリじゃなくて!?!?
どうしよう、どうしよう、どうしよう……………。)
前世とは縁のなかった事件との遭遇に取り乱し、背中から冷や汗が流れて呼吸が荒くなる。
不安に見つめてくるゼブラを見て、深く深呼吸しリズムを整え…、真っ白だった頭を働かせれるまで落ち着かせた。
現状分析を試みる…。
取り敢えず、血は流れてるけど内蔵と手や足などの欠損部位が落ちて無いって事は、まだシャルルは生きている可能性が高い。
問題は、誘拐した犯人が人間か魔物のどっちかって事だ。
武器も何も持っていない今の状態でシャルルを救出できるだろうか?
たしか人命救助には、時間が命に直結するってのを聞いたことがある…。
さっきの男の子2人組なら話は早いんだけど…、大人だったら勝てるかわからない。
セバスやクリスの用に訓練した者には、今の俺の実力では逆に誘拐されかねないし、できれば、魔物であってほしい。
『……………。』
「ゼブラ!
匂いで人間か魔物の区別はつくのか?」
質問されたゼブラは急いで血痕の周りを中心に、広がりながら匂いを探る。
「(あるじー。
人の匂いじゃないよー。)」
匂いを嗅ぎとったゼブラの尻尾がピンと上に伸びて答えた。
「よしっ…!
じゃあ、相手はほぼ、魔物で決定だな。
匂いの跡をたどれるか?」
相手が魔物である可能性が高まり、より落ち着きを取り戻した俺が聞いた。
「(たどれるよー!
『…………。』
あるじー…。
…シャルル…、大丈夫かなー…?)」
いつものように元気で答えたゼブラが、不安そうに耳と尻尾を下に垂らし、俺を見つめて聞いてくる。
「わからない…。
早く見つけないと手遅れになるかもしれない…。
ゼブラだけが頼りだ!
慎重に犯人の跡をたどってくれ…!」
行き先に誰かいそうなら、立ち止まれと言うことを忘れずに伝え、足音を立てずに慎重にかつ迅速に後をたどり進んでいく。
進んでいく道中、シャルルのものと思われる血痕が、『ポタポタ』と地面に道標のように、一定の感覚を開けて付いていた。
血の跡の幅が広がり、痕跡が目ではわからなくなった頃、ゼブラの動きが止まる…。
『……っ!?』
「(この奥に、何かいるー!)」
尻尾をピンと立たせて、警戒するゼブラと一緒に、ゆっくりと進み何がいるのか確認する。
「うわ、何だあれ?
……、ゴブリン……か?」
立ち止まり、かがんで覗き込んだ俺の目の前には、俺よりも頭1つデカイ緑色で人の形をした魔物が、8匹も見えた。
辺りにはゴブリンが作った家がまばらにある。
集落…?アジトなのだろうか…。
まるで子供が作った秘密基地のそれと、対して変わらない……。
シャルルが居ないか見渡していると、1つの家だけ、まともな秘密基地があった。
木を蔓などで括り付け、デカイ葉っぱを屋根と壁がわりにした、三角形のテントのような素朴な作りだ。
「…多分、あの中に居るな…。」
他の家は屋根だけで壁が無く、中が見えない作りの家は1つだけだった。
取り敢えず、家の周りのゴブリンをどうにかしないと助けに行けない。
騒がれたら囲まれてタコ殴りにされるし、1匹ずつ慎重に仕留めていこう…。
方針を定めた俺に呼応するように、1匹のゴブリンが棍棒を持ち、家から離れて林に消えて行く。
「よし…、確実に殺るぞ…。
ゼブラ、手伝ってくれる?」
俺は身体強化を施し、『獄』のリズムに整えて待機した…。
一瞬、体から闘気が吹き出し『獄』に入ったと確信する。
ゼブラがゴブリンに噛みつき、注意を引いて追い駆けられている。
目的の場所まで捕まらずに、誘導に成功したゼブラは立ち止まり合図の思念を送ってきた。
「(あるじー!
連れてきたよー!!)」
『っ!?』
俺は『獄』に入った状態で、木の上から飛び降り、ゴブリンの頭に目掛けて踵を振り下ろす。
「ギャッ……。」
落ちる勢いを乗せ、マナと『獄』を使い強靭な肉体になった俺の強烈な一打が、ゴブリンの立つ頭上から襲いかかる。
頭を守る骨がまるで、クッキーを踏み潰すかのようにめり込み、ゴブリンは自身が絶命しているのにも気付かすに倒れていった。
苦しまずに逝けたことを感謝するがいい…。
すると、頭の中からどこかで聞いた事のあるような…、ないような…、フレーズ音が響く。
『♪♪~っ!!』
《レベルが3に上がりました。
称号…、転生者を確認。
契約神、『ミトラ』からの申請を受諾…。
称号…、【契約神の寵愛】を獲得。
聖流神、『サラスヴァティ』からの申請を受諾…。
称号…、【聖流神の寵愛】を獲得。
契約神と聖流神の同意により統合された贈り物を開封……。
恩恵スキル…、【隷属の皇女】を獲得。》
ゴブリンが倒れて動かなくなったとき、俺の頭の中に感情の籠っていない機械的な声『思念』が流れ始めた。
「…えっ、レベル?
称号?
どうぅウオヴェぇ……。」
響いた声とともに、攻撃を当てた踵を観ていた俺が、足元のゴブリンの頭部が異様に凹んでいる光景に目を移し、胃酸が込み上げる。
(こんなのを後7回も…、冒険者って全員サイコパスなんじゃ…。
それに、レベルってマジでゲームみたいじゃないかっ!
称号も、ギフトの仕様とかも、俺の作っていたゲーム『希絶の主』に似ているな…。
しかし……、隷属の皇女?
そんなスキルって、作ってあったかな……?
魔法拳闘士…、仮に『マジックファイター』とでも命名にしようか…。
…、それも、ゲームの設定には、なかったから勘違いかと思ったんだけど…。)
初討伐のゴブリンを見て、内心で悪態をつきながら考えていると、『ゼブラ』が嬉しそうに走ってきた。
「あるじー!
レベルが上がったよー!」
『っ!!!???』
「えっ!?
ゼブラ喋れるようになってるじゃん!!??」
嬉しそうに俺の周りを走り、はしゃいでいる『ゼブラ』に、レベルが上がってから、他に何か変化はあるか聞いてみる。
「それがね……。
まじんって人の声がして……、けんぞく?にしてやるって言われた……。」
何故か、ゼブラはそれを言うなり、動きを止めておとなしくなった。
耳や尻尾も垂れて、頭も下に向き、かなり落ち込んでいる…。
「ふぅーん。まじんにねぇ?
まじん…、マジン……、魔神!?!?
えっ、ゼ…ゼブラ、魔神の眷属になったの!?」
「うん……。
なんか、わかんないけど、見どころが有るから、力を分けてやるって…。
おまえは強くなって主や人間をいっぱい殺せって言われた……。」
「「……………。」」
「……マジでっ!?」
「……………うんっ…。」
「ぼく…、あるじが大好きだから、いやだって言ったんだ……。
でも…、まったく話、聞いてもらえなかった……。
ぼくね…、あるじを……ころしたくなんてない……。」
目に涙を浮かべて『ゼブラ』はレイナと出会った時の事を話し始めた。
群れの皆から容姿が違い、意味嫌われていた僕は、群れにも入れず、話し相手も居ないまま1人『1匹』で寂しく時間を過ごしていた。
突然、目に入った小動物『ネズミ』を追いかけていたら、いつの間にか群れの皆とはぐれて、気が付いたら蔓が身体に絡まり、身動きがとれなくなった。
いくら助けを求めて叫んでも、誰も来ない…。
何回も辺りが暗くなり明るくなったりを繰り返して、何日もなにも食べれない日が続いた…。
お腹が空きすぎて空腹かどうかもわからなくなって、体を動かす元気もなくなった。
意識も薄れてきて、もう…、僕は…、このまま死んじゃうのかなって思っちゃったんだ…。
…でも…、もう一度だけ……。
どんなに、酷いことを群れの皆にされても『ママ』だけは、僕の味方になってくれた…。
「…ママ…会いたいよぉ…。」
そう思い最後の力を振り絞り、声を出し続けた…。
(…もう……ダメだ……。)
意識が薄れて目を閉じかけたとき、誰かが絡まってる蔓を切り、僕を優しく抱えて揺れないように走ってくれてるのがわかった。
暖かいぬくもりに包まれて、ママが迎えに来てくれた…、そう思ったんだ。
気が付いたら僕は、ママじゃなくて女の子の手を舐めてた。
僕を助けてくれたのかな?…。
群れでは食べれなかった、美味しい食べ物も食べさしてくれた…。
あの暗闇の中、何も口に出来ず何日も1人ぼっち。
近くに来たやつが僕を食べちゃう敵『魔物』だったらと思うと、ぼくは震えて眠れなくなった。
それが、どんなに怖くて恐ろしかったか…。
後ろで少しの物音がしただけで、身体を動かせない僕は震えが止まらなかった…。
あれほど、過ぎて行く時間が長く感じた事なんてない…。
僕を助けてくれた……、ママでもない見ず知らずの、この人が………。
死ぬだけだった…僕を…。
あるじが助けてくれた…。
だからぼくは…。
…それに報いなきゃいけない……。
それが…、ぼくの生きる意味にも繋がるって…。
……信じてる…だから…。
守るんだ………絶対……。
…あるじを……
『……誰が?』
……ぼくが!
『……誰を?』
……あるじを!
『……どうして?』
……助けてくれたから!
『……………。』
………守るって決めたのに……。
そこまでいい終えると、ゼブラからは大粒の涙が止まらなくなっていた。
「ずっと……、聞こえてくるんだ……。
『殺せ』って声が……。
『人間を』、『全て』、『欲望のままに』、『殺せ』………。
レベルが上がってから…、ずっと聞こえる……。
……頭が……、おかしくなっちゃう……。
……鳴り止まないんだ……。
……今は…大丈夫かも…しれない……。
でも…、もし…、あるじを今後、自分で傷付けるかも…。
そう思うだけで…、胸が張り裂けそうなほど…、苦しくなるんだ…!
…傷付けたくないっ!
でも…、絶対に傷付けないって言える保証なんてない…。
要らない物を捨てれたら……。
もうっ、群れの皆なんて知らないっ!
まじんなんて知らないっ!
こんな気持ちになるなら、加護や力だって要らないっ!
…願っても…、祈っても…、囁く声は鳴り止まないんだっ…!
…今後…あるじに…敵意を向ける…。
…そんな日が来るかも知れない…。
…でも傷つけないって…
…言い切れる…自信がない…。
…そんなことには…
…絶対に…させない…。
………だからさ……あるじー……。
『………ぼくを…ころして………』
……最後に…ママにも会いたかったなぁ……。
……でも、あるじが…助けてくれたから……。
…ぼく…、ほんとに、たのしかったよ……。」
ずっと、泣きながら必死に何か『殺気』を押し殺す『ゼブラ』に俺は近づいていく。
「なあ、ゼブラ…。
お前と俺が会えたのは、ほんとうに偶然だったかもしれない…。
(俺がこの世界に来たのにも、理由なんてないのかもしれない…)
助けを求めてなかったら、俺はお前に気付けなかったと思う…。
だけど、俺達は出会った!
『契約』だってした!
……『魔神』がなんだっ!!
声がどうしたっ!
これからも、俺とお前はずっと一緒だ…。
離れることなんて許さないっ!
…、そんなことで、お前が離れる理由にはならないぞ…。
…俺に『ゼブラ』は、殺せない…。
せっかく助かったのに、俺にそんなこと言うなっ!
殺してとか言うなっ!!!」
涙を流して、俺の話を聞いている『ゼブラ』から、渦巻く黒い霧が少しずつ溢れ出て、ゼブラの身体を包み込むように広がっていく。
(…ありがとぉ……。
…群れで嫌われていてよかった……。
ぼくは今……、報われている…。
…1人で寂しかった…。
…誰も相手にしてくれない…。
…無視され続けた日々…。
…ママにも、見せたかったな…。
…ぼくは、今…こんなに幸せなんだって…。
楽しく暮らしてるって見せてあげたい…。
…ほんとうに幸せだ…!
こんなにぼくを心配してくれる素敵なあるじに出会えたから…。
だから…、それを…、ぼくは壊したくなんかないっ!!)
包まれていくゼブラの表情は、霧に包まれるにつれて、敵意の有る顔に変わっていく。
「……来ないで……。
ダメだよ……。
どんどん溢れてくるんだ…。
止まらないんだ…。
抑えられない……。
『殺意』を…、『衝動』を…、『本能』を…。
『…憎い……』
傷付けたくない……。
『…諦めろ……』
離れたくない…。
『…恨め……』
世界を…。
『…喜べ……』
運命に…。
『…歓喜しろ……』
…魔族の産まれに…。
『…感謝しろ……』
…眷属の選定に…。
『…前の敵を……』
…殺す……。
『…殺せ……』
………だ…。
『『…殺せ!…』』
…いや…だ…。
『『『殺せ!!』』』
…ある……じ……。
『『『『殺せ!!!』』』』
……逃…げ………て……。」
霧の色がより黒く、殺意のこもった念がより強くなる。
霧の中に包まれて消えていくゼブラ。
殺意を纏っていくゼブラと共に、次第に霧の形状が対象の周りにも大きく広がり、球状を形成する。
殺意に包まれたゼブラの前まで歩きついた俺は、次第にデカくなっていく球状の霧に手を突っ込んでいく。
「ゼブラ…お前は死なせたりしない。
殺したりなんてしない…。
死ぬなんて…、自殺なんて…、そんな親不孝なこと……。
俺は絶対に許さないからなっ!!
必ず連れ戻してやるっ!!!」
叫ぶと同時に、殺意の塊…。
突っ込んでいた腕を押し込み、霧の中にいるゼブラを取り戻す為に、俺は全身をねじ込み…、むりやり球状の物体の中に入っていった……。