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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アウトローズ外伝 悪魔の双子

作者: 豚しゃぶポン酢

こんな感じの外伝を大量に出すと思う。特に読む必要のない設定集のようなもの。

 エミールが転生する20年前の異世界、繁栄する街の隅で身を寄せ合う双子がいた。父は元からおらず、母すら無くした兄弟は、盗みをしながら食いつないでいたが兵士に目を付けられ、追われながら生きる毎日だった。そんな毎日に絶望してか、彼らはいつしか、牢に入れば死にはしないのではと考えるようになっていた。


 豪炎王ファルドが引き起こした起こしたトールラント戦役に被災し、故国トールラントと母を失った。行く当てもなく、さまよい続けた末に辺境の街に流れ着いたが、身分証などあるはずもなく路上で盗みを働きながら暮らす毎日を送った。


「ようガキンチョ。今度は何を盗ってきたんだ?」

 質屋のオヤジが振り返りつつ応対する。

「いつも通りだよ。安っぽい宝石、ちんけな本、ゴミみてぇな素材」

「毎度あり」

 店を出るのとすれ違いでガタイのいい男が入って行った。

「・・・何だ?あのガキは?」

「ああ、ビリーか。ありゃよく来る盗人のガキだ。それで、何か用か?」

「宿のテーブルが壊れたんだ。盗品でも構わないから何かないか?」

「ああ、これなんかどうだ?・・・・・・」


 そんな日々を送っていたある日、弟が病にかかった。医者に診せると治療に20万ダールほど必要になるという。路上で暮らす犯罪者にそんな大金を渡すお人好しがいるはずもない。だが、弟を死なせたくない。たった一人の身内を死なせるわけにはいかない。

 どうにか金を稼げないか。そう考えながら雨の中を歩くと、近くの道を馬車が通った。見ると、商人の馬車のものらしい。荷と一緒に金も積んでいる。見張りは二人、今日は雨。やるしかない。俺は武器屋から盗んだダガーを片手に馬車の方へ向かった。


 それが17年前の話だった。いつしか俺は盗賊になっていた。あの時からだったか、俺は自分の居場所を守るために手段を選ばなかった。散々奪ったのも、殺したのも、最初の内は何もかもその為だった。だが次第に罪悪感は薄れていき、俺の性格も昔と大分変わったらしい。段々それらの行為に快楽を見出すようになっていき、商人の命乞いも、焼かれる村も、人の叫び声も何もかもが心地よく感じるようになっていた。拷問なんて以前はしなかったのに、欲求を満たすためだけに人を痛めつけ、殺し、吊るして笑う。もう罪悪感なんて感じていなかった。いや、感じられなかった。感じてしまえばそうして得たこの居場所が途端に醜く見えるような気がした。それが嫌だった。

 ある日、いつものように村を襲い、帰る途中にある男と出会った。

「やあ、君たち。景気はいかがかな?」

「あぁ?誰だよあんた?」

「これは失敬。私はルータス、カルクスの執政官だ。君たちの頭領に話がある」

「執政官・・・?そんな奴が俺に何の用だ?」

「君がそうだったか。なに、儲け話だと捉えてくれればいい」

「…詳しく聞かせな」

「事は単純だ。君たちにカルクス全部をやろう。その代わりにある程度の金を納入して欲しい」

「それのどこが儲け話なんだ?」

「慌てるな、金を納入してくれればそれを使って軍の動きを抑えよう。王都近辺の村を襲ったとしても最悪調査のみで済むように働きかける」

「・・・悪くねぇ話だ。でも街に兵士が残るだろ?」

「それは問題ない、協力者がいるからな」

「なるほど。…いいだろう、乗った」


 話した後、いつも通りアジトに帰った。何だったんだと仲間と話して考え込んだせいか、酒も入らなかった。しばらくしてその男に呼ばれてカルクスの街へ行くと、街はおろか城にすら兵士が居なくなっていた。

「流石に正式な手順で引き渡すというのは不可能だが…これでどうだね?」

 曰く、ここからかなり行ったところで魔族との戦争があり、その軍に全軍徴収されるよう協力者を頼ったらしい。悪名を被ることになるだろうが今更だろう。なんにせよ俺たちは安住の地を手に入れた。弟や仲間たちと一緒にこの街で住める。新たな故郷を得たような気分だった。


 これも因果なのだろう。目の前の惨状は。苦しむ仲間の姿は。さっきまで戦利品に喜び、酒を浴びるように飲んでいたというのに、仲間は呻きながら一人、また一人と動かなくなっていった。そんな中、ふらつきもせずに歩いてくる男がいた。


「ようバゼル、ご機嫌いかがかな?」


 自分の居場所が消えていくような、そんな感覚がした。少し笑いながら足元の仲間を蹴り飛ばす姿に一抹の恐怖を覚えたが、そんなものはすぐに吹き飛んだ。止めなければ弟が、バルトが危ない。ここで殺さなければ。気が付けば短剣を抜き、襲いかかっていた。

 自分が有利な状況だった。転倒させ、勝ちを確信したと思っていた。瓶を顔に投げられ、全てが消えてなくなった。薄れゆく意識の中で出てきたのは母親が生きていた頃の情景とバルトの顔だった。守らなければ。そう思おうが、もう瞼も動かすことさえできなかった。バルト、すまない。




 兄貴は俺にとって唯一の肉親だった。俺が病にかかった時も金を無理して用意して医者に連れて行った。ただ、俺には分かっていた。兄貴は俺と同じように居場所を失いたく無かったのだろう。直情的に動いた結果が兄貴をあの性格にしたのだろう。人を殺し、傷つける姿を見ると時折悲しく思うが、だからこそ、俺が支えなければならない。その為ならどこの誰だろうが殺してやる。

 とある夜、収支情報をまとめていると誰かが訪ねてきた。兄貴は酒飲んで寝ている頃合いだろう。

「失礼する。バルトというのは君のことかな?」

「あなたは確か執政官の・・・」

「話が早くて助かる」

「何か用事でも?」

「昼間に君のお兄さんと話したよ」

「・・・何だと?」

 自分でも分かるくらい眉間にしわが寄った。

「そう怒らないでくれ、ただいい話を持って行っただけだ」

「話?何の話だ?」

「この街をくれてやるという話だ。私が軍を抑えた上でな」

 本気で意味が分からない。一体どういうことだ?

「その代わりに定期的に金を納入してもらう。こちらにもメリットはある」

「…つまり俺たちに領地経営の真似事でもしろと?」

「まあ、そういうことだな。悪い話ではないと思うが?」

 いつ捕まるかも分からない盗賊稼業の兄貴を安全にできる。

「ところで、あんたに流れる金はいくらぐらいなんだ?」

「…25万ダールくらいだな」

「あんた、本気で言ってるのか?」

 どう考えたって少なすぎる。向こうのメリットが少ない以上警戒しなければ。

「別に私が欲しいわけではない。だから最低限用意できればいいと言うだけの話だ」

「なら尚更怪しいな。あんたに得が無さすぎる」

「・・・損得の問題じゃあ無いんだ」

「どういうことだ?」

「いや、何でもない。だけどこの話は私にもメリットがある。ただ、それは話すことはできない」

 言えない、か。これは聞くだけ無駄だろう。大方上の人間が関わってるとかそのあたりだろう。

「…それなら別にいいか。まあ兄貴が乗り気なら構わないが…」

「それは安心してくれ、お兄さんは「乗った」と言ってくれたからね」

 それなら断る理由もない。たとえ罠だとしても兄貴にだけはついていく。兄貴が狂い始めたその時からそう決めていたのだから。


「エミール、武器を捨てて手を上げろ。それと馬車を止めろ」


 人質を取り、目の前にいる男を脅迫する。馬車は止まり、男はすぐに手を上げた。この男は兄貴を殺した。その仇だけは絶対にとらなければならなかった。ここまでくればもう殺したも同然・・・だと思っていた。突然足を刺され、激痛に手を放してしまう。人質の女にやられたようだ。すぐに手元のダガーを振り上げ、女を刺そうとしたが、そちらに顔を向けると刃が眼前に迫った。


 何故だ、兄貴に幸せになってもらいたかっただけなのに。

「それではルータス様、色々聞かせてもらいましょうか」

「私の独断、というのは無茶な言い訳だろう。だからと言って話す気はないが」

「…強情ですね。では違う質問をしましょうか」

「答えるかどうかは内容によるね」

「何故あの兄弟にカルクスを売ったのですか?」

「・・・信頼できる部下も居なかったのもあるが、当時あの二人は力を持っていた」

「どう考えても盗賊に任せることではないでしょう。もっと別の理由があるのでは?」

「・・・・・・」

「ルータス様」

「・・・もう20年になるのか、あの戦争から」

「あの戦争?…トールラント戦役ですか」

「ああ、あの忌々しい戦争がすべての始まりであり、彼らを捻じ曲げた要因なのかもな」

「それと何の関係が…」

「…前の妻を亡くしたのも、あの戦争だった」

「・・・まさか」

「…別れる前、彼女は双子を産んだ。兄がバゼルで弟がバルト、そう教えてくれた」

「では、あなたの真の目的は実の息子たちに街を譲り渡すことだったのですか?」

「ずっと死んだと思っていた。生きてあの街の近くに住んでいたのは運命だと思った」

「そのせいで何人を不幸にしたと思っているんですか?」

「子の無い君には分かるまい、親にとっての子どもがどれほど愛しいか!・・・もっとも、私に父親を名乗る資格は無かったがな」

「例え親の情が動機だとしても、あなたの犯した罪は重い。死刑もあり得るでしょう」

「計画を立てた時から覚悟の上だ。・・・ただ、一つだけ口惜しいことがある」

「何ですか?」

「あの男、エミールとか言ったか。奴を殺せなかったことが心残りだ。奴は金のために息子たちを手にかけた」

「あなたも同類ですよ、我が子の為に何百人と死なせたでしょう」

「・・・・・・」

「もう聞きたいことは聞けました。それでは」

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