最終回 - あの子との再会
僕達は、不思議な町から帰ってきた次の日。
シロと一緒に魔法の方位磁石をおばあさんに帰しに行くためにお店へと行くことにした。
あまり行かない路地を進み、お店があった場所へと歩いて行く。
「あれ? ないね」
ここだったよね。
空地であった。
塀とか、路地の感じは見覚えがあるんだけど…建物が無かった。
どうしよう。
僕はシロの散歩のついでに探すことを日課にした。
シロに方位磁石のにおいをかがせて、お店の場所を捜そうとした。
でもシロはわからないという感じでこっちを見てきた。
☆☆☆
1か月ほどシロの散歩のついでにお店を探していたんだけど、お店は見つからなかった。
そのうちお店を見つけるのをあきらめてしまった。
☆☆☆
不思議な町に行ってから6年が過ぎた。
僕はもう中学1年生。大人だ。お小遣いもアップした。
でも…気は落ち込むばかりであった。
それはシロ。
シロに病気が見つかり、具合が悪いような感じがしばらく続いたあと、朝シロは動かなくなっていた。
ペット用のお葬式をあげ、シロは天国に行ってしまった。
僕が生まれる前から一緒にいた子。
シロが亡くなってから一週間ほどたったある日。古いシロの写真を見るために、開けていない段ボールを開けて中を見ていたら、魔法の方位磁石が出てきた。
「あ」
白いちっちゃい箱に入れて大事にとっておいた。
思い出した。不思議な町で会ったハナちゃん。
同じようにシロもあの町にいるんじゃないのか?
僕はお月さまの満月になる日を調べた。
夜。方位磁石を窓際に置く。
夜に月をぼーと見ながら、両親からもらった古いノートパソコンを開き、動画サイトを見ている。
最近はバーチャルユーチューバ―と言うものの他、どうみても本物の動物のお耳をつけている女の子とか、男の子が出ている動画があった。
『これはつけみみです』と動画内で本人が言っていたが、どう見ても本物に見えた。
それを見るたびに不思議な町で過ごした日々を思い出している。
人間になったシロと一緒に会話したこと。
ホタテのフライの事。
☆☆☆
次の日の夕食は偶然にもエビフライとホタテフライが出てきた。
また、あの町に行きたいなと思う気持ちが強くなった。
☆☆☆
今夜は満月。
明日。出かけよう。方位磁石を持って。
僕はそう思いながら眠りに落ちていった。
☆☆☆
朝。
出かけることにした。
方位磁石を見ながら歩くことにする。
くるっと方位磁石は北と別の方向を示す。
僕はそのとおりに歩いていった。
前は見ないで方位磁石を見て進む。
そして、結構進んだとき…くるっと方位磁石のはりが後ろを向いた。
僕は振り返るとあの町だった。
「きた」
僕はゆっくりいっぽいっぽ歩いていった。
後ろを見るともう、僕の町は見えない。あの不思議な町だ。
しばらく歩いて行くと、見覚えのあるお店があって、人がいた。
「あら。お久しぶり」ハナちゃんがいた。
「こんにちは」みかんちゃんもいる。
みかんちゃんも、インコなので数年前に亡くなっていた。けれどもここにいる。
「ねえ。あの…聞きたいことがあるんだけど… シロなんだけど…」
と僕が言うと、僕の後ろからぎゅっと誰かが抱きついてきた。
「また会えたね」
僕は後ろを見ると、僕より背が大きいシロがいた。
「し。シロ…やっぱりここにいたんだね」
シロと向かいあって、抱きついた。
「うん。生きているときに何回か、あなたに内緒でここに来たの。でね。体本体が無くなったあとに、ここに来てお願いすると、生きてここに来ているみんなから、体を少し分けてもらうの。
あたしはみんなから体を少しずつもらって、このとおり、けもの耳のわんこ少女になったんだけど…
あなたと一緒に暮らしたいと思っているの」
と言う。
「僕と一緒に?」
ちょっと怖くなった。
ここで一緒に暮らす?
「あ。勘違いしないで。あたしがあなたの町に行くの。もうあたしの体はこの体になったから、戻っても人間のままなの。もっともけもの耳なんだけど…
聞いてみるといるのよ。けもの耳になった子が人間がいる町に帰ったということがね」
とシロが言う。
「それ。本当なの?」
「うん。でね。魔法の方位磁石を返さないとね。おばあさんの居場所がわかったの」
シロが言う。
そうだ。
「うん。でもね。いきなりシロがけもの耳の女の子になって戻ってきたといっても信じないよ」
と僕が言うと…
「大丈夫。聞いたの。行きましょ」
シロが言う。
ごそごそなにかシロがやっている。
3日間過ごさなくても、シロが住んでいるお家の裏に小さい入り口が出来ていた。
かがんで通り抜ける。
すると空地に出た。
後ろを見ると入り口は無かった。
先に通り抜けたシロ。
お姉さんの姿がいた。
お耳としっぽは見えなくなっていた。
「ねえ。お耳と尻尾は?」
と聞く。
「隠したの。これカツラ。それと尻尾はズボンの下にしまったの」
と言った。
僕はシロに抱きついた。
すーとにおいをかいでみた。
かすかに犬のころのシロのにおいがする。
僕は自分の家に帰ることにした。
「あの。突然なんだけど…あたし外国から来て…ここにホームスティしようと思って訪ねてきたの」
とシロが言った。
シロの髪の毛の色はシロ。銀髪に近い。
数日前に、郵便が届いていて外国の子のホームスティについてという封書が来ていたとのことだった。親から聞いていなかったが、シロのこともあるし…迷っていたとのことだった。
でも…これがシロの仕業で、ホームスティする白い髪の子がシロだったら…
僕はシロを自分の部屋に連れていった。
「なんか目線が高いから違って見えるね。なつかしいお部屋」
今日はゆっくりすることにして、明日。魔法の方位磁石を返しに行こうと言った。
☆☆☆
シロのお部屋は僕の部屋の隣に用意されていたが、両親には内緒でシロを僕の部屋に呼んで一緒に寝た。
見た目は人間の女の子だから、ホームスティで預かっている女の子と僕が一緒に寝ていたら両親はびっくりするだろう。
シロと一緒に朝。お家を出た。
魔法の方位磁石を返しに行くため。
でも見つからなかった。
「なんでかな?」
シロちゃんと一緒に歩いていると、シロを散歩させていたころを思い出す。
「ねえ。まだ予防接種のお注射嫌い?」
僕はシロに聞いてみた。
「え? うん。嫌い…苦手だよ」
シロが言う。
なんでお店が見つからないのかわからなかった。
でもあきらめるわけにもいかない。シロと再び出会えたし。
お月さまのことを調べて、満月になる日の前の日。
シロと一緒にお出かけしてお店がある場所を捜していたら、あった。
普通にお店がある。
僕はシロと顔を見合わせて、お店に入る。
「こんにちは」
奥を見るとおばあさんがいた。
変わっていないように見える。
「あら。いらっしゃい…それとこの子はシロちゃんね」
とおばあさんが言った。
「え?」
「わかるの?」
おばあさんは言った。
「あたしは魔法が使えるの。会えてよかったわね。この魔法の方位磁石は返してくれるかしら」
「うん。長い間。借りたままでごめんなさい。このお店がみつからなくて」
「あたしも仲間から聞いた場所に行ったんだけど、見つからなくて」
と言うと「このお店はいつもは無いの。満月になる日の前の日に、見つかってほしいときに見つかるの。方位磁石を返しても良い時期になったからあなた達は来れたの」とおばあさんが言う。
「そうなんだ」
だから見つからなかった。
「このお店は全国の各地とつながっているの。ねえ。動画サイトでけもの耳の子。見たことがある?
あなたと同じよ」
とおばあさんはシロを見て言った。
「え?」
「そうなの?」
にこにこしておばあさんが言った。
「動物と仲が良くて、小さいころからずっと一緒に暮らしている子。いつか離れ離れになっちゃうでしょ。そんな子の近くにお店を出現させて、方位磁石を貸しているの。
あなたが心から欲しいと願っている探し物。見つかってよかったわね」
とおばあさんが言った。
シロと会話したいと言ったことを思い出した。
そのお店でジュースとお菓子を食べてからおばあさんにお礼を言って、お店を出た。
「一緒に帰ろうね」
「うん。ずっと一緒」
シロと僕は手をつないでお家へ帰ることにした。