愚か
私の人生はいつだって
何かに支配されていた
生まれた時から
髪型も服も全て母が決めていた
長く伸ばしたかった髪も
いつもお父さんが
ショートが好きだと言って
母は私の髪をショートにした
だからいつもタオルを被って
髪を伸ばしたふりをしていた
外に遊びに行く時も門限があって
社会人になっても外泊は禁止だった
親戚からのお年玉もいつも親に渡して
私はお菓子を貰って喜んでいた
アルバイトをすれば
アルバイト代は全て家に入れた
出かける時に限られた金額だけ渡された
保育士になりたいと言っても
進学を許されず家族のために
働いて欲しいと言われた
18で社会人になった
給料の半分を家に入れて
化粧品や服を買って
携帯代を払えば幾らも残らなかった
そんな時にどうしても捨てきれなかった
保育士としての夢を
追いかけるために会社を辞めた
アルバイトをしながら
保育士として勉強をしようと
頑張っていた時に父が定年から
契約として働いていた会社から
契約切れを言い渡された
正社員として働いて欲しいと言われた
お前だけが頼りだと言われた
夢を追いかけるなんて馬鹿なこと言わないで
私は夢追いかけることを辞めた
事務員として入った会社は
有名な運送会社だった
男性8割に女性が2割
事務所に女性は私一人だった
入ってすぐ私は専務の息子がいる
特殊な事務所に配属された
専務の息子
その人は妻子持ちだった
けれど私はその人に気に入られてしまった
休みの日
出かけていた私の携帯に
その人から連絡があった
今何してるの?
出先にいますと言えば
その人は近くにいるから
家まで送ろうかと言った
専務の息子
それは大きな肩書きだった
逆らってはいけない
そんな気持ちにさせた
その人と落ち合えばその人は
私にこんな話を始めた
仕事を辞めようと思ってる
専務の息子という肩書きが嫌だ
妻とは離婚を考えている
私は必死に止めたんじゃないだろうか
入ったばかりの私になぜ
こんな話をするんだろうと思いながら
それでも辞めない方がいいと説得したと思う
そしてその人は私に言ったのだ
妻とは離婚しようと思ってる
だから付き合えないか?
どうして?いつ?
そんな話になったのか
どこから私は気に入られていたのか
時が止まったのを覚えているし
どう誤魔化そうか、必死になったと思う
いや、奥さんがおられますし・・・
だけら別れるつもりだよ
そんなやり取りを何回もした気がする
けどそれでも私にはその人を
好きになるような要素はなかった
とにかく謝って断って帰った次の日
その人は社内で支店長を怒鳴り散らかし
事務所では灰皿が飛んだ
そして取られた支社の売上は
他の支社の売上となってしまった
その日の夜私はその人と
もう一度話がしたいと言った
その人は私を送ってくれると言った
その車内で私は
その人にどうしてあんなことを
したのか問いただした
もう会社も辞めるんだ
どうなってもいいと言われた
私はあの会社を辞めることが出来ない
だからあんなことはやめて欲しいといえば
その人はそんなことは知らないと言った
君が僕の気持ちを受け止めてくれないなら
あの態度は止められない
次の日も同じことが続いた
まるで私に見せつけるように
その人は社内の者に当たり続けた
もしかしたら社内の一部の人は
私が原因だと気づいていたのかもしれない
その時の支店長が私に言った
執行役の機嫌を損ねないでくれ
私はその一言に
何も返せなかった
会社は辞めれない
辞めたら家族が生きていけない
年老いた両親を悲しませてしまう
私はあの家の大黒柱だと
その日、私はその人に言った
分かりました
奥さんとは別れるんですね
それならあなたと付き合います
好きでもないのに
私はその人と付き合うことにした
生きていくために
地獄は終わると思っていたけど
それは地獄の始まりだった
社内で仕事をしていても
その人は出先から何度もメールをしてきた
返信しなければ何度も着信を鳴らした
仕事で出れるはずなんてないのに
でなければ事務所に直接電話がなった
一事務員に執行役から電話なんて
普通なら有り得ない
電話に出ればなんで
着信に出ないんだと怒鳴られた
慌ててトイレに駆け込んで
やめてくれとメールを送れば
返信すればこんなことにならないと言われた
経理の人は男性だ
私以外は全員男性なんだ
当たり前だけど
事務所で仕事の話を経理の人としてるだけで
その人は私を睨みつけてきた
男と話すなと言われれば私は仕事が出来ない
どうすることも出来ないことで
私は何度も怒鳴られ続けた
そして必ずその人は
夜帰る時に車で私を家まで送ってくれた
でもその車内は笑顔一つない
笑えるわけがなかった
どうしてあんなことをするのか
もうあんなことをやめて欲しい
そう言えばその人は必ず謝ってくる
わざとじゃない
悪かったとは思ってる
でもお前が悪いんだよ
また次の日も同じことの繰り返し
そして夜は必ず謝ってくる
もう嫌になった
誰かを責めることなんてしたくない
責めてる自分も嘘ばっかりの謝罪も
もう嫌になったんだ
夜、その人は送る前に必ずホテルに行った
家の近くのラブホテル
その人は私を抱く時
好きだと言った
けど私は嘘でも好きだとは言えなかった
心も体もその人を拒否していた
だからスムーズに事は運ばなかった
血が出ることもあったけど
そんなことも何度も続ければ当たり前になっていた
口ですることを促されれば
嫌々それを口にしていた
途中でやめて殴られたこともあった
怒鳴られることもあった
体を繋げることを幸せなんて
思うことはなかった
その日私は死のうと思った
本当に突然そう思った
無意識に足は薬局に向いて
そしてその時の私は死に恐怖を抱いていなかった
自殺を考える人はこんな感情なんだと思う
本当に無意識に死を考える
悩んでる時はまだいい
こうなったらきっと自分を止めれないんだ
その人に会う前に私は
市販の睡眠導入剤の箱に入ってる
全ての錠剤をお酒と一緒に飲んだ
どれだけ辛かったか分かって欲しかった
もう逃げ出したかった
解放されたかった
その人の車内で意識が薄れていく時
とても幸せを感じた
あぁ、これでもう苦しむこともないんだ
やっと逃げ出していいんだ
意識が引き込まれる瞬間
あの瞬間は今でも忘れられない
笑っていたと思う
本当に久々に幸せを感じんだと思う
けど結果は意識が混濁して
薬に耐えきれなかった体が
酷い歯ぎしりを起こして
ずっとうわ言を言い続けただけ
死ねることはなかった
それから私はその人と会う前に
必ず睡眠導入剤とお酒を飲んだ
そうすればもうその人を責めることもない
眠っているうちに家に着いて
私はその人と話すこともない
けれど事務所での出来事は変わらない
そんなことを二年も続けて
その人は私に言った
もう別れよう
妻と別れるつもりもない
当たり前だ
薬とお酒に溺れて
ろくに話もしないそんな女
誰が好きになるだろう
当たり前の結果だった
いや、こうなるように仕向けたのかもしれない